表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

258/258

257

「――ここが皇居、か」


 我が国の象徴である天皇が住まう場所。前世でも中に入ったことこそ無いが、概ね外観に違いは無いように思う。


(確か幕末頃まで徳川家の偉いさんが住んでいた江戸城の跡なんだよなぁ)


 つまりはかつて日本を統一し最大権力を有していた徳川家の象徴でもある場というわけだ。別に興味は無かったので、知っていることと言えばそれくらいだ。中で何が行われているのかなんてのも把握していない。


 ただ前世の時は、この周囲をランニングする人たちが大勢いて、それを皇居ランと呼んでいた。何でも約五キロメートルの道程で信号もないので走りやすく、ランナーの聖地になっているという話だ。

 しかしこうして見ると皇居を走っている人は見当たらない。


「あの、人気が少ないですけど、今日って何かあったりするんですか?」

「ん? 皇居の周りはいつもこんな感じだぞ」


 黒月から返ってきた言葉に思わず目を見張る。


(これが普通? 前世の時はかなりの人たちで賑わってたけど……まさか)


 もう一つ聞きたいこと。それは皇居の中に一般人が入れるのかどうか。しかしその質問に対し、黒月が溜息交じりで答える。


「そんなわけがないだろう。ここは天皇陛下のおられる場所なんだぞ。一般人なんておいそれと足を踏み入れることなどできはしない」


 とは言うものの、前世での皇居では、普通に一般人にも開放されていた気がする。もちろん重要な施設などもあるのか、見学の制限はかかっていたみたいだが。


(なるほどな。こういうところでも前世と違いは出てくるか)


 驚きはしたが、別に不思議だとは思えない。似ているとはいえ、ここは創作物語が舞台となっている世界なのだから。


(それに地下には公にできない存在もいるしな。だから余計に出入管理に神経を使ってるわけだ)


 国家として絶対的に守護すべき者たちが集っているのだ。天皇はもちろん、国家機密である占術師だ。他国のみならず、その存在が明るみに出れば狙って侵入してくることは間違いないだろうから。


(百パーセント当たる占いなんて、権力者とかには喉が出るほど欲しいはずだしなぁ)


 未来が分かれば国を富ませることも、逆に他国を脅かすことだってできるだろう。常に交渉などのイニシアティブも得られて優位になる。


「それで? ここからどうやって中に? まさか真正面から?」

「さすがにそれは無い。私ですら、許可が無ければ出入りすることすらできないのだからな。君みたいな部外者が一緒など、まず許可は下りん」

「じゃあどうやって? 壁とかをよじ登って……とか?」

「あちこちに監視カメラも仕掛けてあるし、そのようなことをすれば守護官たちが一斉に飛んでくる」

「監視カメラですか……。もしかして中にも?」

「当然。中の方がより厳重だ。常に見回りも行っているからな」

「ならバレないように入るなんて無理難題過ぎません?」


 どこぞの怪盗ではないのだから、見破れないほどの変装技術なんてものはない。それができれば高官とかを装うことも可能かもしれないが。


「それに君に会って頂きたい方がおられる場所には、何重もセキュリティを突破する必要があり、仮に総理でもその許可を得るのに数日はかかる」

「無理さが激しく増したんですけど……」


 一国の代表でもそれなのだから、まともな手段では今すぐ会うなんて夢のまた夢だろう。


「もしかしてここで数日間待つとか……勘弁してほしいんですけど」

「安心しろ。私が何も手立てがなく皇居の外に出るわけがない」


 そう言いながら自身の懐を探り、あるものを取り出した。


「……巻物?」


 懐に入る程度には小さいが、一見して忍者が扱うような巻物の形をしていた。そしてその巻物を広げた黒月は、そのまま地面にそっと置く。

 中はよく分からないミミズが這ったような文字と陣のようなものが描かれていた。すると黒月は、自分の指を噛んで血を流すと、その指を巻物に描かれた陣の中央に押し付けたのである。


「君、私の肩に手を置いてくれ」

「え? あ、はい。こう……ですか?」


 とりあえず言われた通りに手を置いた。


「よし。では――行くぞ!」


 直後、巻物に描かれた陣が光ったと思ったら、驚くことに沖長と黒月が二人揃って、巻物の中へと吸い込まれてしまった。

 そして気が付けば、周りの景色が先ほどと異なっていた。どうやらどこかの部屋のようだが、木造の物置小屋みたいに周囲に様々な物が収納されている。


「こ、ここは……?」

「ふむ。問題なく辿り着けたようだな」


 黒月の言葉を聞いてホッとする。いきなり知らない場所に来たが、ここが目的地で間違いないらしい。ということは……。


「ここって皇居の中……ってことですか?」

「そうだ。皇居の中でも秘中の秘。我が主がおわす聖域だ。もっとも主にとっては苦痛の籠でしかないだろうが」


 目元しか見えないが、黒月の瞳が悲し気に揺れるのを見た。彼女がその主を心から慕っていることが伝わってくる。


「あ、同じ巻物がありますね。もしかしてさっきの巻物とこの巻物が繋がっているとか?」

「……君は本当に子供なのか? 普通は突如居場所が変わったら慌てふためくと思うぞ。しかも冷静に分析までして…………年齢を誤魔化してないか?」

「い、いやぁ、好奇心の塊みたいな子供なんで。気になったら驚くよりも先に答えを知りたくなってしまうんですよ、ははは!」


 笑って誤魔化すが、黒月はジト目で睨んでくる。しかしすぐに大きな溜息とともに解説をしてくれた。


「本来は荷物などの輸送などで使う忍術の一種なのだが、これを我が一族は改良を重ね、人間でも運ぶことができるようにした。もっとも扱うには相応の力が必要になるが」

「なるほど。確かにこれなら大きな荷物を一瞬にして別の場所に運搬することができますね。しかも人間もとなると、完全にテレポートだ」


 是非ともこの巻物が欲しくなった。


「それほど便利なものじゃない。さっきも言ったが、扱うには相応の力を要求されるし、失敗すれば暴発してどことも知れぬ場所に飛ばされることだってある」


 それでも欲しいものは欲しい。何とか隙を見て回収できないものかと思っていたが、すぐに懐にしまってしまった。ついついガックリと肩を落とす。


「ではすぐに向かうぞ」

「黒月さんの主さんがいる場所に、ですか?」

「そうだ。謁見の間に案内しよう」


 そうして黒月の先導のもと、沖長は物置部屋を後にした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ