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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
五章 横柄な貴族・鷹揚な貴族
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暗殺者の叫び

今回は短めです

 冒険者三人にその息子が帰ってから、数日が経った領主の館。その書斎に、当主であるモストル子爵がおり、何やら書類を読んでいた。

 それは盗賊を生け捕りにした三人に関するものであり、三人のランクや使用武器、スキル、ステータスに至るまで記載されている。特にリョウジの資料は多く、およそ4分の3はリョウジのものである。

 書類を一通り確認すると、モストル子爵は軽く息をつき、口を開いた。

「いるか、影」

 すると、いつの間にいたのか、部屋の隅から一人の男が現れた。男はモストル子爵の前に来ると、片膝をついて頭を垂れる。

「私は数日前に、三人の冒険者を招いた。あの魔法使い盗賊団を、生捕った者達だそうでな」

 男は何も言わず、ただじっとモストル子爵の言葉を聞いている。

「ジェイルという小僧はどうでもいい。ラフタという小娘は、剣術のスキルがあったようで少し惜しいが、顔は落第点だったから、これもいい。問題は、こいつだ」

 モストル子爵はリョウジの資料を、男の前に落とした。

「そいつは異世界の人間だそうだ。ステータスも確認したから間違いは無かろう。だがな、そいつは私の誘いを断った」

 忌々しげに言うと、モストル子爵は立ち上がってゆっくりと部屋の中を歩き出す。

「護衛にしてやると言ったが、断るそうだぞ。平民が、貴族の!私の誘いをっ!」

 最後はほとんど叫びになっており、モストル子爵は血走った目で男を睨む。

「平民の分際で、貴族の誘いを断ったんだぞ!その息子とやらも、訳の分からん言葉を叫び続けて話を邪魔する!躾一つできん男だ!おまけにステータスオールオープンまで受ける!」

「ぶふぉっ!」

「何がおかしい!?」

「ごほっ……いえ、喉に唾液が絡みまして」

 どう考えても噴き出していたが、モストル子爵はそれ自体はあまり気にしていないようだった。

「異世界の出身で礼儀が分からぬなどとほざいていたが、身分差ぐらいはどこだってあろう?それを考慮した動きは出来ていたのだ。つまり、奴はこの私をなめくさっていたということだ」

 そこまで言うと、モストル子爵は再び椅子に座った。

「……そういう相手には、どうするのがいいと思う?」

 その問いに、男は静かな声で答えた。

「わからせるのが良いかと」

「そうだとも。平民が貴族をコケにするとどうなるか、最も苦痛に満ちた方法で教えてやらんとな?」

「御意」

「なら、早く行け。あの無礼者に、道理という物を教えてやれ」

 その言葉を受け、男はリョウジの資料を持つと、静かに部屋を出て行った。それを眺めながら、モストル子爵はにんまりとした笑みを浮かべるのだった。


 それからさらに二日経ち、男はオウリス侯爵領の、トルスの町までやって来た。誰とも交わらぬままに町中を歩き、噂や視線を辿り、標的を探す。

 程なくして、標的はすぐに見つかった。新人でありながらBランクの冒険者、リョウジである。

 彼は乳母車のような荷車のような何かに子供を乗せ、町を歩いていた。子供に話しかけている内容を聞くに、どうやらこの町の物価の高さを嘆いているようだった。

 こちらに意識が来ていないことを確認し、懐から小さな吹き矢を取り出す。そして、矢の先端に強力な毒を塗り付け、筒の中に込める。

 一度、小さく息をつく。『最も苦痛に満ちた方法で教える』とは、強力な魔力毒を使うことを意味している。基本的に、魔力毒はどれも恐れられているが、今から使うそれは数ある毒の中でも強力な部類であり、特に苦痛がひどいとされるものだった。

 使えば、騒ぎになることは明白である。故に、すぐにその場を離れなければならない。

 男は軽く視線を巡らせ、おおよその逃走ルートを確認すると、咳き込むのを我慢するかのように手を口に当て、そこに隠し持った吹き矢を咥えた。

 フシュッ!と、すぐ近くでなければ聞こえないような、小さな音が鳴った。

「痛って!?……なんだ?蜂?かな?」

 そんな呑気な言葉を聞きながら、男は足早にその場を離れた。間もなく、あの男の魔力が暴走を引き起こし、全身を溶かし尽くすはずである。

 魔力毒を人間に使うことは重罪である。そのため、犯人捜しをされる前に、極力遠くへ離れなければならない。

 大通りを抜け、町の入り口付近まで戻る。だがそこで、男は違和感を覚えた。

 悲鳴も聞こえなければ、笛の音も聞こえない。衛兵は何事もなく持ち場を警備しており、町の人間も誰一人騒いでいない。強いて言うなら、町に入れないと言われている商人がごねているが、それは全く関係ない話である。

 さすがにこれはおかしいと感じ、男は犯行現場へと戻り、再び人々の話し声と視線を辿る。

 やがて、ある飲食店で標的の男を見つけた。特に体に不調もなさそうで、健康そのものである。

――服を貫通するときに、毒が拭い去られたか?運のいい奴め。

 普通はそんなことは起きないが、無事である以上はそう判断するしかない。男は店内に入ると、リョウジの声に神経を集中する。そして、追加で肉料理を頼んだことを確認し、それが運ばれてくるところで行動を起こす。

 給仕の女とすれ違いざま、料理に毒を振りかける。間違って女に当たらないよう全力で注意しつつ、男はそれをやってのけた。そのまま店を出ようとしたところで、リョウジの声が背後から聞こえた。

「なんか……めっちゃ水か何か掛けられてたけど、食えるのかなこれ?」

 その言葉に、男はぎょっとして振り返った。

――まさか見つかった!?いや、そんなはずはない!一瞬たりとも気は抜いていない!気づかれるわけがない!

 リョウジは訝しげに料理を見つめ、顔を近づけてふんふんと匂いを嗅いでいる。

「……何も匂わないし、運んでた人も気にしてなかったし、まあ、いいか」

「ごっきごきった!」

「待て、待ぁてぇコウタ。お父さんのほとんど食ったんだから、これぐらい食べさせて」

 言いながら、リョウジは毒入りの料理を口に運んだ。それを見届け、今度こそ男は店を出た。

 経口摂取なら、それこそすぐに効果が出る。そのため、今度はかなり急ぎで遠ざからなければならない。

 町行く人をかわし、軽く押しのけ、町の入口まで行くまでもなく、男は立ち止まった。

 悲鳴も聞こえなければ、笛の音も聞こえない。だが、標的が毒入りの食事をするのは確実に見届けており、失敗したわけがない。

 それでも、騒ぎが起きないのはなぜかと先程の店まで戻ったところ、ちょうどリョウジが店から出るところだった。

「あの肉料理、美味しかったねえ。コウタも気に入った?」

「ごきふん」

――子供まで食ったのかよ!?しかも無事なのかよ!?

「お肉ね。あの水みたいの、もしかしたらスパイスか何かだったのかな?結構刺激的な味わいだったよね」

――んなスパイスあってたまるかっ!天にも昇る味か!?マジで召されるわ!つうか一口でも死ぬのに完食かよ!?

「あれはまた食べたいねー。明日もここいるなら食べよっか」

 そうして、リョウジ親子は実に満足げな様子で去って行った。もちろん、毒に犯されている様子など微塵もない。

――お前等一体何者なんだよっ!?

 実際に叫ぶわけにもいかず、心の中で絶叫する暗殺者だった。

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