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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
序章 最強の息子
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S級冒険者リョウジと、その息子コウタ

長いお付き合いになると思います。気長によろしくお願いします。

 左右に並び立つのは、百を超える近衛兵。

 謁見の間にて片膝を付き、頭を垂れるのは、誰がどう見ても平民の、しかし冒険者と呼ばれる男。歳は40に近い、冒険者としてはとうが立ったといえる風貌である。そして、傍らには小さな男児が立っている。

 そんな二人を睥睨するのは、初老に差し掛かった国王である。その視線は侮蔑と威圧を帯び、男を真っ直ぐに射抜く。

「そなたが、かの有名な『子連れ狼』のリョウジか」

「はい、間違いございません」

 視線と同じく、威圧するような口調にも怯むことなく、リョウジは気負いなく答える。

「噂は聞いておる。ドラゴンを下し、デーモンウルフの群れを手懐け、邪教団を壊滅させた男であるとな」

「それはあくまで噂です。確かに私は討伐に参加――」

「あーでぃり!えりでり!ありででりだり!」

 リョウジ以上に何にも構わない様子で、男児が訳のわからない言葉で歌い出す。さすがに少々焦った様子で、リョウジが声をかける。

「……コウタ、やめなさい。今お父さん大事な話してるからね」

「えいー、だり、だり!」

 コウタは掴まれた手を嫌そうに振り払おうとするが、リョウジはその手をしっかりと握り離さない。

「ええと……とにかく、噂が独り歩きしているだけで、私の功績ではありません」

「ふん、嘘を申すな。それらの依頼で――」

「だり!ばーとぅん!」

「……それはそうと貴様、躾の一つもできんのか?」

「できないとは申しませんが、この子に関しては不可能です」

 かなり焦った様子で何とかコウタを抱き込み、リョウジは必死にあやしつつ答える。もはや無礼を遥かに超えた状態ではあるが、国王は特大の顰め面を作るだけに留めている。

「ふん、なるほど。貴様の子は気違いか」

 その言葉に、リョウジの眉がピクリと動く。しかしすぐに深呼吸をすると、再び元の調子に戻る。

「……そうとも言われます。この通り、言葉も空気も理解できない子ですので、ご容赦いただけますと幸いです」

「許してやるとも。貴様がフォーゼルとの戦争に参加するならば、な」

 国王の言葉に、今度はリョウジが渋面を浮かべる。

「隣国フォーゼルとは、友好的とは言えないまでも、戦争を起こすような関係ではなかったと思いましたが……」

「勝てない戦争、消耗の大きな戦争ならば、する価値はない。しかし確実に勝てる戦争ならば、する価値は十分にある」

 国王は下卑た笑みを浮かべ、リョウジを見つめる。

「貴様の力があれば、フォーゼルなど敵ではあるまい。兵の消耗も抑えられ、彼の国の鉄資源が手に入る。しない理由があるまい?」

「……私が断ったら?」

「これは依頼ではない、命令だ。聞けぬと言うなら……」

 国王が手を上げて合図をすると、近衛兵達が一斉に剣を抜いた。

「ここで、その無礼な子供諸共、死んでもらうだけだ」

 周囲を見回し、リョウジは深く息を吐く。その額には冷や汗が浮かび、視線は逃げ場を探すように忙しなく動く。

「さあ、誓え。この儂の元で戦うと。そして未来永劫、この国に尽くすとな」

「ふえ……あいえあでぃあ!」

 不穏な空気を察したのか、コウタはリョウジの首に縋り付く。その背中をやんわりと撫でつつ、リョウジは震える体を深呼吸で鎮める。

「……お断りします。先程も述べた通り、私にはそこまでの力はありません。それに、侵略戦争には手を貸さないと決めていますので」

「そうか。ならばここで死ね。武器も防具もない貴様が、我が国の精鋭相手にどこまで戦えるかな?」

 周囲の近衛兵が、二人目掛けて一斉に斬りかかる。リョウジはコウタをしっかり抱き寄せると、一番近くにいた近衛兵の足元へ滑り込み、股下を潜って反対側に逃れる。

 しかし、そこへさらに三人の近衛兵が襲いかかる。一人目の剣は見切ってかわし、二人目の剣は下がってかわすが、後ろから来た三人目の剣は躱しきれず、とっさに上げた腕を浅く切り裂かれた。

「ぐっ!くそ、痛ってぇ……!」

「おとた!あいえりあ!」

「コウタ、大丈夫、大丈夫だからっ……!」

 続けざまに振られた剣を、下から蹴り上げて防ぐ。だがその時には、初めに躱した近衛兵が距離を詰めていた。

「ちょこまか動くな!」

「ぐあっ!」

 軸足に振られた剣は躱せず、足をやや深く斬られた。リョウジはバランスを崩して転倒し、血が宙を舞う。

 その血が、コウタの手に飛んだ。付いた血を見、リョウジの切られた傷を見、そしてコウタの表情が曇った。

「あ、待てコウタ!お父さんは大丈夫っ……!」

「これで終わりだ」

 曇った表情のまま、コウタはリョウジの手を振り払うと、剣を振り上げる近衛兵に視線を向け、指で×を作った。

「だり!ばとぅん!」

 直後、音が消えた。大量にいた近衛兵の姿は一つもなく、広い謁見の間にいるのは国王とリョウジ、コウタの三人だけだった。

「殺……いや、儂は誰に命令を……?近衛兵……この国に近衛兵など……?」

 混乱の極致にいる国王を見つめ、リョウジは深いため息をついた。

「いや、合ってるよ。あんたは確かに、百を超える近衛兵に対して、俺を殺せと命令した」

「なっ……貴様、儂に対してそのような無礼な口をっ……!」

 その時、国王は気づいた。リョウジの顔に浮かんでいる表情は、勝ち誇ったものでも嘲るものでもなく、深い同情だった。

「もう手遅れなんだよ。あんたが命令して、近衛兵が大声出して、血まで飛んできて、この子が不快に思った。いなくなってほしいって思うぐらいに」

「そ、その子供が何だというのだ!?」

「ドラゴンを殺したのも、デーモンウルフを飼い犬みたいに変えたのも、邪教集団を消し去ったのも、そして近衛兵を『いなかったことにした』のも……俺じゃなくて、全部息子がやったことなんだよ」

 そのコウタは、ムッとしたような表情を浮かべながら国王に迫る。

「ひ、ひぃっ!」

 国王は腰を抜かし、必死に後ずさるが、コウタは構わずに迫る。

「こ、こいつをどうにかしろ!命令だ!こいつを近づけるな!た、助けろ!助けてくれ!」

「無理だ。どうにかできるんだったら、とっくの昔にどうにかしてる」

 国王の目の前に立ち、コウタは指ではなく、腕全体を使って×を作った。

「ばーとぅん!」


 全てが消え去った後、リョウジとコウタは謁見の間を出た。すると、そこに一人の兵士が通りかかった。

「おや、見学の方でした……よね?」

「ん……ああ、そうですよ」

「ですよね!申し訳ないです、少しぼーっとしてしまって。お預かりしているお荷物も、貴方の物でしたよね」

「ええ。謁見の間に入るに当たって、やっぱり雰囲気は出したいですから」

 その言葉に、兵士はどこかホッとしたような笑顔を見せた。

「しかし、我が国ながら変わってますよねえ。王もいないのに、こんな立派なお城があるんですから。城を警備するための兵士は、他の国の城と変わりないぐらいいますしねえ」

「ええ、まったくですね。でもおかげで、謁見の間なんて普通は入れないところに入れるんですから、私からすれば感謝ですよ」

 国王も近衛兵も、存在そのものがきれいに消え去っていた。それを理解しているリョウジは、状況に合わせて話をする。もう何度かやったことがあるため、戸惑いも驚きもない。

 詰め所で荷物を受け取り、観光名所と化した城を出る。ホッとすると同時に、近衛兵に切られた傷が痛み、リョウジは顔をしかめた。

「一応見とくか。ステータス オープン、リョウジ、コウタ」

 リョウジが声を出すと、視界の隅にステータスが書かれたウィンドウが開く。それを確認し、リョウジはホッと息をついた。

「さすがに毒は使ってないか。ま、近衛兵だしな」

 その時、コウタがリョウジの腕を引っ張り始めた。

「あーでっら。あんあ」

「だーめ、お店はここに来る前に行ったでしょ?」

「えいあ!えいー、あー!あー!」

 コウタはリョウジの腕を全身で引っ張るが、慣れているリョウジはびくともしない。あまりに動かないリョウジに、コウタは顔を顰め、指で×を作った。

「ばとぅん!」

「バツ、じゃないの。ほら、行くよ」

 そうして腕を取られて歩き出すと、コウタは渋々といった様子でそれに従う。

 リョウジの視界の隅にあるステータスウィンドウは、まだ開かれている。そこにはコウタのステータスも表示されているが、二人の力や素早さなどの項目は、全てが不明扱い。職業には、二人とも『異世界人』と書かれている。

 そして、その一番下には固有スキルという欄がある。リョウジには『治外法権』という文字が表示され、コウタはそこに『ワールドマスター』という文字があった。

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