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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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「す……凄い……!」


 夜風のその瞳が向かう先には沖長がいる。

 まるでアニメや映画に出てくるような凄まじい戦闘。自分の勘違いではないというのであれば、沖長はまだ小学生で自分よりも四つも下だったはず。にもかかわらず大人ですら驚愕するであろう動きを先ほどから見せていた。


 もちろん彼が古武術を習っていることは知っている。知り合ってからもう結構経つのだ。それに沖長とは、個人的にも親密度の高い付き合いをしていると思っている。

 しかしながら武術を習っている小学生が、あれほどの動きができるのかと言われると、そんなことは有り得ないという常識くらいは持っていた。

 今も彼は、息も吐かさぬ連続攻撃で、襲撃者と攻防を繰り広げている。


(て、ていうか沖長ってば、あんなに強かったの……?)


 思えば、確かに彼は運動神経は良かった。運動会でも活躍していたし、体育の授業も常にトップの成績を収めていた。ただその結果は、あくまでも子供の域は出ていなかったと思う。


 もっともこれだけの動きができるなら、運動会や体育の授業など彼にとっては楽勝以外の何物でもないはずだ。


 襲撃者――不気味な少女がどういう原理で行っているか分からないけれど、髪を操作して沖長に攻撃を加えようとするが、何故か途中でプツンと切断したかのように突然消えたり、それでも沖長に届きそうな髪の束があれば、それを手に持っている針みたいなもので弾いている。


 そもそもあの針みたいなのは一体何なのか。先ほど大量に取り出して少女に向けて放っていたが、あんなものをどこにしまっていたのか。今だって、器用に相手の攻撃を受け流しつつ針を投げつけている。


(というかさっきナイフも持ってなかったっけ?)


 思い返してハッとするが、次に沖長が地面を蹴ると……。


(えぇ……二メートル以上跳んでない? いや、もっと……?)


 しかもその際に、また針を何本も相手に放っている姿は、少し前にアニメで見た忍者のようだと瞠目する。本当に目の前の光景は実際に起こっているのかと、思わず自分の頬を抓ってみるが、感じた痛みが間違いなく現実だということを突き付けてきた。


 初めて会った時から沖長は、他の子供たちと比べても違和感があった。子供にしては、随分と大人びていたのである。それは顔立ちもそうだが、他人に対しての対応などからもだ。


 まだ小学一年生だというのに、年上や初対面の子に対してはちゃんと敬語を使うし、観察力や洞察力もずば抜けていた。だから同年代の男子のように、やんちゃな言動はしない、感謝の気持ちをしっかり相手に伝える、自分に与えられた仕事などは十二分にこなす。


 などといった、普通に大人がするような態度を見せていた。中学生になった今の自分と比べても、沖長の方が社会性があると感じるのも気のせいではないだろう。何せ六歳からそうだったのだから。


 そんな沖長に自然と頼る者たちが増えてくる。自分だってそうだ。もっとも自分の場合、そのほとんどは弟である銀河に関してのことだったが。それでも彼に頼むと、いつも良い方向へと転がっていく。


 いつもバカな言動しかしなかった銀河も、今でもすっかり大人しくなっている。それもきっと沖長がきっかけなのだろう。本人は否定するが、銀河の反応を見るとそうとしか思えない。

 故に下手をすれば、そこらの大人よりも頼れる少年である沖長には恩を感じているし、少しずつ返礼という形で、今日みたいに付き合ってもらっていた。


 そこに別の気持ちは無い……とは声を大にして言わないが、それでも彼と会うのは非常に楽しみだった。そしてそれは今日もそうだったのだが、まさかこんな事態に巻き込まれるとは誰が想像できようか。


 しかもそんな頼れる後輩の別の一面を見ることになるとは……。


(っ……ダメダメ。何か状況がおかし過ぎて現実逃避してたわ。とにかく誰か人を呼んだ方がいいかしら?)


 沖長には動かないように言われているが、こちらはこちらでできることをした方が良い。そう判断しポケットからスマホを取り出す。

 この状況をどう説明すれば良いか分からないが、とりあえず警察を呼ぼうとした矢先だ。首に軽い衝撃が走ったかと思うと、意識がスーッと闇の中に溶けていった。



     ※



「――っ!?」


 ガラとの戦闘に集中していた沖長だったが、背後で何かが地面に落ちた音を耳にし、すぐさまそちらを一瞥してギョッとした。

 何故なら、そこには地面にスマホを落としてぐったりとしている夜風と、その彼女を支えている黒装束の人物が視界に飛び込んできたからだ。


「夜風さんっ!? くそぉぉぉっ!」


 新たな敵の登場かと歯噛みしつつも、すぐさま方向転換をして黒装束に向けて千本を放つ……が、それを相手は焦る様子もなく簡単に片手で掴んだのである。

 その動きだけで並大抵の輩でないことが理解できた。そしてその驚きのせいで生じた隙をガラは見逃さなかった。背中を向けていた沖長の両手足を、後ろから髪で縛り上げたのだ。


「しまっ……っ!?」


 途中で声も出せなかったのは、背後から強烈な一撃を受けたからだ。フワリと身体が浮き上がるほどの威力。呼吸が一瞬停止し、激痛が背中の中心部から走った。

 どうやらがら空きになったところに、ガラの拳が突き刺さったらしい。


 致命的なミス。まだ意識も体力もあるが、このまま攻撃をラッシュされれば、成す術はないだろう。それこそ意識が飛ぶかもしれないし、その力は命すら届きかねない。


 体勢を立て直すにも、まずは髪を回収して動けるようにする必要があるし、浮いた足が地上につかない限り防御も回避もできない。果たしてそんな時間を相手がくれるだろうか。


 やられる――と、覚悟した瞬間、一陣の風が吹いたかと思ったら、背後にいたガラが弾け飛んでいた。





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