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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 大淀なとりは、前を歩く火鈴の背を見つめながら溜息を吐いていた。

 つい先日、自身が所属している【異界対策局・北海道支部】の長である御手洗信蔵からの案件で、各地方の勇者の素行調査、及び候補生に成り得る者へのスカウトという名目で本部がある東京へと辿り着いていた。


 そしてそこで出会ったのが、本部所属にして最も実力を有しているという火鈴である。しばらく彼女のもとで、ダンジョン調査や他の勇者や候補生などに接触を図っていた矢先、火鈴が地方へ赴くことになったので一緒についていくことになった。


 そうして今回、匿名のダンジョン発生通報が入り、半信半疑ながらもその近くにいた火鈴ともども確認がてら向かうことになったのである。

 そこで遭遇したのが、前回のダンジョンブレイク時に活躍した修一郎たちだ。


(まさか、かの英雄たちに会えるなんてな)


 十三年前のダンジョンブレイク時、なとりはまだ小学生だった。本来なら現在に生きる日本国民の大多数と同じく、その存在を知ることなく過ごしていただろう。

 しかし運の悪いことに、なとりとその妹はダンジョンブレイクに遭遇し、そこから現れた妖魔に襲撃されてしまったのである。


 あわや殺されるといったところに登場したのが、当時の勇者と呼ばれていた者たち。目の前で繰り広げられるアニメや漫画にしかありえないであろう光景に、なとりと妹はただただ呆然とするしかなかった。

 窮地から脱したなとりたちは、通常ならそのまま記憶処理を行われて、普段の日常へと戻っていく予定だったらしい……が、そこで待ったをかけたのが父の存在である。


 父は政財界に顔が利く立場にあり、なとりたちの現状を聞いて記憶処理を施さないように動いたとのこと。

 そうしてなとりとその妹は、これまでダンジョンに気づいた一般人たちとは異なる対処をされることになり、とりあえず他言無用を約束に過ごすことになった。


 今になって思うと、記憶処理を施された方が気楽に過ごせていたのかもしれない。何せ、国家案件に片足を突っ込んだ状態で生きることになったのだから。

 ただ、自分たちを助けてくれた勇者たちのことを忘れるのは不義理でしかないとも感じていた。いつか彼女たちに恩返しをしたいという思いは、妹ともども持っていたから。


 故にか、こうして結果的に国家運営する組織に身を置くことになっているのだが。


(それにしても、本当に野放しにされているとはな)


 なとりが思い浮かべたのは、現行の勇者として活躍する日ノ部ナクルの顔。いや、彼女だけではない。他にも数人、勇者かあるいは候補生らしき存在もいた。


 本来なら、本部がその存在を黙って容認して放置するなんて選択は取らないだろう。いつまた過去のように世界各地でダンジョンブレイクが起こらないとも限らないのだ。戦力は多いに越したことはない。故に少々強制力を持ってしても、ナクルたちを懐に入れておくべきである。

 しかし本部の意向としては、彼女たちを自由にさせておくということらしい。


(上層部は一体何を考えているんだ……?)


 いや、少しだけだがその考えも理解はできる。ナクルが普通の家庭の生まれなら、何が何でも手にしようと動いているはず。しかし彼女はあの日ノ部修一郎と籠屋ユキナの娘なのだ。


 かの英雄たちの血を引く存在というのは、戦力として申し分ないものの、無理に引き入れようとして怒りを買ってしまうかもしれない。もしそれで内戦にでもなってしまえば、貴重な戦力がさらに削られる恐れがある。それを懸念してのことだろう。


(だが他の子は……特にあの少年……)


 脳裏に浮かぶのはただ一人――札月沖長。これまでの長い勇者や候補生の歴史の中で、男子が見られたのは皆無と聞いている。修一郎や籠屋大悟のように強靭なオーラを有し、勇者たちを支えた者たちは数多く存在した。

 しかしながらダンジョン内で勇者たちとともに戦った事例などは見当たらない。


(調べによると、まだあと二人ほどいるみたいだが)


 調査報告書によれば、沖長のように〝資格〟を有する少年が、少なくとも他二名が確認されている。一応スカウトに動いているとの話だが、それが成功したのかまだ情報は上がってきていない。


(今回は過去に比べてイレギュラーが多いな)


 少年たちの存在もそうだが、ダンジョン発生の活発化が早過ぎる。前回は初期のダンジョン発生から一年くらいまでは、その発生も一カ月に一度ほどだった。そのためそれなりに準備することができたし、結果的に日本国民に知られることなく終息させることができた。


 しかし今回、まだ発生初期から半年も経っていないというのに、すでに日本各地で二十件以上ものダンジョンが確認されている。これは異常としか思えない発生率。

 しかも妖魔人と呼ばれる、人間にとって最悪の天敵がもう動き出しているとの報告もある。前回だったら彼らが活発に動き出したのは、発生から一年ほど経ってからだった。それなのに今回はすでに各地でその姿が目撃されている。


「……戸隠さん、聞いてもいいですか?」

「あん? 何だよ、改まって」

「あなたは彼女たち……日ノ部ナクルたちと面識があるようでしたが?」

「ああ、前にちょっとな」

「彼女やその候補生たちをスカウトしたいと思わないのですか?」

「おいおい、それは上の役目だろ? アタシはただ言われたようにダンジョンを攻略するだけ。それがアタシの仕事だしな」

「しかし現状、人手が足りないのも事実です。現に、こうしてあなただって地方に回されたりしていますし」

「しょうがねえだろ。実際に使える連中は少ねえんだし」

「それはダンジョンの存在を大々的に公表せず秘密に動いているからだと思いませんか?」


 確かに公表するデメリットも存在するだろう。間違いなくパニックになるだろうし、黙っていた総理などの政治家たちは国民たちに叩かれるはずだ。しかし公表することで表立って動くことが可能になる。それは速度を生み、対処がしやすくなるというメリットになる。


 国民の中にも隠れた逸材だっているだろう。その者たちとの接触も増え、戦力増強にも効率が増す。だからこそなとりは、デメリットを抱えながらも、公表した方が良いという派閥に身を置いている。


「アンタの言いたいことは分かる。けどまぁ、悲しいことにアタシたちは下っ端で、そういうことを決めんのはお偉いさんたちだろ? さっきも言ったけど、文句があんならアタシじゃなくて上に言ってくれよ」

「……はぁ。そうですね、いち勇者のあなたに愚痴ったところでどうしようもないですか」

「そういうこと。つーか、その喋り方しんどくねえか? アンタ、普段はもっと崩した感じの喋り方してんじゃねえの?」


 どうして気づいたのかと眉をひそめてしまった。


「これでも見る目はあんだよ。ま、愚痴ならいくらでも聞いてやっから、遠慮なんかしねえで口調とかもアンタの普通でいいぜ?」


 ニヤリと口角を上げながら彼女は言った。自分よりも明らかに幼い子供に見透かされていると感じ、内心で苦々しい思いが込み上げてくる。


「…………分かりまし……分かった。ならばこちらも遠慮するのは止めておこうか」

「お、いいねぇ。やっぱ人付き合いはフランクじゃねえとな」

「それは時と場合にもよる。もっとも君はどんな時もそのままのようだがな」

「おう。総理相手でもアタシはアタシ。何も変わんねえよ」

「それは少し自重しろ。ったく」

「ニャハハハ~」


 楽しそうに笑う火鈴に溜息を吐いてしまうなとりだが、自然と頬が緩むのも感じる。恐らく火鈴というのは生来の人たらしの気質を持っているのだろう。


「ではさっそくだが、これから一緒に向かってもらいたいところがある」

「え? さっき仕事したし、ちょっとバカンスしてえんだけど?」

「君の仕事が終わるのは三日後だ。それまでは存分に働いてもらう」

「うわぁ、マジで?」

「遠慮するなと言ったのは君だ」

「……言わなかったら良かったぜ」


 ガックリと肩を落とす火鈴を連れ立って、なとりは次の仕事へと向かうことになった。




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