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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
六章 ドラゴンキラー
31/47

一難去って

「たっ、大変だぁ!!最古のドラゴンっ……ダメだ、逃げなきゃ!逃げぇぇぇ!!」

「おい落ち着け!最古のドラゴンが何だと!?落ち着いて話せ!」

「滅びる!ダメだ!おしまいだ!逃げろ!早く逃げろおおぉぉ!!」

「落ち着けって言ってるだろうが!」

「ぐふぉ!?」

 その日の昼過ぎ、冒険者ギルドに一人の冒険者が飛び込んできた。完全に錯乱状態だった彼をボディーブローで強制的に落ち着かせ、詳しく話を聞いたところ、ギルド全体が錯乱状態に陥った。

「もうおしまいだ!誰だ、あの馬鹿にあんな奴の情報教えたのは!?」

「逃げなきゃ!どこへ逃げればいい!?誰か早く教えろおおぉぉ!!」

「報告っ、王へ報告しなきゃ!みんな逃げないとぉ!!」

 そして、冒険者ギルド秘蔵の通信の魔道具を使い、各冒険者ギルドにその情報が伝えられた結果、国全体が大混乱に陥った。

 最古のドラゴンとは、それほどに危険な存在だった。手出しをしなければ襲われることはないが、もし少しでも手を出そうものなら、報復にその周辺全てを滅ぼす。場合によっては周囲の国まで巻き添えにするほどの、危険な存在である。

 エリウソン伯爵は、そんな相手にがっつり手を出してしまったわけで、王都では大混乱の最中ではあったが、絶対に処刑はすると話がまとまるほどだった。殺されていたとしても、代わりの人形を使ってでも絶対に殺すという強い殺意の漲る決定であった。

 だがその十分ほど後に、不可解な情報がギルドに飛び込んだ。

「おーい、必要ねえ!避難は必要ねえぞ!最古のドラゴンは、もう死んだ!」

「は!?てめえ何ふざけてやがるんだ!誰があんな化けもんを殺したってんだ!妄想してねえで現実を見ろ!」

「依頼に参加してたリョウジって奴がぶっ殺した!間違いねえぞ、俺はこの目で見たんだからな!命乞いをするドラゴンを、一切情け容赦かけずに頭をぶった切ったんだ!」

「あんな化けもんの頭を斬れる剣なんかあるわけねえだろうが!寝言は寝てから言え、馬鹿野郎がっ!」

「いや、そこは俺もよくわかんねえけど、いきなり異様な風体の剣士みたいになって、身長ほどの大剣でぶった切って殺したんだ!今は死体を運ぼうと頑張ってるところなんでな、人手貸してくれや!」

「嘘だ!全部てめえの妄想だ!最古のドラゴンが殺されるなんて有り得ねえ!」

「気持ちはわかるが、全部本当だぜ!そんなに疑うなら、自分の目で確かめに来いよ!とにかく、人手は寄越してくれよ?俺は手伝いに戻るからな!」

 そう言って焦る様子もなくギルドを出ていく男は、よくよく見れば強制参加の依頼を受け、逃げ遅れたはずの男だった。もしも最古のドラゴンが生きているなら、こんなところに来られるはずがない。

 真相を確かめるため、斥候部隊と名付けられた決死隊、実態はくじ引きで負けただけの数人が様子を見に行かされたが、その先で目にしたのは、最古のドラゴンの死体を何とか谷の上まで引き上げて、一息ついている私兵と参加者達の姿だった。

 その驚くべき情報は瞬く間に広がり、再び国は大混乱に陥った。

 最古のドラゴンが死んだ。それを討ち取ったのはB級冒険者。あらゆる魔法を斬り伏せ、ドラゴンの頭を地面に叩きつけ、足蹴にした上で、命乞いするドラゴンを容赦なく斬り殺した男。

 新人ながらスキルのおかげでB級に上がっただけのリョウジは、今やこの国で最も有名な人間になっていた。そして、リョウジを知る人々は、その情報に驚きつつもどこか呆れた様子でその話を聞いていた。


―――――


「マスター!マスター!聞きました!?聞きましたよね!?リョウジさんの話!」

「そりゃ、聞かねえわけがねえだろ。通信受けたの俺だぞ」

「本当にすごいですよ!最古のドラゴンを討ち取るなんて!これもうS級確定じゃないですか!?」

「あ~、確かに。ははっ、まさかこんな早くに、とんでもねえ結果出しちまうとは……恐れ入るぜ。けどきっと、あいつはこれがどんなことか、わかってねえんだろうなあ……」

「これもうほんと、私いっぱい自慢しちゃいますよ!私と一緒にお仕事してたんですよーって!」

「まあ、それぐらい許されると思うぜ。俺は……どうすっかなあ。一ヶ月一緒に仕事してたし世話もしたのに、結局名前を名乗らないまま別れた相手ですって自慢するかな……」

「リョウジさんって、仲良くなる気が無い人にはずっと丁寧語で喋るって言ってたそうですけど?」

「いい加減泣くぞ!?泣き喚くぞ!?つうかお前だって同じだったじゃねえかよっ!」

「私はほら、仕事中しか話してなかったじゃないですか」

「……マジで泣こうかな、俺……」


「おやおや、これはこれは……」

「ん、どうしたんです商人さん?最古のドラゴンに何か思い入れが?」

「いや、そっちではないんです。あらゆる魔法を寄せ付けず、威圧もものともせず……すごい人が、いたものだと思いまして」

「ああ、すっげえですよね。なんか、B級以上の冒険者が強制招集されてたそうなんですけど、B級でそんな人いたっけな?」

「いるのでしょうね、魔法の一切効かない、常識も一切通用しない人が……ふ、ふふ」

「な、何かおかしかったですか?」

「いえ、何も。ただ……ふふ、そうですね。商機が一つ、やってきたかな、と思いまして。きっとこんなのを成し遂げた人は、懐に風なんか吹かなくなるでしょうから、ね」


「飲まんのかね?それとも、子飼いの暗殺者が捕まって、毒殺でも警戒しているのかね?」

「は、はは……な、何を根拠に、そんなことを……」

「なに。件の暗殺者は、この国の英雄を殺そうとしていたようでね。色々尋問した結果、『依頼主は子爵か』という問いだけには答えんのだよ。他の貴族や商人の名前を出しても、必ず否定するのに、だよ?」

「そ、そうは申しましても、他にも財力のある商人もおりますからな。それだけで、私をお疑いになるとは、いささか乱暴では?」

「ふむ、それもそうだね。失礼した。それで、私の茶は飲めんかね?最後だからと思って良い茶葉を持ってきたのだ。凶報が吉報になった祝いに、飲んでみんかね?不安なら私が飲んだ茶を飲むと良い」

「う、疑うなどそんな……侯爵様を疑うことなど……し、しかし、警戒は必要ですからな……失礼を……っ!?う、ぐ、がああぁぁ!?」

「おおっとぉ?一体誰が魔力毒なんて恐ろしいものをー。こ、これは一大事だー。同じものを飲んだ私は無事なのに、モストル子爵が溶け始めたぞー、これはきっと使用人の誰かが毒を盛ったに違いないぞー。さあ、全員拘束しろ!……さて、リョウジ。これで憂いは一つ消せたかね。きっと君は慣れぬ評価に戸惑うのだろうが、微力ながら手助けはさせてもらうよ」


―――――


 最古のドラゴンの死骸が町に運び込まれると、町全体が大きく沸いた。話では頭を斬りつけて殺したとのことだったが、不思議なことに死体には傷一つなく、しかし確実に死んでいるため、一体どれほどの素材が取れるのかと、冒険者ギルドのみならず、商人ギルドも目の色を変えて皮算用を始める。

 その喧騒とは少し離れたエリウソン伯爵邸にて、当主のエリウソンは数を減らした私兵達の前で演説を行っていた。

「諸君!一部の者は残念ながら帰らぬ者となってしまったが、生き残った君達は紛れもなくドラゴン殺しの一人だ!その一員になれたことを、光栄に思うがいい!」

 そんな演説を、全員が白けた気持ちで聞いていた。勇敢に立ち向かった者はほぼ全員が帰らぬ者となり、ブレスを生き残った者もほぼ廃人となり、今ここにいる者は、威圧だけで失神及び発狂していた者達だけで、今こうして生きているのは、一人の冒険者が神の如き活躍をしたからに他ならない。それを、『自分もドラゴン殺しになった』などと思う者は、目の前の人物を除いて一人もいなかった。

「そして!ドラゴン殺しとなった私に刃向う者など、これから先一人たりとも現れん!我が領地は、これで安泰……!」

 不意に、エリウソン伯爵に影が落ち、それが何かと見上げた瞬間、全員の動きが止まった。

 どぉん!と大きな音を立て、一匹のドラゴンが伯爵の前に降り立った。その鱗は真っ青に輝き、四肢は太く、翼も人間の足より太い。そして威嚇するように首を大きく上げ、伯爵をまっすぐに見下ろして念話を送る。

『ドラゴン殺し、と言ったな。それはお前達の事か』

 私兵達は慌てて否定しようとしたが、それよりもエリウソン伯爵が口を開く方が早かった。

「そ、その通りだ!この私が、あの最古のドラゴン?とやらを殺し――」

 バクリと、上半身がドラゴンの口内に収まった。服も肉も骨も、まるで存在しないかのように容易く食い千切ると、それをごくりと飲み込む。

『ふん。こんな奴があの爺さんを殺せるものか。ならば、殺したのはお前等か』

 リョウジには、多大な恩があった。それは全員が感じており、いつか必ずその恩に報いねばならないと思っていた。しかし、この恐怖にあっては、その気持ちは穴の開いた風船より早く萎んでしまった。

「い、いや、違っ、違います!!わ、私達では決して……!」

『なら、教えろ。殺した奴は、どこにいる』


 質問責めからようやく解放されたリョウジは、若干ふらつく足取りで冒険者ギルドを出た。ただでさえ、命を賭けた戦いを十分以上続け、とんでもない重さの死骸運びを手伝い、疲労困憊のところでの質問責めである。コウタがいなければ、もう宿に帰って寝る以外の選択肢は無かった。

「つっかれたねえ、コウタ……もう宿屋戻っていいかな……?」

「えりおっこ。おいよーよ、でぃーりぃー?」

「……散歩でもする?まあいいけど、コウタカーに大人しく乗っててね……」

 震えそうになる足を何とか動かし、歩き出そうとする。そこに、何やらバサバサと大きな音が響いた。続いて、辺りがふっと暗くなる。

「……え?」

 上を見上げた瞬間、どぉん!と大きな音を立て、真っ青な鱗を持つドラゴンがリョウジの前に降り立った。一瞬呆気に取られつつも、すぐに我に返り、リョウジはフレイルとバックラーを構えてコウタの前に出る。

「ドラゴン!?まさか、あいつの仇討ち!?」

『よくわかっているようだな、人間よ。あの爺さんを殺したのは、お前で間違いないな』

 ドラゴンは念話で話しかけるが、リョウジは何も答えず、構えも解かない。

 その間に、町は再びの大混乱に陥っていた。

「う、うわああぁぁ!!ドラゴンだぁぁ!!」

「嘘だろ!?さっき倒されたばっかりなのに、仇討ちかよ!?」

「で、でも、あいつならやってくれるかもしれねえ!あいつを、リョウジを信じろ!」

 そんな声を無視し、ドラゴンはリョウジの返事を待っている。

『……だんまりか。無駄だ、お前が殺したという話は既に聞き及んでいる。だが、そんな武器でどうやって殺した?』

 その問いかけにも、リョウジは答えない。ドラゴンは大きく息をつくと、威圧を強くかけた。

『何も話す気はないというのか?なら、言い残す言葉があるなら言え。殺すのは5秒だけ待ってやる。5、4、3――』

「……なんだ?殺しに来たわけではない……のかな?」

『いや殺すと言ってるだろうが』

「もし話が分かるなら、敵対する気はないって言いたいけど……話、わかるのかな?ドラゴンは知能が高いってのは定番だけど」

『さっきから話してるだろうが』

 思わず二回突っ込んでから、ドラゴンはあまりの噛み合わなさに首を傾げる。

『お前、俺の話は聞こえているか?』

「もし話が分かるんなら……戦う気はないんで、帰ってもらえないかな。正直もう、ドラゴンとは戦いたくない……ていうか寝たい」

『あ、お前本当に通じてないな。仕方ない』

 ドラゴンは再び大きく息をつくと、おもむろに口を開いた。

「……これなら、わかるか?」

「喋った!?喋れる……んですか!?」

「いや、さっきから話しかけてはいたんだがな。お前、念話が通じないのだな?」

「念話……?あ、テレパシーですかね?もしそれが魔力を使うものだったら、私には聞こえないですね」

 そう言うと、リョウジは構えを解き、フレイルを腰に収めた。その行動に、ドラゴンは思わず尋ねてしまう。

「お前、俺が危険だとは考えないのか」

「え?ああ、最初はそう思いましたけど、本気で殺すつもりなら話しかけてこないですよね?それに話が通じるなら、そこまで悪い事にはならないかな、と」

 その価値観は、ドラゴンには理解できないものだった。初対面の、しかも異種族を相手に、そこまで信用できる気が知れない。だが少なくとも、そうされることに不快感は無かった。

「はっきり言うが、本当はお前を殺しに来たのだぞ。あの爺さんを殺したのは、お前だろう?」

「えっ、そうなんですか!?で、爺さんって……あの、最古のドラゴンとか呼ばれてたドラゴンですか?」

「それだ。あいつの悲鳴が聞こえたものでな、何事かと飛んできたわけだ。そうしたら、ドラゴン殺しがどうこうとかいう話を聞いたんでな」

 普通に会話を続ける二人に、町の者は驚きを隠せなかった。

「うっそだろ……ドラゴンと普通に話してるし、武器しまったぞ……!?」

「え、まさか武器なんかいらねえよってこと?でも、さすがに素手はねえよな……?」

「そもそも、なんでドラゴンとあんな至近距離で悠長に話せるんだよ……危機感ってねえのか……?」

 そんな話をされているとはつゆ知らず、リョウジは会話を続ける。

「そうでしたか。それは確かに……私、です。うん、私です」

「今の間は何だ?何か隠しているな?」

「う、鋭いですね……その、あまり周りに知られたくない情報がありまして、オールオープンすると周りに知られるので……えっと、パーティって組めます?」

「パーティ、か……いや、わからんな。何しろ、試したことがないからな」

「じゃ、試してみます?私、息子とパーティを組んでるので、名前を教えていただければ誘いますが」

「ふーむ……試してみるか。俺はジェラルドという」

「ジェラルドさんですね。では、パーティ インヴァイト、ジェラルド」

 リョウジがパーティ勧誘を送ると、少しの間が空き、無事にパーティが組めたことを知らせるメッセージがリョウジに届いた。

「よかった、無事に組めましたね」

「これは、俺にとっても驚きだ。人間とでもパーティを組めるのだな」

 そして当然、他の人間にとってもこれは驚くべき事態と情報であった。

「リョウジの奴、ドラゴンをパーティに誘いやがった!?しかも組んだぞあいつら!?」

「ドラゴンとパーティが組める!?種族は関係ねえのか!?」

「伝説の竜騎士って、もしかしてマジにあったのかも!すぐに王都に連絡を取れぇ!」

 そんな人間達の動きなどつゆ知らず、ジェラルドとリョウジはお互いのステータスを確認し、話を続けている。

「こ、これはこれは……なるほど、息子が倒した、というのも納得だ。しかし、お前のスキルも驚くべき力を持っているようだが」

「すっご、力これ、一、十、百……百万!?これは死ぬわ……あ、ええ。魔力に関しては正直無敵です。ただ、ジェラルドさんみたいに魔力に頼らない相手だと……もはや、私はただのおっさんですよ」

「すると、俺とお前が戦ったら、俺が勝つのか」

「でしょうね。ジェラルドさんは体格を見るに、魔力で体動かしてるわけじゃないですよね?最古のドラゴンさんは、寝たきり老人が無理矢理動いてるみたいな感じだったので何とかなりましたが――」

「ぶうっふぉ!」

「うお!?ど、どうしました?」

 突然激しく吹き出したジェラルドに、リョウジはビクッとしつつも尋ねる。すると、ジェラルドはもはや隠すことなく、大声で笑いだした。

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