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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
三章 冒険者ギルドの講師 講習期間編
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意外と知っている

 講習が始まって二週間が経った。生徒達は生徒兼講師であるリョウジともすっかり打ち解け、また彼の授業は堅苦しくなくわかりやすいため、一部では楽しみにすらされていた。

 その日も、ぼったくられないための講習をしていたのだが、そこで爆弾が投下された。

「でもさ、リョウジさんってギルドマスターにぼったくられてるって噂あるじゃん?あれってどうなの?」

 その言葉に、リョウジは苦笑いを浮かべ、ギルドマスターは表情こそ変わらないが、少し雰囲気が硬くなった。実に意地の悪い質問に、一部の生徒は不快そうな表情になり、大半の生徒はどんな答えが返ってくるのかとわくわくした表情をしている。

「そうですねえ……いや、でも良い質問です。そうですね、今回はその話を使わせてもらいましょう」

 いつもの笑顔を浮かべると、リョウジはコウタを膝に乗せて話し出した。

「あるギルドに、一人の男が訪れました。彼は何も持っておらず、また物価や常識といった知識もまったくありませんが、教養だけはありました。そこで、ギルドのマスターは彼を講師として雇い、一日銀貨2枚の給料を出すことにしました。ちなみに、同じ仕事を他の人がやると、金貨1枚ぐらいだそうです。さて、これについて皆さんはどう思いますか?」

「完全にぼったくりじゃん!」

「そこのギルドマスター最悪だな!」

「人の心がねえ!」

「……」

 どこの誰と明確に言っていないため、生徒達はのびのびとギルドマスターを批判し、ギルドマスターは表情こそ変わらないが内心で冷や汗ダラダラである。

「はい、それが皆さんの視点です」

「ん?」

 よくわからない言葉に、生徒達は思わずリョウジを見つめた。そのタイミングで、リョウジはにっこりと笑いかける。

「では、視点を変えて話します。まず、皆さんはどこかのギルドのマスターです。商人でも何でもいいんですが、そうですね、今ここは冒険者ギルドなので、そこのギルドマスターとしましょう」

 何人かが、ギルドマスターを横目で見てくすくすと笑う。

「貴方のギルドには、毎日新人がやってきます。でも、その半分近くが、初めての依頼で帰って来ません。依頼達成できないと、違約金の問題もあります。そうでなくとも、薬草採取が滞れば、病気が蔓延するかもしれません」

「おいよー、よりよりぉ」

 コウタも真似しているのか、リョウジを見上げながらコウタ語で喋り出す。

「また後進が育たないと、いつかはギルドそのものが廃れてしまいます」

 全員の顔を見回しながら、リョウジはゆっくりと続ける。

「そこで、貴方は講習を行うことを思いつきました」

「こりよー、あでぃありんあ」

「――が、自由に使えるお金は、大金貨2枚に金貨5枚。講師には毎日、金貨1枚支払わなければなりません。さて、講習は何日できますか?」

「えっと、25日」

「さすが、早いですね。そう、それでは一ヶ月に満たない期間しかできない上に、それだけでお金を使い切ります。他にも、武具の提供だって必要ですし、図鑑その他も写本したいところです。普段の業務に使う分だって必要です。さて……どうやって講習をしましょうか?」

「……」

 絶対無理だということが全員に伝わり、誰も口を開けなかった。

「ところが、そこに一人の男が迷い込みます。彼はお金も装備もありません。一般常識もありません」

「だりよー、おりおりよー」

「ダメおしまい、じゃないの。ちょっとお父さん、今真面目にお話してるからね」

 生徒側としては、合間合間に挟まれるコウタ語に、正直言ってそっちに意識を取られそうな者が大半だったが、リョウジの話が興味深いため、何とか集中を保っていられた。

「失礼しました。しかし、読み書き計算はほぼ完璧。物腰も柔らかで、講師に向いていそうな人物です。その彼に講師の仕事を打診したところ、大銅貨5枚ももらえれば、という返事がきました。さて、皆さんならいくらで雇いますか?」

「大銅貨5枚!」

「や、せめて銀貨はあげようよ」

「でもあんまり払いたくないし、大銅貨でいいって言うならそれでよくねえ?」

 とっても素直で正直な生徒達に、リョウジもギルドマスターも菩薩のような微笑を湛え、それを見守る。

「そうなりますよね?だって、その人がいいって言ってるんですから。さて、それではまた別の視点で見てみましょうか」

 まだ続きがあったのかと、生徒達は口を閉じ、リョウジの顔をじっと見つめる。

「貴方は町を歩いていると、突然空間に穴が空き、そこに吸い込まれました。そこは魔力もスキルも使えず、お金も全然見たことの無い物です。冒険者ギルドもなければ、商人ギルドもない。さて、どうします?」

「ど、どうって……えっと、誰かに助けてもらう?」

「はい、では近くにいた人に助けを求めました。その人は助けてくれそうですが、仕事をしてほしいと言われました。貴方は体力がありそうなので、土木工事を手伝ってもらえれば、日々の食事と住居は世話してくれると言われました。貴方はどう思いますか?」

「え、それでどうにかなるならめっちゃ助かる!」

「私も、それだったら頑張るな……体力には自信ないけど」

 そんな生徒達の言葉を聞き、リョウジは笑いかけた。

「事実は一つでも、視点が違えば受け取り方も異なります。だから今までの内容とは逆になりますが、ぼったくりかな、と思っても、一度違う視点で考えてみてください。商人から見たらどうなのか。そこに至るまでに過酷な場所は無いか、輸送の難しい物じゃないか。そういったところまで考えられるようになれば、結果としてぼったくられることも少なくなっていきますよ」

 一体どんな話になるかと、冷や冷やしながら聞いていたギルドマスターは、少なくとも自分が責められているわけではないと知って安堵の息をついた。

「……結構、知ってるのな?」

「まあ……嫌でも、噂は聞こえてきますから。でも、別に構いませんよ。利用できるものは利用する……冒険者ならそうするんですよね?」

「敵わねえなあ」

 そんな二人の様子を見て、生徒達はリョウジが一方的に騙されているわけではないこと、むしろ感謝していること、そしてリョウジが提示した条件の4倍以上の給料を出していると知り、むしろギルドマスターを尊敬するのだった。


 生徒達はリョウジの授業を積極的に受けており、午後のギルドマスターの実習も、実にイキイキとした様子で頑張っている。最近は厳重に布を巻いた棒でリョウジと戦闘訓練をする者も多く、その大半がリョウジに危なげない勝利を収めるようになっていた。

 とはいえ、リョウジも成長していないわけではない。ギルドマスターの方針により、リョウジは防御術を重点的に学んでおり、回避や受けといった動作に関しては、剣術のスキルを持ったラフタを除く新人達の中で、最もうまくなっている。

 そんな防御に優れたリョウジを、ほぼスキルに頼らず攻略しなければならないため、相手役としてはギルドマスターに次ぐ人気者となっていた。攻撃に関してはお粗末なため、自身の怪我の心配が少なかったことも原因の一つである。

「ファイア……くっ、はあっ!」

「こう回して……こうっ!」

 突き出された棒を払いのけるように受け、その反動で止まった棒をそのまま相手の胸元に突き込む。体重までは乗せなかったものの、カウンターで入った一撃はそれなりの威力があり、ラルフは胸を押さえて蹲った。

「ぐぅ……や、やっぱり、僕じゃ相性が悪いな……」

「ファイアボールを止めないで、そのまま撃てばわかりませんでしたよ」

 リョウジの言葉に、ラルフは怪訝そうな顔を向けた。

「だって、リョウジさん魔法効かないだろ?」

「まったく効きませんけど、顔に炎が飛んできたら誰だってびっくりしますよ。それに、炎の後ろにあるものは見えませんから、炎で隠して攻撃ってやり方もありだと思います」

「魔法剣士みたいな発想するなぁ。リョウジさんって、本当に魔法の無い世界から来たの?むしろ、魔法とかスキルとか使い慣れた人みたいな発想してると思うんだけど」

「まあ、私自身は魔法使えないですけど、ゲーム……ええっと、遊びで似たようなことはいっぱいやりましたから」

 スキルについて周知した翌日には、リョウジが異世界の人間であると全員に伝えていた。当然、疑う者は数多くいた、というより全員が疑っていたため、リョウジは得意のステータスオールオープンで、自身のステータスを公表していた。

 その際、なぜかラルフが怒りだしたことと、女性のミラとラフタが顔を真っ赤にしていたことについては、リョウジの中で未だに謎のままである。

「リョウジさ……先生よぉ、ラルフの棒を払った後、いちいち止めてねえで……ないで、その勢いのまま突けばもっと確実に勝てましたぜ?」

 ウェーバーはあの日以来、自分の言葉を改めようと必死に頑張っている。その結果、小物盗賊っぷりが上がったなあと全員思っていたが、何とか全員表情に出さずにいる。

「そうなんですよねえ。どうしても、まだ一瞬一瞬考えちゃって……」

「その一瞬が生死を分けるって、ギルドマスターも言ってましたぜ。だから、次は俺とやりましょうぜ」

「その場合は『やりませんか』が正しいですね」

「あっちゃ……丁寧な言葉って、やっぱ難しいなあ」

「私の場合は、戦闘の方が難しいと思います。お互い慣れない者同士、頑張りましょうか」

 そして、神速のスキル持ちであるウェーバーにリョウジが圧倒されつつ、何とか食らいついていく中、ギルドマスターが不意に手を挙げた。他の者は全員訓練を中断したが、本気で戦っている二人はまだ気づいていない。

「はっはぁ!あんたに触んなきゃ、これも十分活かせるみてえですなぁ!?」

「ええ、私としては今すぐ触りたいですよ!ぬあっ!?め、目がっ……!」

 残像を残すような速度で走り回りつつ、ウェーバーは砂を巻き上げてリョウジの目を潰す。直後に後ろから体に触れないように注意しつつ、首元に棒を突きつけた。

「よし、これで俺の勝ちだすな!?」

「今噛みましたね?負けです、完膚なきまでに完敗です。あれで目潰し食らったら、もうどうしようもないですよこっちは」

「お二人さん、そろそろ俺に注目してもらっていいか?」

 ギルドマスターの声に、二人は湧ててそちらへ向き直った。

「す、すみません。熱中してしまいました」

「いや、いいさ。あんたもいい練習になってるだろ。で、今日はお前等の武器を見繕いに、武具屋へ行く。ついてきな」

「え、武器?いやでも、俺等武器持って……」

「講習の一貫だ、諦めろ」

 リョウジ以外は、それぞれに武器を持っているようだったが、講習の一貫ということで仕方なくギルドマスターについて行く。リョウジはアイシャに遊んでもらっていたコウタを回収し、後に続いた。

「グルーガ、入るぞ!」

 予想通り、ギルドマスターはグルーガの店に来ると、相も変わらず返事を待たずに中へと入っていく。ブレないなと苦笑いしつつ、リョウジも中へと入った。

 全員が中に入ったところで、ちょうどグルーガが姿を見せた。そして全員の顔を見回し、二カッと笑う。

「おう、お前等が新しく冒険者になるひよっこ共だな!?俺はグルーガ、よろしくな!と言っても、リョウジとは先に会ってるがな!」

「とはいえ、今回はひよっこの一員ですので、改めてよろしくお願いします」

 リョウジが軽く頭を下げて挨拶をすると、他の新人達もそれを真似る。

「お、なんだなんだ?すっかりリョウジ先生って言い方が似合うようになっちまったな!」

「そう呼ばれるのはむず痒いものもありますが……昔、家庭教師のバイト……えー、仕事をしてたのを思い出します」

「……道理で、やたら教え慣れてるわけだ」

 ぼそりと、ギルドマスターが呟いた。

「はっはっは、いい事だぜ!そもそも、お前みてえな喋りだと舐められちまうことが多いもんだが、大したもんじゃねえか!」

「ギルドマスターのおかげですよ。私だけなら、初日に半殺しだったんじゃないでしょうか」

「んなことしたら、俺がこいつら殺しに来るぜ!安心しな!」

「いや、半殺しになる前にどうにかしてくださいよ……」

 そんなことを話しながら、グルーガはコウタに梯子下りの玩具を渡し、コウタはすぐそれに夢中になった。

「さぁて、今日は俺も講師の真似事をしなきゃいけねえらしいぜ!まずお前等、得意な武器はあるか!?」

 グルーガの質問に、何人かが返事をする。リョウジは当然、返事が出来ない。

「わかってる奴はいい!だが、まず自分に合った武器が分かんねえ、あるいはどんな武器を持てばいいのかわかんねえって奴、いるか!?」

 リョウジはパッと手を上げたが、それ以外では誰も手を上げず、リョウジはやたらに目立つこととなった。しかし、それも想定内だったのか、グルーガはニッカリと笑った。

「よし、ならちょうどいい!お前、どんな武器が使いたいか言ってみろ!俺が見繕ってやる!」

「えっ、いきなりどんな武器か、ですか!?ええっとぉ……」

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