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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
五章 横柄な貴族・鷹揚な貴族
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魔力毒の脅威

予約投稿をなぜか来週にしてたのに気付きました……

「魔力毒だと!?それでなぜ生きている!?」

「衛兵に連絡しろ!町から一人も出すな!」

「警備を固めろ!護衛全員呼び出せ!」

 意図したところと全く違う部分でとんでもない騒ぎになってしまい、リョウジは何が何だかわからず、その大騒ぎを眺めることしかできない。

「リョウジ!いつだ!?いつ魔力毒を受けた!?そもそも、それでなぜ生きている!?」

「あの、すみませんが、見てほしいのはそこじゃなかったというか……そもそも、魔力毒って何なんですか?」

「知らないのか!?ああ……そうか、異世界にはない物なのか。それは……」

「あ、質問しておいてすみません。それより気になることがあるんですけど」

 部屋の隅を見ながら、リョウジは続けた。

「あそこにいる、服装の全然違う人って、関係者ですか?町中でも見た気がするんですけど、一般人に紛れた護衛とか?」

「は?一体何を言っている?」

 リョウジの視線の先を見ても何の事だかわからず、オウリス侯爵は首を傾げた。

「ですから、あの部屋の隅にいる、顔を隠した、灰色の服を着た人のことです」

 リョウジが具体的に言った瞬間、リョウジとコウタ以外の全員が驚愕を顔に浮かべた。

「こ、こいつ!?いつからいた!?」

「最初からいましたが?」

「捕えろ!こいつが魔力毒を使ったのかもしれん!」

 存在を察知された暗殺者は一瞬顔を歪めると、リョウジにニヤリと笑いかけた。

「お……おいおい、ここで俺の存在をばらすなよ、依頼者様よ」

「依頼者?何のですか?」

「ああ、最初から俺を切り捨てるつもりだったか。まあいい、依頼は依頼。予定とは変わったが、遂行するさ!」

 一体何が始まっているのかと、訳が分からないリョウジが動けずにいると、暗殺者は懐から液体を取り出し、オウリス侯爵にぶちまけた。咄嗟に顔を庇ったものの、それをまともに浴びたオウリス侯爵は、直後悲鳴を上げた。

「ぐっ……ぬぅ、おおおぉぉぉ……!」

 ジュウ!ボウ!と様々な音が響き、オウリス侯爵の体が溶け、爆ぜ、崩壊していく。突然始まったグロ映像に、リョウジは思わずコウタを抱えて立ち上がるが、直後に護衛達が動いた。

 暗殺者とリョウジが、同時に捕まる。一体なぜ自分が拘束されるのかと思ったリョウジだったが、直後に暗殺者の言葉を思い出した。

「ちょ、ちょっと待ってください!私はこの人と関係ないですよ!?」

「ふざけるな!侯爵を毒殺しておいて何を言うか!」

「毒殺?これ、毒なんですか!?」

 本気でわかっていないリョウジの声に、彼を拘束していた護衛は少しだけ手を緩めた。

「魔力毒だ。しかもレイスの花を用いた、最悪の物だ……こうなっては、侯爵は助からん……!」

 その言葉に、リョウジは拘束を外そうともがいた。

「だったら、私を離してください!私なら何とかできるかもしれません!」

「何を言っている!?解毒剤もない魔力毒をどうにかできるだと!?」

「魔力毒って言うからには、魔力が関係してるんですよね!?私に魔力は効きません!というか魔力は他人のものも無効化できます!試させてください!」

 護衛は一瞬悩んだ。しかしリョウジが本気であることは声や表情からすぐにわかる。そして、侯爵を助けたい気持ちは同じである。もしもこれが演技だったなら、もう仕方がないと腹を括り、護衛は手を離した。

「……なら、頼む。我等の主人を救ってくれ!」

 解放されたリョウジはコウタを抱え、崩壊するオウリス侯爵の元へ行き、その体に手を触れた。すると音がピタリとやみ、オウリス侯爵の崩壊も止まった。

「うっ、ぐ……こ、これ、は……助かった、のか……?」

「ふーっ、間一髪……!重要な臓器がやられる前でよかったです」

 左腕は完全に溶け、右足は弾け飛び、顔も半分ほど崩れかかっていたが、それでも侯爵は生きていた。その事実に、使用人達はわっと歓声を上げ、暗殺者は驚きに目を見開き、コウタはぽつりと呟く。

「きったい」

「ちょおおコウタ失礼なっ!やめなさいマジで!」

「くっ……は、はは……汚い、か……素直な、お子さんだ……!」

「いやほんとにすみませんうちの息子が失礼なことを……!」

「いやいや、構わん……恩人の息子だ、多少の無礼など、いくらでも目を瞑る……」

「多少で済むんですかこれ……」

 そこへ、メイドの一人がポーションを持って飛び込んできた。しかし瓶を開けようとしたところで、リョウジがそれを止める。

「あ、ちょっと待ってください。この状態だと、ポーションも回復魔法も効かないんです」

「え!?な、何でですか!?」

「私のスキルは、自分と触れた相手の魔力及びスキルを無効化するんです。ポーションは、魔力に働きかけて回復を促進する物ですよね?」

「えっ……じゃ、じゃあ、ご主人様はずっとこのままなんですか!?」

 喜びから一転、使用人達は沈痛な面持ちで溶解人間となった主人を見つめる。

「ええと、まずは毒をどうにかしないと……といっても、解毒剤ってないんでしたっけ?」

「無いな。あったとしても、同時に飲みでもしない限り、薬が効果を発揮する前に死んでしまう……その分、報いはこいつの飼い主に受けてもらうか」

 そう言って、護衛は床に組み伏せられた暗殺者に目を向ける。すると、暗殺者は不敵に笑った。

「ふん……それは無理だ。せいぜい、溶けたそいつをずっと世話するがいい」

 ガチンと、歯を噛み合わせる。途端に、暗殺者の体が侯爵と同じように崩壊を始めた。

「う、ぐっ、あああぁぁぁ!!」

「馬鹿な!?自分に魔力毒を使った!?」

「あ、じゃあそいつもこっちでお願いします」

 冷静なリョウジの声に、咄嗟に距離を取っていた護衛達は暗殺者をリョウジの方へ蹴り込んだ。その体に足で触れると、暗殺者の体の崩壊も一瞬にして止まる。

「ぐう……あぁ、ぁ……」

「死なれちゃ困ります。色々聞きたいこともあるんですから」

 とは言ったものの、さてどうしようかとリョウジが悩んでいると、侯爵がそっとリョウジの手を掴んだ。

「す、すまんね……ただ、出来れば一瞬たりとも離してほしくない……今までは、妻への求婚が人生最大の頑張りだったが、今は先程の悲鳴をあの程度で済ませられたのが最大だと、胸を張って言える……」

「いや、そこは嘘でも求婚を最大にしておきましょうよ」

「自分に嘘はつけん!さっきが人生最大の頑張りだ!」

 このおっさん、意外と余裕あるんじゃないかと思った瞬間、今度は暗殺者がリョウジの足を掴んだ。

「た……たのむっ、離さないでくれっ……一瞬で気が狂いそうで、痛みで正気に戻されて、また狂いそうで……に、二度と味わいたくない!せめて殺してくれ!」

「だったらそんなもん、飲まなきゃよかったじゃないですか……」

 呆れながら言って、ふと、コウタが魔力毒に犯されているという言葉を思い出す。

「……ステータス オープン」

 自身のステータスを確認すれば、状態が『毒(魔力)』と書かれている。つまり、いつの間にかリョウジ自身も、魔力毒を受けていたのだ。そして、足元で自分の足に縋りついている男には、見覚えがあった。

「ああ……お前、食堂で会った奴か」

 リョウジの口調と雰囲気が突然変わり、周囲の者はぎょっとして身構える。

「そういやあ何か振りかけてたよな。あれが毒か。そうだな?」

「……」

 リョウジの質問に、暗殺者は答えることができなかった。そして、頭の中では逃げろという警告が全力で飛び交っている。しかし逃げたところで、魔力毒に犯された身体では一分と持たずに死んでしまう。

 何も答えられずにいると、リョウジは暗殺者の手を振り払い、足で蹴り転がした。

「待っ……ぎゃがああぁぁー!!」

「あの、リョウジ?できればそいつも生かしておいてほしいのだが……」

「私はともかく、うちの子にまで、そんな毒を盛った奴を生かしておく道理は?」

 これが先程まで穏やかに話していた人物かと疑うほど冷たい目に、オウリス侯爵は内心ゾッとした。しかしそれは表情に出さず、あえて困った笑顔を向けて見せる。

「大きく二つだ。一つは、依頼者が誰か知りたい。もう一つは……君の息子風に言えば、とても『きったい』ので、やるならせめて外にしてほしくてね」

「……それは確かに」

 リョウジは足を大きく上げると、溶けかかった暗殺者の腹を思い切り踏みつけた。

「ぐぼぁ!?」

 血反吐を吐きつつも、身体の崩壊が止まった暗殺者はボロボロ涙を零しつつ、ひゅうひゅうと荒い息をついている。

「……で?お前は誰に頼まれた?って、聞くまでもねえ、どうせモストルだろ?」

「……」

 肯定も否定もせず、暗殺者は震えながらリョウジを見つめている。

「だんまりか。なら……」

 リョウジが足を上げようとすると、暗殺者は必死に口を開いた。手足は完全に溶けてしまったため、縋りつくこともできないのだ。

「し、しつもん……こたえる……こたえるから、やめて……!」

「答えてねえよな?もう一回苦しんどけ」

「まって、まって!ほかのしつもん……たのむ……ほかの……」

「あの、リョウジ?そいつは本当に答えられないのかもしれんぞ?」

 オウリス侯爵の言葉に、リョウジは首を傾げた。

「答えられない、とは?」

「魔法契約という物を、聞いたことがあるかね?」

「はい、それぐらいは……ああ、なるほど」

 魔法契約とは、文字通りに魔法を使った契約であり、様々な規制を課すことができる。契約内容について喋れなくなったり、あるいは破った場合は死に至るというものもある。そのため、奴隷契約や主従契約などにおいては、この魔法契約をされることが多かった。

「じゃあ尋問は後でするとして……侯爵の体を、どうにかしたいですね」

 リョウジのおかげで崩壊が止まっているとはいえ、オウリス侯爵の身体は大惨事である。おまけにリョウジのせいでポーションが使えないため、止まったはいいが、進むも戻るも不可能という状況になってしまっている。

「ちなみに、魔力毒っていうのは、結局どういう毒なんですか?」

「見ての通り、魔力の暴走を引き起こすものだ。この毒の場合、魔力が暴走して全身に異常な強化や弱化を発生させ、結果としてその部分が爆ぜたり溶けたりする」

 オウリス侯爵が答える。顔が半分溶けてるのによく喋れるなと、リョウジは密かに感心していた。

「魔力毒以外の毒って何があるんです?」

「あとは身体毒というものがあるな。魔力は関係なく、身体に異常を引き起こすものだ。麻痺やら出血やら、心臓を止めてしまう物もあるな」

 つまり、身体毒の場合は地球にもあるもので、リョウジであっても普通に死ぬらしい。つくづく、そっちが使われなくて良かったと内心でホッと息をつく。

 しばらく考えて、リョウジは口を開いた。

「あの、魔力って使い切って空にすることはできるんですか?」

「使い切る、か……不可能ではないが、今はなぜか魔力が全く動かせん」

「あ、それは私のせいです。触っている限りは魔力が動かないので、その分暴走も抑えられるわけです」

「しかし、治すこともできない、というわけか。だが、それでどうやって空にする?」

「侯爵には申し訳ないのですが……こう、腕を押さえた状態で、思いっきり上に挙げようとすると、押さえが外れた瞬間に勢いよく上がりますよね?それと同じ感じで、魔力を動かす準備はできますか?」

「それぐらいならできるが……」

「そうしたら、一瞬私は手を離します。そして崩壊が始まる前に、すぐまた手を触れます。その繰り返しで、何とか空にできませんか?」

 それを聞くと、顔には笑みを浮かべつつ、侯爵の顔がサアッと青ざめていく。

「つ、つまり、あれを何度も味わいながら、魔力を使い切れと……?」

「解毒剤が無いなら、それしかないと思います。暴走するにも燃料、つまり魔力が無ければ、そうひどい状態にはならないはずです」

 断固拒否したい気持ちでいっぱいだった。しかしそれしか手段が無いことも理解でき、遺憾の意をこれでもかというほど表明したかった。それらを全て飲み込んで、侯爵は弱々しい笑みを浮かべた。

「……死ぬよりはマシだと、信じたいものだね。では、頼む」

「では、行きますよ。準備をして……はい!」

 本当に一瞬。コンマ3秒程度手を離した瞬間、リョウジに向かって巨大な氷塊が飛んだ。アッと思う間もなく命中したものの、氷塊は即座に掻き消え、リョウジには傷一つなかった。

「す、すまない!大丈夫だったかね!?」

「ああいえ、びっくりはしましたが。私は魔法効かないので、いくら撃ってもらっても大丈夫です。侯爵こそ、痛みはありませんでしたか?」

「ふむ……程度で言えば、生爪をナイフでこじって剥がされる程度の痛みはあったが」

「滅茶苦茶痛いやつじゃないですか」

「それでも、全身が溶ける苦痛に比べれば何ということはない。すまないが、使い切るまで頼むよ」

「わかりました。休憩したいときは言ってください」

 それから、リョウジが一瞬だけ手を離し、侯爵が氷塊をリョウジに叩き込み、そしてまたリョウジが触れるという動きを繰り返す。毎回リョウジが狙われる理由としては、標的があった方が魔法が使いやすい事と、巨大な氷塊が消えてしまうために掃除の手間がいらないという現実的な理由である。

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