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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
四章 冒険者ギルドの講師 卒業試験
19/47

子連れの猛獣

「てめえ、今何つった?俺の聞き間違いか?」

「ちょっ、えっ……!?リョ、リョウジさん!?」

 突如豹変したリョウジに、ラルフとミラは何もできず、ギルドマスターはコウタを抑えるため動くことができない。

「お、おいお前等!リョウジを止めろ!」

 何とかそう叫ぶが、ラフタ達は近寄ろうとした直後、その動きを止めてしまう。

「邪魔すんな」

 ギロリと睨み付けられ、低い声で脅される。それだけで、ラフタ達は動けなくなってしまった。いつもにこやかで、丁寧な口調を崩さないリョウジは、今や子連れの野獣のような殺気を放っており、そのあまりの豹変ぶりに恐怖が上回ってしまっていたのだ。

「おいお前等!怯んでんじゃねえよ!リョウジが死ぬぞ!!」

「け、けどっ……その……」

「ああ……またリョウジ先生がオーガリョウジに……」

 たった一人でつかつかと歩み寄ってくるリョウジを見て、ゴブリンジェネラルは鼻で笑い、他のゴブリンは何もせず、そのまま見送っている。誰も彼も、ゴブリンジェネラルの勝利を信じて疑っていないからだ。

「オ前ガソノガキノ親カ。ガキヲ守ルタメニ出テキタノカ?ソノ度胸ダケハ褒メテヤル!」

 リョウジを睨みつけてニヤリと笑い、ゴブリンジェネラルは挑発を重ねた。

「動ケナクナッタオ前ノ目ノ前デ、アノガキヲバラシテヤルヨ!」

「殺す」

 もはや叫びもせず、目だけを血走らせたリョウジが、フレイルを大きく振りかぶった。予想通り、怒りに我を見失った相手は一番威力の高い振り下ろしを選ぶ。あとはその一撃を捌いて腹を切り裂けば終わりだと、ゴブリンジェネラルは剣をかざした。

 ガパッ!と凄まじい音が鳴り、ゴブリンジェネラルの顔が仰け反った。

「コッ……バッ……フ、フイアエハンハラフイオオヘ!」

 顎が砕け、激痛が走る中で、思わずそう毒づく。そのリクエストに応えるように、リョウジは下から振り上げたフレイルを頭上で止めており、今度こそ振り下ろした。

 それをゴブリンジェネラルが剣で受けると、鎖が剣に巻き付く。直後、なぜかゴブリンジェネラルの全身から、不意に力が抜けた。それでも、人間などに負けてなるものかと、ゴブリンジェネラルは渾身の力を振り絞り、武器を奪おうと剣を振り上げた。

 すぽーんと、何の抵抗もなくフレイルが抜け、ゴブリンジェネラルは勢い余って剣を飛ばしてしまう。そして目の前には、目を血走らせて拳を握ったリョウジの姿があった。

「ブゴッ!?」

 真っ直ぐに鼻を打ち抜かれ、ゴブリンジェネラルの鼻がひしゃげる。素早く胸ぐらを掴むと、リョウジは顔を狙って何度も何度も拳を叩きつける。

 ゴッ、ゴッ、ゴッと、鈍い音が何度も何度も響く。目の前の光景に、誰もが動けなくなっていた。人間側は、普段大人しいリョウジの豹変具合に怯えており、ゴブリン側は負けるはずのないジェネラルがあっさりと敗れ、拳を振るわれている光景が受け入れられなかった。

 最初は胸ぐらを掴んで殴り続けていたリョウジだったが、一際強く拳を叩きつけてゴブリンジェネラルを地面に倒すと、今度は馬乗りになって殴りだす。

 だがそこで、再びギルドマスターの声が響く。

「おい、誰か止めろ!もう充分だろ!止めろ!マジで止めろ!」

「はっ!?お、おいリョウジさん!そこまで!そこまでにしてやれ!」

 ラフタとウェーバー、ジェイルがリョウジに駆け寄るが、肩に手を触れた瞬間、リョウジは殺気に満ちた顔で振り返った。

「ひっ!?」

「……邪魔、しないでもらえます?」

 そしてリョウジは視線を戻すと、再びゴブリンジェネラルに拳を振るう。もはやゴブリンジェネラルの鼻は原型を留めておらず、歯も折れて地面に数本落ちており、リョウジの拳も皮が裂けて血が流れていた。

「ま、待って!リョウジさん怪我、怪我!ポーション効かねえんだろ!?もうやめなって!」

「ああ、じゃあこうしますよ」

 羽交い絞めにされて立ち上がらされると、今度は背中と言わず腹と言わず、サッカー部仕込みのキレのいい蹴りを入れ始めた。本当にこのまま蹴り殺すのでは、というところで、一匹のゴブリンがスライディング土下座をして滑り込んできた。

「モ、申シ訳アリマセンデシタァ!俺達ノ負ケデス!何デモ言ウコト聞キマスカラ、ウチノボスヲ殺サナイデクダサイ!」

 ゴブリンジェネラルよりもたどたどしい言葉だったが、その必死具合は全員に伝わった。

 が、伝わっただけであり、それを聞く気はリョウジには微塵もなかった。

「うちの子を殺そうとした奴を、なんで助ける必要があるんですかねえ?寝言は寝てから言え、クソが!」

 一際強く蹴り上げられ、ゴブリンジェネラルの体が2メートルほども浮かび上がった。それを素早く受け止め、ゴブリンは再び頭を下げる。

「スミマセンデシタ!申シ訳アリマセンデシタ!ゴメンナサイ!絶対ニソンナコトシマセン!ココモ離レマス!ダカラドウカ……ドウカ、助ケテクダサイ!」

「……」

 なおも血走った目で睨み付けられ、ゴブリンは心の中で死ぬ覚悟を決めた。それでも、土下座の姿勢を崩さずにいると、リョウジの声がほんの僅かだけ和らいだ。

「……二分だ」

「エ……?」

「二分待つ。その間に全員、ここから出て行け」

「ニ、二分!?ソレデ全員ハッ……!」

「返事ぃ!!!」

「スミマセンデシタァ!!二分デ全員出テイキマス!!今スグ支度シマス!!」

 それから、ゴブリン達はてんやわんやの大騒ぎだった。時間の猶予は全く無く、それでいて大移動をしなければならないため、持って行く荷物の選別が難しかったのだ。

 しかし、一秒でも遅れたら、ゴブリンジェネラルを素手で殴り倒した男が、自分達を皆殺しにするかもしれない。その恐怖から、ゴブリン達はほぼ食料だけを持って、その場を離れ始めた。

 そしてリョウジは、そのど真ん中で仁王立ちをして作業を見守っていたが、内心は冷や汗が止まらない状態だった。

 正直に言うと、既に心は落ち着いているのだが、ここまでやった手前、鬼のようなままでいる方がいいだろうと判断し、表情も雰囲気も崩さないよう、必死に維持しているだけだった。バレたらどうしようかと、内心はビクビクである。

 そして二分後、ゴブリンジェネラルを担いだ先程のゴブリンが、リョウジに頭を下げる。

「ア、貴方ノオ慈悲ニ、感謝シマス……デハ、失礼ヲ……」

「おい」

「ヒイッ!?ナ、何カ……!?」

 リョウジは黙ってポーションの瓶を開けると、気絶したままのゴブリンジェネラルに振りかけた。一体何をしているのかと、ゴブリンを含むその場にいた全員が驚いていたが、リョウジは事もなげに言った。

「その馬鹿を背負ってると、追いつけねえだろ。こっちはさっさと消えてほしいんだ、甘やかしてねえで歩かせろ」

「ア……アリガトウ、ゴザイマス……!」

 その時、傷が癒えたゴブリンジェネラルの意識が戻った。そして視線を上げ、リョウジを見た瞬間、ゴブリンジェネラルはその場に蹲った。

「ヒ、ヒイイィィ!!俺ノ鼻ガッ、顔ガアアァァ!!嫌ダ、嫌ダァァ!!アアアァァ!!助ケテ、助ケテェェ!!」

「モ、モウ大丈夫ダ!ボス、シッカリ!早ク逃ゲルンダ!」

 そして、恐らくは部下であるゴブリンにせっつかれながら、威厳の全く無くなってしまったゴブリンジェネラルは去って行った。後に残った新人達は、恐る恐るリョウジの様子を窺う。

「あの……リョウジ、さん……?」

「……」

 リョウジはすぐには答えず、一度大きく息をついてから、ぼそりと答えた。

「後ろ向くのが怖いんですけど……私、振り向いて大丈夫ですかね?」

 いつものリョウジが戻ってきたと、新人達はホッと息をついた。そして、少し間を置いて笑い出す。

「あんだけやっておいて、今更何が怖いって言うんだよ!あんたの方がよっぽど怖かったって!」

「いやー、リョウジさんってキレるとあんな風になるんですね!確かに、ギャップがあると効果的ですね!」

 その言葉には答えず、リョウジはまたぼそりと呟く。

「……コウタとか、ギルドマスターとか、だいぶ怒ってないかな、と」

「え?あ……あー……うん」

「よくわかってるようだなあ、リョウジさんよ?」

 コウタに激しく引きずられ、すぐ後ろまで来ていたギルドマスターが、目だけが笑わぬ笑顔で言う。

「まあ、とにかく、依頼は達成……いや、これ達成か?殲滅……うーん……まあいい、殲滅扱いで達成扱いにするわ。とにかく、まずは帰るぞ。その後で反省会だ、いいな」

「……はい」

 そして、リョウジは抱っこをせがむコウタを抱き上げ、他の面々は喜んでいいのかわからぬ微妙な雰囲気のまま、町への帰路に就くのだった。

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