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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 ――【樹根殿】。


 皇居の地下に存在する国家によって秘されている場所であり、そこには総理大臣ですらおいそれと近づくことができない禁忌。

 厳かで、かつ煌びやかな装飾が施された建物の中。国家占術師と呼称されるたった一人の人物――天徒咲絵が、いつものように仕事に従事していた。


 ここに訪れる者は多くないが、仕事は山のように飛び込んでくる。そのほとんどは国家案件に関わることだが、政治家や権力者など個人に関係するものも持ち込まれることもある。


 国家を運営しているのは政治家だ。しかし政治家も人であり、不意な事故、病気、あるいは事件に巻き込まれることも稀ではない。故にそういう厄介事を事前に知り対策を立て、身の安全を守ろうとしているのだ。


 もっとも病気に関しては知ったところでどうしようもない場合もあるが、それでも早めに処置ができる場合もあって、咲絵の占いによって寿命を延ばしている政治家たちは決して少なくない。


 そして本日もまた任された依頼をこなしていると、不意に胸騒ぎがした。咲絵にとって直感というのも大事な要素であり、これほどの占術力を所持しているからか、その第六感というものは無視できない結末を伝えてくるのだ。


 特に嫌な予感ほど当たる。少し前、自身の双子の姉である七宮蔦絵の死を知り得たのも、事前に嫌な予感を覚え占いによって得た結果だったから。そうしてすぐに自身の守護者たる黒月を動かして、その話を父である七宮恭介に伝えた。


 ただ、父が動いてくれたのはいいが結果的に彼は間に合わなかった。蔦絵の死を覆してくれたのは、とても強い光を放つ星を持つ人物だったのだ。しかしそれでも姉の運命が変わったのであれば咲絵としては十分だった。


 今回もそれに似た感覚が走り、大物政治家に対しての占いを中断し、直感に従って今後起こるかもしれない不安定な未来を占うことにした。

 その結果を得た咲絵は、思わず眉をひそめ悲痛に表情を歪める。


「っ……これは――」


 やはり嫌な予感は的中していた。そこに見出された黒い結末。まさしく悲劇と呼べるほどの事件が近々起ころうとしている。綿密には把握できないが、咲絵にとって由々しき事態であることは確かだった。


「星が……姉様を救ってくださった星の輝きが……消える?」


 咲絵の瞳に映し出されているのは数々の星。それぞれが多寡こそ違うものの輝きを放っている。その中で極めて強く、そして見知った星が一つ。その星こそ、蔦絵の運命を変えてくれた咲絵にとって恩を寄せる星だった。


「姉様に続けて、今度は彼の星が……どうしましょう」


 悔やむべくは、この星の正体がいまだに掴めていないこと。本来ならばすぐにでも調査したいが、自分が動かせる人手は黒月のみ。彼女は長時間この場を離れることはできないし、ましてや皇居を出ることなど許されていない。


 何故なら、彼女の使命は咲絵の守護なのだから。今もすぐ近くで控えている。蔦絵の時は、少々無理を通して黒月に動いてもらったが、勝手なことをしたツケは高く、あれから監視の目が厳しくなった。


 それでも黒月なら網目の中を抜け出すことは可能だろうが、さすがに皇居を出ることは無理だ。彼女自身も、一時的に使命を放棄する形になり納得してくれないだろう。

 しかし事は急を要する。もしこのまま放置すれば、彼の星を持つ人物は破滅してしまう。


(そんなの……いけません!)


 彼の星の人物は、自分の最も大切な人を救ってくれたのだ。まだ感謝の言葉すら口にしていないのに、このまま恩義に報いることができなければ自分自身が許せなくなる。


「…………黒月」

「――はっ」


 名前を呼ぶと即座に返事とともに姿を現す。その在り様はまさに忍者のごとしである。

 こちらに頭を垂れたまま不動の構えを取っている黒月に向かい咲絵は口を開く。


「顔を上げてください。あなたに頼みたいことができました」

「……また厄介事でしょうか?」


 さすがは長年付き添ってくれているだけあり、こちらの雰囲気を察してくれたようだ。


「例の……姉様を救ってくださった人物の情報が欲しいのです」

「それは……現状難しいかと」

「何故ですか?」

「私はこの場から離れられませんので」

「なら離れて情報収集をお願いします」

「……今、離れられないと申しましたが?」

「ええ、ですから一旦離れて情報を得て欲しいのです」

「…………」

「…………」

「………………………………はぁ。姫様、理由をご説明願えますか?」


 黒月が諦めたように溜息を零し、咲絵は頬を緩めた。そして自分が得た占いの結果を伝え、黒月は怪訝な表情を浮かべた。


「――なるほど。確かにそれは放置できない問題ではありますね」

「そ、そうですよね! あなたもそう思いますよね! だっったら――」

「ですが姫様、私の任務はあなた様の守護。一時的でも皇居から離れるわけにはいかないのです」

「うっ……それは分かっていますけれど……」

「姫様の占術は絶対。必ず当たってしまう。覆すためには、それ相応の対処が必要になります。特に結果が大きければ大きいほど、その対処は困難になる」

「……その通りです」

「今回も、個人ではあるが結果は〝破滅〟。つまりは死か、それに等しいことが起こるということです。その運命を覆すには、当人に自覚してもらうのが一番なのは理解できます」

「ええ、ですから彼の星の人物を突き止めて、できればその……」

「……まさか会いたいとか仰いませんよね?」

「……………ダメ?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~」


 黒月がこれでもかというほどの溜息を吐いた。


「あのですね、姫様。ここは国家でも最重要機密であり、総理ですら面倒なチェックを何度もクリアする必要があるのですよ? それなのにどことも知れぬ一般人を招き入れるなどできようはずがありません」

「で、でもでもぉ! 彼の人は姉様を救ってくださったのです! きっと素晴らしい方に違いありません! このまま顔も名前も知らず、感謝の言葉すらお届けできないなんてあんまりです!」

「……本音は?」

「会ってお茶菓子食べながら、いろいろお話したいなぁ……って」

「却下」

「黒月ぃ~!」

「そんな膨れっ面で言われても許容しかねます。そもそも本当にその人物が信頼に値するかも分からないというのに」

「っ…………じゃあ黒月は、姉様を救ってくださった方が破滅してもいいって言うのですか?」

「むぅ……それは……」

「黒月……お願いです。これが人生最後のお願いですから」

「その言葉、すっごく聞き覚えがあるんですけど……しかも何度も」


 呆れたように言う黒月に対し、咲絵は「てへへ」と舌をペロリと出す。そこからしばらく沈黙が続くが……。


「…………分かりました。ですが条件があります」

「条件ですか?」

「一時間です。一時間だけ時間を作ります」


 一時間……その間に、彼の星の人物の正体を見極めてコンタクトを取る必要がある。果たしてそんな短期間でできることなのか。しかしそれが黒月の最大の譲歩。


「……お願いします」


 咲絵が頭を下げると、黒月は「御意」と言ってその場から姿を消した。





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