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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
四章 冒険者ギルドの講師 卒業試験
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卒業試験 講評

 いつも新人達が講習を受けている会議室に、いつもの面々が揃っている。ただし、その雰囲気は任務達成した直後とは思えぬほど大人しいものだった。

 ゴブリンの集落殲滅という、そこそこ難度の高い依頼を達成したという喜びもあるにはあるのだが、盛大にやらかしたリョウジと、盛大にやらかされたギルドマスターのおっさん二人の雰囲気が非常に硬いのだ。

「さて、まあ、とにかくお疲れさん。ゴブリンジェネラルについては悪かった。偵察頼んだ奴には伝えておく」

 ギルドマスターが口を開くと、全員が注目する。

「結果としては、強敵相手にひよっこパーティで挑んで死者なしだ。これははっきり言って、快挙ともいえる戦果だ」

 その言葉に、新人達の表情が緩む。だが、ギルドマスターは硬い表情のまま続ける。

「そうではあるんだが……まあ、言わずともわかってるよな。自分の感情を優先して、危険に飛び込んだ馬鹿が一人いるのは実に残念だ。しかも、講師でもある立場の奴がそれをやったのは、なお残念だ」

「面目次第もございません……」

「おりおりー、おりあてぃあー、あんでぃるら」

 どうした元気ないな、とでも言いたげに、コウタはリョウジに何やら語りかけている。

「さらに、ゴブリンの残りを逃がしたってのもなぁ……これは判断に迷うところなんだが、本来の依頼は殲滅、つまり皆殺しだ。ゴブリンの生き残りが、別の町に迷惑かける可能性だってあるだろ」

「仰る通りです……」

「言いたいことは山のようにあるが、とにかくリョウジ、お前の評価はまず、100点満点中のマイナス20点だ。他の奴等は……まあ合格点をやれるぐらいの動きはしていたぞ。んで、個別の動きについて評価する」

 ギルドマスターは軽く息をつくと、リョウジの顔に視線を向けた。

「まずはやらかしリョウジ。基本がマイナスではあるが、そもそもゴブリンジェネラルを倒したことは評価に値する。もし逃げきれなそうだったら、あいつは俺が相手をするつもりだった」

 つまり、ギルドマスターはゴブリンジェネラルが出た時点で、依頼は失敗すると見ていたらしい。

「さらに、ウェーバーにポーションを叩き込んだ動きも見事なものだ。間接的にジェイルの命も救った。戦闘においては特筆すべき点はないが、考えようによっては依頼達成の立役者ともいえる」

「ええと、それはどういう……?」

「まず、ジェネラルを抑え込んだこと。それに皆殺しを選択すれば、あいつらは死ぬ気で抵抗してきたはずだ。二匹一組で戦うようになった時点で、こっちの勝ちは薄かった。それを、見逃してやると言ったおかげで、その後の戦闘を回避できた。これらを勘案すると、50点は加算してやれる」

 それでも、わずか30点である。合格点がそこまで低いとは思えず、結局不合格かと、リョウジは苦笑いを浮かべる。

「リョウジはそんなもんだな。次はウェーバー、ジェネラルにやられはしたが、お前の陽動は素晴らしかった。武器を捨ててジェイルの回収を選んだことも評価できる」

「ありがとうございます!」

「ラフタ、付け焼刃にしてはよく槍を使えていた。前衛のリーダーとして頼もしい動きだった。だが槍を飛ばされた瞬間、笑顔になるのはどうかと思ったぞ」

「あはは、見られてたんだ」

 そうして、ギルドマスターは一人一人に講評を述べる。彼は意外なほどよく見ており、時にきつい評価もあったが、誰もそのことに不満は漏らさない。そして全員の講評が終わると、ギルドマスターは一同の顔を見回した。

「さて、評価としてはこんなもんだが、誰か何か言いたいことある奴はいるか?」

「はい」

 ギルドマスターが言うと、すぐにウェーバーが手を挙げた。

「どうした、ウェーバー?」

「あの……できるなら、俺の点数をリョウジさんに分けてくれませんか?俺は助けてもらいましたし、丁寧な口調で喋ることのメリットとかも教えてもらいました。最後のあれは、何というか……すごかったですけど、やっぱり俺達全員が生き残れたのは、リョウジさんが色々教えてくれたからです」

 するとそれを皮切りに、他の者達も次々に口を開いた。

「あ、俺のもできれば。この前筋トレのやり方とかも教えてもらったし」

「私からもお願いします。戦闘中の詠唱訓練とか付き合ってもらいましたし、あれで今日助かったんです」

「僕からもお願い。リョウジ先生には、色々教えてもらったからぁ」

 結局全員が、リョウジを合格させてやれないかと、ギルドマスターに頼んでいた。それを受けて、ギルドマスターは軽く息をついた。

「あんた、本当に慕われてんな。どっかのパーティのリーダーでも、ここまでってのはなかなかねえぞ」

「ええ……とても、嬉しいです。でも」

 リョウジは少し、寂しげに笑った。

「危険な行動を取ったことには変わりませんし、不合格のままでいいですよ。ギルドマスターとしても、こんな行動を取った人が合格したら、示しがつかなくなるでしょう?」

「……はぁ~」

 リョウジの言葉を聞くと、ギルドマスターは大きな大きな溜め息をついた。

「……今ので、あんたが『じゃあ合格させてくれ』とか言ったら、ぶん殴ってもう一回講習受け直ししてもらうつもりだったんだがなあ。うちとしても、あんたが講師を続けてくれるならマジで助かるしなあ」

 頭をガシガシと掻きながら、ギルドマスターは続けた。

「講師として指導して、絶体絶命の仲間を救って、ゴブリンジェネラルをぶっ倒して、話し合いでゴブリンを追っ払った奴なら、まあ合格でも問題ねえだろう。示しはつくから、あんたはそこまで気にする必要はねえ」

「……では、私は……?」

「合格だ。畜生、優秀な講師を失って、こっちは大打撃だぜ」

 その言葉を聞くと、全員がわっとリョウジに駆け寄った。

「よかったな、リョウジさん!これで一緒に冒険者になれるな!」

「ヒヤヒヤしたよぉ!でも、よかったねぇ!」

「皆さん、ありがとうございます。おかげで何とか、合格できました」

「ううぇひひぃ!うぇりうぇるや!」

 なぜかコウタも嬉しそうに喋っており、リョウジはその頭を優しく撫でてやる。

 こうして、講習一期生の10人は全員が無事に講習を卒業し、冒険者となることが決まった。詳しい話は明日改めてということで、その日はそのまま解散となった。

 宿屋の自室に戻り、コウタの世話をしつつ、リョウジはコウタに話しかける。

「これで、やっと動き出せる。ねえコウタ、早く帰れるように、頑張ろうね」

「ぴー、ぴー、ぴっぴっぴー。ぴー、ぴー、ぴっぴっぴー」

 コウタは鞄からお気に入りの玩具を取り出し、というより作り出し、それを持ってその場でぐるぐる回って遊んでいる。

「でも、殲滅の依頼っていうのは、できれば二度と受けたくないね。純粋に戦闘しかない依頼は、色々きついよ……ゲームだと、むしろ何も考えずに戦える分、楽だったんだけどねえ」

「ぴー、ぴー、ぴっぴっぴー。ぴー、ぴー、ぴっぴっぴー」

「コウタ、それ好きだねえ。あとそれ、何の歌?」

「どりよー」

「え、何?お父さん語ってなきゃ駄目?わかった、じゃあ喋ってるね。もし日本に帰れてもさ、こんな世界来た後だと、前みたいに純粋な気持ちでゲーム楽しめなくなりそうだね」

「ぴー、ぴー、ぴっぴっぴー。ぴー、ぴー、ぴっぴっぴー」

「……聞いてる?」

「だーりよぉー」

「わかったわかった。帰ったら旅行とか行こうか?でもある意味、今これ自体が望まぬ旅行だし……由美さんと相談して決めようか」

 こうして、いつもの夜は更けてゆき、コウタが0時頃に眠ると同時に、実は心身疲れ果てていたリョウジも瞬時に意識を失うのだった。

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