子殺しの大義
侯爵は魔力が豊富な方らしく、それは数十回も繰り返されたが、やがて侯爵が真っ青な顔で口を開く。
「そ……そろそろ、限界、だね……こ、これ以上、は、気をうし、なって、しまう……」
「では、最後に一発使ってください」
「……君は、悪魔、かね……?」
「あ、いえ、そうではなく、念のため、完全に空にしてほしいんです。その上でポー……あ、魔力無いからダメか。やべ、どうしよ……」
その時、顔を歪めながら主人を見守っていた執事が、小さく手を上げた。
「わたくし、回復魔法を使うことができます。他にも使える者はおりますので、至急集めて参ります」
「それなら何とかなりそうですね。では、よろしくお願いします」
リョウジとしては、左手で侯爵を押さえ、右手でコウタを抱え、右足で暗殺者を踏むという不快なツイスターゲームを一刻も早く終わらせたかった。何より、コウタがだんだん飽きてきているのが、手に取るようにわかるのだ。とはいえ、今まさに二人の人間の生死が関わっていることであるため、付き合わないという選択肢もなかった。
やがて、家中の回復魔法を使える使用人が集まったところで、リョウジは侯爵に話しかける。
「では、最後です。思いっきりお願いします」
「……魔力欠乏も、非常に辛いと言われるのだが……やるしか、ないね……ぬぅぅ!」
リョウジが手を離した瞬間、これまでより一回り大きな氷塊がリョウジに直撃し、掻き消えた。そのまま侯爵は気を失ってしまったが、リョウジは手を触れずに様子を窺う。
やはり、暴走しようにもその大元である魔力が無ければどうしようもないようで、時々皮膚が裂けたり髪が抜けたりしているものの、これまでのように爆ぜたり溶けたりといった症状は起きないようだった。
「……よし!これで一応は何とかなりましたね!」
「ああ……!魔力毒に犯された主人が、生きていられるなど……信じられません!」
目に涙を浮かべ、執事は何度も回復魔法を使う。さらに集められた使用人達も回復魔法を重ね掛けしていき、その甲斐あって、侯爵の身体はだんだんと元の姿に戻っていく。結果として、三分ほどで完全に元の姿に戻ることができた。
ひとまずの危機は去ったが、まだ細かいダメージを受け続けているため、侯爵は自室へと運ばれ、以降は回復魔法が使える使用人が、交代で付きっきりの看病をするとのことだった。
そうなると、次は暗殺者である。リョウジとしてはこのまま足を離してしまいたいが、色々なことを考えるとそうもいかないだろう。どうしたもんかと思っていると、不意にコウタが暴れ出した。
「んにんにんにぃー!」
「うわっ!?ちょ、コウタ暴れないで!ちょ、危ない!落ちるって!」
退屈が極まってしまったらしいコウタが、釣られたカジキマグロのように暴れ出し、ついにリョウジの腕を弾き飛ばして床に降り立つ。
べしゃんと、コウタの足に溶けた暗殺者の身体が飛んだ。それを見た瞬間、コウタは本気で不快そうな顔になって叫んだ。
「きぃーったい!!!」
直後、暗殺者の身体は一瞬にして元通りになり、地面に広がっていた身体もきれいに戻っていた。
「えっ……な、何が起きた!?」
「あ、え?お、俺の体……え、毒も消えた!?」
周囲の者と暗殺者本人は、何が起きたのかわからずに騒然となる。リョウジは慌ててコウタの手を取り、素早く暗殺者の上に飛び乗った。
「ぐえっ!?」
「すみません、私魔力とかには強いんですが、腕っぷしはからっきしなので、どなたか代わっていただけると……」
「え、あ、ああ、すまん。私が代わろう」
護衛の一人が慌てて駆け寄り、暗殺者を組み伏せる。それを見届けると、ようやくリョウジはコウタ以外の人物に触れるのをやめることができた。
「し、しかし、今のは一体……!?毒も体も、一瞬で回復させるなど、聞いたことがないが……!?」
「あ~、え~、ちょっと息子が特殊でして……これに関しては、オウリス侯爵にお話ししようと思ってたんですが、基本的には秘密なもので……申し訳ないです」
リョウジが頭を下げると、護衛の男は慌てて首を振った。
「い、いやいや!主人の命を助けてくれた者に、何を強制などするものか!まして、特殊なスキルや有用なスキルの持ち主であれば、それを隠すのは当然だ。だから、気にしないでくれ」
「ありがとうございます」
ひとまず、大体の問題が解決しそうであるため、リョウジはオウリス侯爵邸で一泊することになった。コウタが手を加えるまでもなくふかふかの大きなベッドに、コウタは早速飛び乗ってぼふぼふジャンプして遊んでいる。
本来ならオウリス侯爵と食事をするところだったらしいが、当のオウリス侯爵は魔力欠乏と毒のダメージで眠っているため、食事は部屋に運んでもらい、コウタと二人で食べる。給仕付きの慣れない食事ではあったが、さすが侯爵家だけあって食事のレベルは大変に高く、これにはコウタも大満足だった。
普段であれば、残金とコウタを気にしつつ食べられる範囲でするしかない食事を、この日はリョウジも存分に味わうことができた。そのありがたみに少し涙ぐんでしまい、給仕を慌てさせたのは御愛嬌である。
翌日、リョウジが起きると再び応接室に呼ばれ、行ってみればオウリス侯爵がいつもと変わらぬ様子で座っていた。
「おはよう、リョウジさん。よく眠れたかね」
「おはようございます、オウリス侯爵。お体は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ……と言いたいが、そうでもない。一言で言うなら、二日酔いの上に全身筋肉痛のような状態だよ」
そういえばパーティ組んだままだったなと思い出し、リョウジは侯爵のステータスを確認する。すると、今も状態は『毒(魔力)』で変わっていない。自分とコウタにも、未だに毒は回り続けているらしい。
「しつこい毒ですね。解毒魔法とかはないのですか?」
「ないとは言わんが、あれは毒の組成がわかっていないと使えないようでな。この毒がどんな成分の毒かわからないと、効果を発揮しないのだ」
「昨日、レイスの花を使った毒、というように聞きましたが……」
「レイスの花は、死者の埋められた土地に咲く花で、死体から魔力を吸い取って成長するものでな。大体がろくでもない毒を作るのに使われ、この毒もそれが入っているのは確実だ。しかし、レイスの花以外が何か、というのがわからないのだよ」
ぷつりと侯爵の頬が裂け、ほんの一瞬だけ顔を顰める。すると、近くにいた使用人がすぐに回復魔法を使い、その傷を治した。
「君のおかげで、こうして普通に暮らせるようにはなったが、如何せん、回復魔法を使える者が近くにいないといけないのは不便でな。しかも魔力がほぼないので、自衛も難しいという問題もある。素晴らしい護衛がいるとはいえ、昨日のような奴に突然襲われたら、私自身で対応しなきゃいけない場面もあるからね」
「そういえば、昨日の暗殺者は皆さん気づかなかったんですよね?私としては、一緒にしれっと入ってきたり、部屋の隅でこっち見てるのがずっと見えてたんですが……」
「ああ。それに関しては、どうやら『認識阻害』というスキルの持ち主だったらしい。そこにいることに気付けないという、まさに暗殺向けのスキルだな」
それが効かないリョウジにとっては、単なる不審者でしかなかったのだが、スキルが効く相手には恐ろしい効果があるんだなと、リョウジは感心していた。そして、モストル子爵が護衛に欲しがった理由は、こういった暗殺者を見破れるからなのかもしれないなと納得した。
「そういえば、あの暗殺者は一体どうしたのだね?体がすっかり元に戻っていると聞いたが……?」
「あ~、それは……その、ですね――」
リョウジは昨日の顛末を、オウリス侯爵に説明した。すると侯爵はフッと笑い、どこか遠くを見つめるような目つきになった。
「あの、恐ろしい地獄に耐えて、ようやく手に入れた苦痛に満ちた生活が……暗殺者は、一瞬で普通の生活を取り戻したのだね……」
「そ、それは、その……えーと、コウタの力は、すごく気まぐれに出るので……あ、そうでした」
そこでようやく、この騒動が始まる前の話を想い出し、リョウジはポンと手を打った。
「そのコウタの話なんですが……状態ではなくて、固有スキルを見てみてもらえますか?」
「固有スキル?ふむ、ステータス オープン、コウタ……なっ!?こ、これはっ!?」
文字通りに仰け反って驚く侯爵に、その侯爵を見て何事かと驚く使用人達。当のコウタは、昨日と同じクッキーをもらってご満悦である。
「この子は自閉症と言われる障害なんですが……世界が自分の中で完結してしまっているんです。だからこそ、他の人の話は聞かないし、その価値を感じない。それらが長じて、そのスキルを得るに至ったのだと思います」
「う、ううむ……」
「きっと、過去にもこんなことがあったのではないでしょうか。そして、何か大きな災害などが起きた……それらの教訓から、三歳までに……要は物心がついて、スキルを習得する前に、殺してしまうようになったのではないでしょうか」
リョウジの言葉に、オウリス侯爵は腕を組むと、目を瞑ってじっと考え事をしているようだった。リョウジも何も言わず、侯爵の言葉をじっと待つ。
耳に痛いほどの静寂の中、バリボリとコウタがクッキーを貪る音だけが部屋に響く。途中、『あいりえよー』等と飲み物を要求されたため、砂糖を入れたぬるめの紅茶を出してやると、コウタはそれを一口飲んでから再びクッキーを食べだした。
たっぷり五分ほど経って、オウリス侯爵は口を開いた。
「私の判断は……間違っては、いなかったのだな……」
「……ええ。私達はいつか帰るつもりですし、私のスキルで無効化できるので、ギリギリ許してもらえると思いますが、この世界で生きていくのであれば……それは、難しいでしょうね」
「……ずっと、そう考え続けてきた。子供が可愛くないわけがない。それでも、仕方なかったのだと……本当に、その判断で、間違って……いなかったのだな……」
言いながら、侯爵は眉間を揉んでいる。その声は、僅かに震えていた。
「自分では、そう信じ続けた。だが、妻に詰られ、離縁され……本当に正しいのか、ずっと疑問だった……子供殺しになってでも、私はそれ以上に大切なものを、守ったのだと……正しかったのだと、ずっと確証が欲しかった……」
「……」
「……ありがとう、リョウジさん。私はようやく、前を向けるよ」
すっかりいつもの調子に戻り、オウリス侯爵はまっすぐにリョウジを見つめた。
「ただまあ、前を向く前に足元の問題を片づけたくはあるがね。何か、解毒剤や解毒法について、異世界の知識で心当たりなどは無いかね?」
言われて、そういやこの人まだ毒状態だっけと思い出す。
「えーっと、解毒……解毒…………毒蛇……あ、血清治療!」
ポンと手を打ち、リョウジが言うと、オウリス侯爵は身を乗り出した。
「血清治療、とは?」
「えっとですね、私もそこまで詳しい訳じゃないんですが、毒蛇などに噛まれた時の治療法で……ええっと、何だっけな……まず、馬とか牛に、その毒を打つんですね」
「な、なぜ馬や牛に?」
「単純に致死量が多いから死ににくいのと、血がいっぱい取れるからです、確か。ただそのせいで、二回目以降が使いにくいとかなんとか……まあ、そこはいいか。とにかく、そうすることで毒の抗体を作らせるんですね」
「どんな毒でも治せるのかね?」
「理論上は……たとえば人間も、毒蛇に噛まれると体はその毒の抗体を作るんです。ただ、抗体ができる前に死んでしまうというだけなので、死なない程度に毒を抑えられれば、その抗体が手に入るという訳です」
オウリス侯爵は近くの使用人に目配せをすると、その使用人は急ぎ足で部屋を出て行った。
「なので、死なない程度に毒を打った牛や馬の、抗体ができたところで、その血から抗体の成分、要は血清を取り出すんで――」
突然、話を聞いていた執事の身体が白く眩く光った。『あ、これなんか覚えある』と思っていると、執事は自身のステータスを開いた。
「……『血清生成』、というスキルですな。毒に対して、その抗体を持っている相手が分かり、血をもらうことで血清が生成できるようですな」
「ゴート、お前はいつスキルを得るのかと思っていたら、まさかこの場面でとは」
「わたくしは、オウリス様にお仕えするのが幸いです故……お役に立てることは、身に余る光栄です」
『執事の山羊か……』などとリョウジが考えていると、執事のゴートはリョウジの方へ顔を向けた。
「ところで、リョウジ殿。貴方は現在、主人と同じ毒に犯されております故、多少なりとも抗体ができているようです。大変申し訳ないのですが、その血を少し分けていただけませんかな?」
「あ、それはいいんですが……ただ、私はポーションも回復魔法も使えないので、あまり血を取られると生活にかなり差支えが……」
「ああ、そうでしたな。これは失礼しました。となると……ふむ……」
執事はしばらく考えた後、再び口を開いた。
「では、その血を数滴、いただけませんかな?」
「数滴で足ります?」
「血清を作るには足りません。しかし、魔力毒とはそもそも、強力な毒でしてな。一滴ですら、人をああして死に至らしめる……我が主人に苦痛を与えた暗殺者から、血清を頂くとしましょう」
「ああ、それは……ご愁傷様、ですね」
どうやら、リョウジの体内に残った毒ですら、人を死に至らしめるのに十分らしい。それを薄めて使うことで、死なないギリギリを攻めるつもりなのだろう。
針で指を突き、銀の皿に数滴血を垂らしてやると、それを持った使用人は足早に部屋を去った。
「あれだけあれば、馬と人間とに使うことができます。そこから血清が作れれば、今後あの毒は我等の脅威にはなり得ません。リョウジ殿には、深い感謝を」
「ああいえ、そもそもが、私が連れてきてしまったようなものですから……お礼など」
「いえいえ、それが転じて我等の利益となります。ですから、感謝を申し上げます」
同じ貴族でも、こうも違うのかとリョウジは心の底から感心していた。モストル子爵は明らかにこちらを見下していたし、その使用人達も同様であったが、オウリス侯爵とその使用人達は自分を一人の人間として尊重してくれている。
「それで、君からは異世界の話も聞いた。魔力毒への対抗手段も手に入った。私達は君に対して、何をしてやれるかね?」
「でしたら、時空魔法の使い手について、何か情報はありませんか?私達は、どうやら時空魔法で召喚されたようなので、帰るためにその使い手を探しているんです」
リョウジの言葉に、オウリス侯爵は顎に手をやった。
「ふぅむ……今のところでは、聞いたことがない。そもそも、時空魔法とは伝説の魔法であり、実在したと言われている使い手は二人ほどしか知らん。異世界から召喚……というより、この場合は吸引だな」
「吸引と召喚は、何か違うんですか?」
「召喚は、相手を狙って呼び出すものだ。大体はその対価として魔力を渡すこととなり、相手の力量によって必要魔力量は異なる。また、用事が終われば召還、こっちは返す方だな、されるのが一番の違いだ。それに対して吸引の場合は、対象を異なる世界からこちらの世界へ引っ張ってくることで、莫大な魔力を消費すると聞く。凡その指定はできるようだが、引っ張ってくる対象を細かく選ぶことはできないとも聞くな」
あまり実用性のある情報とは言い難かったが、それでも自身の状況を正確に説明できるようになったのは大きいだろう。それに加え、どうやら莫大な魔力の持ち主を探せばいいという指針も見つかった。
「大したことを教えてやれなくて、すまんね」
「いえ、それでもだいぶ助かります。あとは、自分で何とかしてみます」
「君は本当に、欲のない人間だね。私の命を救ったのだから、白金貨をせびっても良いのだぞ?」
冗談めかして言うオウリス侯爵に、リョウジは笑顔を返す。
「いずれ帰ってしまう世界ですので、大金を持ってもあまり意味が無いので。それに、時空魔法の使い手が近くにいない、というだけでも十分な情報です」
「……なるほど、モストル子爵が欲しがるわけだ。情報の重要性もよくわかっているし、礼儀なども平民にしては申し分ない。雇えるものなら雇いたいよ」
「過分な評価を、ありがとうございます」
笑顔で頭を下げるリョウジに、オウリス侯爵は心の中で溜め息をついた。実際、彼がいるだけであらゆる魔法やスキル、魔力毒に対抗できるようになり、頭も回るため何かしらの事業を任せても無難にこなせるだろう。物腰が柔らかいため、執事としてもやっていける可能性がある。冗談めかしてはいたものの、先程の言葉は本心からの物である。
「縁があるなら、また会いたいものだ。君の冒険の話を、ぜひ聞かせてほしい」
「ええ。お会いできましたら、必ずお話しますよ」
「だがな、さすがに先程の情報だけでは、命を救ってもらった上に、魔力毒の対抗手段を得たことに対する礼としては不十分だ。なので、私の愛用品を一つ渡そう」
オウリス侯爵が言うと、いつの間に持っていたのか、ゴートは二着のマントを持っており、それをリョウジに手渡した。
「これは……?」
「シルバーシープのマントだ。極寒の地に生息する羊で、毛の手触りが良く、水もよく弾く。暑い所でも、空気の層を作ってくれる分、意外と涼しい。見たところ、君はマントを持っていないようだったのでね。旅にはマントは必需品だ」
『山羊の執事が羊のマント……』などと頭の中で考えたが、リョウジは黙ってそれを受け取る。
黒い糸を編み込んでいるらしく、全体には灰色がかって見えるが、よくよく見れば羊毛の部分は目に痛いほど白く、一目見て高級品と分かる物である。もう一つはそれの小型版で、どうやらコウタへの贈り物らしい。
「どうも、ありがとうございます。しかし、よく子供用の物が……」
言いかけて、恐らく息子の形見なのだろうと察し、慌てて口を噤む。そんなリョウジに、オウリス侯爵は鷹揚に笑った。
「なに、構わんよ。未練たらしく持ち続けていたものだが、死蔵されるよりは有効活用できる者に使ってもらった方が、道具としても幸せだろう」
「……ありがとうございます。大切にします」
試しに身に付けてみると、まったくもって暑くも寒くもない、まさに常温に保たれるようだった。魔力の類であれば通じないため、どうやら純粋に超品質の羊毛であるらしい。
「実に冒険者らしくなったではないか。B級冒険者リョウジ、君の活躍を、祈っているよ」
「私も、オウリス侯爵の健康と活躍を、お祈りします」
最後に一礼をし、リョウジは侯爵家を後にした。そして冒険者ギルドに行くと、新たに出ていた護衛依頼を受諾し、新たな町へと旅立っていく。
「依頼をお受けした、B級冒険者のリョウジです。それと、こちらは息子のコウタ。よろしくお願いします」
「ああ……って、それはシルバーシープのマント!?なんという高級品をっ……すげっ、初めて見たっ……さすが、B級冒険者ってのは稼ぐねえ……!」
『侯爵、あんた思った以上にとんでもない物寄越したんだな』などとリョウジが脳内でぼやくのは、また別の話である。そしてコウタがもらった、侯爵の息子の形見であるマントは、一瞬気を抜いた隙に元の世界で愛用していた灰色の毛布に変えられてしまい、リョウジが心の中で侯爵に全力で詫びるのも、また別の話である。