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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 一瞬何が起こったのか分からず、その場にいたほとんどの者は呆然と立ち尽くしてしまっていた。

 それほどの衝撃だったからだ。突然吹き飛んだ坂上は地面を転がり、その先にあった電柱に激突したまま動かない。


 数秒後、ようやく時が動いたかのようにハッとしたあるみが、「さ、坂上さん!?」と声を上げた。同時に沖長たちも思考が蘇る。


(何だ……何が起こった?)


 坂上が子供をこの場から追い出そうと近づいた直後に物凄い勢いで吹き飛んだ。どう考えても自然現象なんかではない。なら原因は何か。


(あの子が……やった?)


 そうとしか思えず、再度目の前に立つ子供を観察する。するとその無感情というか、無機質にも思われる瞳が沖長……いや、ナクルに向けられていた。


「……エサ……ゴクジョウノ……ミツケタ」


 子供が訳の分からない言葉を吐くと同時に、驚くことにその身体からどす黒いオーラのようなものが立ち昇った。


 ――ゾゾゾッ!


 そのオーラを目にすると同時に全身に怖気が走った。そしてその感覚は決して初めてのものではない。そう、あの妖魔人と相対した時に感じる威圧感に酷似していたのだから。


 直後、子供が大地を蹴ってナクルに向かって駆け出してきた。そして捕まえようとその小さな手を伸ばしてきた。しかし、その手がナクルに触れることはなかった。


「――何だか分からねえけど、ナクルに触らないでくれるか?」


 寸でのところで沖長がその腕を掴んで止めていたからだ。


「……? オマエ……エサ? ……ワカラナイ」


 今度はこちらを見ると、そんなことを言ってくる。こうして間近で見るとよく分かる。まるで生者とは思えないほどの顔色だ。それに加えて……。


(腕が恐ろしく冷たい……!)


 冬の中、何時間も外で立ち尽くしていたような冷たさだった。

 すると子供が沖長に向けてパカッと口を開く。一体何をするのかと思いきや、驚くことに口内から先ほど感じたオーラの塊が放出されてきた。


 反射的に両腕をクロスしてガードしたが、その塊の勢いに押されて、先ほどの坂上のように後方へと吹き飛ばされてしまう。しかし坂上と違って沖長は防御態勢がとることができたため、着地も問題なく行うことができた。


「オ、オキくんっ!?」


 ナクルが心配して叫びながら駆け寄ってくる。

 攻撃に焦った沖長だがダメージはほとんどない。いや、正直言えばガードした腕に鈍痛はあるが。


 そして今の一連の流れで、坂上をどうやって吹き飛ばしたのか理解することができた。


(コイツ……一体何だよ?)


 冷や汗が額から零れ出る。今の一撃でも普通ではないことは分かった。もしまともに顔面に受けていたら、それでノックアウトしていたかもしれない。

 大人を軽く吹き飛ばす威力。しかも口から放たれた謎の攻撃である。不意を突くには十分だ。


「だ、大丈夫ですか!?」


 あるみもまたこちらを心配して声をかけてきた。


「え、ええ、何とか。けど……あの子のこと何か分かりますか?」

「え? えっと……すみません、分かりません」


 どうやらあるみも知らないようだ。あの妖魔人が持つオーラを放つ子供。【異界対策局】でもその正体を掴めていないらしい。

 他の黒スーツも、ただの子供ではないことを悟り警戒態勢を敷いて、あるみを守るように前に出ている。


「ジャマヲ……スルナ」


 黒スーツたちに向けて放たれる言葉。同時に子供からさらなるオーラが噴出する……が、次の瞬間に言葉を失う光景が広がった。 

 突然子供の動きが止まり、「ウゥ……」と呻き声を上げて蹲ったのだ。明らかに苦しんでいる様子に、この場にいる全員が一様に困惑してしまう。


 すると子供がそのまま前のめりに倒れる。しかしその身体からは、いまだにオーラが立ち昇っており、あろうことかその小さな身体が、徐々に灰のような物質に変わっていく。


 あまりにも予想だにしない現象に、誰もが化かされたかのように押し黙ってしまっている。そして瞬く間にその全身が灰化し、物言わぬ存在へとなり果ててしまった。

 黒スーツたちがそれぞれ銃を突きつけながら灰の山に近づいていく。その中の一人が恐る恐るといった感じで灰を軽く蹴ってみるが、サラサラと崩れ落ちるだけ。


 どうやら本当に何も起こらないようだ。


「え、えっとぉ……一体何だったんでしょうか? あの子供は? どうしていきなり砂みたいに?」


 あるみの疑問はもっともだ。たださらに困惑してしまう情報が黒スーツからもたらされる。


「し、指揮官! この物質から僅かながらダンジョン反応が確認できます!」


 その人物が持っている機器を見ながら驚き声を上げた。


「え、ええーっ!? それはどういうことですか!?」


 あるみが驚くのも無理はない。かくいう沖長も理解が追いつかずに固まっていた。


(どういうことだ? ダンジョンの反応? あの子から? つまりあの子そのものがダンジョンだったってことか?)


 今までそんな存在はいなかった。妖魔ですら、そのものはダンジョンの気配を発するわけではない。そして当然この世界に住む人間を含めた生物もだ。

 それなのに突然現れた謎の子供からダンジョンの反応。これは一体どういうことなのだろうか。


「と、とにかく慎重にその砂を回収してください!」


 あるみの判断によって、灰化した子供が黒スーツたちによって回収されていく。沖長も回収したいが、ここでおかしな動きはさすがにできない。


(! ……いや、一度触ってるし、もしかしたら……)


 そう思い、少し離れているものの回収を試みた。すると僅かながらではあるが、灰を回収することに成功したのであった。


(よし! あとで確認しておこう)


 そうして突如起こった襲撃事件は、誰もが予想し得ない結果を残し幕を閉じた。





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