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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
八章 救国の策士
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偽りと真実と

「これ、私の世界で『トリックアート』って呼ばれるものの一種でして、基本的にはお遊びなんですけど、たとえば車が……馬車が速度落としてほしいところなんかに、柱の絵を描いておくと、みんなびっくりして速度を落とす、なんて使われ方もしてます」

「……知らなきゃわっかんねえな、これ」

「これを利用して、窓のない部屋に窓があるようにしたり、壁が壊れてその向こうに海が広がってるようにしたりもできますよ」

「む、それは良いな。客間の一つが窓の無いものでな、安全性は高いのだが、やはり外が見えぬのが不評なのだ。この技術を使えば、それも解消されるやもしれん」

「国王、今はこれを国防に使うんで、その話は後だ」

 実入りのいい仕事の話か!?と目を輝かせていた六人は、ジェイコヴの言葉にがっくりとうなだれた。

「いや、うなだれてんじゃねえよ。お前等の頑張り次第で、国が滅ぶかどうかってところまで来てるんだからな」

「えっ!?そ、そうなんですか!?」

 驚く画家達に、絵が上手いということで呼ばれていた護衛兵は一瞬きょとんとし、すぐに気まずそうに頭を掻いた。

「あー、お前等はただの市民だもんな……まあいい、ここまで来たらお前等には全部話すか」

「それはお前に任せた。で、お前はこれをどう使うことを想定してたんだ?」

 ジェイコヴは軍師の顔に戻り、リョウジに尋ねる。

「そうですね。敵が攻めてきて、門が開いたら騎馬隊がずらっと並んでたら、びっくりしてくれるんじゃないかなーと期待してました」

「良さそうだな。じっくり見られたらバレるだろうが、パッと見られる程度なら問題はねえ。そこに本物の近衛も混ぜておけば、本物かと思ったら偽物、かと思ったら本物だった、なんて真似もできるわけだ」

 ニヤニヤしながら言うと、ジェイコヴは大きく息をついた。

「だが、問題がある。この国の奴等は、今この国が滅亡寸前だってことを知らねえんだ。だから、そんな絵を用意するにも、変な絵を描くなって抵抗されるかもしれねえ」

「えっ!?それ、結構大問題では?」

「大問題だ。これに関しては……解決の手段は、あるか?」

 問いかけられたリョウジは少しだけ考え、黙って首を振る。

「……だよな。じゃあ、どうバラすかって話になるが――」

「国王様」

 ジェイコヴが言いかけたところで、リョウジは国王に話しかけた。

「む、どうした?」

「国王様は、この国の頂点です。貴方の決定が、この国の運命を決めます」

「それは重々わかっている。それがどうしたと言うのだ」

「私は元の世界では、会社の……商会のようなものの下っ端です。上の決定に逆らうようなことはしませんが、もし自分の会社が潰れそうで、上がそれを隠すような言動をしたら、さっさと逃げます」

「……」

「でも、もしそれを隠さず、頼むから協力してくれと上が頭を下げたら、たぶんできる範囲では協力します。つまり……今、国民に真実を話すことが、一番いいと思います。策とか、そういったことは抜きにして、国王様の言葉で、国民に事実を語って、協力を仰ぐのが良いかと思います」

 リョウジの言葉に、国王は少しだけ考え、やがて頷いた。

「すぐに、城下に触れを出せ。夕暮れ前に、国の存亡にかかわる、重大な話をするとな」

「し、しかし国王!」

「いいから早くするのだ。我が軍師が言っておったぞ、『今は普通ではないから、普通のことをしていては滅びる』とな。国が滅びるなど、到底許せることではない。儂ができることを、いや、儂しかできんことがあれば、やるだけだ」

 言いながら、国王は自室へと向かう。そしてふと足を止め、リョウジの方へ振り返った。

「……軍師共にしているように、儂に何か、良い策は無いか?」

「策とか抜きにしてって言ったはずですが……あ~、話し出すのは、全員の意識がはっきりこっちを向いてからです。私の世界の独裁者が使った手段ですが、音楽とかで民衆の心を一つにして、意識を一ヶ所に向けてから話し出すと効果的らしいですよ」

「なるほどな、十分だ。助かったぞ、冒険者よ」

 そして今度こそ、国王は自室へと向かう。一方のジェイコヴは、トリックアートをどうしたら効果的に使えるか、他の軍師達と地図を見ながら話し合っている。

 何もすることが無くなったリョウジは、仕方なくコウタの遊び相手を務めつつ、国王の演説の時間まで待つことにする。幸い、無理に逗留させられている立場であり、生活に関しては最大限の便宜を払ってくれているため、衣食住に不自由することはない。コウタの玩具もある程度は貸してもらえ、現在は木馬がお気に入りの様である。

 時間が過ぎ、日が傾く頃、ついに国王が城のテラスへと向かう。リョウジとコウタは軍師達に混じり、その後ろをついていく。

 ちらりと下を覗けば、この城下町にこんなに人がいたのかと驚くほど、辺りが人で埋め尽くされている。あまり目立ちたくないリョウジは、それを確認するとそろそろと後ろに下がり、コウタと一緒に大人しくしていることに決めた。

 やがて、護衛兵達がラッパを吹き鳴らし、ざわめきが鎮まっていく。しかし国王は何も話さず、ただじっと民衆を見下ろしている。

 一分経ち、二分経ち、何事かとざわめきが広がりだした頃、国王はスッと右手を挙げた。

 途端に、ざわめきは一瞬にして静まり、耳に痛いほどの沈黙が辺りを支配した。それを見てようやく、国王は口を開いた。

「今、この国は滅亡の危機に瀕しておる」

「あのっ、馬鹿っ……!」

 ジェイコヴが思わずといった調子で呻くが、民衆達はそれ以上に驚いており、言葉すら忘れて国王を見上げていた。その隙を逃さず、国王は言葉を続ける。

「東からはエイスト王国に攻められ、西からはウィックス皇国に攻められ、それぞれ騎兵隊と歩兵隊がそれを押し留めておる。しかし、このままではいずれ押し切られ、我が国は敵に蹂躙されるだろう」

 民衆にざわめきが広がりだし、護衛兵が動こうとするが、国王はすぐに手を上げ、それを制す。

「故に、先に伝えておこう。もし、逃げたい者がいるのならば……その者は、逃げて構わぬ。今のうちならば、何とか間に合うだろう。儂は、止めん」

 ジェイコヴは完全に頭を抱えていたが、ふと気づく。

 こんなことを言われれば、普通ならば民衆はパニックに陥り、我先に逃げ出すだろう。ところが、国民達のざわめきはむしろ鎮まっていき、今はただじっと国王の言葉を待っているのだ。

「しかし、もしも儂と共に、この国を守りたいと思う者がいるのならば……その者は、儂等を手伝ってほしい。儂等だけでは、もはや手が足りぬのだ」

 国王とて馬鹿ではない。未曽有の危機にパニックになってはいたが、むしろこの小国をそれなり以上に発展させた、どちらかと言えば有能な部類である。故に、彼は国民のことを考え、彼等がどうしたいのか、そして自分がどう見られているのかすら計算し、こうして真実を語ることにしたのだ。

「今この場において、儂は嘘はつかん。国の危機は本当のことだ。しかし、優秀な軍師達が今、起死回生の一手を打っておる。その手が成功すれば、滅亡を回避できるかもしれんのだ。だがそれでも、まだ一手足りぬ」

 民衆一人一人の顔を見回すように、国王はじっくりと視線を巡らせる。

「逃げたい者の邪魔はせん。しかし、できることならば、儂を信じ、手伝ってほしい。国が滅ぶことを、儂はとても受け入れられぬ。座して待つなど、到底出来ぬ。だから、最後まで足掻きたいのだ」

 国王はそっと、右手を前に伸ばした。

「見える者は見よ。この通り、手の震えは何日も止まらぬ。滅びがすぐ近くにあることが……儂は、怖い」

「……っとに、言いたい放題やりたい放題だな、あの国王は……本当に大丈夫なのか……?」

 ジェイコヴが頭を抱えたまま悪態をつくが、もう賽は投げられている。あとはもう、王を信じるしかなかった。

「だが、勘違いはするな。儂が恐れるのは、自身の死や苦痛などでは、断じてない」

 今までとは打って変わって、国王は強い調子で言いきった。

「儂が恐れるのは、祖先より受け継いだこの国を、ここで途絶えさせてしまう事。我等が繋いできたものが、ここで途切れてしまう事。それが守れるのならば、儂の命などは惜しくもない!」

 徐々に声の調子を強め、国王は身を乗り出して国民に叫ぶ。

「故に、皆に頼むのだ!一度だけで良い!儂等を手伝ってほしい!滅びの運命を跳ね除けるため、力を貸してほしい!我等を見縊り、攻撃してきたエイストを!その隙に乗じ、襲ってきた卑劣なウィックスを!それらを跳ね除け、我等がフォーヘイロはここにあると!世界に知らしめるために!一度でいい、儂に力を貸してくれ!」

 直後、民衆達は凄まじい歓声でそれに応えた。城を震わすほどの大歓声に、コウタですら何事かときょろきょろするほどだった。

 演説が終わると、国王は後ろに下がり、民衆から見えない位置まで来ると、大きな大きな溜め息をついた。

「……何とか、やり遂げたか」

「冷や冷やさせんな、ったくよぉ。滅びが早まるかと思ったぜ」

 口ではそう言いつつも、ジェイコヴは国民が理想的な形でまとまったことに、実に満足げであった。

「儂としても賭けだった。だが、逃げ場があるとわかれば、ひとまず状況を判断する余裕はできよう?その上で、愛国心に、義憤に、煽れるものは全て煽ってやったわ」

「あんたも意外と策士なんだな?仕える相手を間違ったかと思ってたが、なかなかどうして、悪くねえな」

 楽しげに言うと、ジェイコヴは早速他の軍師に声をかける。

「さぁて、これでまた首の皮一枚繋がった!次はどうする!?」

「な、ならば兵の水増しをしましょう!実際に戦うのは近衛兵ですが、控えているだけなら市民でもできます!」

「ガタイが良い人が来るように、声かけてみます?」

 リョウジが言うと、ジェイコヴは手を上げてそれを止める。

「いんや、体格なんぞどうでもいい。スキルでいくらでも補えるからな。それよりも、号令に対して機敏に動ける奴の方が、よっぽど兵士っぽい」

「あ、なるほど。そう言われればそうですね」

「お前には色んな策を考えてもらったが、やっぱり素人は素人だ。この先は、俺等軍人に任せときな」

 口調はぶっきらぼうだが、攻撃の意図はないことは既に分かっているため、リョウジは素直に頷いた。

「わかりました。では、何かできることを探してやってみます」

「それなら、市民と触れ合ってやってくれ。S級冒険者が一緒になって考えたって言えば、安心感は強まるだろうさ」

「物は言い様ですね。では、ジェイコヴさんも他の軍師の皆さんも、頑張ってください」

 それから、彼等はそれぞれの場所で、それぞれのできることをやっていく。

 リョウジは市民達と交流し、いくつか献策を行ったことや、次に考えられている策についての説明を行い、軍師達はトリックアートを最も効果的に使えるよう、門からの見え方や予想される陣形なども含め、さらには籠城での戦術も固めていく。国王は国王で、僅か100人の近衛兵に15倍もの相手をさせることを詫びつつ、それでも国の存亡は近衛兵の活躍に掛かっていると檄を飛ばす。

 また、市民達も士気は高く、早くも到着し始めた歩兵隊を手厚く迎え、食事を用意し、家に泊めてやる者も多数いた。おかげで歩兵隊は僅か一晩ながらもゆっくり休むことができ、結果として次の戦場へある程度の体力を残して向かうことができた。

 さらに、荷車や馬車を持つ市民はそれらを国に貸与し、装備品の輸送に関しては盤石となった。ついでに東の前線へ補給品も送ることができ、一部の歩兵隊はその荷馬車で運ばれて行った。

 エイスト王国との決戦は、すぐそこまで迫っていた。

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