異世界感マシマシパーティ
「とーたとーたとたとーたぁー、とーたーとーたとたとーたぁ」
「ゴラゴラね。とた、じゃなくてゴラ」
とある町の冒険者ギルドに、いつものコウタの歌声とリョウジの突っ込みの声が響く。現在、二人は受付近くの簡易応接場所におり、そこで一つの依頼を提示されていた。
「それで……探索依頼、ですか?私に?」
「はい。もちろん、単独で行ってもらう訳ではなくて、別のパーティとの共同依頼になるんですが、いかがでしょうか」
「気は進みません。私はともかくとして、息子が危険な目に遭いそうな依頼はあまり受けたくないので」
「それでしたら、一日くらいはこちらでお預かりしてもいいですよ」
「いえ、それは絶対ダメです。断固拒否します」
あまりの即答ぶりに、対応している受付嬢はちょっと目を丸くした。
「は、はあ……何か、前に嫌なことでもありました?」
「いえ、息子がとんでもない事しでかすと思うので」
さすがに、スキルについては軽々しく口にできないため、全力でぼかした返答しかできない。それでも、コウタの様子を見て一応は納得したらしく、それ以上の追及は無かった。
「ええと、一応概要だけでも説明させてもらえますか?」
「そうですね、場合によっては受けてもいいと思えるかもしれませんし、聞かせてください」
受付嬢はホッと息をつき、依頼についての説明を始めた。
それによると、この町の近くには古い遺跡があるのだが、そこには古代の財宝が残っているという噂がある。そのため、冒険者がちょくちょく探索に行くのだが、普通は大した収穫もなく、ほぼ無駄足になってしまうらしい。
しかし、たまにそこを訪れて、地下が気になると言う者がいるらしい。そしてその者は大抵、数日のうちに行方不明になってしまうという。
頻度はそう多くはないが、時にはパーティ丸ごと行方不明になることもあり、ギルドとしても一度大規模な捜索をしたいのだということだった。
概要を聞いたリョウジは、難しい顔で首を捻った。
「うーん、それで私が出る要素ありますか……?」
「もし魔法的な理由であれば、リョウジさんのスキルは大きな助けになると思うんです。古代の魔道具が悪さをしている、というような場合でも、リョウジさんならきっと破壊か無力化はできますよね?」
「それは得意ですねえ、嫌になるくらいには」
今までにも、日本で言う電気スタンドのような魔道具にうっかり触れてしまい、ただの置き物に変えてしまったり、温風を吹き出すという魔道具を触って燃えないゴミにしてしまったり、そんな事故は何度か起こっていた。
「探索そのものは、今回すごく有力なパーティに依頼を受けていただけたので、それほど心配はいらないと思います。なので、リョウジさんにはいざという時の備えと言うか……そういった立場で参加してほしいんです」
「有力なパーティというのは?」
「遺跡や洞窟といった場所の探索を主な活動にしている、ほぼ全員がA級のシーカーズという名前のパーティです。ただ、ちょっと、色々あって、あまり一緒にやりたがる人がいないんですが……」
「何か人間的に問題でもあるんですか?」
「いえいえ!そんなことないですよ!皆さんとても良い人で……ただ、種族が何というか……あの、まだ近くにいると思うので、一度会ってもらってもいいですか?」
何だか探索参加の外堀が埋められていっているような気がしつつも、リョウジは頷いた。受付嬢は立ち上がり、リョウジの後ろの方にいる誰かに手を振ると、やがて五人の集団がやって来た。
「こちらが、今回先に依頼を受けてくださっている、シーカーズの皆さんです」
その面々を見て、リョウジは僅かに目を見開いた。
そこにいたのは、長大な耳を揺らしている二足歩行の兎、顎と首周りと体側に太い棘を生やした二足歩行のトカゲ、これまで見た中で最も老いた外見のドワーフの男性、長い耳と見惚れるような美貌を持ったエルフの男女であった。
「獣人、と、ドワーフとエルフですか。人間が一人もいないんですね」
心の中で、異世界ならではのパーティに秘かに興奮していると、リーダーらしい兎がふんっと鼻を鳴らした。
「へー、あんまり嫌そうな顔しないんだね!獣人とか妖精族とか平気な人!?」
声から察するに、どうやら女性らしい。外見ではとても判断できないが。
「ドワーフの方には装備関連で散々お世話になってますし、獣人の方は見たことはあってもパーティを組んだことはないので、正直ワクワクしてます。エルフの方は話には聞いたことありましたが、実際見るのは初めてです」
この面子だけで、リョウジは依頼受諾を心に決めていた。
「あたしなんか、結構嫌がられるもんだけどね?この外見でも気にならないってのかい?」
驚くべきことに、トカゲの獣人も女性だった。やはり外見からはまったく判別できない。
「女性の方でしたか。格好良くていいと思いますけどね」
「ん、そう言ってくれる奴に悪い奴はいない。あたしはアリッサ、よろしくな!」
拳をぶつけ合うと、ざらっとした感触が肌に残った。リョウジはヒョウモントカゲモドキを買おうか悩んでいた程度には爬虫類好きなため、この程度はむしろご褒美である。
「儂ぁのう、ドワーフじゃ。ポテフじゃ。そろそろ引退したいんじゃが、させてもらえんのじゃぁ」
「いつでもしていいって言ってんじゃん」
「今回みたいにのぉ、隠された地下の探索などと言われちゃあ、引退などできんじゃろうがぁ。探検が儂を呼んでいるんじゃぁ」
このポテフというご老人は、好奇心の塊のような人物らしい。恐らく死ぬまで引退しないのだろう。
「僕はエルフのティキア。魔術師だよ」
「私はエルフのジーリャ。ティキアも私も、本当はもっと長ったらしい名前なんだけど、覚え辛いだろうからティキアとジーリャで覚えてね。あ、私は召喚士よ」
その言葉に、リョウジは思わず反応した。
「召喚士!?ということは、別の世界から何かを召喚できるんですか!?」
「な、何なのその勢い……ま、まあ、そうね。せっかくだから、見せてあげるね」
ジーリャは小さな声で詠唱を始めると、周囲に白い魔法陣が浮かび上がった。さらに詠唱を続けると魔法陣は白く輝き始め、そして一際強い光を放った。
一瞬後、ジーリャの肩の上に、小さな光の球が浮かんでいた。よく見るとその球には小さな目が付いており、マスコットキャラのような愛らしさがある。
「どう?この子は光の精霊、ウィスプよ。この子がいれば、暗い洞窟だってへっちゃらよ」
「……」
リョウジは顔を近づけ、ウィスプを見つめる。ウィスプも、この男は何だろうという雰囲気でリョウジを見つめ返す。
「……この子は、ちゃんと元の世界に帰れるんですか?」
「え、いきなり召還の話!?そりゃ、まあ、探索終わったら帰ってもらうけど……」
「そうですか……」
感慨深げに呟くと、リョウジはウィスプを慈愛に満ちた目で見つめた。
「貴方も、いきなりこの世界に連れて来られたんですね……でも、働けば帰れるそうですから、一緒に頑張りましょう?」
「……」
ウィスプは何も答えないが、何かを伝えようとするかのように、ちかちかと二回瞬いた。
「え!?な……ちょ、何したの!?なんか召喚深度が深くなってるんだけど!?」
「え、何ですか?しょうかんしんど……?」
「えっと、平たく言えば、召喚獣とどれだけ深く繋がってるかっていう話で……深くなればなるほど、一心同体ってわけね。で、普通は召喚深度を上げるには……下げるには?とにかく深くするには、何度も召喚するとか、召喚した相手とコミュニケーション取るとかなんだけど……召喚士本人じゃない人が話しかけて、いきなり関係深くなるとか前代未聞なんですけど!?」
どうやら、かなり異様な事態になっていたようで、他の面子も目を丸くしてリョウジを見ている。
「ああ、えっと、それは……同類相哀れむって言うんですかね?」
「どういうことなの!?」
わいわいと賑やかなパーティを見つめながら、受付嬢は依頼の紙をひらひらと振った。
「あの~、依頼は受諾でいいですか?いいですよね?では、こちらで処理しておきますね~」
かくして、リョウジは初の探索依頼を受けることになり、シーカーズと共に遺跡へと向かっていくのだった。




