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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
四章 冒険者ギルドの講師 卒業試験
18/48

卒業試験開始

 森の中を、12人の人影が進んで行く。

 全体の動きは、1人が大きく先行し、10人が固まって進み、1人がかなり離れて付いていく。言うまでもなく、リョウジ達新人の一団と、お目付け役のギルドマスターである。

 やがて、先頭の足が止まり、残りの者達がそこに合流すると、全員がそこで息を潜めた。が、コウタはお出かけが楽しいのか、コウタ語で語り続けている。

「だーかったぁ!だーかったぁ!だーかったぁ!」

「リョウジさん、すみませんが……」

「コウタ、コウタ、ちょっと静かにして。ほんとお願い、静かにできる?コウタ、コウタ?」

「おりーどりー、ぽぉう!こっこっ、きぃ~~~だはははぁ!」

 感極まったように笑いながら、リョウジの顔に自分の顔を擦り付けるコウタ。ゴブリンの集落の近くでなければ、とても微笑ましい光景である。だが場所が場所だけに、その声で気づかれやしないかと一同は戦々恐々である。

 数十メートル先に、ゴブリンの姿が見える。緑色の肌を持ち、身長は人間の子供程度。醜い顔に大きな鉤鼻という、いかにもファンタジーのゴブリンですという風貌に、リョウジは若干の恐怖と、割と想像通りの容姿で良かったという安堵感も抱いていた。

「コウタ、ちょっと……ギルドマスターすみませんが、コウタ頼めますか?」

「お、おお……そうせざるを得ねえよな……」

「マスター、子供苦手なんですか?コウタちゃんに対して怖がってるみたいなときありますよね」

「まあ、いや、まあ……怖いからな」

 コウタのスキルについては、リョウジと違って絶対秘密ということで話がまとまっている。ただでさえ未曾有の力を持ったスキルであるため、それを狙ってコウタ自身のみならず、リョウジの身に危険が及ぶ可能性があることが理由である。そして万が一、リョウジに何かあった場合、この能力がどんな暴走を引き起こすのか想像もつかない。そんな訳で、世界平和のために絶対秘密とされているのだった。

「まーた」

「そうそう。ギルドマスターと一緒にいてね。大丈夫ですよ、なぜか女の人より男の人の方に懐くので。アイシャさんには結構懐いてましたけどね」

「あいつはなあ……まあいい、何とかしとくから、頼むから早めに終わらせて帰ってきてくれ。出来うる限りの最速でだぞ」

「普通、じっくりでいいから怪我するなとか言いません?まあ、早く終わらせられそうなら終わらせますけど」

 コウタを預け、新人達は静かに陣形を整える。

 ゴブリン相手なら、単独であれば戦える者が多い。そのため、相手に体勢を整える時間を与えない、奇襲からの乱戦に持ち込むことになっていた。リョウジは戦闘に関してからっきしなことと、ポーションによる回復が出来ないため、後衛であるラルフとミラのサポートにつくことになっている。

「よし、前衛準備良し。いつでも行ける」

「こっちもいつでも行ける。リョウジさん、大丈夫?」

 正直に言えば、まったく大丈夫ではない。既に手は若干震え始めているし、命のやり取りなど出来れば一生やりたくない。それでも、やらなくてはいけないことでもあり、なおかつ年下の者達を不安にさせるわけにもいかないため、リョウジは何とか笑顔を作った。

「大丈夫です、行けますよ」

「わかった。やるよミラ!ファイアボール!」

「アイスアロー!」

 炎と氷が当時に飛び、見張りをしていたゴブリンに直撃した。しかし、炎は皮膚を焦がしたところで、氷は先端が突き刺さったところで消滅し、一撃で倒すには至らなかった。

「思ったより抵抗強いな!ウェーバー、引っ掻き回せ!ジェイル、ウェーバーの援護!」

「わかりました!」

「了解!」

 すっかり丁寧語の馴染んだウェーバーが、驚異の速度でゴブリンを突き刺して回り、それを狙う相手にはジェイルが投げナイフを使って牽制する。

「よぉし、雪崩れ込め!」

「おう!」

 そして、ラフタを先頭に五人が突っ込み、ゴブリンと戦闘を繰り広げる。ラルフとミラは前衛を支援する形で魔法を使い、その被害を防いでいく。

「ガアアァァ!」

 その時、前衛の間を抜けて一匹のゴブリンが襲い掛かってきた。その迫力に、リョウジは一瞬怯みかけたが、自身を鼓舞して何とか二人の前に立つ。

「人間メェ!」

「ぐっ!?」

 本気の殺意の籠った一撃。リョウジは危なげなく盾で防いだが、思いの外大きな衝撃と、相手の迫力に思わず腰が引けてしまう。

「けどっ……!」

 それでも、コウタと共に元の世界に帰るんだという想いが、リョウジの右腕を動かす。

「やるしか、ないんだ!」

「グエッ!?」

 胴体にフレイルの一撃を受け、ゴブリンはその場に崩れ落ちた。感触こそ残らなかったものの、人語を解する相手を殴り殺したかもしれないという事実は、リョウジの心に重くのしかかる。

 それでも、怯むわけにも、やめるわけにもいかない。震えそうになる足を何とか踏ん張り、リョウジは改めて構え直す。

「ちょっと、頼りないかもしれませんが……お二人に手出しはさせませんし、誤射されても何ともないので、自由にやっちゃってください!」

「うん、正直誤射してもいいのはほんと助かる」

「それでも、誤射はしないようにしますけどね!アイスボール!」

 当初の予定通り、ゴブリン側は大混乱に陥っており、効果的な反撃は来ていない。それでも数は多く、前線ではラフタがグレイヴを弾き飛ばされていた。が、元々が剣術スキル持ちであるため、むしろこれまでより伸び伸びと剣を振るっている。

 リョウジ達の方にも、たまにゴブリンが襲い掛かってきたが、そこはリョウジが責任をもって打ち倒していた。最初こそ、受けてからの反撃ばかりだったが、少しずつ戦いの雰囲気にも慣れ、時には先制の一撃で叩きのめすようになっていく。

 できればこのまま押し切りたいと全員が思っていたが、その願いは最悪の形で打ち砕かれた。

「ぐあっ!?」

 神速で走り回っていたウェーバーの足が、ざっくりと切り裂かれる。何事かと視線を向ければ、そこには周りのゴブリンより良い装備を身に付けた、やや大柄のゴブリンがいた。

「狼狽エルナ!ソイツラハ手練レジャネエ!戦エル者ハ集マレ!集団デ戦ウゾ!」

「ゴブリンジェネラルだと!?やばい、敵うわけないぞこれ!」

 ラルフの言葉に、リョウジは視線を切らずに尋ねる。

「強いんですか?」

「当り前っ……ああ、ゴブリンいないんだっけ?普通のゴブリンの十倍は強い。あと、指揮ができるから普通のゴブリンも一気に難敵になる。正直、撤退した方がいい!」

「十倍か……確かに、やばそうな相手ですね」

 前線では、ラフタを中心に切り崩そうと攻撃を仕掛けているが、ゴブリン達は二人一組で戦うようになっており、そう簡単には倒せなくなっている。そして、ウェーバーを回収しようとしたジェイルも、ゴブリンに腹を突き刺された。

「ウェーバー!ジェイル!」

「くそっ、誰かあいつらの援護を!」

「無理だよぉ!ゴブリンだらけで、近づけないよぉ!」

 このままでは、二人は数秒後に死んでしまうだろう。リョウジはラルフとミラに視線を送る。

「お二人は、回復魔法は使えるんですか?」

「いや、できない……!くそ、ちゃんと覚えておけばよかった!」

「できなくはないんですけど、距離がありすぎて……!」

 絶体絶命だった。それでも、リョウジは一筋の希望に賭けるため、ポケットからポーションの瓶を取り出した。

「わかりました、なら私が何とかしてみます」

「ここから何を!?投げたって、当てられるような距離じゃないだろ!?」

「届かせます!23年ぶりではありますけど、元二中サッカー部、ベンチ補欠候補の実力、見せてやりますよ!」

「ベンチ補欠……って、それ全然ダメって意味じゃないの!?ちょ、リョウジさん!?」

 リョウジは軽く瓶を投げ、一歩ステップを入れる。そしてちょうど振り上げた足の甲に瓶を乗せると、そのまま勢いよく足を振り抜いた。

 ポーション瓶は凄まじい勢いで吹き飛び、およそ30メートルほどを二秒で飛び抜け、狙い違わずウェーバーの背中に直撃して砕け散った。

「あ痛ってぇ!?ぐっ……あ、ポーション!?悪りい、助かった!」

 相当に焦っていたようで、丁寧語で喋る余裕のなくなっていたウェーバーだったが、間一髪で回復が間に合い、立ち上がる。そして槍を文字通りに振り回し、ゴブリンを遠ざけると自身のポーションをジェイルに振りかけ、そして槍を捨ててジェイルを連れ退避する。

「死ぬかと思った!さっきの誰だ!?ほんと助かった!」

「リョウジさんだよ!こう、ポーションの瓶を蹴って飛ばしたんだ!」

 その一部始終を見ていたラルフとミラは、目を真ん丸にしてリョウジを見つめていた。

「よ、よくあれを、あんな遠いのに、あんな速度で正確に当てられましたね」

「ええまあ、キーパーなのにフリーキックすごい人がいまして、その人に憧れてフリーキックだけはトップクラスでしたから」

 そのまま撤退戦の支援に入ろうかと思った時、リョウジは突然誰かに足を掴まれた。

「っ!?」

「とた」

 そこには、憮然とした顔で自分を見上げるコウタと、コウタを抱いたまま引きずられるように倒れているギルドマスターの姿があった。

「コウタ!?」

「す、すまん……抑えきれなかった」

「えっ!?ちょっ、なんで!?さっきまでいなかったですよね!?」

「な、何!?その子、まさか転移能力持ち!?」

 恐らく転移したことは間違いないのだろうが、それどころではない能力ですとも言えない。どう答えようかと悩んだ瞬間、ゴブリンジェネラルの声が響いた。

「ホウ、ガキヲ連レタ野郎モイルノカ。アノガキヲ殺シテ、見セシメニシテヤロウ!」

「……あ?」

 直後、周囲に異様な威圧感が漂い、リョウジが低い声で答えた。

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