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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 あれだけ苦戦していたハードダンジョンの主を、いとも簡単に討伐してみせた戸隠火鈴だったが、何故か現在は頭を抱えたまま唸っていた。


「やっべ……やっちまったぁ」


 傷一つ負ってもいないし、失敗したような事実も沖長が見た感じではないにもかかわらず、どうしてそんなにも後悔しているか。そしてそれはナクルたちも同様だったようで。


「あの、いきなりどうしたんスか?」

「んぁ? ああ、ウサギ娘か」

「ウサ……た、確かにボクのクロスはウサギがモデルッスけど……でも、ボクには日ノ部ナクルって名前があるッス!」

「あーうっせえな。わーったよ、ウサギ娘」

「わかってないッス~っ!」

「落ち着け、ナクル。それより、とが……火鈴さん、本当にどうしたんだ? 何かあったのか?」


 頬を膨らませるナクルを宥めつつ、沖長が落ち込む火鈴に質問を投げかけた。


「いや……なあ、ちょっとやり過ぎちまったなって思ってよ」

「やり過ぎ?」

「ああ、どうもコアごと破壊しちまったみてえなんだよ。その証拠にほれ、段々と周りの景色が削れていってんだろ?」

「え? ああ……なるほど」


 確かによく見ると、まるでパズルのピースが少しずつ外されていくような感じで、この世界が崩壊していくのが分かる。これは明らかにココを支える核が失われていることを意味する。


「ったく、せっかくのハードダンジョンのコアだったのにな。まーた、あるみにどやされっかもなぁ」


 火鈴が言う〝あるみ〟というのは、彼女が所属している【異界対策局】の現場責任者を担っている大淀あるみのことだろう。何度か顔を合わせたことがある。悪い人物ではないと一応判断している。


 しかしなるほど。確かに火鈴が後悔しているのも分かる。ダンジョン内には地球には存在しない資源が眠っている。それは高難易度のダンジョンほどグレードが高い。故に国家にとっては、ダンジョンの存在はリスクも高いが価値もまた恐ろしく高いのだ。


 だからこそ破壊して、二度とそのダンジョンに足を踏み入れられなくなるよりは、掌握して自分たちのものにしておきたという願望がある。一度掌握すれば、任意で出現させることができるので、メリットを考えると当然掌握の方がベストのように思える。


 だが今回、コアを取り込んでいる主を、そのコアごと破壊してしまったようで、掌握できなくなってしまった。それはダンジョンが崩れていることからも理解できた。コアを失ったダンジョンは、その存在を維持することができないから。


「まあでも、俺たちは助かったよ。ありがとう、火鈴さん」

「っ……別に礼なんていいし。アタシはただ仕事をこなしただけだしな!」


 礼を言われるのが照れ臭いのか、若干頬を染めてそっぽを向く火鈴。彼女もまた悪い人物ではない。何せ、原作ではナクルの憧れの存在で、ともに切磋琢磨していたのだから。


 何はともあれ、雪風も無事に保護することができ、ダンジョンもクリアすることができた。これ以上望むのは罰が当たりそうだ。

 そうしてダンジョンが消失していき、元の亀裂があった林の中へと戻って来た。


「――雪風っ!?」


 雪風の姿を見て、真っ先に彼女を抱きしめたのは彼女の父――陣一だった。傍にいた祖父である陣介も近づいてきて、その無事を喜んでいる。


「ナクル、蔦絵くん、それに沖長くんも、よく無事に戻ってきてくれた」


 三人にも待ち構えてくれていた人たちがいた。修一郎やトキナ、それにユキナたちである。どうやら心配で全員で駆けつけてくれたようだ。


「違うッス! オキくんが! オキくんが怪我をしてるッスよ!」

「む? どうやらそのようだね。沖長くん、具合はどうなんだい?」


 心配して声を張り上げたナクルを見て、修一郎も険しい顔つきを浮かべ沖長を見つめる。


「はは、大丈夫ですって。ちょっと背中に攻撃を受けてしまっただけで」

「いや、よく見れば細かい傷もある。すぐに手当てをしないと」

「んじゃほれ、これ飲みな、沖長」


 そんな中、火鈴が腰につけている小さなポーチから小瓶を取り出して見せた。

 当然沖長が「それは?」と尋ねる。


「コイツは――《ライフポーション》。いわゆる回復薬ってやつだ」


 サラサラとした緑色の液体が瓶の中で揺れている。ポーションといえばRPGでも同じみだ。まさかこの目で実際に目にするとは思わなかったが。


「何でもダンジョンで手に入る《ピーチュ》っていう果実の成分を抽出して造った代物らしいぜ」

「【異界対策局】はやはりポーションの量産も可能にしていたのか。沖長くん、それが本当に《ピーチュ》が原材料なら、傷の回復が望めると思う」


 どうやら修一郎は、その謎の果実の存在を知っているらしい。彼が言うならポーションの効果も期待できるのだろう。ということで、火鈴から受け取ってジッと見つめる。


「んだよ、毒なんて入ってねえって」

「え? ああ、っとと……!?」


 火鈴の言葉に苦笑を浮かべていた沖長は、目眩がしたかのように身体をふらつかせ、傍にいた修一郎に支えてもらった。


「大丈夫ッスか、オキくん!?」

「あ、ああ、ちょっとふらついただけだから」

 そう言うと、手の中で握っていたポーションの蓋を開けて、中身をグイッと一気に飲み干した。すると僅かに淡い緑色の輝きが身体を数秒ほど覆い、切り傷や打ち身でできた痕などが消えていく。同時に感じていた背中の強烈な痛みも引いていた。


(コイツは……スゴイもんだな)


 体力まで一気に回復とまではいかないようだが、それでも傷や痛みは驚くほど回復した。


「オキくん……大丈夫ッスか?」

「……ああ、痛みも引いたみたいだ。ありがと、火鈴さん」

「さん付けいらねえよ。ま、治ったなら別にいいって」

「やったッス! オキくぅん!」

「おわっぷ!? ちょ、いきなり抱き着くなよ、ナクル!」


 感極まったといったナクル。他の者もホッとしたように沖長を見つめている。そんな中、沖長はというと心の中でガッツポーズをしていた。


(よし、上手くいったな)


 実は先ほどの目眩は演技だった。その際に、皆の死角になるように瓶を手の中に隠して注目をポーションから外したのだ。そして瞬時に〝回収〟して、一本だけ再び取り出した。


 さすがにリストを出して鑑定するまでの時間はなかったが、修一郎への信頼もあったので、ポーション自体には疑いはなかった。

 だから本物ならば貴重だと思い、何としても手元に置いておきたかったので一芝居うったというわけだ。余計な心配をさせてしまったナクルたちには悪いことをしたが。




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