表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
三章 冒険者ギルドの講師 講習期間編
12/47

ギルドマスターの実力

 こうして、リョウジの講習が始まった。基本的には、読み書き計算といった内容が主になり、退屈しそうなタイミングで詐欺の話や自身の体験談を挟み、45分やったあとは必ず10分の休憩を設ける。

 学校に通ったことがない者が大半であり、最初こそさっさと冒険者になれないことに不満を持っていたが、時間が経つにつれ、意外と講習も面白いな、というように意識が変わっていく。

「けどよぉ、リョウジ……さん。おめえの……あんたの口調って、全然冒険者っぽくねえよな。そんなんでやっていけんのか?」

「ああ、やっぱりそんな感じなんですね。やっていけるかどうかは出たとこ勝負ですが、こういう丁寧語、できれば尊敬語、謙譲語も使いこなせると便利ですよ」

 リョウジの言葉に、質問した新人の一人、ウェーバーは鼻で笑う。

「そんなナヨナヨした喋り方してたら、舐められちまうだろ?いらねえよ」

「いいえ、そんなことはありませんよ。ではウェーバーさんは、貴族に対してもその口調で話しますか?」

「えっ!?い、いや、それは、そんなこと……ねえ、けど」

 リョウジの言葉に、ウェーバーは言葉に詰まった。

「あるいは、仮に受付のアイシャさんが、貴方みたいな口調で喋ってたらどうです?『おう、おめえ新人か!さっさと二階行きな!』とか言われたら嫌じゃないです?」

 意外に似ている声真似に、全員がドッと笑った。一頻り笑いが収まるのを待って、リョウジは言葉を続ける。

「たぶんびっくりすると思いますし、まあ舐めるなんてことは確かに無いとは思いますが、少し嫌な気分になりません?」

「ん~……まあ、確かに」

「逆に、ギルドマスターが『ようこそいらっしゃいました、私がギルドのマスターです。皆さんを歓迎します』とか言ってたら、それはそれで不安になりませんか?」

「おめえは、本人目の前にいるのにネタにするかよ」

 本人からの突っ込みもあり、今度は爆笑とまではいかなかったものの、みんな肩がプルプルと震えている。

「何が言いたいかっていうと、時と場合と相手によって、話し方は変えられるようになってほしいんです。私みたいに、いつもこの喋りでいろとは言いませんので、必要なときには自然に出せるようになってほしいです」

「け、けど……俺みたいな奴が、そんな喋り方してたら、気持ち悪くねえか?」

 大変少年らしい質問に、リョウジは笑顔で否定する。

「いいえ、まったく。むしろ、貴方は有利なぐらいですよ?」

「有利!?な、何が有利なんだ?」

「まあ……自覚はあるようですが、ウェーバーさんはなかなか厳つい顔つきですよね。今の口調は、ある意味で合ってるとも言えます。ただ、依頼者の気持ちになってみましょう。厳つい顔の人が荒い口調で喋ってたら、まあ違和感はないでしょうけど、やっぱりちょっと怖いですよね?ウィルさん、ウェーバーさんに何か依頼したとして、こんな感じで喋られたらどうですか?」

「え、僕!?えっと、その……怖いです」

 大変素直な言葉に、ウェーバーはウィルを睨むが、他の皆はうんうんと頷いている。

「ところが、です。この、いかにも荒っぽそうな見た目に対して、『貴方が依頼者ですね、よろしくお願いします』ぐらい言ってきたら、ちょっと『お?』ってなりません?」

 言われて、全員がその姿を想像し、ある者は噴き出し、ある者は悩み、ある者は考え込む。

「少なくとも、嫌な感じはしないですよね?むしろ、見た目と違って誠実な人なのかも、ぐらいまで考えませんか?」

「……ありですね。見た目は盗賊なのに物腰が紳士とか、いいと思います」

「誰が盗賊だ、誰が」

「ですよね。ところが、これが私であったり、ラルフさんとか女性のミラさんとかだと、違和感なさすぎて普通に感じてしまうんですよ。要は、ギャップがある、というのが重要なんですね」

「けど……それって、何か役に立つか……?」

「嫌われるよりは、好かれた方が何かと得です。具体例とかは……私だといいのが無いので、ギルドマスター、何かありませんか?」

 講師はリョウジであり、ギルドマスターは本来、監督兼講習の査察のような立場なのだが、リョウジは容赦なく話題を振っていく。

「んー、そうだなあ。感じのいい奴が、指名依頼受けやすいってことは普通にある。あとギルドとしても、そういう奴は大事にしたいと思うし、何なら職員として雇いたいなんて思うこともある。ぞんざいな口調の奴は沢山いるが、きちんとした言葉遣いをできる奴は貴重だしな」

 報酬や就職先に明らかな差があるということが、他ならぬギルドマスターの口から語られ、新人達の目の色が変わる。

「……頑張ってみるか」

「ええ、頑張ってみてください。さて、じゃあ口調の話はこの辺にして、休憩を挟んだら計算に移りますよ」

 こうして、リョウジの講習は進んでいく。午前はたっぷり座学に費やし、午後からは戦闘訓練や魔法訓練、簡単な斥候のやり方などを習っていく。ここに来ると、リョウジではとても教えられない技術ばかりのため、ギルドマスターが講師として教えていた。

 戦闘訓練では全員が棒切れを武器に訓練させられ、それについてはさすがに不満の声が上がった。

「あの、なんでこんな棒切れで練習しなきゃいけないんですか?僕、ナイフとかの方が得意なんですけど……」

 だが、ギルドマスターはこともなげに答えた。

「そりゃ、こんな棒切れがどこにでもあるからだ。これである程度でも戦えりゃ、不意打ちを受けても死にはしねえだろ?」

「まあ、そうですけど……」

「言っとくが、武器がねえ場面なんて多々ある。ションベンしに武器を置いてちょっと離れて、そのままこの世からおさらばした奴も知ってる。そもそも武器を手放すなって話ではあるけどな。だからまあ、黙ってやってみな」

 そう言うギルドマスターは、リョウジの攻撃をよそ見しながら捌いている。リョウジ自身は本気で戦っているようなのだが、如何せん技術に差がありすぎ、全く相手になっていないようだった。

「あとよ、なんでリョウジだけいっつもギルドマスター直々に相手されてんだ?あたしらだってギルドマスターに教えてもらいたいんだけど」

「あ~、それはちょっと、こいつが特殊なスキル持ちでな……いい機会だし、バラしてもいいか?」

「はぁ……はぁ……は、はい、大丈夫……です……はぁ……」

 全身で息をするリョウジに、ほぼ全員が呆れていた。打ち込みが始まって、まだ二分程度なのだ。バテるにはあまりにも早すぎる。ちなみにコウタは、目の届くところで何も知らないアイシャに遊んでもらい、ご機嫌である。

「んー、そうだな……ラルフかミラ、お前等魔法使えたよな?ちょっと俺に撃ってみろ」

 その言葉に、二人は目を丸くした。

「え、本気で言ってます?」

「本気も本気だ。安心しろ、魔力が100もねえような相手なら、直撃したって死にはしねえよ。何なら、二人まとめて撃ってきな。傷一つでも付けられりゃ、講習は卒業で構わねえぞ」

 ギルドマスターの言葉を聞いて、そういえばこの世界、ステータスが数値で表示されるんだったなと、リョウジは今更のように思い出す。

「そうですか、なら……ファイアーボール!」

「アイスアロー!」

 ラルフは炎の弾を、ミラは氷の矢を作り出し、それをギルドマスターに向かって放った。ギルドマスターはそれを眺め、自身の剣を抜く。

「新人にしちゃ、悪くねえ。だが、もうちょっと速くするんだな」

 ヒュッ、と小さな音が鳴り、直後炎の弾と氷の矢が、真っ二つになって掻き消えた。それを見た瞬間、生徒達はどよめいた。

「あ、あれが魔法斬り……!すげえ、初めて見た!」

「あんな魔力操作、見たことないよ!本当にすごいや!」

 リョウジは一体何がすごいのか全く分からず、何だか知らんけど達人技なんだなあ、くらいに理解していた。

「賞賛どうも。で、次だ。お前等、今のをリョウジに撃て」

「え、リョウジさんに!?」

「リョウジさん!?」

「え、私に!?」

 三人が同時に声を上げたが、ギルドマスターは本気である。

「なんであんたまで驚くんだよ。別に問題ねえだろ?」

「いや、問題は……あ、ないのか」

「ほ、本当に大丈夫なんですか?怪我しても知りませんよ?」

「問題ねえ。むしろ、こいつに怪我させられたら大金貨やってもいいぞ」

「一体何者なんですかリョウジさんは!?でも、なら……いきます、ファイアボール!」

「いきますよ、アイスアロー!」

「お前等、なんでリョウジには予告するかな……」

 炎の弾と氷の矢は同じように飛び、リョウジは棒で顔を庇う。そして、それぞれリョウジの腕と棒に触れた瞬間、炎も氷も、まるで何もなかったかのように掻き消えてしまった。

「えっ……!?な、何が起きた!?」

「ま、魔法が消された!?あ、ありえない!魔力まとった剣で斬るのもおかしかったけど、魔力そのものが消えるなんて絶対ありえないのに!」

 生徒達の間に、再びどよめきが広がる。それを手で制し、ギルドマスターは続けた。

「じゃ、魔法に関してはわかったな?次だ、ここにポーションがある。これはこんな風に……」

 言いながら、ギルドマスターは躊躇うことなく、剣を自身の掌に突き刺した。それは容易く貫通し、引き抜いた端からボタボタと血が零れる。それにも一切顔色を変えず、ギルドマスターはポーションの栓を開け、掌に振りかけた。すると、傷は見る間に塞がっていき、1秒も経つと傷は跡も残らず消えてしまった。

「傷に振りかけてやれば、すぐに治る。これは常識だな?だが、こいつの場合は……」

 ギルドマスターに小さなピンを渡され、リョウジは左薬指を軽く突く。そこを指で圧してやると、プクッと血が溢れ出る。それを確認してから、ギルドマスターはそこにポーションをかける。やや時間を置き、リョウジが再び指で圧すると、変わらずプクッと血が溢れてきた。

「え……な、なんで?今、ポーションかけたよね?」

「ま、魔法とポーションが効かない……?」

「その通り。こいつは魔力に関するものが一切効かない。だから攻撃魔法も効かねえが、回復魔法も、魔力に働きかけて傷を治すポーションも効かねえ。だからうっかり怪我なんてしたら、自然に治るまで何もできなくなっちまう。つうわけで、間違いが無いように俺が相手をしてるってわけだ」

 そう言われてしまうと、他の生徒達は何も言えなかった。しかしそこで、ギルドマスターが何やら思いついたような表情になり、生徒の一人に顔を向けた。

「ただな、こいつは見ての通りズブの素人だが」

「はっきり言いますねぇ……」

「意外と侮れないところもある。つまり、お前等の怪我防止でもあるんだが……そうだな、ジョーイ、お前こいつと戦ってみろ」

 呼ばれたジョーイは、目を真ん丸にして聞き返す。

「ええ!?ぼ、僕ですか!?いや、でも、それはやばいんじゃ……!?」

「ひとっつもやばくねえ。いいから来い」

 そう声をかけてから、ギルドマスターはリョウジに囁きかけた。

「あいつは、大力のスキル持ちだ。効果は、本来の力に50が追加される。大体、水の入った大樽を片手で持てるぐらいだな」

「やべえ奴じゃないですか」

「そうだな、あんたのスキルが無ければな」

「……あっ」

「あいつはまず確実に、上からの振り下ろしで来る。それを受けて、腹を蹴り飛ばしてやれ」

 そこで、呼ばれたジョーイが来たため、リョウジは彼の前に立ち、ギルドマスターは審判として二人の間に立つ。

 改めて見ると、ジョーイは華奢な体つきをしている。まだ多分に少年らしさが残っており、実際の筋肉量はそれほど多くはないのだろう。とはいえ、スキルと魔力が存在するこの世界においては、見た目などあまり当てにならないのだろうが。

「あの……本当に大丈夫なんですか?僕、手加減苦手ですよ?」

「手加減の心配より、自分がやられねえか心配しとけ。さあ、リョウジもジョーイも、準備はいいか?」

 ギルドマスターの言葉に、ジョーイはムッとしたようだった。煽るなあ、と内心呆れつつ、リョウジは棒を構えた。

「準備はいいな、では、始め!」

「でぇい!」

 ギルドマスターの言葉通り、ジョーイは上段からの振り下ろしを選択した。若干の不安はありつつも、リョウジはそれを棒で受けた。生徒の誰もが、そのままリョウジの頭がかち割られると思っていたのだが、お互いの武器が触れた瞬間、ジョーイは目を見開いた。

「えっ!?あれっ!?な、なんで!?ち、力がっ……!」

「でりゃあ!」

 驚くほど切れのいい蹴りが、ジョーイの腹にめり込んだ。爪先がすべて鳩尾に吸い込まれ、少し驚いた様子のリョウジが慌てて後ろに下がると、ジョーイはその場に蹲って激しく嘔吐した。

「そこまで!リョウジの勝ち!」

「す、すみません!思った以上に良いのが……!」

 リョウジはすぐにジョーイの介抱に向かったが、そのジョーイ自身が手を上げ、それを押し留めた。

「な、で……ちから、ぬけて……おなか、も、ぜんぜ……ちから、はいらな……ヴォエエェェ!!」

 再びジョーイが嘔吐し、リョウジは意外な機敏さでその飛沫から逃れる。

「嘘だろ?あいつ、剛力か何かじゃなかったっけ?」

「大力だったはず。まさか、力100超えてるとか?」

「いやでも、どう見ても素人じゃねえか。蹴りだけは良かったけど……」

 ざわめく生徒達に、ギルドマスターは手で黙るように指示する。

「実は、リョウジのスキルは魔力ともう一つ、相手のスキルも無効化するっていうスキルなんだ。だから、魔物を狩って成長した分も上乗せされねえし、当然大力だろうが怪力だろうが、まったく意味はねえ。今のはさしずめ、ヒョロヒョロのガキ対普通の中年の勝負ってとこだな。結果なんかやる前からわかりきってる」

「スキル無効化!?そんなの、勝てるわけねえじゃん!」

「え、じゃあ何!?あたしの剣術も使えなくなるの!?逆に興味ある!」

「お前は剣術スキルだったな。確かに、それは俺も興味ある。リョウジ、ラフタの体に触れてみてくれ」

「あ、いいですよ。では、失礼しまして」

 リョウジがラフタの肩に触れると、ラフタはすぐに自分の腕を見つめ、掌を開いてそこを見つめた。

「え、すっご……どうやって剣振ってたのか、思い出せない……今なら誰にも負ける自信がある……」

「変な自信付けんな。見ての通り、そいつのスキルは触れると発動する。武器同士が触れてもだ。だから打ち合う度に、すんげえ違和感が襲ってくるし、その度に体の動きを修正しなきゃなんねえ。そこまで器用な真似ができる奴、いねえだろ?」

 触れる度に力が抜け、離れるとすぐに力が戻るという異様な状況でまともに戦えると思うほどには、生徒達は馬鹿ではなかった。

「こいつのスキルは珍しいが、『スキル無効化』って奴なら何度か見たことがある。スキルを使うのはいい。だが、スキルに頼り切るな。スキルに頼らず戦えるようになって、初めていっぱしの冒険者だ。よく覚えておけ」

 元S級の冒険者の言葉は、新人冒険者達に深く突き刺さった。そして、ひとまずはリョウジを相手に危なげなく勝てるぐらいになろうと、リョウジにとって一つもありがたくない決意が固められていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ