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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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「ガッハッハッハ! すまなかったな、オキナガよ!」


 あれからこのえの命により土下座を経た王樹。今は沖長を客室へと招いて対面していた。

 ちなみにこのえと千疋もこの場にいる。


 どうやらこのえから沖長という少年が訪問することは、この父親には伝わっていたようだが、沖長の訪問直後には仕事で外に出ていたらしい。

 それで帰宅後すぐにあの離れへとやってきたというわけだ。


「しかし改めて詳しく聞かせてほしいんだがなぁ、千疋よ」

「なぁに、この方こそ我が主に相応しいと長年の勘が囁いたということじゃ」

「長年とは……いや、お前の場合は納得する理由にもなるか」


 どうやら千疋の抱えているものを、この王樹もまた知っているようだ。


「だがお前はさっきも言ったが俺の娘同然だ。いきなり見知らぬ坊主を主にしたとあっちゃ、はいそうですかって黙ってられるわけもあるまい」


 まあ保護者としての立場があるなら当然だろう。


「それにオキナガ……おめえさんは納得してるのか?」

「気迫に負けたというところですね」

「気迫だと?」

「それこそ長年培われたであろう有無を言わさぬような威圧感で」

「ガッハッハッハ! なるほど、女にゃ弱いわけか! 情けねえなぁ!」

「それは……お母様の尻に敷かれているお父様が……言えないセリフ」


 このえの痛烈な攻撃に「ぐふっ!?」と胸を抑える王樹。どうやらどこの世界でも夫は妻には勝てないものらしい。


(うちの親父だってそうだしなぁ。まあキレた母さんマジ怖えし)


 それに家庭円満の秘訣は、妻や娘には逆らわないことというのはよく聞く話でもある。


「けどなぁ、千疋。おめえさんが主を求めてるってのは知ってるが、確かその……」


 チラリと沖長に視線を向けてくる。その真意を察したのか千疋が、


「ああ、大丈夫じゃぞ。主様はワシのすべてをご存じゆえ」


 と口添えし、またも王樹を驚かせていた。


「このえが今日、千疋の知り合いを招くって話は聞いてたけどな。まさか千疋がそこまで信頼してる奴がいるとは……一体どこで知り合った? それだけ親密なら、もっと前からの関係なんだろ?」

「いいや、出会ったのはつい最近じゃぞ」

「はあ? つ、つい最近でおめえ……すべてを託せるって判断しちまったのか?」


 千疋が「そうじゃ」と事も無げに言うので、王樹はいまだに信じられない様子で「何でまた……?」と追及する。


「フフン、ワシと主様は言うなれば運命の出会いを果たしただけじゃ。出会うべくして出会い、結果的に今に至るというわけじゃな!」


 まるで誇らしげに薄い胸を張る。何とも理解しがたい言葉を受け、王樹が助けを求めるようにこのえを見た。


「……諦めて。千が……決めたことだもの」

「いや、だがよぉ……」

「それに……わたしも彼なら信用できると……判断したわ」

「っ……このえまでも、か。…………はぁぁぁぁ」


 とてつもなく長い溜息のあとに王樹がそのまま続ける。


「まあ二人がそこまで認める相手を、俺が一方的に遠ざけるのは筋が通らねえか。けど……おい、オキナガ」

「何でしょうか?」

「おめえさんは、千疋の過去を聞いてどう思った?」

「そうですね。もったいない……と」

「もったいない……か。その理由は?」

「呪いなんていう訳の分からないもので、未来永劫苦しめられるなんて僕だったら耐えられず、とっくの昔に心が壊れてるでしょう。けれど彼女は違う。心が痛んで、苦しみ、嘆き、やり切れなくても、それでもこうして前を向いてる。それは間違いなく彼女の心が強いから。いや、強くあろうとしているから」

「主様……」

「僕は……強くあろうとしている人を尊敬するし、自分もそうありたいと思っています。だからそんな十鞍千疋という存在が、このまま報われずに朽ちてしまうのがもったいないって思ったんです」


 確かに今の十鞍千疋は、いまだに心を壊さずに立ち向かう意志がある。しかしそれも次はどうなるか分からない。救いなど存在しないと認めてしまい心が砕ける可能性だってあるのだ。


(多分今の十鞍が踏ん張っていられるのは、壬生島がいるからってのも大きな要因になっていると思うけどな)


 原作ではどうなっているのか分からないが、それでもこのえの存在は、千疋に祝福の未来を予感させるほど大きいもののはず。だから諦められずに立っていられる。


 人は一人ではいずれ倒れてしまう。しかし誰から傍にいれば、必ず支えになってくれるのだ。たとえどんな悲劇が襲い掛かろうと、仲間がいれば乗り越えられると沖長は信じているから。


「…………おめえさん、本当に小学生か?」


 疑惑の視線が射抜いてくる。確かに子供らしくない発言だったろう。大人にとっては十分に疑う理由にはなる。


「もしかしておめえさんも、千疋の『継ぎ憶』みてえな力があるんじゃねえか?」

「幸い両親の教育が高等だったので。それにそちらのお嬢さんも年齢に見合わず大人っぽいと思われますが?」

「む……そう言われちまうと、確かにうちの娘どもは揃って大人びた考えをするけどよぉ」


 千疋は言わずもがなだが、このえは転生者なので当然だ。しかし父にも転生者であることは伝えていないみたいだ。


「このえ、千疋、コイツもおめえらと同じってわけか?」


 その問いに二人揃ってしっかりと頷く。

 それを見た王樹は、腕を組んでしばらく考え込む。


「まあ、類は友を呼ぶってやつかもなぁ。……分かった。けど、一つだけ言っておくことがある」


 険しい顔つきを浮かべ凄みを増す。鋭い眼光で沖長を見つめて王樹は言葉を発する。


「うちの娘たちを泣かすような真似だけはするんじゃねえぞ?」

「……善処します」

「政治家かおめえさんは……ったく、まあ言質は取ったぜ。あとは若いもんだけで好きにやりな」


 そう言うと、座布団から立ち上がり部屋を出て行った。

 どうやら大事になることもなく親との面談が終わったようで沖長はホッと息を吐いた。






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