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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 沖長たちは壬生島家に辿り着いたが、その門前には見慣れない黒い車が停まっていた。


「む? 何じゃ、客かのう?」


 千疋も知らない様子で小首を傾げている。そんなハザードがチカチカと点灯している車の脇を通り抜け、相変わらず大きな門の前に皆で立つ。

 とはいっても門はすでに開かれているようなので、そのまま潜ることになったのだが……。


「おっと、これは千疋嬢! 戻られたんで?」


 玄関口には、明らかに堅気ではない雰囲気を醸し出すイカついスキンヘッドの男が腕を組みながら立っており、千疋を見つけては近寄ってきた。


(あ、確かこの人……新山さん、だっけ?)


 この家に来るのも、もう結構な回数になる。沖長も最初は、この家で見かける男たちの風貌に多少の怯えを感じていたが、今では慣れたもので、気軽に挨拶をする程度には関係性を作っていた。


 男たちも、千疋とこのえの友人であり、かつこのえの父である壬生島王樹に気に入られている子供として何故か一目置かれていたりする。

 そして目の前にいるスキンヘッドの男――新山とも初対面ではなく、何度か会話をするくらいは見知っていた。


「今帰ったぞ。ところで客かのう?」

「あー……まあ、そうなんですがねぇ」


 何やら含みのある言い方だ。まるであまり歓迎していない相手が来ているような。

 すると沖長と千疋が、ほぼ同時に敷地内に植えられている大木に視線を向けた。正確にいえば、木の裏側だ。


 ナクルと水月は気づいていない様子だが、千疋は気にせずに木を睨みつけながら口を開く。


「そこに隠れておるな……誰じゃ?」


 警戒している千疋。沖長もいつでも動けるように準備して、ナクルと水月の前に立つ。

 千疋の指摘から数秒後、木の陰からおもむろに一人の人物が姿を見せた……が、その正体に思わず沖長はギョッとしてしまい、反射的にその人物の名前を吐いた。


「――――ヨル……ッ!?」


 赤い包帯で両目を覆った異国感漂う少女。そこに立っていたのは間違いなくヨルその人だった。

 先ほど視線……というか、人の気配を感じたから警戒して木に意識を向けたが、まさか隠れていたのが彼女だとは想像だにしていなかった。


「ほほう……お主じゃったか。隠れて様子見とは、ここで何をしておる? 事と次第によっては……」


 千疋から膨らむ臨戦態勢の気。彼女がそうなるのも無理はない。何せヨルは一度、主である沖長を攫っている。主に害を成す存在が目の前にいるのだから、彼女としては黙って見ていられないだろう。


 このまま即座に戦闘開始されるかもしれないと思われた矢先、慌てて止めに入ったのは新山だった。


「千疋嬢、ちょっと待ってください! そいつは客の連れらしいんでさぁ!」

「何じゃと? ではこやつ……何故にそこに隠れておったのじゃ?」

「……別に隠れていたわけではない」

「ならそのようなところで何をしておったんじゃ?」


 するとヨルが視線を促すように、木の根元に顔を向けた。沖長たちも自然とそちらに意識が向く。


「……あ、鳥さんッス!」


 ナクルが一早く、小さな存在を見て声を発した。確かに彼女の言う通り、そこには一羽の鳥がいたのだが、すぐに全員が顔をしかめてしまう。


「き、傷だらけじゃないッスか!?」


 ナクルの言葉を示す通り、地面に横たわっている鳥の全身には傷が見られ、そこからは少なくない血も滲んでいた。慌ててナクルが駆け寄ろうとするが、彼女の前にヨルが立って妨害する。


「ちょ、そこどくッスよ! 早くその子を病院に連れてかないと!」

「……無意味な行動だ」

「!? い、今……何言ったんスか?」


 先ほどの千疋同様に、今度はナクルから怒気が漏れ出る。しかしヨルは身構えることなく憮然としたまま佇みつつ口を開く。


「無意味と言った。よく見てみろ」

「……え?」


 ヨルい言われ、ナクルが戸惑いながらも視線を鳥へと向ける。沖長も改めて鳥を観察してハッとした。


(……さっきから身じろぎ一つしない。……まさか)


 これだけ周りがバタついており、かつ怪我を負っているなら鳥だって何かしらの反応をするだろう。そうでなくても呼吸が荒くなっていて、その度に身体が動くはず。しかし文字通りピクリともしない。つまりそれは……。


「……もう死んでいる」

「!? ……そんな……っ」


 ナクルがショックを受けたように目を見開く。少し遠目に立っている水月もまた口元に手を当てて固まっている。


「カラスにでもやられちまったんじゃねえか?」


 新山が自身の見解を述べた。確かにその可能性は高い。この鳥は小さいし、カラスが狙ってもおかしくはない。攻撃を受けつつも何とか逃げおおせたが、ここに来て力尽きたといったところか。


 動物の世界では弱肉強食なのは理解しているが、やはりこういった事例に直面するとあまり気持ちの良いものではない。ただヨルに対し気になったことがあったので、沖長は聞いてみることにした。


「ヨル、君はその鳥をずっと見てたってこと?」

「……そうだ」

「それは何故?」

「別に……ただそこに死があったから意を向けただけ。それ以上でもそれ以下でもない」


 何やら難しい言い回しをしているが、鳥が死んでいたから気になったということだろうか。しかし次の言葉には誰もが衝撃を受けた。


「もっとも見つけた時は、まだ僅かに息はしていたがな」





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