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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
三章 冒険者ギルドの講師 講習期間編
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講習開始のご挨拶

ちょっと前の章の名前変えて、ここから新しい章にしました

 その日は良く晴れており、新たな門出に相応しいと言えるような日だった。

 気温は高くも低くもなく、日差しは柔らかで肌を焼くような不快感もない。空には雲が適度に浮かび、大地を程よく温めている。

 そんな中、9人の若者が冒険者ギルドへと向かっていた。ある者は期待に満ちた顔で、ある者は不安そうに、またある者は不機嫌そうに、それぞれギルドへと歩を進める。

「本日から講習を受ける方ですね、お待ちしてました。こちらにお名前を記入して、二階の会議室へどうぞ」

 ギルドの受付では、アイシャがとびきりの営業スマイルで対応し、新人冒険者達を二階へと案内している。案内された会議室内には、最低限の机と椅子が置いてあり、一番後ろの席には何とギルドマスターが陣取っていた。

「おう、待ってたぜ。椅子も机も人数分しかねえから、好きなところ座ってくれや」

 まさかいきなりギルドマスターに会うとは誰も思っておらず、新人達はガチガチに緊張し、後ろを振り返りつつ席へと座っていく。

「な、なあ……ギルドマスターって、こんなあっさり会えるもの?」

「普通はないでしょ、そんなこと……噂じゃ、この講習なんての考えたのが、ギルドマスターだって話よ」

「マジかよ、俺10日間も待たされたから文句言ってやろうと思ってたのによ……ギルドマスター相手じゃ、ちょっと言い辛いよな……」

 ひそひそとそんな話をしていると、彼等の前に一人の中年男性と、幼い男児が現れた。子供の手をしっかり握っているところを見ると、恐らくは親子なのだろうと想像がついた。

「えーっと、皆さん集まりましたか?1、2、3……ああ、全員いますね。では、まず私から自己紹介を」

 そう言って、リョウジは軽く頭を下げた。

「私はリョウジと言います。こっちは息子のコウタ。諸事情あって、この子は常に私と一緒にいますが、気にしないでください」

 随分無茶なお願いをするなと、その場にいた全員が頭の中で思っていた。

「今回、私は皆さんの講師を務めます。一ヶ月間のお付き合いですが、よろしくお願いしますね」

 丁寧な口調に、どうやら講習のために雇われた教師か何かなのだろうと、全員がそう思っていたのだが、直後に本人の口から爆弾発言が飛び出した。

「ちなみに講師と言っても、実は私も皆さんと同じく、冒険者志望の一人です。なので講師ではありつつも、皆さんと一緒に勉強をする立場でもあるので、よろしくお願いします」

「はぁ!?どういうことだよ!?つーかおっさん、そんな歳で冒険者志望!?マジかよ!?」

 思わずと言った感じで、新人の一人がそう言い放つ。しかしリョウジは気にする風もなく、にこやかに受け流した。

「これも諸事情あって、やむにやまれず冒険者になる、というところです。ただ、伊達に歳は食ってないので、座学では講師としてお付き合いしていきます。実技では同期ですので、お手柔らかに」

 どんな事情だ、なぜ冒険者を目指す、誰か突っ込め、と様々な思考が渦巻く中、リョウジは手を振り払おうとするコウタを宥めつつ、書類の束を取り出した。

「さて、私に関してはこんなところで……コウタ、もうちょっと待って……えー、講習を受けるに当たり、まずはこちらを読んでサインを頂けますか。それをもって、講習を受ける意思があると見なしますので」

 言いながら、リョウジは順番に書類の束を渡していく。ざっと読む限りでは、それは講習に当たっての注意が主な内容となっており、注意に従わなければ退室してもらうなどといった内容が書かれていた。

 カリカリと、ペンを走らせる音が室内に響く。ほとんどの者がさっさとサインをする中で、一人は難しい顔をしてウンウン唸っており、さらに別の二人は険しい顔でそれを読んでいる。

「……そちらの貴方、どうしました?」

「うーん……これ、本当にサインしなきゃダメなんですか?これは、ちょっと……うぅ~ん……」

「サインをして頂くことで、講習を受ける意思があると見なしますので、どうぞお願いします」

「うぅ……しょうがないかぁ……」

 唸っていた新人が渋々サインを始めた時、険しい顔で書類を読んでいたうちの一人がガタッと音を立てて立ち上がった。

「こんなの、サインできるわけない!あんたふざけてんのか!?」

「いえ、大真面目です。ですが、いいんですか?サインしなければ、講習を受ける意思があるとは見なしませんが?」

 リョウジの言葉に、まだあどけなさすら残る男は顔を真っ赤にして怒り出した。

「ふざけんな!こんなの、ギルドで出していいのかよ!?ギルドマスター!あんたもこれに何にも言わなかったのか!?」

 一体何をわめいているのかと、周りの者はその男を睨みつけていたが、ギルドマスターはむしろ、楽しげな笑みすら浮かべていた。そしてリョウジは、サインが終わった書類を回収して回っている。

「では、貴方は……いえ、貴方達は、サインはしないと言うんですね?」

「あったりまえだろ!ミラ、行こう!こんなところ、いる価値はない!」

 隣の女の手を引いて立ち上がらせようとしたところで、ギルドマスターが口を開いた。

「まあ待ちな坊主。なんでサインできねえのか、周りの奴に説明してやったらどうだ?」

「説明?そんなの、何で僕がする必要あるんだ!?大体、よく読めばすぐわかるだろこんなの!」

「そう、すぐわかるんだよ。『ちゃんと読めば』、な」

 その言葉に、周囲の者達は慌てて書類を読み直そうとするも、それは既にリョウジが回収済みである。ほぼ全員に困惑の顔が浮かんだところで、リョウジが口を開いた。

「さて、では改めて……えっと、貴方はラルフさんと、ミラさんですね?ではお二人はそのままでいいので、先程迷っていたウィルさん。貴方はなぜサインを迷っていたのですか?」

 問いかけられたウィルは、周囲をきょろきょろ見つつ、何とか口を開いた。

「え、えっと……その、なんか、講師の言うことに全面服従とか、拒否権ないとか、そんな内容がいっぱいあったから……」

「はぁ!?ちょっと待てよ、何だそりゃ!?そんなんだってわかってたらサインなんかしねえよ!!」

「ふざけるな!詐欺だろそんなん!」

 新人達は口々に不満を吐き出すが、リョウジは笑顔すら浮かべて言い放った。

「でも、きちんと読んでサインしたんですよね?私はちゃんと言いましたよ?『こちらを読んでサインを頂けますか』と。なのになぜ、内容を把握していない人がいるんですか?」

「ぐっ……け、けどよ!ギルドがそんなあくどい内容の契約書作るなんて、誰も思わねえだろ!?」

「誰も思わないから、読まずに契約書にサインをしても良いと?誰も思わないから、読まずにしたサインは無効だと?私はきちんと、読むように言ったはずですが?」

「こ、このおっさんがっ……!」

 新人の一人が立ち上がりかけたところで、先にギルドマスターが席を立ち、周囲に凄まじい威圧感を放った。

「黙れ、ガキ。てめえで読んで、てめえでサインしたんだ。どんなあくどい内容であれ、契約は有効だぞ」

「う……!」

 このままだと、のっけから殺伐とした雰囲気になるなあと、リョウジは呑気に考えていた。なので、そろそろネタばらしをしようと、ギルドマスターに手で合図を送る。

「さて、まあ散々煽りましたが、実際これ、あくどい作りなんですよ。皆さんはたぶん、一枚目だけ読んで『あとは同じような内容だろうな』って思ったんだと思いますが、これ二枚目の十行目から不穏な内容になってるんですよ。あ、ラルフさんとミラさん、他の人に見せてあげてください」

 リョウジに言われ、二人は周囲の者に書類を見せる。一枚目は非常に細かい字で大量に、何の変哲も面白みもない注意事項だけが並んでおり、二枚目も十行目までは同じような感じの注意が並んでいる。

「細かーい文字がいっぱいで、うんざりしてきて読み飛ばしたくなるところで、こういう文章入れてあるんです。あと、普通の文章は気持ち字が大きくて、やばい内容は字が小さいの、わかります?」

「……あ、ほんとだ。うえぇ、これ流し読みするとやばい内容が目に入らないよぉ」

「先程誰かが言いましたが、実際これも詐欺の手口の一つなんですよ。サインを迷ったウィルさん、貴方は内容を把握していながら、なぜサインをしてしまったんですか?」

 リョウジが訪ねると、ウィルは小さくなりながら答えた。

「えっと、だって、サインしないと講習受けられないと思ったから……講習受けないと、冒険者になれないし……」

「これにサインしてしまうと、結局冒険者にはなれませんよ。身ぐるみ剥がされて奴隷落ち、が関の山ですね」

「でもでも、ギルドでそんなことするわけが……」

「その思考が危険なんです。信頼がある奴だから大丈夫だろう、良い人そうだから問題ないだろう……もし、ギルドマスターと私が個人的な繋がりがあって、新人冒険者を奴隷にしようと画策してたら、どうなってました?そんなことするわけがないと思う人もいるでしょうけど、あ、コウタちょい待ち……待って、ほんと待って、今大切な話してるの……」

 どうやら退屈してきたらしいコウタがリョウジの腕を引っ張り、リョウジは必死でそれを宥めている。若干緊張感が抜けてしまったものの、リョウジは何とか持ち直す。

「失礼しました。たとえばギルドマスターがお金に困っていて、私がこれを儲け話として持ち掛けていたとしたら?魔が差す、ということは誰にも起こり得ます。だから、絶対安全、ということはないのだと、皆さん心に刻んでおいてください」

 言いたいことは各自色々あったが、自分達が奴隷寸前まで行っていたのだと思うと、背筋に冷たいものが走った。そのため、黙ってリョウジの話を聞いている。

「ギルドマスター曰く、こういった話は珍しくないそうです。だからこそ、私の講習では、主に自分の身を守る術を身に付けてもらいます。文章の読み方や書き方、計算の仕方など、そういったことを主に学んでもらいますので、今回みたいな事態にならないためにも、皆さんよろしくお願いします」

 にこやかに告げるリョウジに、誰も何も言えなかった。冷静になって考えれば考えるほど、今の状況がどれほど危険なものだったのか、それがわかってしまったためだ。そんな彼等に追い打ちをかけるように、ギルドマスターが口を開く。

「名前書いたお前等、これが魔法契約じゃなかったことに感謝するんだな。もし魔法契約を使われてたら、そいつ、リョウジに突っかかった奴等全員、死んでた可能性すらあるからな」

「……契約って、怖えな……」

 その言葉に、新人全員が黙って頷くのだった。

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