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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
三章 冒険者ギルドの講師 講習期間編
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自分の相棒

 そもそも、武器なんてこの間この店で振り回した以外では、竹刀しか使ったことはない。なので得意武器というものは完全に捨てることにし、どんな武器が良いかを考えることにした。

「……まず、刃物は無理です。刃筋とか戦闘中に考えてられません。研ぎもできませんし。あと、出来れば打った時に手が痺れないような物がいいです。旅をすると思うので、あまり重い物は使いたくありません。長い物も難しいです。でも戦闘が苦手なので、リーチは長めに……できれば1メートルくらい取れるといいです。あと出来るなら、手入れが簡単な物……こんなところでしょうか?」

 リョウジが言い終わると、新人達は一斉に笑い出した。

「おいおい、リョウジさん!それほとんど我儘ばっかりじゃん!」

「そんな都合のいい武器、さすがに無いって!ちょっとは遠慮しなよ!」

 わいわいと賑やかな新人達を見つめ、グルーガは口を開いた。

「全然問題ねえな!ほとんど希望通りの武器は出してやれるぞ!」

「え、本当ですか?」

「え、マジで!?そんなのある!?」

「それにひよっこ共!確かに注文は多かったが、我儘ばっかりってほどではなかったぞ!むしろ、具体的でこっちがありがてえぐらいだ!」

 一度全員の顔を見回し、グルーガは少しゆっくり話し出した。

「いいか?こん中で、何がいいか聞かれた時に『とにかく強い武器』とか『でかくて威力が高い武器』とか言おうと考えてたバ……奴、手を挙げてみな?」

 グルーガの言葉に、誰も手こそ挙げなかったものの、何人かが黙って目を逸らしていた。

「いねえ訳ぁねえと思うがな?まあいい、今のこいつの注文は、参考になる部分が多いぞ。ちょっと解説してやる」

 グルーガは一度奥に引っ込むと、一つの武器を持ってきた。それをリョウジに差し出す。

「ほれ、持ってみな」

「これは……モーニングスター?」

「近いな。確かに頭は同じだが、そいつはホースマンズフレイル。モーニングスターはメイスの方だ」

 それはさほど鋭くはないが、やや太めに作られた棘を何本も生やした木の球を、20センチぐらいの鎖で柄に繋いである武器だった。全長は75cm程度で、程よく振り回しやすい長さである。柄の先端に紐も付いており、万一手から離れても落ちないようになっている。

「まず、刃物が苦手って時点で、選ぶのは槍か鈍器、あるいは飛び道具になる。とはいえ、そんなこと言ってる奴に、飛び道具が扱えるとも思えねえ。そもそもが、飛び道具は消耗品だしな。んで、『打った時に手が痺れない物』って言ってただろ?まあ、ここは我儘と言えなくもねえが、この時点で、鎖か紐、あるいは節を持った武器に限られる」

 リョウジはフレイルの鎖を伸ばし、軽く振り上げてみる。鉄球ではない分、思ったよりも軽く、使いやすいなという印象だった。

「武器の種類は、そこでほぼ決まりだ。次に、旅の邪魔にならない物っていうようなこと、言ってただろ?これが重要でな、武器防具を合わせて何十キロにもなるんじゃ、隣村に着く頃には疲労困憊だ。だが、ことに新人は、やたらでかくて威力の高い武器を使いたがる傾向がある。戦闘ん時以外での武器防具の扱いについて、考えてた奴はいるか?」

 フレイルの調子を確かめるリョウジを横目で見つつ、グルーガは続ける。

「そこをしっかり考えた上で、戦闘が苦手だっていう自身の弱点と、それを補うための射程が欲しいっていう発想は、生き残るためにしっかり考えられたもんだ。少なくとも、変な憧れや拘り、そういったもんは何一つ入ってねえよな」

 リョウジの言葉を笑っていた面々は、今は誰も口を開かなくなっていた。

「拘りや憧れが悪いとは言わねえ。ただ、そんなもんに拘るのは、まずは一人前になってからだ。ひとまずは憧れも拘りも全部捨てて、てめえが生き残るための武器を選んでみな」

 そこまで言うと、今度はリョウジの方へ視線を向けた。

「で、どうだリョウジ!?使えそうか!?」

「えっと……鎖は、もうちょっと長くできないんですか?」

「もちろんできる!できるんだが、長くなると使い辛え!それに攻撃が出るまでにも遅れが出るから、あえてその長さにさせてもらったぜ!」

 言われてみれば、柄を振り上げて一瞬後に木球が飛んでくる感じであり、やや独特な使用感である。これがさらに長くなると、違和感もさらに大きくなるだろう。

「わかりました。あとは……この棘は、無くせないですか?仕舞ってる時にゴツゴツ当たりそうで……」

「それは無くさねえ方がいいな!ゴブリンなんぞは革鎧を着込むこともあるし、そうでなくても丈夫な鱗を持った奴等もいる!そういう相手に、ただの玉じゃあ威力が不足する!それは刺すための棘じゃなくて、衝撃を一点集中させるための棘だ!だから、そのままにしときな!」

「わかりました。これ、材料は何ですか?」

「オークウッドだ!鉄じゃねえなら、やっぱりこいつが一番だ!」

「オーク……ああ、樫の木ですか」

「ん?樫は樫だろ?オークウッドは、名前通りにぶっとく硬くなる木だ!加工は難しいが、武器にも防具にも建材にもなる便利な木だぜ!」

「あ、そっちのオークなんですね……」

 意外なところで異世界感漂う武器を手に入れ、リョウジは剣玉のように木球を遊ばせる。

「さて、そいつは力がねえ奴でも、適当にぶん回しゃあ威力が出る武器だ!が、棒状じゃねえせいで、防御が甘い!だから、こいつを合わせて使いな!」

 そう言ってグルーガが差し出したのは、ちょうど手首から肘程度までを覆う、小型の丸盾だった。こちらも、縁を鉄で覆っている以外は木製の物である。

「バックラーですか。お、でもベルト固定式?ちょっと珍しいですね」

「ああ、本来は使いやすさ重視なんで、持ち手が一つのことも多い!けど、お前の場合は慣れてねえんだ!固定できた方がいいだろ!?」

「とてもありがたいです、お気遣いに感謝ですね」

 左手にバックラー、右手にホースマンズフレイルを持ち、軽く構えてみる。何一つしっくり来ないが、少なくとも自分とコウタの身を守ることはできるだろう。長い付き合いになるであろう相棒に、リョウジは心の中でよろしくと呟く。

「さて、これでリョウジの装備は揃ったな!次は誰がいい!?」

 その瞬間、新人全員がわっと声を上げ、グルーガはその対応に追われることとなった。あまりに大変そうなため、仕方なくギルドマスターが半分の相手をし、しまいにはリョウジまで駆り出され、凡その希望をまとめるようになっていた。

「グルーガさん、俺は神速のスキルですだが、それを活かすならどんな武器が良いんですかい?」

「神速か、いいスキルじゃねえか!だったら、その邪魔にならねえ武器ってのが鉄則だが、槍もお勧めだ!高速で接近!射程外から一発!そのまま退避!この一撃離脱なら、格上でも十分通じるぜ!しかし変な喋りだなおめえ!」

「俺は普通に剣が良いんだけど、どんな剣選べばいいのか……」

「斬る、突く、その両方。どう使うかでまず分けられる。それが決まったら、威力重視か使いやすさ重視か。あとでグルーガに見せてもらうといいが、全く同じ武器でも重心の調整はできる。まず、自分が何したいのか考えな」

「あたしはあえて槍を使おうと思うんだ!ほら、あたしって剣術スキル持ちだろ?でも、それが封じられた時に第二の刃があったら慌てないじゃないか!でも、どれも同じに見えてねえ……」

「えーと、まずランスはやめましょう。あれは騎兵の武器です。確か、ジャベリンも投げ槍なので除外です。いっそ、剣に似たような使用感のグレイヴとかどうですか?突くより斬る長物武器なので、完全別物の槍よりは取っつきやすいかと」

「あんたは本当に異世界の人間なんだよな!?武器選びとか本当に初めてなんだよな!?」

 そうして、全員がそれぞれに納得できる得物を手にし、店の裏手で案山子相手に最低限の扱いの練習をする。リョウジもホースマンズフレイルを試してみたが、手に衝撃も来ず、本当に振り回すだけでそれなり以上の威力が出る、良い武器だった。一度、木球が顔に跳ね返ってきて大変に慌てたが、短めの鎖のおかげで何とか回避することができた。

 各々が納得行くまで練習し、最低限の扱いを覚えた頃、ギルドマスターが手を上げて全員の注目を集めた。

「よし、全員武器は持ったな?では、いよいよ明日から、簡単なギルドの依頼をこなしてもらう」

 その瞬間、リョウジ以外の全員がわっと歓声を上げた。

「待て待て。そうは言っても、まだ講習中だ。内容は俺が決めるし、最初のうちは採取依頼とかを多く受ける」

 その言葉に、不満そうな声も漏れるが、はっきり嫌だというような者はいない。

「講習中は、この10人……いや、こいつの息子のコウタも入れて、11人でパーティを組んでもらう。俺はパーティには加わらんが、一緒について行く。といっても、よっぽどのことがなきゃ手は出さねえ。お前等だけでしっかり依頼達成できるように、準備はしっかりやっておけよ」

 再び、新人達がわっと歓声を上げた。講習の一貫とはいえ、やはり依頼を受けるようになると、冒険者になったと実感できて嬉しいのだろう。

 そんな喧騒から一歩離れ、リョウジはそろそろ梯子下りの玩具に飽きかけていたコウタを抱き上げた。

「コウタ、そろそろ依頼を受けるようになるんだって。ようやく、一歩が踏み出せるね」

 コウタはリョウジの持っていたフレイルを目ざとく見つけ、その木球を掴む。

「ぼり」

「おお、そう、ボール。よく言えたねえ。これが、お父さんの使う武器。本当は使いたくないけど……帰るためには、たぶんいっぱい使うんだろうねえ」

 息子を優しく撫でながら、リョウジは遠い目をする。

「ここで一ヶ月……あとどれくらいかわかんないけど、必ず帰ろう。じゃないと、お母さんが心配するもんね」

「……おかたん」

「おお、そうそう!お母さん!コウタ、刺激が多いからかよく喋るねえ。嬉しいけど……由美さんにも、見せたかったな……」

 暗い顔で呟き、すぐに気を取り直すように首を振る。

「いや、成長したのを見せればいいんだ。コウタ、頑張ろうね」

「おいえいえ、あいよぉ、おりだりや」

 コウタはコウタ語で何かを語りつつ、リョウジのフレイルを弄り倒している。ようやく踏み出せそうな一歩を潰されないため、リョウジはフレイルを別の何かに変えられないよう、ずっとコウタを抱き続ける羽目になるのだった。

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