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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
三章 冒険者ギルドの講師 講習期間編
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怒りのツボ

 冒険者として、依頼を受けるようになって一週間が経過した。


「あれ、これって薬草?違う?」

「えっと……あ、それは薬草だね。調子いいね、あと20個か」

「おい、気を付けろ!アローバードが……あ、終わった」

「はっはぁ!護衛は俺に任せておいてくださいよ!片っ端から串焼きにしてやりますぜ!」

「神速でぶっ飛んでくる槍とか、恐怖以外の何者でもないね。そういやアローバードって食えるの?」

「ああ、そいつは結構な珍味だぜ。腐るのが早えから一般には出回らねえが、焼いて塩振って食うのが一番うまい。ほんっとにうまいんだよ、そいつ」

「ギルドマスター、食べたいんですか?」

「食いたい」

「……これ私達の獲物なんで、ギルドに依頼出してもらえますか?」

「いいじゃねえかよ!教えてやったんだから俺にも少しぐらい分けろよ!!!」


「まさか本当に依頼出すとは」

「ひっさしぶりに食いたくなったんだよ!マスターになったら、とにかく書類仕事ばっかりでなあ。森に狩りに来る暇すらねえんだ」

「えー、じゃあギルド職員とかやってみたいって思ってたけど、やめようかなあ」

「普通の職員だったら、そこまでじゃねえぞ。一般職員なら休みもあるからな」

「へえ、結構福利厚生しっかりしてるんですね」

「リョウジさんよ、あんたも今は臨時職員だからな?」

「そういえばそうでした。あれ、でもアイシャさんって休み取ってます?なんか、毎日毎日見かけますけど」

「……ほら、うちって小さな町だから、代わりの人材が……あいつ以外は受付業務が苦手でな……」

「マニュアルぐらい作りますから、休みあげてください!」

「……こりゃさらに惚れられそうだなぁ……」


「ゾンビはとにかく生命力……いや、死んでるな。とにかくしぶとい!魔法で仕留めるか、炎で焼き尽くすか、神聖武器使うか以外では、みじん切りにでもしねえと動きが止まらねえ!注意しろ!」

「はい!」

「あの、すみません。噛みつかれたらこっちもゾンビになるとかってあります?」

「いや、んな恐ろしい攻撃はしてこねえよ。あんたの世界ではそういうのがいるのか?」

「まあ、創作の世界では。でも、それなら安心ですね。やってみます!」

「あ、おい!あんたの武器だと相性が……あ、一撃?え、ローキックで一撃!?あ、おいちょっと待てリョウジ!お前は戦うな!相性良すぎだ!リョウジ以外の全員で戦って来い!」

「いや、リョウジさん出しましょうよ!あっという間に終わるじゃないですか!」

「そりゃもう訓練じゃなくなるだろ!」


 この一週間、薬草採りに魔物の肉の調達、さらに突然湧いたゾンビの群れ討伐など、実に多種多様な依頼を受けていた。

 何をするにもバタつくひよっこ達ではあったが、同じ講習を受けている仲間と一緒であることと、経験豊富なギルドマスターが付いていることで、特に危険な目に遭うこともなく依頼をこなせていた。

 ここまで来ると、役割分担も明確になってきており、新人達はすっかり一つのパーティとしてまとまりつつある。そんな彼等に、ギルドマスターは午後の講習が始まる前に話をしていた。

「講習は三週間目に入った。講習期間は一ヶ月、つまり来週には、この講習も終わりだ」

 一人一人の顔を見回しながら、ギルドマスターは続ける。

「採取にしろ戦闘にしろ、少なくとも最低限は見られるような動きになってきてる。買い物なんかも、リョウジのおかげでぼったくられずに済んでるようだな」

 ギルドマスターの言葉通り、以前であれば言われた金額をすぐに出してしまう者が多かったのだが、今では他の店での価格を調べたていたり、あからさまな詐欺はすぐに見抜けるようになっていたため、それによって無駄な出費を抑えられるようになっていた。その分、少し良い食事が出来たり、追加の装備を買ったり、あるいは本などを買う余裕ができており、ギルドマスターがこれまでに見た新人達の中でも、特に余裕があるように見えた。

「それで、今日ギルドにある依頼が入った。内容は、ゴブリンの集落の殲滅だ」

 その言葉に、リョウジ以外の全員の顔が険しくなった。その変化の理由が分からず、リョウジは手を上げて質問する。

「危険な依頼なんですか?」

「そりゃ……ああ、あんたの世界にはゴブリンがいないのか。ひよっこが受けるにはかなり危険だ。集落って時点で、戦えるゴブリンは数十はいるだろうし、向こうも本気の抵抗をするからな。俺等だって、町が襲われたら全力で抵抗するだろ?」

「それは、確かにそうですね」

「普通はDかCランクのパーティに依頼を回すんだが、今回はマスター権限でこいつをお前等の卒業試験にすることに決めた。この結果次第で、お前等が冒険者としてやっていけるか、あるいは講習やり直しかを見極めさせてもらう」

 全員の顔を見回し、ギルドマスターは続ける。

「この依頼をこなすのは来週だ。だから、今日から五日間はいつも通りに講習を受けてもらうが、前日の一日は完全休養日にする。各自、しっかり休んで英気を養っておけよ」

「はい!」

 いよいよ講習の終了が近づき、しかも最後が危険な依頼ということもあって、新人達はこれまで以上に真面目に講習を受けるようになっていた。リョウジ自身も、確実に大規模な戦闘が発生することから、それまで以上に戦闘訓練に力を入れた。

 時間はあっという間に過ぎ去っていき、いよいよ明日が集落殲滅の依頼という日になった。完全休養ということもあり、リョウジはコウタを連れて町の中を散歩していたが、町外れで気になるものを見掛け、そちらにふらりと足を延ばす。

「ふっ、ふっ、ふっ!」

 そこでは、新人仲間であるジェイルが汗だくになってトレーニングに励んでいた。一体いつからやっていたのか、地面には汗の染みがいくつもできており、相当長い時間続いていることが見て取れた。

「こんにちは、自主トレですか」

「えっ!?あ、ああ、リョウジ先生」

 声をかけると驚かれたものの、ジェイルもすぐに笑顔を返す。

「結構、きつい練習してるみたいですが?」

「あー、まあ、ほら、俺あんまり戦闘向きのスキルじゃないんで……休んでたら、みんなにすぐ置いて行かれるし、そんな暇ねえなって……あはは」

 少し恥ずかしそうに言うジェイルに、リョウジはいつもの営業スマイルで尋ねる。

「でも、明日は最終試験ですよ。そんなにきつい練習して大丈夫なんですか?」

「だからなおさら、鍛錬しなきゃいけねえんですよ。とにかく練習して、とにかく鍛えて……休養日だからって、サボれねえんですよ」

「……」

 営業スマイルを張り付けたまま、リョウジは大きく息をついた。その直後、ひどく低い声でぼそりと呟く。

「……この世界でも、そういう認識かよ。ふざけろ、クソが」

「え……えっ!?」

 一瞬誰の声かと周囲を見回し、しかし自分とリョウジ、コウタしかいないことを確認して、ジェイルは驚きに目を見張る。しかし、その時には既に、リョウジはいつもの顔に戻っていた。

「そうなんですね。つまり、ジェイルさんは――」

 気持ちを落ち着けるように、リョウジは一度言葉を切ると、軽く息をつく。そして、にっこり笑って言った。

「随分と自分に甘い人なんですね」

「なっ、えっ……あ、甘っ……ええっ!?」

 今まで一度も言われたことのない言葉に、ジェイルは大きく狼狽えた。少なくとも、今まで休み返上で頑張っていたことに対し、こんな評価を受けたことはない。

 休日返上で頑張っている自分が、なぜこんな評価を受けないといけないのかという怒りも湧き上がる。リョウジに掴みかかりたくなる衝動を何とか抑え、ジェイルはリョウジを睨み付ける。

「な、なんでそんなこと言われなきゃいけねえんだよ!?大体、鍛錬してるのが何か悪いのかよ!?」

「強度によります。その汗の量から考えると、明らかに相当強めの鍛錬ですよね。ジェイルさん、その疲れは明日までに全部抜けるんですか?」

「はあ!?そりゃ……」

 抜けるに決まってる、と言いたかったのだが、言えなかった。

 そもそもが、明日のことを考えると、どうしても不安になってしまう。その気持ちを拭い去るために、普段より強めの鍛錬をしていたのだ。もしかしたら、明日まで疲れを引きずるかもしれないという懸念はある。

「そしてもう一つ。それは一体どこを鍛えてるんですか?」

「どこって……体に決まってるだろ!?」

「体のどこですか?」

「いや……だから……」

「どこですか?腕ですか、足ですか、体幹ですか?それとも何も考えずにやっているんですか?」

 ここまで来ると、ジェイルにも薄々理解できた。どうやら、リョウジはかなりお怒りだということに。

「どこを鍛えるかも意識せずに、ただ漫然と鍛えているんですか?それで何を強くするつもりなんですか?強くなる気はあるんですか?」

「そ……その……」

「そもそも、明日は全員で協力して試験に当たろうという時に、疲れを残すような訓練をするとか何を考えているんですか?何も考えていないんですか?あるいは、周囲の足を引っ張るのが狙いですか?」

「そ、そんなことはないっ……です……」

「休養の意味、わかってますか?体を万全の調子にしろと言う意味ですよ?将来の万全ではなくて、今現在の万全ですよ?それなのに貴方は何をしているんですか?強くなりたいからっていうのは建前で、やらないのが不安だからやってるだけですよね?それが自分に甘いと言わなくて何と言うんですか?」

 反論もできず、ジェイルはただ子供のように項垂れることしかできなかった。そもそも、立て板に水を流すように自身を責めたてるリョウジに対し、口では絶対に敵わないことも心底わかっていた。

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