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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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(ある方? ある方って言うくらいだから、この人より立場がかなり上の人……だよな)


 仮に一般的な会社でいうところの上司ならば、第三者に対してへりくだった言い方ではなく、普通に苗字を呼び捨てるはず。もっともこの黒月と名乗った人物の身形からして、普通の会社に勤めているとは到底思えないが。


(まあ見た目なんて完全に忍者だし、普通に考えればこの人を雇ってる偉い人、もしくは主として仕えてるとか……いや、待てよ……クロツキって名乗ったよな?)


 これほど目立つ存在なのだから、原作でも登場人物として描かれている可能性が高い。そう思った直後に、羽竹からクロツキ……いや、黒月なる人物について以前に少し聞いていたことを思い出した。


(でも、もし俺が思った通りの人物なら、何でこんなとこに?)


 黒月という存在。それは守護忍という役目を、遥か昔から代々受け継いできた一族である。守護――誰を守るのかというと、この国にとって最も重要な任務を背負う人物。


 ――国家占術師。


 現在、その任を請け負っているのは、沖長も良く知る七宮蔦絵の双子の妹――天徒咲絵。

 彼女の存在は国家機密であり、皇居の地下に追い込まれるようにして住まわされている。その存在が公になれば、必ず彼女を狙う者たちが集まってくるからだ。


 百発百中の占術を行う咲絵を手に入れようとする者もそうだが、彼女の存在を疎ましく思う連中だって中にはいることだろう。とにかく秘匿しなければ、その身の安全が保障できないほどだ。

 故に常に咲絵の傍には守護忍と呼ばれる腕利きがいる。片時も離れることはなく、その命が尽きるまで忠誠を誓う。それがここにいる黒月だったはず。


(それなのに何で……?)


 いや、理由なら先ほど実際に聞いたから分かっている。分かっているだけに困惑してしまうのだ。何故なら黒月の目的が沖長であるから。

 当然面識は無い。皇居にも近づいたことすら無い。繋がりでいうなら、確かに咲絵の姉である蔦絵と親しくさせてもらっているが、蔦絵もまた咲絵とは連絡を取れない状態だというし、沖長の存在が知られるような理由が無いはず。


 それに何らかの手段で沖長の存在を聞いていたとしよう。だからといって、わざわざ会いにくるだろうか。さらに驚きなのは、どうも黒月の主らしき人物が、自分と会おうとしていること。益々意味が分からない。


(こんなことなら天徒咲絵や黒月について、もっと詳しい情報を聞いときゃ良かったな)


 原作でも、ナクルが彼女たちと接触するのはもっと後らしいので、今はまだ放置しておいて良いと判断していた。それは長門やこのえも同意見だった。

 現状で気にすべきことは他にもあったし、優先順位としては低かったから。それがいきなりの邂逅。沖長が戸惑ってしまうのは無理なかった。


(けど、幸いなことに敵意は無いみたいだから、できるだけ情報を)


 優先するのは何よりも情報。そう思い質問しようとするが、視界に夜風が映ったことで、彼女の身の安全を第一にしなければならないと判断する。


「……すみませんが、まずはこの人を介抱したいんですけど」


 そう提案すると、黒月もチラリと夜風を一瞥して溜息を吐く。


「……時間が無いのだが……仕方ないか」


 黒月が今もなお静かに横たわっている夜風に近づき、その身を優しく横抱きに持ち上げた。


「とりあえず家に送れば問題ないな?」

「え? あ、はい」

「この子の自宅は知っているか?」


 個人情報だし、怪しい人物でもあるので悩んだが、そもそも黒月なら調べようと思えばすぐに分かるはずだろうから沖長が案内することにした。


「できれば急ぎたい。背中に乗ってもらえるか?」

「大丈夫ですよ、自分で走れますから」

「しかし敵の攻撃をまともに受けていた。それに加えて、最後は無理に身体を動かしてまで攻撃をしたしな。普通なら立ち上がるだけでも困難なはずだ」


 黒月の言葉通り、ガラの攻撃を背中で受けた時は、激痛と衝撃で動けなかったが……。


「だから問題ないですってば。ほら」


 その場でジャンプしたり拳や蹴りを突き出してアピールすると、黒月は訝しむというより信じられないといった眼差しを向けてきた。


「……君はどういう身体をしているんだ?」

「まあ……ちょっと丈夫なだけですよ、あはは」


 実際のところ、まだ痛みは感じるものの、走れる程度には回復している様子。自分の身体が異常なくらい頑丈なのは理解している。それに加えて反則的な回復力を宿していることもだ。


 これは神からもらった〝丈夫な身体〟の恩恵なのは間違いないが、あれほどの威力のある攻撃を、無防備に背中に受けたにもかかわらず、こうして少し休んだだけで回復しているのだから自分でもおかしな体質だとは認知していた。


「それよりも急ぐんですよね?」

「! ……ああ。では案内を頼む」


 そう言われ、沖長が駆け出すと、黒月もまたその後についていく。

 夜風の自宅は、ここからそれほど離れていないので、そこそこの速度で走ったこともあり、五分程度で到着できた。


 しかし問題は、どうやって夜風を家の中に入れるかだ。素直にインターホンを鳴らしてもいいが、間違いなく何があったか尋ねられるだろうし、仮に銀河が出てきたらさらにトラブルが広がりそうだ。


「――少し待っていてくれ」


 何がベストか思案していると、突如黒月がそう口にしたら、軽々と塀を飛び越えて中へと入っていった。


「うわ、マジかよ……」


 不法侵入という言葉が脳裏を過ぎったのだが――。


「――待たせたな」

「えっ!?」


 気づけば傍に黒月が戻ってきていた。そしてその傍には夜風はいない。


「あ、あのぉ……夜風さんは?」

「問題ない。ちゃんと部屋に置いてきたからな」

「……どうやって家の中に?」

「忍びに不可能は無い」

「…………そうっすか」


 追及したところで複雑な気分になりそうなので止めておいた。それよりも夜風を無事に家に送り届けられたことを喜ぼう。


(けど、言い訳を考えとかなきゃなぁ)


 夜風の前で見せた武人としての動き。きっと彼女には有り得ない光景だったはずだ。この先、必ず今日のことを問い質してくるだろう。その時にどう弁舌を働かせるか備えておかないといけない。


「これで憂いは消えたな。では今度は、私の望みを聞いてもらおうか」





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