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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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「未来の選択肢の一つ……けど、その選択肢が正しいって分かってたら?」

「正しい? それこそ間違ってる解釈だと思うな」

「間違ってる解釈?」

「うん。何でその未来が……いいや、その未来だけが正しいだなんて言えるんだい?」

「! ……それは」

「たとえば俺が明日事故に遭って死ぬ運命として」


 いきなり物騒なことを言い始めたので、思わず息を呑んでしまった。


「それを最初から沖長くんは何らかの方法で予知したとしよう。そして俺が死ぬ運命が正しいって〝誰かが認識〟していたとして、それが君にとって正しいことかい?」


 軽く頭を殴られたかのような衝撃を受けた。 


「…………もう一つ、俺は事故に遭うけれど、重傷を負いつつもかろうじて命には別状ない。そんな未来を知った君は、そのまま黙って放置するか否か」


 その例えは、ナクルの今後の未来を想定したかのようなものだった。

 ナクルをこのまま放置しても死にはしない……死にはしないが、重傷を負うだろうし、辛く悲しい現実が襲い掛かる。


「君が俺の人生に介入することで、俺は事故に遭わないかもしれない。遭っても、軽症で済むかもしれない。あるいはより悪い未来を掴んでしまうかもしれない」

「…………」

「けれど、俺なら黙っていることなんてできないな」

「! ……どうしてですか?」

「それが俺にとっての〝正しいこと〟だからさ」

「修一郎さんにとっての……正しいこと?」

「いろいろ言ってきたけど、要は自分がしたいと思うことをするべきだってことさ」

「でもそれは……」

「うん。自分で選んだ道を歩く。それは言うよりも難しいものさ。自分で選ぶということは、その先に待つ未来に責任を負わなければならないってことだからね」


 自分が介入したことにより変革した未来。それがどんな悲劇をもたらしたとしても、決して逃げずに向き合うことが必要になる。


「けれど何もせずにただ黙って誰かが傷つくのを俺は耐えられないんだ。たとえ邪魔だって言われても、拒絶されても、自分が納得できるまで動く。それが俺の〝正しい生き方〟ってやつだよ」

「だから……戦う、ですか?」


 修一郎は穏やかな笑みを浮かべながら力強く頷いた。その瞳には一片の曇りもない。きっと彼はそうして生きてきたのだ。そのせいで間違った未来を掴んだことがあるかもしれない。誰かを傷つけ死なせてしまったこともあるかもしれない。


 それでも確かに彼は、その選択で誰かを救ってきたのだろう。故に自分を信じて後悔しない選択をする。


「まあ、ちょっと沖長くんには難しい話だったかもしれないけどね」

「いいえ。とても参考になりました。ありがとうございます」


 思わず湯中から立ち上がり一礼をすると、修一郎も「大げさだよ」と笑う。そしてそのまま沖長の頭に手を置く。


「君が何に悩んでいるのか分からないけれど、何もかもを一人で背負い込むことはないんだよ。誰かに頼るのは決して悪いことじゃない。だから君には後悔のない道を進んでほしい」


 そう言ったあと、「少しのぼせたかもね」と言いながら彼は風呂から出て行った。

 一人残された沖長は、修一郎から聞かされた見解について思案する。


(運命は……未来の選択肢の一つ)


 そう言われてみればそうだ。沖長が聞かされた原作の流れ。それだって言ってみれば作者が描いたルートの一つでしかない。そしてそれは必ずしも正しいとはいえない。


 確かに原作は大切だと言う者たちにとっては、それは正しいルートであろう。その物語こそ、彼らが心を掴まれた理由なのだから。

 けれど……。


(ここはもう俺にとっては現実だ)


 たとえ作者が描いた原作という流れがあるとしても、それは確かに未来の一つでしかない。修一郎の言うように、未来を知っている者の行動でいかようにも変革は有り得る。 


(それにナクルたちは、俺の前で確かに生きてるんだ)


 嬉しいことがあれば笑い、悲しいことがあれば泣き、楽しいことがあれば喜ぶ。そしてそれを共有することができる。

 もうそれはアニメでもゲームでもなく、現実世界で起きる普通のことだ。そしてそんな彼女が、いずれ悲劇に見舞われる可能性が高い。


『要は自分がしたいと思うことをするべきだってことさ』


 修一郎の言葉が脳裏を巡った。


「……そう、だよな。黙って原作を再現するなんて有り得ないよな」


 何故ならそれでナクルが傷つくのだ。それが分かっていて介入しないなんて、そんなこと兄貴分である自分がしていいことではない。

 自分のしたいことをすればいいのだ。それで悲劇の運命を少しでも変えられる可能性があるのならば。


「あ~! 何をごちゃごちゃ悩んでたんだろ、俺ぇ~」


 原作にこだわり過ぎた。そもそも沖長にとっては、ナクルの物語なんて知らなかったし、知ったところで、それこそ知ったことではない。

 確かに自分が介入することにより、より悪い未来に繋がってしまう可能性はあるが、それでも黙って見過ごすなんて自分が我慢できない。


 吹っ切れた沖長は、軽く身体をシャワーで流してから風呂場を後にした。


「――オキくんッス!」


 するとそのタイミングで抱き着いてきたのはナクルだった。

 沖長を見上げてくる彼女の笑顔。思わず愛しくなり撫でてやると、さらにその顔が蕩けたようになる。


(そうだ。何も悩む必要なんてないよな。この笑顔を守ってやりたいってだけで良かったんだ)


 幸い自分には戦える力がある。それはまだか細いものかもしれないけれど、もし彼女が戦いを選んだ時に傍にいられるだけの存在になりたい。

 そのためにはもっと強くなる必要があるし……。


(この《アイテムボックス》も、もっと活用できるようにしなきゃな)


 使い方にとってはジョーカーにも成り得るこの力。彼女を守るためにはいくらでも行使するつもりだ。


「……ナクル」

「んにゃ? なんッスか?」


 少し寝ぼけたような表情を見せているナクルに、


「お前は絶対に俺が守るからな」


 その力強い宣言に、一瞬キョトンとしたナクルだったが、すぐに「はいッス!」と嬉しそうに返事をしたのであった。





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