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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
五章 横柄な貴族・鷹揚な貴族
24/47

モストル子爵

 翌日、一行は宿で朝食を取ると、冒険者ギルドに向かった。リョウジは情報収集、ラフタとジェイルは次の依頼の物色である。

 リョウジがBランクのカードを見せると一瞬驚かれたものの、どうやら既に話は通っていたらしく、すぐに『ああ例の』という反応に変わった。

 結局、ここでもそれらしい情報は得られず、リョウジはコウタと共に二人の元へと戻った。

「おかえり、リョウジ先生。何か情報あった?」

「いえ、何も。まあ、こんなすぐに情報が得られるとは思っていませんでしたし、気を取り直して次の依頼を受けようと思います」

「残念だったな。でもまあ、そのうち何かしらあるだろ。それはそうと、こん中でリョウジが受けたい依頼ってあるか?」

「んー……『遺失物捜索 失くした指輪を探してください』これはきつそうですね。『診察依頼 息子が突然昏睡状態になりました』これも……同情はしますけど、医者ではないので無理ですね。『魔法訓練依頼 魔法の指導をお願いします』私には絶対無理ですね」

 なかなか良い依頼が見つからず、三人がうんうん唸っていると、不意にギルドの扉が開き、朗々とした声が響き渡った。

「失礼する!諸君の中に、昨日14人の盗賊を生け捕りにしたという冒険者達はいるかね!?」

 そこには、何やら偉そうな態度の年かさの執事と思しき人物に、数人の鎧姿の護衛が立っていた。その執事の言葉に、周囲の視線は自然とリョウジ達一行に注がれていく。

「えっ……こ、これどうすればいいの!?」

「えーっと、その……リョ、リョウジ頼む!」

 ジェイルとラフタは縋るような目でリョウジを見つめる。それに苦笑いを浮かべつつ、リョウジは静かに手を上げた。

「その盗賊が、魔法を使う盗賊の一団のことであれば、私達です。何かご用でしょうか?」

 すると、執事のような男はリョウジを品定めするように眺めまわす。あまりいい気分ではないが、どうやらお偉いさんっぽいなと思ったリョウジは、黙って相手の言葉を待つ。

「おいおでぃあ、あいえっと」

「うん、コウタ待って。今お父さんお話し中」

 そしてそういった空気を全く読まないコウタは、飽きたから遊びに行くぞとでも言いたげにリョウジの腕を引っ張っていた。

「ふん、トリアで講習を受けたとかいう冒険者か。多少はマシな口をきけるようだな」

「それはどうも。私はリョウジ、息子のコウタ。そしてパーティメンバーのラフタとジェイルです」

「ど、どうも」

「その、よろしく」

 借りてきた猫のようになった二人は、リョウジの紹介を受けて小さくお辞儀をする。そんな二人を見て、執事はふんと鼻で笑う。

「なんだ、まともな口をきけるのは一人だけか?講習と言っても、所詮は冒険者が猿真似しただけか」

「んだ、このジジイ……!」

 思わず呟いたラフタを手で制し、リョウジは口を開く。

「ところで、そちらはどちら様でしょうか?私達に何かご用ですか?」

 周囲の雰囲気も、完全に『ジジイ帰れ』だったが、ジジイの次の言葉に、周囲はざわついた。

「私はモストル子爵の使いだ。お前達を屋敷に招くよう言われて来たのだ」

「……誰?」

 視線も口も動かさずにリョウジが尋ねると、ラフタがそっと耳打ちした。

「この辺の領主様だよ、お貴族様だな」

「めん、どい」

 思わず素の口調で呟くと、ラフタとジェイルは一瞬笑いそうになり、それを全力で堪えていた。

「それは光栄です。が、一体なぜ、私どものような冒険者を、お屋敷に?」

「おいぃー?おあいい」

「うん、コウタお屋敷って言いたいのね。上手だよ。でもちょっとお父さんとその人お話し中だから、静かにしてね」

 一瞬にしてよそ行きの口調に戻り、続けて喋り出したコウタには親の声で話し、色々忙しいリョウジに執事は顔を顰めた。

「口調はまともでも、子供の躾は出来ないようだな」

「ええ。この子は躾とか無理なので、その辺りはご容赦願います」

 しれっと答えるリョウジに、執事は眉間にますます深い皺を刻んでいくが、どうやら特殊な子供らしいことは察したようで、それ以上は何も言わなかった。

「まあいい。お前達は我が領地に巣食った、危険な盗賊を排除したのだ。お前等が平民であろうと、その礼ぐらいはしてやると、主人は仰せだ」

 かなり横柄な物言いだったが、貴族というのはこんなものだろうという認識だったため、リョウジは特に気にすることもなく頷く。

「それはありがたいことです。それで、私達はこれからそちらに向かえばいいのですか?」

「馬車を用意してやった。それに乗れ」

 周囲の視線は、今や同情混じりのものが多くなっており、リョウジは何となく嫌な予感がした。そこで再び、口を動かさずに低い声で囁く。

「この先は、私に任せてください。全部代表して答えます」

「あ、ありがとうリョウジ先生。俺、緊張しちゃってもう全然……」

「あのジジイ、一発殴ってもいいかな?」

「やっていいなら私もやりたいですが、今は堪えましょう。ラフタさんも、直接何か聞かれたりしない限りは、私に任せてください」

「……わかった。リョウジ、頼む」

 そして、四人はギルドを出ると、馬車に乗って移動を始めた。屋根付きの馬車に大興奮のコウタをあやしつつ、リョウジは頭の中で色々な状況をシミュレートしている。

「お、俺こんな馬車初めて乗った……」

「あたしも……え、汚してないよな?こ、こんな格好だったけど大丈夫だよな?」

 ラフタとジェイルは緊張しっぱなしのようで、ほぼカチコチになって動けないでいる。リョウジとしては『意外と乗り心地悪りいな』などと思っていた。

 しばらく経つと、窓の外に大きな屋敷が見え始めた。どうやらそこが目的地らしい。

 門を潜り、広大な庭を通り、建物の前に来ると馬車は止まった。一行が降りると、先程の執事が先導する。

「こっちだ、ついて来たまえ」

 一行はコウタ以外黙って従い、リョウジは『面白い所に来た!』と大興奮のコウタを抱き上げて歩き出す。

 応接室に通される前に武器を回収され、良い匂いの紅茶を出されるが、ラフタとジェイルはガチガチに固まっている。リョウジは紅茶に興味を示すコウタをやんわりと止めつつ、少し冷ましてから飲ませてやる。結果、甘くなかったのが気に入らなかったらしく、以降は興味を失っていた。

 居心地悪く過ごしていると、応接室の扉が開く。リョウジが立ち上がると、ラフタとジェイルも慌てて立ち上がった。

「ほう、お前等か。かの魔法を使う盗賊を生け捕った冒険者とは」

「初めまして、リョウジと申します。こちらは息子のコウタ。そして仲間のラフタとジェイルです」

 頭を下げつつ、そう紹介する。ちらりと見れば、モストル子爵は神経質そうな顔をした、意外に痩躯の男だった。もっと太った相手を想像していたリョウジは、心の中で『横暴貴族と言ったらデブだろ空気読めよ』等と不敬極まりないことを考えていた。

「……ふん。マナーはなっていないようだが、無礼ではないな、許してやる。顔を上げよ」

 顔を上げて相手の顔を観察する。やはりどこか神経質そうな雰囲気があり、明らかにこちらを見下したような目をしている。

 再び、心の中で『めんっどい』と叫びが上がったが、リョウジはポーカーフェイスを貫き通す。

「ありがとうございます。異世界の出身故に、この世界の常識は疎いものでして、つきましてはこちらの世界での礼を尽くさせていただきますので、よろしくお願いします」

 いきなり異世界出身だと暴露したリョウジに、ラフタとジェイルは驚いて視線を向けてしまう。しかし、モストル子爵はその言葉に興味を持ったようで、僅かに目を細めた。

「何?異世界……だと?それを証明することはできるのか?」

「はい。では失礼しまして――」

「リョウジそれダメ――!」

「ステータス オールオープン」

 小声での制止は間に合わず、リョウジは当然のようにオールオープンを使った。モストル子爵は一瞬たじろぎ、執事は目を剥き、メイドは顔を真っ赤にした。一部涙目になっているメイドもいたが、幸か不幸か、課長に呼び出しを受けた程度には緊張しているリョウジは、それには気づかなかった。

「ご覧の通り、私のステータスはほぼ不明でして、さらに職業欄にも『異世界人』という表記があります。これで証明になりますか?」

「……いや、よくわかった。確かに常識に、相当に、本当に、凄まじく、疎いようだな」

 一つ一つを強調しながら言うと、モストル子爵はラフタとジェイルを睨みつけた。

「この男に、常識ぐらいは教えておけ……!」

「や、すみません……」

 それぐらいしか言う事が出来ず、ラフタとジェイルはただただ頭を下げる。

「まあ、いい。やってしまったことは覆らん」

「え、何かまずかったでしょうか?」

「……もういい。それより、盗賊討伐の件だ」

 強引に話題を変えると、モストル子爵は対面の椅子に座った。ジェイルも座りかけたが、座って良いというサインが一切無かったため、リョウジは後ろ手でジェイルの服を掴み、それを阻止していた。

「奴等はここ二月の間に我が領地に入り込み、商人などを狙っていた。討伐しようにも、遠見の魔法で先に発見され、時には逃げられ、時には奇襲され、本当に手を焼いていたのだ。あの鼻持ちならん奴等を、しかも生け捕りに、したことには礼を言おう」

 『生け捕り』を強調する辺りに、リョウジは襲撃してきた相手ながらも、ほんの少しだけ盗賊達に同情した。もっとも、数秒後には忘れかねない程度の同情ではあったが。

「私達は、降りかかる火の粉を払っただけです。結果としてモストル様の利益になったのなら幸いですが、元々は私的な理由ですので、お礼には及びません」

「分は弁えているようだな。なかなか、冒険者にしておくには惜しい男だ」

 それを聞くと、リョウジは心の中で警戒度合いを数段引き上げた。

「どうだ、冒険者などやめ、私に仕えないか?」

 やはり来たかと、リョウジは頭をフル回転させ、どのような形で着陸させるかを考えている。

「私の護衛として仕えるなら、そんな貧相な装備ではなく、もっとまともな物を与えてやろう。金も、働き次第で一日に金貨1枚だって夢ではないぞ?」

「それマジっ……痛!?」

 思わず反応しかけたラフタの太腿を見えないように抓り、リョウジは答える。

「とても嬉しいお言葉、ありがとうございます。ですが、大変申し訳ないのですが、お断りさせてください」

 その瞬間、明らかに空気が変わった。モストル子爵からは冷ややかながらも強烈な圧がかかり、使用人達からも冷ややかな視線を感じる。

「ほう……なぜだ?」

「理由は三つあります。まず一つ、私達はまだまだ駆け出しであり、とてもとても、モストル様の護衛を務めることなど出来ません」

 全体の反応を注意深く窺いながら、リョウジは言葉を続ける。

「二つ、このパーティは講習を――」

「こいーあい。あいーあいあーん」

「……コウタ、ちょっと静かにして?」

「あ、い、あー!だりぃー、だりよー!」

 静かに、と言われたのが激しく気に入らなかったらしく、コウタは大声で喚き始める。このタイミングでこれかぁ、とリョウジは遠い目をしつつコウタをあやす。

「コウタコウタ、今お父さんお話してて……」

「だぁーり!あんにゃぐらりるら!ありどりどり、まー!!」

 こうなっては止まらないことは、ラフタもジェイルもよく知っていたため、二人は思念を空に飛ばして空気として振る舞うことに決めた。

「申し訳ないです。講習を――」

「あいよー!おっでぃんら!あぐりんが!」

「こ、講習を終えたよしみで組んだだけでして、この先もずっとという訳痛ったぁ!?」

「んぎぃぃー!にゃんにゃんにゃん!だり、だりぃー!!」

 首に爪を立てられ、頭をぶんぶん振り回されるリョウジの姿に、モストル子爵側の人間は珍獣でも見るかのような視線を送っている。そして、どうやら普通の子供ではないのだなということは、全員が察していた。

「コウタやめ、痛い痛い!ちょっとお話だけさせて!えっと、ずっと組んでるわけではなくてですね!どっかで解散する予定なんです!」

「あぎーおり。おぎー、んっはっはっはぁー!!」

 なぜか突然上機嫌になり、コウタはリョウジの首に齧り付くと、額をぐりぐりと擦り付けている。

「お前は息子の躾もできんのか?」

「できないです!この子に躾は無理べごっ!?」

 激しくグリグリするあまり、コウタはリョウジの顎に強烈な頭突きを決めていた。それで舌を噛んだようで、以降のリョウジの喋りは若干舌足らずなものになった。

「と、とにかふ、しょんな訳じぇ、お受けしゅることはでぃえきないのでぃえす」

「まだ二つしか理由を聞いてないが?」

「ふみまへん!三ふめは、わたひはこの子と共に、もちょの世界に帰るつもりなのでふ。冒険者になったのも、しょのためです。でしゅので、帰る手段を探しゅためにも、冒険者としちぇの活動を続けたいのでふ」

 痛みが和らいできたようで、リョウジの喋りは少しずつ元に戻っていく。

「私達のことを、高く評価していただいたことは、身に余るほどの光栄です。しかし、護衛として仕える件につきましては、何卒ご容赦願います」

 コウタを抱きかかえながら、リョウジは頭を下げた。それに倣い、ラフタとジェイルも慌てて頭を下げる。

 しばらく、そのまま沈黙が流れた。未だに子爵からの圧は強く、冷え切った空気も元には戻っていない。それでも、リョウジ達は黙って頭を下げ続けた。

「……そうか。であれば、仕方ない」

 不意に圧が消え去り、モストル子爵はあっさりと言った。それでも、リョウジ達は頭を上げなかった。

「せっかくのご厚意を無下にしてしまい、申し訳ありません」

「話は終わりだ。帰るがいい」

「お招きいただき、ありがとうございました。それでは、失礼いたします」

 そこでようやく頭を上げると、リョウジ達は執事に先導され、装備を受け取ってから馬車へと戻った。

 馬車が動き出し、門を出ると、三人は揃って大きな息をついた。

「ふぅ~……緊張したぁ……」

「はぁ~……あたし、お貴族様は苦手だな……何言っていいか全然わかんない……」

「私もですよ。一応は何とかなりましたが……いや、なってないかなぁ……」

 ホッとした雰囲気の二人に対し、リョウジは浮かない顔である。しかし、ラフタとジェイルの方も、まだ思い詰めたような雰囲気が残っている。

 冒険者ギルドの前で馬車を下ろされ、一行は再びギルド内に戻る。そのまま受付に向かおうとしたところで、ジェイルが思い切ったように口を開いた。

「あ、あの、リョウジ先生!」

「はい、何でしょう?」

 軽く答えたリョウジに対し、ジェイルは顔を歪ませて何か言おうとしている。ラフタも同じような表情であり、リョウジは二人が言わんとしていることを何となく察した。

「あ……あの、さ。たぶん、さっきのって……たぶんってか絶対、目ぇ付けられた感じだよね……?」

「たぶん、そうでしょうねえ。はっきり言って、あまり良い感じの方ではなかったですし、断ったって時点で、面子を潰されたとか思ってそうです」

「だ、だから、その……その、えっと……あの、ご、ごめん……リョウジ先生、俺達……その……」

 言い淀むジェイルに、リョウジは何も言わずに次の言葉を待つ。

「……本当に、ごめん。だけど、貴族に目を付けられたら、すごく苦労するって……だから……だ、だから、その……できれば、パーティ解散……したいんだ……!」

 やっとの思いで、ジェイルはそう言い切った。しかし、講師としてずっと世話になってきたリョウジを、こういった形で見捨てるのは本意ではない。まして、異世界からこの世界に召喚され、この先苦労の連続であることが目に見えている相手に対し、この言葉は手酷い裏切りのように感じていた。それ故に、二人はそれ以上何も言えず、ただ俯いてしまう。

 それに対し、リョウジは軽く息をつくと、黙って二人に歩み寄った。

 ポン、と、二人の肩に手が置かれる。ラフタとジェイルが同時に顔を上げると、そこには優しげに微笑むリョウジがいた。

「……講習の成果が出たようで、何よりです。危険な相手からは距離を取る。危機管理の鉄則でしたよね?」

「う……け、けど、あたし達……!」

「間違っていませんよ、何も。それに、こうなる事は予想の一つとしてありましたから、だからこそ私が、私だけが標的になるように、全部代表して喋ったんです」

 内心ではややコウタを気にしつつ、それでもリョウジは肩に置いた手を動かさずに続ける。

「それが終わった今、お二人が距離を取るのは正しい対応です。むしろそうしてくれないと、意味が無くなってしまいます。何も恥じる必要はありませんし、気にする必要もありません」

「……っく……ご、ごめ……ごめん……ひっく……!」

 ついに泣き出してしまったラフタに対し、リョウジは困った笑顔を浮かべた。

「いいんですよ。荒事は若い人に任せますけど、こういった事は人生経験豊富なおっさんに任せてください。それに、E級のお二人に対して私はB級です。いざとなればギルドに泣きつきますから、心配はいりませんよ」

「ごめん……でも、ありがとう……」

 ジェイルは弱々しいながらも、何とか笑顔を作ってみせた。リョウジは笑顔を返し、二人の方をポンポンと叩く。

「お二人は、一度トリアの町に戻った方がいいでしょう。そこで、今回の顛末を、ギルドマスターに相談してみてください」

「リョウジ先生は……?」

「私は、さっさと次の護衛依頼を受けて、この町を離れます。何にしろ、私は私達を召喚した人を見つけなければいけないので」

 リョウジは二人から手を離し、コウタを抱き上げた。コウタはリョウジの額に額を突き合わせ、その目をじっと見つめている。

「そっか……じゃ、今度こそお別れだね」

「とっっっても助かりましたよ。私一人じゃ、盗賊相手にボロが出て殺されていたでしょうから」

「あはは……その前に、コウタ君が解決してくれてた気もするけどね」

「まあ確かにそんな気はしますが、親としては三歳の子供に頼るわけにもいきませんからね」

 最後に握手を交わすと、ラフタとジェイルはパーティ脱退申請をし、リョウジは再びコウタと二人のパーティに戻った。

「またね、リョウジ先生」

「ええ、またお会いしましょう。ジェイルさんも、ラフタさんも、お元気で」

「つ、次会う時は、貴族なんか跳ね除けられるぐらい強くなっててやるからな!」

 若干鼻声での決意表明に、リョウジは優しい笑顔で答えた。そして、二人とは別の窓口に並ぶ。

「さてコウタ……これからいよいよ、二人旅だね」

「んーふふふふーぅ!」

「ご機嫌だねえ。ようやく、グルーガさんお手製のコウタカーが役に立つね」

 言いながら、リョウジはリュックに括り付けてあった折り畳み式の手押し車を展開する。すると、コウタは即座にそれに乗り込み、大変にご機嫌になった。

「これすごいな、簡単なサスペンションまでついてる……グルーガさん、色々盛り込み過ぎだよ」

「あいーえいあ!えいえいあいおーぅ!」

「そうだね、楽しいねえ。受付してる間は、そうやってちょっと大人しくしててねー」

 こうして、講習を受けた仲間達とも別れ、リョウジとコウタはついに二人きりでの旅を開始するのだった。

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