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護衛仲間

「あてっかてっかてっかてっかてっかてっかてー」

「ウィジュアドラムザガンザガンザドラムハルー、ハルー」

 山間の道に、荷馬車に乗ってご機嫌なコウタの歌が響く。それを正しい音程で歌うリョウジに、護衛仲間が声をかける。

「子供さんご機嫌だね。荷馬車好きなの?」

「そうですね、乗り物系は大体好きみたいです」

「羨ましいねー、私だったら荷馬車なんか乗ったら、数分で吐けるよ」

「そこは子供だから、かもしれませんね」

 ドラゴン殺しとなって早一週間。その間、衣食住はギルド持ちだったが、代わりに様々な質問をされ、毎日疲労困憊だった。それが今日ようやく解放されたため、早々に護衛任務を受けて逃げるように町を出たのである。

 質問は多岐に渡り、生まれや育ち、ステータスやスキルなどの他、どんな物が好きか、女性の好みは、など絶対興味本位だろうという質問も多々あった。それらにも丁寧に答えつつも、さすがに二度と受けたいとは思わないリョウジである。

 その際、『なぜドラゴンに臆することなく立ち向かえたのか』という質問に対しては『息子を守らなければならないし、トリアの町で講習を受けたため初見の相手でも落ち着いて戦えた』と答えたので、少しはギルドマスターに恩返しをできたつもりになっていた。

 実際のところは、この後一週間もすると冒険者希望の者がトリアの町に大量に押しかけ、ギルドがパンクしてギルドマスターが怨嗟の叫びをあげるのだが、リョウジは知らぬ話である。

 ちなみに当然の如く、ランクはBからSになってしまい、もはや伝説の人間扱いである。便利と言えば便利なのだが、毎回騒ぎが起きるため、リョウジは極力自分のランクを隠すようにしていた。

「ところでさ、おじさんも冒険者なんだよね?そんな歳なのに大丈夫なの?」

 それは嫌味や皮肉などではなく、純粋に興味と心配からの質問のようだった。そのため、リョウジも笑顔で答える。

「胸を張って大丈夫だとは言えないですけど、やらざるを得ませんからね。今のところは何とかなってます」

「そっか、その子のために……すごいなー。私のとこなんか、二、三人は殺されてるの見たことあるよ」

「うへえ、それはやだねえ。俺は全然見たことなかったけど、やっぱり普通はそうなんだねぇ」

 現在リョウジと組んでいるのは、若い男女の冒険者である。二人ともDランクに上がってしばらく経つという腕で、そろそろC級が視野に入ってきたところだという。リョウジはこの間の騒ぎで辟易としていたため、冒険者を始めて二ヶ月だと答えていた。そのため、二人にはE級の新人だと思われている。

 二人とも前衛職のようで、男の方はショートソードを持ち、女の方は穂先の小さな槍を持っている。何となく講習仲間のラルフとミラを思い出し、みんなは元気でやっているかなと懐かしい気分になった。ラフタとジェイルも、別れてからそれっきりであるため、少し心配である。

 そうは言っても、現代日本と違って通信手段は極々限られており、SNSなどがあるわけでもない。リョウジにできることは、きっと無事だと信じるぐらいである。

「……こき」

 その時、どうやら飽きてきたらしいコウタがぼそりと呟いた。

「こき?あ~、飛行機はちょっと……ここじゃ見えないかもねえ」

「こっき。こっき。こっき!」

 飛行機を出せ、と要求しつつ、コウタはリョウジの腕を上に挙げさせる。要求が通らないと非常に機嫌が悪くなるコウタのため、リョウジは出来うる限り要求を叶えてやっていたのだが、そのせいでコウタの中ではお父さん万能説が出来上がっているらしく、ちょくちょく達成不可能な要求をされるのだ。

 ちなみに要求全盛期は、三角の積み木の上に四角い積み木を積めるほどまでには鍛えられていた。指先の感覚が鍛えられたことで、妻とのスキンシップでも非常に有用だったものである。

「飛行機はちょっと、ねえ……今回は諦めてくれないかなあ」

「こっき!こきー!こっき……ああこっきー!」

 突然、嬉しそうな声が上がったため、リョウジは何事かと空を見上げた。

 上空では、猛禽類のような何かが旋回している。トンビか何かかと思う間もなく、それは急降下を開始し、遠近感狂ってるのかと思ってしまうほどに、影は大きくなっていく。

「ちょっ、皆さん上!上!」

「上?うわあっ!?みんな逃げろ!散開!散かーい!」

 リョウジはコウタを引っ掴み、護衛二人は依頼主を引っ掴み、慌てて地面に伏せる。急降下してきた猛禽類は馬車を曳いていた馬を掴むと、そのまま地面に押し倒した。

「ガ、ガルーダだぁ!!」

「ガルーダ?あれが……初めて見ました」

 依頼主の悲鳴に、リョウジはガルーダをまじまじと見つめる。姿は大鷲に近く、少なくとも二足歩行だったりはしない。馬を組み伏せ、首をぶちりと引きちぎっている辺り、力は相当なものがありそうである。

「やべえ、何でだよ……!?あんな奴、こんなとこに出るなんて聞いてねえぞ……!

「だいぶやばい相手なんですね」

「やばいなんてもんじゃねえよ!と、とにかく逃げよう!あいつに見つかったら、絶対に死ぬ……!」

 その時、早くも馬の内臓を食べ終わったガルーダが、ぐるりと首を巡らせてこちらへ振り返った。その瞬間、護衛二人はその場にへたり込んでしまった。

「あ、ああ……お、おしまいだ……もうおしまいだぁ……!」

「い、嫌だ、嫌だよぉ……!私、こんなとこで死にたくないぃ……!」

「ちょっ、二人とも何やって……危ない!」

 ガルーダが翼を広げ、依頼主を含めた三人に襲い掛かる。リョウジは咄嗟に足元の石を拾うと、それをガルーダの進路目掛けて蹴り込んだ。

 石を軽くかわすと、ガルーダはリョウジから少し離れた所に降り立った。獲物からの反撃に、明らかに気分を害しているようだった。

「うわっ!あ、あ、ありがと……けど、あんたこのままじゃ……!」

「しょうがない、やるしかないですね。二人とも、体勢を整えたら援護をお願いしますよ」

「か、勝てるわけないじゃない!?もう私達、ここで死んじゃうんだよー!」

「嘆くなら死んでからにしてください。まだ死んでない以上、私は全力で足掻きますよ。こんな鳥のおやつになるなんて、ごめんですからね!」

 キュイイィィ!と独特な声を上げ、ガルーダがリョウジに襲い掛かる。爪の一撃をバックラーで何とか受け流し、指先にフレイルを叩き込む。しかしガルーダは攻撃を外したと見るとすぐに足を畳み込み、リョウジの攻撃をかわした。

「速いですね。けど、鳥は鳥。知能が無い分、動きが直線的で助かりっ……ますよっと!」

 再びの攻撃を、リョウジは同じようにバックラーで捌く。かなりの素早さではあるが、予兆は読みやすい。その分、力は相当なものではあるが、受け流す分には問題ない程度である。

 ガルーダは二度目の攻撃も防がれたことで、明らかに苛立っているようだった。リョウジから少し離れた地面に降り立つと、鋭く一声鳴き、大きく翼を広げた。

「これは……?」

「あ、ダメだ!リョウジさん逃げろぉ!!フェザーアローが来るぞぉ!!」

「フェザー……?ああ、それはなかなか痛そうですね。でも、後ろにはコウタがいるんで、逃げるわけにもいきません!」

 リョウジは盾を構え、ガルーダに向かって走る。それと同時に、ガルーダは広げた翼を勢いよく閉じた。その瞬間、手羽から大量の羽根が飛び出し、リョウジ目掛けて一斉に襲い掛かった。

「うおおぉぉ!!」

「リョウジさぁん!!」

 仲間の悲鳴のような声を聞きながら、リョウジは足を止めずに走った。小さなバックラーだけでは受け切れず、その羽根はリョウジの全身に突き立っていく。

「ぐぅぅぅ!!」

「あああ、リョウジさん!リョウジさぁん!!」

「――っとに、痛ぃったいな!この鳥野郎め!」

「ええええええ!?」

「キュイ!?」

 リョウジの認識としては、フェザーアローとはフェザーシュラフを使った時に感じるチクチクが、一斉に襲い掛かってくるものという認識だった。

 だが、この世界のフェザーアローは、本来なら鉄の鎧すらぶち抜く魔法強化を施した羽根を、無数に打ち出す文字通りの必殺技であった。そんな技を全身に受けたため、三人がリョウジの死を確信したのは無理からぬことである。

 ところが、リョウジに触れた瞬間から魔力は消失し、結果としてリョウジの想像通りの、チクチクした羽根が全身に突き刺さる、渾身の嫌がらせ技と化していた。それに驚いたのは三人だけでなく、必殺の一撃を繰り出したはずのガルーダもだった。

「せりゃあ!」

 その隙に距離を詰め、飛びあがり様にフレイルを振り下ろす。ガルーダは慌てて首を下げたが、目標を失った木球が首の後ろに回り、鎖が首へと巻き付いた。

「グエ!?ク、グエッ、クエ゛ェッ!」

 その瞬間、ガルーダは魔力強化を施していた全身から力が失われるのを感じた。それでも、ダチョウクラスの体格を誇るガルーダはリョウジをぶら下げつつ首を振り回すことができたが、リョウジは柄と木球をしっかり握って離さない。

「うわっ!?ちょっ、うわっ!ふ、二人とも、今です!こいつを仕留めてください!」

「えっ!?そ、そんなの無理だよ!ガルーダなんて、俺達の攻撃じゃ……!」

「いいから早く!黙って食われるつもりじゃなければ、仕留めてください!吹っ飛ばされそうなんで早く!!」

「うぅ……し、死ぬなら、戦って死んだ方が……え、ええーい!」

 覚悟を決め、女の護衛が槍を突き出し、全身でぶつかった。すると、槍は容易くガルーダの身体を貫き、右脇腹から左脇腹まで貫通した。

「グエ、エッ……!グエエェェ!!」

「え、うそ!?突き通せた!?あ、ジャック首!首落として!なんかこいつ弱ってる!たぶんやれる!」

「マジかよ!?でも、それならっ……うらああぁぁ!!」

 ジャックと呼ばれた男はショートソードを抜き放ち、リョウジの重みに耐えきれなくなって項垂れたガルーダの首に狙いを付けた。

 ヒュッと小さな音が鳴り、直後ガルーダの首が足元に転がった。急に軽くなってバランスを崩したリョウジだったが、辛うじて転ばずには済んだ。

「おっとっと。いやあ、びっくりしましたが、何とか倒せましたねえ」

「……」

 リョウジが話しかけるも、二人の返事はない。一体どうしたのかと思った瞬間、二人は大声で叫び出した。

「うっわぁー!!信じらんない!ジャック信じられる!?私達ガルーダ倒しちゃったよ!?」

「いや、信じられるわけないだろフィオ!でもマジだよね!?うわ、うわぁー!すっげえ!マジすっげえ!!」

 ああ、本当は強敵だったんだなぁと、リョウジは他人事のように思った。ドラゴンと戦ったことのあるリョウジとしては、もはや鳥など強敵にも見えなくなっていた。

「どんだけ強くなったかな!?ステータス オープン……うっわ、一気に30以上上がってるよ!すっげ、すっげえ!俺もう何にも負ける気しないわ!」

「うそぉ!?じゃ、私もステータス オープン!わっ、ほんとすっごいねぇ!力80だって!もうこれ一気にB級目指せるかも!」

 きゃあきゃあと騒ぐ二人に、リョウジは生温い視線を送りつつ、小さく溜め息をついた。

 どうにも、今の二人は非常に危なっかしく見える。仕事でもよくあるのだが、一気に大きな成果を得た者は、その後に大失敗をやらかすことが多いのだ。単なる仕事であればリョウジがフォロー、ないし最悪は土下座でもすれば済む話だが、冒険者となればそうもいかない。

 少し迷ってから、リョウジは鞄の中を漁り、二人に書類を差し出した。

「あの、すみません。これ、みんなで力を合わせて討伐したっていう証明書みたいなもんなんですけど、これにサイン貰っていいですか?臨時収入とかあるかもしれませんし」

 リョウジが言うと、二人はハッとしてその書類を見つめ、特に考えることもなくサインを始めた。

「リョウジさんって用意いいね。俺そんなの考えたこともなかったよ。はい、これ俺の分」

「だねー。私も全然考えてなかった。はいどうぞー」

 しっかり二人のサインがあることを確認し、リョウジは深い深い溜め息をついた。それを横から見ていた依頼人は、顔色が真っ青になっている。

「お、おいおいおい、あんた……!」

「……」

 リョウジは口の前で人差し指を立て、パチッとウィンクを送る。どうやら悪意は無さそうだということに気付き、依頼人はそこで口を噤んだ。

「はい、確かにいただきました。では……二人とも、荷物をその場に置いてください」

「え?リョウジさん何言って……えっ、なっ!?」

「な、なんで!?体が勝手にっ……!」

 二人は必死で抵抗しようとするが、自分の意思とは関係なく、身体は勝手に動いて荷物を置いてしまう。

「次は武器も置いてください。さらに三歩、距離を取ってください」

「リョウジさ……リョウジぃ!!お前、何をしたんだぁ!?」

 ジャックは怒りに満ちた表情で叫ぶが、リョウジは二人の前で書類をひらひらと振って見せる。

「ちゃんと読まないからですよ。確かに、ステータスは大きく上がったかもしれません。ですが、こうやって魔法契約で縛ってやれば、そんなものは何の意味もありませんよ」

「魔法契約!?ちょ、ちょっと何でよ!?私達、一緒にガルーダ倒したじゃない!?なのに何で……!?」

「お二人がいなければ、素材を売ったお金は私一人の物になりますからね。あ、依頼人さんにも、口止め料として半分は出しましょうか」

「えっ!?ちょ、ちょっと……!」

 いきなり巻き込まれた依頼人は思わず狼狽えるが、リョウジは二人から見えないように落ち着くようハンドサインを送る。

「さて、もうお喋りは十分ですかね?では、私のナイフを貸しますので――」

 二人の前にナイフを放り投げると、リョウジは一呼吸置いてから言った。

「二人とも、その場で自分の腹を掻っ捌いてください」

「う……う、うわあああぁぁ!!」

「やだぁぁぁ!!誰か助けてぇぇぇ!!!」

 二人の悲鳴と泣き声が辺りに響き渡る。リョウジはそれを黙って見つめ、依頼人は青を通り越して土気色になった顔でそれを見つめている。

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