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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 とにもかくにも、千疋を救った手法を追及されなかった沖長だが、そもそも彼女が何故ここに現れたのかその理由を尋ねた。ただ、その理由には心当たりはあったが。


「いやのう、このえがあの時の答えを聞きたいと言うとるんじゃよ」


 やはりそうだったか。わざわざ千疋を寄こすなんて、余程うやむやにはしたくない事情があるのだろう。


(答え……か)


 それは、このえからの依頼である《逆行の砂時計》を入手してほしいというもの。しかしその時に答えは出せなかった。

 何故なら彼女が欲するそのアイテムはハードダンジョン以上でしか見つからない稀少なものだからだ。ハードダンジョンの凄まじさは先日味わったこともあり、今の沖長の実力では確実に無事を確保できるとは言えないのである。


 当然沖長がこの依頼を受ければ、ナクルだって黙っていられないだろう。自分も一緒について行くと言って、ともに攻略することになる。そうなればまだ勇者としても半人前である彼女にも力が及ばない危険があるかもしれない。故においそれと決断はできなかった。


(あれからいろいろ考えたけど、やっぱり断った方が良いかもな)


 そう思いは傾きつつあったのだ……が、思い出されるのは長門の言葉である。実はもう長門には、沖長がもう一人の転生者であるこのえと接触していることはバレており、どうせなら近々顔合わせをしようという話にもなっていた。


 そんな長門からの言で、このえの言うように《逆行の砂時計》は確かに手にしておいた方が良策だということ。この先の悲劇を避けるためにも、必ず力になってくれるはずだからと。


 原作を熟知している二人がそう言うのだから、きっと間違いは無いのだろう。何せ、普通の原作通りではなく、映画やゲームなどの内容がごちゃ混ぜになっている世界らしいから、何が起きても不思議ではない。

 だから時間を巻き戻すことのできる《逆行の砂時計》は、かなり強い味方になってくれるだろう。それは沖長も納得済みのことだった。


(けど今の俺じゃ……力不足なんだよな)


 それは先日の件で痛感していた。単純な妖魔相手ならまだ良い。しかしダンジョン主には勇者の攻撃しかまともにダメージが入らないし倒せない。これではいずれ必ず足手纏いになってしまう。


(俺にもブレイヴオーラが使えれば……)


 ナクルのブレイヴオーラを回収しておりストックはある。しかし他人のオーラを自在に扱うことができずにいた。文字通り宝の持ち腐れとなってしまっている。


「主よ、そう難しく考えずとも良いと思うがの」

「え? 何でだ、千疋?」


 答えを渋っていると、千疋が助け舟を出すように言葉を投げかけてきた。


「そもそもの話じゃ。目的のものがあるのはハードダンジョン以上の中。そう簡単に見つかりゃせんわい。最近ダンジョンブレイクが起きやすくなっておると言うても、そう頻繁に起きてはおらん」

「えっと……つまり?」

「時間はまだあるということじゃよ」

「…………なるほど」


 確かに千疋の言う通りだ。これまでも幾つかダンジョンが発生してきたが、ハード以上のものはまだ数が少ない。それもある程度の時間を空けている。

 つまり目的のダンジョンが出るまでは少なからず時間には猶予があるということ。


「主は自身の力の無さに不安を抱いておるようじゃが、その時間を使って不安を取り除くことができるというわけじゃよ」

「そっか……そうだよな。まだ時間はあるんだ」


 原作の知識だと、次にハードダンジョン以上が出現するのはもう少し先。それにそこには《逆行の砂時計》があったという描写はない。


(ならその間に少しでも成長できれば……!)


 この先の悲劇を避けるためにも《逆行の砂時計》は手に入れておきたい。ならこの依頼を達成することが、ひいてはナクルの助けにもなるということだ。


(だったら迷う必要なんてないか)


 千疋の言葉でようやく決心が着いた。


「……分かった。壬生島の依頼、引き受けることにするよ」

「うむ、主ならそう言うと思うたわい」


 千疋も親友の頼みを受けてくれたことが嬉しいのか頬が緩んでいる。そしてさっそくこのえに知らせに行こうと、雪風の紹介がてら、そのまま皆で壬生島家へ向かうことになった。

 道中、今後どのように鍛えていくかという話になるが、千疋曰く、弟子である水月について思うことがあるらしい。


「やはり一度ダンジョン攻略を経験させとくべきじゃと思うてな」


 水月はまだダンジョン主と相対したことはない。いや、実際ダンジョンに入って妖魔と戦った経験もないのである。


「いくら修行したとしても実戦経験がないままでは半人前からは一生脱せんからのう」


 確かに千疋の言葉通り、身体を鍛えたとしても戦闘経験そのものが不足していては、いざという時に実力を発揮することはできないだろう。


「それにたとえ勇者の資質があったとしても、覚醒できるのはダンジョン内だけじゃ」


 ナクルもそうだが、雪風だって覚醒したのはダンジョン内だ。千疋が言うには、こちらの世界では覚醒しないということ。少なくてもそういう存在は見たことが無い。


 原作知識がある沖長には、水月が勇者である事実は知っているが、千疋たちはもちろん知らない。覚醒するかしないか試す必要があるとのことだ。


(それに今後のことを考えても九馬さんが覚醒しておいた方が良いかもだし)


 本当なら危険から避けるべきだが、もうすでに十分巻き込まれている水月だし、彼女自身も友人であるナクルたちを、ただ外で見守るだけというのは我慢できないらしい。助けられたこともあり、自分に力があるなら一緒に戦いたいと言ってくれている。

 なら彼女が強さを得る機会は逃してはダメだろう。


「じゃあどこかでダンジョンが発生した時に、九馬さんを?」

「うむ、ワシが付き添って攻略させようと思う」

「まあ、千疋が傍にいるなら余程のことがない限り無事だとは思うけど……それでいいの、九馬さん?」

「うん! あたしだって札月くんたちの力になりたいから!」


 本人はやる気のようだ。ならばこちらは応援するだけだ。


「分かった。俺も手伝えることがあれば言ってくれ」

「ボクもお手伝いするッスよ!」

「雪は……お兄様がやるなら」


 ナクルもそうだが、雪風も力になってくれるなら心強い。

 そうして水月覚醒計画が近々実行されることになり、そうこうしているうちに壬生島家へと辿り着いた。


 しかしそこで沖長は、思わぬ事態に巻き込まれることになる。





書籍関係について。

活動報告に書かせて頂いたので、よろしかったら一読ください。お願いします。

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