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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
四章 冒険者ギルドの講師 卒業試験
21/47

終わりと始まり

 翌日、新人冒険者はギルドに集合していた。最終試験も終わり、全員が晴れて冒険者としての第一歩を踏み出すのだ。

 一人ずつ名前を呼ばれ、冒険者としての身分を示すタグを受け取る。全員が最低ランクであるEランクからのスタートかと思っていたのだが、一人だけ全く違うタグを渡された者がいた。

「えーと、ギルドマスター?」

「おう、どうしたリョウジさんよ?」

「何で私だけ、かなり豪華な感じのタグなんです?あとこれ、Bランクって書いてあるように見えるんですが?間違いですよね?でなければ、気のせいですよね?」

「間違いでも気のせいでもねえ。あんたのスキルは、とんでもなく珍しいもんだ。しかも、他人にも効果を及ぼすスキルでもある。そういうスキルを持った奴は、その有用度やら何やらを加味して、最初からランクを上げとくことがあるんだ」

「何のためにですか?私、高難度の依頼どころか護衛すら危ういんですが」

「保護のためだ。高ランクの冒険者ってのは、富豪でも貴族でも、そう簡単に手出しは出来なくなる。後ろにギルドが付くからな。もちろん、各支部にはこれこれこういう事情でランクを設定したぞっていう内容を通達するから、あんたがマジもんのBランク扱いされることはねえ、そこは安心してくれ」

 あまり安心できるような内容ではなかったが、それでもできる限りの便宜を図ってくれたことはわかったため、リョウジはそれ以上何も言わなかった。

「マスター!俺も結構珍しいスキルだと思うんだけど、ランク上がらない?」

 ジェイルが冗談交じりに尋ねると、ギルドマスターは真面目なトーンで返した。

「お前のは特殊もいいところだが、使い勝手の悪さと他人に影響を及ぼさないところが評価されねえ理由だ、諦めろ」

「ああ、うん……すみませんでした」

 全員で一頻り笑い、それが落ち着いたところで、ギルドマスターが口を開いた。

「さて、これでお前等の講習も終わり、いよいよ冒険者として頑張ってもらうことになる。お前等は学んだことを思い出して、各々頑張ってほしい」

 一度言葉を切り、ギルドマスターは一人一人の顔を見つめる。

「そして何より、死ぬな。依頼を失敗しようが、名誉が傷つこうが、とにかく死ぬな。死ななければ挽回のチャンスはある。お前等に望むのは、その一点だ」

 いつになく真面目な口調で言われ、新人達は表情を改める。しかしすぐに、ギルドマスターはいつもの調子に戻った。

「ま、難しく考えんな。避けられる危険には近づかない、やばくなったら逃げる。それを徹底してりゃ、そうそう死ぬこともねえさ。あとはそうだな……俺みてえな奴にぼったくられないように、気を付けな」

 まさかの自虐ネタに、新人達がドッと笑う。周囲で聞いていた者達も、何人かが噴き出していた。

「さあ、新人共。俺が講師をやるのはここまでだ。あとはもう、自由にやれ。一人前とは言えねえが、お前等はもう冒険者なんだからな」

 そう言って手を振るギルドマスターに、リョウジは頭を下げた。

「ギルドマスター、ありがとうございました」

「ありがとうございました!」

 それに続き、他の者達も揃って礼を言う。ギルドマスターはこそばゆそうな表情を浮かべ、二階の自室へと戻って行った。

 後に残った者達は、それぞれにやりたいことを始めていく。リョウジも依頼書を確認に向かったが、そこに二人の人影が近づいてきた。

「リョウジ、早速依頼をこなすのか?あたしらもついてっていいかい?」

「おや、ラフタさんにジェイルさん。それはありがたい話ですけど、いいんですか?」

「いいも何も、リョウジ先生にだってお世話になったんだから、恩返しくらいしないとね!」

 そう言って笑う二人に、リョウジは笑顔で頭を下げた。

「正直、とても助かります。護衛依頼を受けて別の場所に行こうと思ってたんですが、私一人で護衛はちょっと厳しくて……」

「護衛なら、あたしは歓迎だな。魔物だろうが盗賊だろうが、そう簡単には負けないよ」

「俺は斥候とかはできるよ。盗賊相手だったら、相手の装備次第で瞬殺できる可能性もある」

「とても頼もしいです。それとすみませんが、私と一緒に依頼を選んでくれますか?私、土地勘も全く無いもので、町の名前言われても何が何だか……」

「あ、そりゃそっか。んじゃ、ちょっと俺達で見繕ってみるよ」

 ラフタとジェイルは依頼書を眺め、二人であれこれ相談している。

「ところでリョウジさん、当面の目的地とかってある?」

「いえ、全く。行く先々で、時空魔法についての情報が無いか、聞き込みをしていこうと思ってました」

「そっかあ。じゃあとりあえず、この辺適当に――」

「それでしたら、まずはこちらの依頼でいかがでしょう?」

 突然割り込んできた声に、三人は驚いて振り返った。そこには、一枚の依頼書を持ったアイシャが笑顔で立っていた。

「アイシャさん!?選んでくださるのはありがたいですが、あの、受付は……?」

「もう、リョウジさんが作ってくれたんじゃないですか。あれのおかげで、少しは受付離れられるようになったんですよ」

 アイシャはそう言って笑うが、現在受付に入っている男性職員は、どう見ても慣れぬ作業に四苦八苦している。それでも、リョウジ謹製受付マニュアルを眺めながらの格闘のため、一応は何とかなりそうである。

「で、依頼なんですけど、ここトリアの町から、北に二日程度のゼーストの町への護衛依頼です。依頼主は行商人さんですね。よく見る顔なので、皆さんからしても安心できる相手ですよ」

 さすがに受付専業だっただけあり、アイシャは依頼主に関してもしっかり情報をくれる。

「あ、それとそれと。すっごく簡単なものですけど、リョウジさんにはこの地図をあげます。国と町の名前、大体の距離、危険度がざっと描いてあります」

 それを聞いたラフタとジェイルは、目を丸くして驚いていた。そもそも地図自体、そこそこに値の張るものであり、しかもアイシャの言葉が事実なら、地図としてかなり優れたものである。

「ご丁寧にありがとうございます。あ、もしかしてわざわざ作ってくれたんですか?」

「ええ、ですのでお金はいらないですよ。あの受付マニュアルのお礼ということで、受け取ってください」

「とても助かります、ありがとうございます。ところで、この危険度というのは……?」

「ああ、それはですね、たとえばこれ、ウェイルース王国は元々軍事国家だったんですが、ここ二年ほどで驚くほどの帝国主義になりまして、四方の国に侵略戦争を仕掛けてます。負けた国は吸収、降参した国は属国として扱ってるようですね。なので、この国には近寄らない方がいいですよ。あとはフォーゼルとプラタナは、プラタナ側が少しきな臭い感じですので、長居はしない方がいいですね」

 アイシャの情報は非常に有益なものだった。そうではあるのだが、こんな田舎町で知ることができる情報とも思えず、ラフタとジェイルの顔はほんのり青くなっていた。

「あの~……アイシャ、さん?その情報って、俺等が聞いていいもの……?」

「ん?大丈夫ですよ。だって、リョウジさんとパーティ組むんですよね?だったら、土地勘も知識もない先生を守るためには、知っておいた方がいいですよね?」

「まあ、うん、そだね……」

 恋する乙女には何を言っても無駄だと言うことは、若い二人にもよくわかっていたため、ラフタとジェイルはもう何も言わないことに決めた。現状、ギルドでアイシャの恋心に気付いていないのは、当事者であるリョウジただ一人である。

 他にも細々とした注意を受け、三人はいよいよ依頼の受注に向かう。受付の男性職員は死にそうな顔をしていたが、アイシャとリョウジの二人掛かりでアシストしたため、何とか死なずに済んだようだった。

「それではアイシャさん、本当にお世話になりました。良い依頼を選んでもらって、地図までいただいてしまって、本当にありがとうございました」

「いえ、いいんです。リョウジさんが無事に旅立てれば。あ……でも、あ、えと、その……」

 急に口ごもり、もじもじしだしたアイシャに、リョウジは不思議そうな視線を向ける。

「え、ええっと……そ、そう!あの、リョウジさんって、本当に異世界の方なんですよね!?」

 勢い込んで言われ、リョウジはやや気圧されながらも頷く。

「は、はい。そうですけど……」

「えっと、その、ス、ステ……ステータスって、見せてもらえたりしますかっ!?」

 その言葉を聞いた瞬間、周囲の人間は『何言ってんだこいつ!?』という顔でアイシャを見たが、なぜか勢いよく頼まれたリョウジは、勢いに驚くばかりでそれには気づかなかった。

「あ、はい。全然構いませんけど。ステータス オールオープン」

 リョウジが言うと、その場の全員にリョウジのステータスウィンドウが可視化された。

「はあぁ~……!」

 アイシャは両頬に手を当て、うっとりした顔でそれを見ている。しかも、耳まで真っ赤に染まっており、一体これのどこにそんな要素があるのかと、リョウジは本気で訝しんだ。

「……あの、アイシャさん?」

「……」

 アイシャは返事をせず、何やら言い訳でも探すように視線を彷徨わせ、やがて口を開いた。

「……本当に、ほとんど不明なんですねぇ……でも歳はわかるんですか……38……16も年上なんだ……ああ、ほんとに異世界人ってありますねぇ……」

「あ~、やっぱり珍しいっていうか、伝説の珍獣みたいなもんですよね。存分に見てもらって構いませんよ」

 リョウジは、どうやら珍しいステータスを見たかっただけなのだろうと解釈し、気軽にそんな台詞を述べた。それを受けて、ますます恍惚の表情を浮かべるアイシャを見ながら、ラフタとジェイルは小声で話す。

「……アイシャさんやべえな……」

「うん、アイシャさん、ギルドマスターと同類になってる……ていうか、誰もリョウジ先生に教えなかったんだっけ……?」

「ラルフが言いかけてたけど、結局ごにょごにょになって聞こえなかったからなぁ……まあ、もう教えないでいいか……ていうか、教えられなくなったよな……」

「リョウジ先生、家族愛強いからねぇ……このままにしとこ」

 かくして、ギルド内でほんのりと騒動はあったものの、三人の冒険者とその息子一人は、いよいよ初めての依頼を受けにギルドを出て行くのだった。


 去っていく三人の背中を、二階の窓から見つめるギルドマスターは、大きな大きな溜め息をついた。そこに、ノックの音が響く。

「入っていいぞ」

「……失礼します」

 少し赤くなった目を押さえ、アイシャは部屋に入ると小さく頭を下げた。

「ついに、行っちまったな」

「寂しくなります……」

 くすんと鼻を鳴らすアイシャに、ギルドマスターは苦笑いを向けた。

「お前、今日は休んでいいぞ。ブロウの奴、何とかやれてるんだろ?」

「ありがとうございます……見てて不安になりますけど、一応は」

 再び窓の外に視線を移すと、リョウジの前にグルーガがおり、何やら乳母車のような物を渡している。リョウジは『受け取れない』というような仕草をしているが、グルーガは『いいから持って行け』と言うようにリョウジの胸を叩き、返事も聞かずに去って行ってしまった。

 さらに、リョウジは露店の主人から食料を包んでもらったり、薬屋の老婆から何か受け取っていたりと、やたらと物をもらっていた。

「あいつ、逆に迷惑してねえかな……しっかし、好かれてんなあ」

「あんなに良い人、絶対いませんよ。物腰も柔らかくて、礼儀正しくて、お礼と笑顔が絶対にセットになってて、あんなに手のかかる息子さんにもすっごく愛情注いでるんですもん」

「ちょっと注ぎ過ぎではあるが……まあ、そうだよなあ。はぁ~……最高の講師だった、マジで。主に給料が」

「金輪際、あんな人は二度と現れないですよね。でも、リョウジさんはいなくなっても、残してくれた物はありますもんね。私、頑張りますよ」

 話しながら少し心の整理ができたのか、アイシャの声に少し元気が戻って来る。

「マスターが書いてくれたリョウジさんの講習記録もありますし、リョウジさんに笑われないように頑張ります。それでいつか……ううん、近いうちに、私達を笑った奴等を、逆に笑ってやりましょう」

「はは、いいなそれは。そう考えると、俺もやる気が出るってもんだ」

 言いながら、ギルドマスターはいくつかに分けた書類の山の前に行き、インクとペンを手に取った。

「そのためにも、まずはこいつらからだな。講習内容に個々の記録、出費に依頼結果……一気に片づけるか!」

 そう言うと、ギルドマスターはインク壺を勢い良く振り上げた。インクの球が宙を舞い、そこへ右手で持ったペンが迫る。

 まるでインクを切り刻むかのように、ペンが何度もインクの球を通過する。ペンに弾き飛ばされたインクは書類の山へ飛び、それぞれの記入欄に着弾し、サインや数字を象ってゆく。

 記入が終わった書類は、一際強く飛んだインクに押されて飛んで行き、次の書類に記入が始まる。それを繰り返し、僅か一分ほどで千を超える書類の記入が終了してしまった。しかも、書類はそれぞれきっちりまとめられており、あとはただ所定の場所に持って行けばいい状態である。

「ほんとにいつ見てもすごいですよね、『書類仕事 極』のスキル」

「嫌すぎて覚えたスキルなんだけどな……これのせいで書類仕事が増える増える……」

 記入の済んだ書類をまとめ、ギルドマスターは三分の一をアイシャに渡す。

「ギルド本部に送る奴だから、それだけ頼む。あとは、あいつらが結果を出してくれりゃ、指さして笑ってやれるぜ」

「まずは一年くらい様子見、ですね。どうしますギルドマスター、この先あの中の誰かが、S級とかなっちゃったら?」

「はっはっは。そこまでいったら、逆に講習と関係ないって言われちまうかもな。でも、そのS級が育ったのは俺等のおかげだって、大手を振って言えるかもな」

「ふふふ。ぜひ、そうなってほしいですね」

 幸福な未来を想像し、ギルドマスターとアイシャは楽しげに笑った。


 だが、ここから僅か二か月後には、それは達成されてしまう。そして、なった本人が『講習のおかげだ』と述べたせいで、『冒険者を始めるならトリアの町から』が常識とされてしまい、このトリアの町の冒険者ギルドが大盛況となり、あまりの忙しさにギルドマスターは怨嗟の声を上げ、アイシャはよりリョウジ愛を拗らせていくのだった。

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