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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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「っ……痛てーな。いきなり何しやがんだよ、トキナ!」


 水浸しのまま立ち上がり、吊り上がった眼をさらに吊り上げて怒鳴る男性。


「大ちゃんが子供を脅してたからじゃない!」

「脅してねえ! ちょっと話してただけだっつーの!」

「どーせその見た目とか言葉遣いで誤解を招いたんでしょ! だからいつも言ってるじゃない! もっと身なりを整えてお客様にも丁寧な対応をしなさいって!」

「うっせーな! 着飾るのは女の特権だろ! 男は着の身着のままで自由なのが一番良いんだよ!」

「そんなことだからこの前、せっかく来てくれた一見さんにも逃げられたんでしょ!」

「はんっ! 俺を見ただけで逃げるような根性無しなんて用はねえんだよ!」

「こちとら客商売だって何度も言ってんでしょうが!」


 今度は手に持ったお玉を投げつけるが、さすがに男性は回避する。しかしそのまま真っ直ぐ飛んだ先にあった岩を砕いた。


(え……何その威力……!?)


 凡そ一般人には出せないであろうその威力に戦慄を覚えた。あんなものが頭に当たったら普通死ぬ。というよりよくフライパンが後頭部に直撃して無事だなと、男性に対して人間なのかどうかついつい疑惑を持ってしまう。


「ちょ、お前! だから危ねえっての! こっちにゃガキもいんだぞ!」

「この私が間違って当てるわけないでしょ!」


 そう言いながら、今度はどこからか取り出したまな板や皿などを投擲し始める。


(何で全部キッチングッズなんだ……?)


 やっていることはスゴイのだが、投げているモノがモノだけにシュール過ぎる。

 するとその時、男性が回避した皿が床に突き刺さった直後、そこにあった小石が弾かれこちらへと向かってきた。


(――ヤバッ!?)


 このまま避けたら後ろのナクルに当たる。咄嗟に《アイテムボックス》で回収するか、《千本》で弾くか、その一瞬の躊躇に陥っていたその時、パシッと小石を手で掴んで守ってくれた人物がいた。


 バトルに夢中になっていた二人もまた、登場した人物を見て顔を青ざめる。

 そこにいたのは、修一郎と一緒にいるはずのユキナだった。彼女が沖長たちに向かって「怪我はありませんか?」と尋ねてきたので「はい」と返事をすると、そのまま顔をトキナたちに向ける。


「さて――覚悟はできているのかしら、二人とも?」

「っ!? ね、姉さん! お、おおおお落ち着いてっ! ほ、ほら、大ちゃんも早く謝って!」

「ばっ、そもそもお前が攻撃したのが悪かったんだろうが!」

「あーそんなこと言うの! 大ちゃんが素直に言うことを聞いてくれたら何も問題なかったんでしょ!」

「いーやお前が!」

「大ちゃんが!」


 またも言い合いに発展しそうになったが……。


「――――へぇ」


 その声音は大きなものではなかった。それにもかかわらず、その音に込められた憤怒と威圧は極限まで肥大化し、二人を瞬時に黙らせたのである。


「この期に及んでいまだ反省の色がない。ふふふ…………これは仕置きの甲斐がありそうですね」


 こちらに向けられているわけでもないのに、沖長が思わず腰を抜かしてしまいそうになるほどの威圧感だ。


「ちっ、こうなったら一旦退いて――」

「――どこに行こうというのですか?」


 一瞬で男性の背後をついたユキナは、それこそいつの間にか組紐のようなもので、男性をあっという間に拘束してしまった。


「次は――トキナ、あなたですよ」

「ね、姉さん……ご、ごめんなさい……ゆ、許して……!?」

「ふふふ…………ダメ」

「いっやぁぁぁぁぁぁあああああああっ!?」


 それから二人はユキナによるキツイ折檻を受け、ボロボロの状態で地面の上に正座させられてさらに説教されている。


「やっぱりお母さんは強いッス!」


 今まで沖長の背に隠れていたナクルが、母の強さを見て目を輝かせている。この子も結構現金なものだ。

 そこへ「やれやれ」といった様子で修一郎が近づいてきた。


「どうやらまたやったようだね、あの二人は」

「師範? お疲れ様です!」

「はは、今は修一郎さんでいいよ、沖長くん」


 つい修練中の時の対応をしてしまっていた。


「えっと、あのお二人はいつもあんな感じなんですか? それよりもあの男の人は……?」

「あの二人は夫婦でね。ここを切り盛りしているんだよ。まあ互いに気が強いから、よくああやって衝突して、その度にトキナに叱られているけど」

「ご夫婦だったんですね」


 その可能性はあったが、確信がなかったので警戒していたのだ。


「そうだね。まだ紹介していないし……おーいユキナ、そろそろいいんじゃないかい?」


 修一郎の呼びかけに、ユキナもまた呆れた様子ではあるが説教を終えて二人をこの場に連れてきた。


「改めて紹介しようか。こちらはこの【温泉旅館・かごや亭】の女将である籠屋トキナで、さっきも聞いたと思うけどユキナの妹だよ。とはいっても大分歳は離れてるけどね」

「……修一郎さん?」

「おっと、ごめんごめん。そう怒らないでね」


 歳の話はやはり女性にとってタブーなのか、修一郎が慌てて謝罪をした。


「それでコイツはトキナの夫で、籠屋大悟。まあ見た目は獣みたいだけど、根は良い奴だから安心してくれ」

「おい、誰が獣だ誰が! 昔のてめえの方がよっぽど獣だったじゃねえか」

「お静かに、大悟さん?」


 そうユキナに注意され、「……ちっ」と不貞腐れたかのように顔を背ける。何だか大きな子供を見ているようで、先ほど感じていた警戒度は、現在ほぼゼロになってしまっていた。


「ここはこの二人だけで切り盛りしている旅館なんだよ。ナクルも沖長くんも、どうか仲良くしてやってほしい」


 するとトキナは朗らかな笑みを浮かべて「よろしくね!」と言うが、大悟は何も言わなかったので、トキナに脇腹を突かれてしばらく悶絶していたのであった。





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