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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 他の客がいないといっても、あまり勝手に動き回るのはどうか思ってナクルに注意をしようとするが、


「わぁ! オキくん、見て見て! 何か亀の人形があるッスよ! おっきくてカワイイッス!」


 こんなに喜んでいる姿を見ると、ついそれに水を差すのを躊躇ってしまう。

 ナクルは床に置かれた巨大な亀の置物を見てはしゃぎながら、顔をキョロキョロとさせて次に面白いものがないか探るのに忙しい様子。


「次はお庭に行くッスよ!」


 まあ怒られたらそれはそれで受け入れようと思いつつ、ナクルのあとをついて先ほど見た庭園へと出た。

 やはり思った通り、いやそれ以上に広い。燈篭や石畳の道など時代劇に出てくるような屋敷にいるような気分になってくる。


(映画の撮影とかでも使えそうだよなぁ)


 沖長は顔と視線を隈なく動かしながら、回収に利のありそうなものを探していると……。


「オキくん! 金魚! でっかい金魚がいるッスよ!」


 池を指してテンションを爆上げしているナクルに声を掛けられた。


「違うよ、ナクル。金魚じゃなくて錦鯉っていうんだ」

「へぇ、にしきごいッスか」

「高いものになると何千万以上もの値段になるらしいよ」

「ええっ!? この魚、そんなに高いスかっ!?」

「いや、この錦鯉が高いかどうかは分からないけど、高く取引される錦鯉が世の中にあるって話。多分身体の模様とか大きさとか、珍しい個体ほど高価なんだろうね」


 市場価格なんて興味ないので分からないが、前にテレビでそんな話をチラッと耳にしたことがあった。


「やっぱオキくんは物知りッス! じゃあアレも高いッスかね!」


 ナクルが指差した先にあったのは――。


(巨大な巻物…………の、石像? いや、何で?)


 池の奥に見えたのは一瞬墓石のように見えた、巻物を象った石の塊だった。

 ここから見るに、巻物には何か文字らしきものが掘ってあるが達筆過ぎて読めない。


「ん~何か書いてあるッスけど、何て読むんスかね?」


 ナクルも気になったようだが、まるで偉い書道家が書いたような文字なのでさっぱり分からない。



「――――〝忍揆〟って書いてあんだよ」



 不意に背後から聞こえた声に、沖長とナクルは同時にビクッとしてしまい反射的に身構えた。

 そこにいたのは修一郎と同年代くらいの男性だ。白と黒の縦縞模様の甚平を着用しており、その手には大きめのハサミを持っていたので警戒する。


(この人、まったく気配が無かったんだけど……?)


 これでもこの四年間、古武術を学んできた自負がある。気配を察知するような修練も行ってきたし、余程の手練れでない限り、黙って背後に立たれるなんてことはない。


 しかも沖長よりも敏感なはずのナクルさえ気づかないとは、まるで蔦絵や修一郎レベルの隠密度である。


「あー……やべ、そう警戒すんなっての。俺は別に怪しい者じゃねえしよぉ」


 と言われても、目つきも鋭く言葉遣いも乱暴なものを感じる。しかもいまだハサミを持ったまま、タバコを咥えながらの登場ということもあり信用度は低い。

 沖長の視線がハサミに向かったことに気づいたのか、「あー悪い悪い」と言いながら懐にしまった。


 それでもこちらの警戒度が弱まるわけではない。ナクルに至ってはいつの間にか沖長の背後に隠れてしまっているし。


「お前らぁ、修一郎んとこのガキだろ?」

「! ……師範をご存じなんですか?」

「ったりめえだ。アイツとは命懸けでやり合ったこともあるくれえだしな」


 その言葉でさらに強まった疑心。というよりも自分で怪しさを増長させるようなことを言う男性を見て、本当に誤解を解く気があるのか謎だ。


「あ、ヤベ、また余計なこと言っちまったかぁ」


 こちらの警戒度が強くなったのを察したのか、気まずそうに頭をボリボリとかき始める。


「とにかく俺はお前らに危害を加えるようなことはしねえよ」

「その証拠はないですよね? それ以上近づくと大声を上げますよ?」

「っ……かぁー、これだから都会のガキはめんどくせえんだよ。田舎のガキなんて、向こうからホイホイ寄ってくるってのによぉ」

「それはすみませんね。けれどこちらも身を守るために必要な行為ですので」


 自分一人ならともかく、後ろにはナクルがいるのだ。彼女を守るためにできることは全部しようと決めている。


 これが普通の一般人ならそれほど脅威と感じないし、これほどの対応はしないかもしれないが、相手がナクルの感知を抜けてくる相手なのだ。警戒を緩めることはできない。


「だーかーら! 俺は修一郎の知り合いだって言ってんだろうが!」

「お言葉を返すようですが、その証拠がないので信じられないと言ってるんです」

「だあもうマジでめんどくせーぞ、コイツッ! だから俺は――!?」


 一歩踏み出してきたので、沖長は懐から〝千本〟を取り出して構えた。それを見た男性は動きを止め、スッと真顔で目を細める。


「ほぅ、ガキのくせにいっちょ前にやる気か?」


 男性が面白いものを見つけたといった様子で口端を上げる。その人相の悪さは益々こちらの信用度を落としてきた。


「そっちがその気なら、軽く捻ってやぶへんっ!?」


 直後、バキッと乾いた音とともに男性がこちらの方へ飛んできて、そのまま池の方へダイブしてしまった。

 沖長もナクルも思わず呆気に取られつつも、池からうつ伏せで浮いてきた男性を見ると、彼の頭に刺さったフライパンを発見する。


「――――もう、大ちゃん! 何を人様の子供を怖がらせてるのよっ!」


 その声の主は――女将のトキナであった。




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