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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 ナクルの一撃がデュランドを叩き伏せたところを見て沖長はホッと息を吐いた。しかし深く呼吸をしたためか、ズキッと背中が痛む。


(ふぅ……痛えけど、何とか間に合ったな)


 正直な話、デュランドについて沖長は知っていた。長門に聞いていたからだ。

 原作通りなら、ここで第二次覚醒を果たしたナクルによって討伐される妖魔である。ナクルが関わるであろう妖魔やそのダンジョン主などについては、予め長門から教えてもらっていたのだ。


 もちろん原作から外れた流れだったのは明白。あの女妖魔人――エーデルワイツがこの場にいる時点で、デュランドがこの場に現れない可能性だってあった。

 しかしイレギュラーはエーデルワイツだけで、ちゃんと原作通りここの主はデュランドだったのである。そのためデュランドの特性は把握していた。


 大剣と大盾を持ち、そのパワーはこれまでの妖魔主とは一線を画すほどの存在。またそれだけではなく、先ほど見せた自身の鎧を爆裂させて周囲にいる者たちへの強烈な範囲攻撃。知らなければ対処すらできないほどの反則っぷりだ。


 もちろん知識として知っていたので、事前にナクルたちに伝えることはできたが、だとすればどうして知っているのかということになる。さすがに勘が働いたでは通じ得ないだろう。ナクルだけならまだしも、ここには蔦絵や雪風もいるのだから。


 そのため本来なら戦線離脱して休みたかったところだが、そうもいかずに準備をする必要があったのだ。とはいってもある程度デュランドに近づくだけで良かったが。

 事前にデュランドの鎧には触れている。故に、いつでもその鎧を〝回収〟することだってできた。しかしならもっと早くにやらなかったのかという疑問が浮かぶだろう。


 簡単だ。ナクルたち増援が来る前に、あの攻撃をさせてはいけなかったからだ。

 何故ならアレはただ単なる攻撃ではない。あの爆裂攻撃は、デュランドが追い詰められて初めて見せる奥の手の一つ。そしてさらにその奥に隠しているものがあった。


 ナクルに地面に叩きつけられた巨大な影が、土煙の中からおもむろに動き出す。

 全員がその挙動を捉え警戒態勢を整える。ナクルに至っては倒したと思っていたのか、「まだ動くんスか!?」と声を上げている。


 そう、これからが本番なのだ。沖長がデュランドから鎧を奪わなかったのは、あの鎧がデュランドにとっての拘束具のようなものだから。

 煙が勢いよく霧散し、その中から一回り小さくなった、それでも人間にとっては巨大な存在が姿を現した。


 全身が紫色に染まった二足歩行の異形。鎧姿とは打って変わって、かなりの細身で頼りなさげな印象を受けるが、それもそのはずだ。何故なら全身が骨で構成されたスケルトンだったのだから。


「が、がががが骸骨ぅぅぅっ!?」


 ナクルがデュランドの真の姿を見て愕然とする。それは蔦絵や雪風も同じようで揃ってギョッとしていた。


(第二ラウンドか……)


 沖長だけは聞き知っていたから驚きはない。だからこそ的確にアドバイスを告げることができる。


「ナクル、ソイツはさっきとは違う! お前と同じスピードタイプだ! 気を付けろ!」


 忠告と同時に怪しく目を光らせたデュランドが、その場からナクル目掛けて突っ込んでいく。その速度は鎧姿とは比べようもないほど速い。


「!? おわわっ、速いッス!?」


 それでもスピードではナクルの方が上だ。デュランドが伸ばしてきた腕を軽やかに回避し、さらに相手の蹴りをも見極めてギリギリでかわした。


「…………チョコマカ…………ウットウシィ……」


 デュランドが苛立ちを露わにしながらも、攻撃の手は緩めず烈火のような連撃を繰り出す。その度にナクルは見事に紙一重で避けている。

 どうやら今のナクルでも十分相手ができていると思って安堵すると、ガクッと膝が折れてしまう。しかしそこで身体に温もりを感じた。


「っ……蔦絵さん?」


 いつの間にか傍にいて支えてくれたのは彼女だった。


「まったく、ボロボロなのに無茶をして」

「はは……みんなが頑張ってるのに俺だけぼ~っとしてるわけにはいきませんて」

「本当にあなたはもう……」


 口調は怒っているが、その表情はどこか慈愛が込められている。


「蔦絵さん、俺のことはいいですからナクルを。確かに互角に戦っていますが、アレでは決定打に欠けます」


 実際ナクルの攻撃は相手に当たっている……が、ダメージが乗っていない。恐らく相手の攻撃速度が速く、ナクルが力を溜め込む時間がないからだ。

 ナクルのあの技――《ブレイヴナックル》は一定時間力を溜めなければ発動できない。現状ではその時間を得ることが難しい。


「ええ、そうみたいね。主を倒せるのは勇者だけだし。今すぐ私が時間稼ぎに向かうべきね」


 そう判断し、蔦絵はそっと沖長の身体から距離を取り、屋根から飛び降りて行った。


(原作じゃ第二次覚醒を果たしたナクルがデュランドを倒したんだよな。けど今の状況じゃそれに達するのは無理……か)


 いつだって主人公が壁を突破するのは窮地が必要になる。その試練を乗り越えた先にレベルアップが待っている。しかし良くも悪くも今のナクルには頼れる仲間がいるお蔭で、なかなか窮地を迎えるということがない。


(このままじゃ火力が足りないかもな。雪風と一緒に……いや、今の雪風にナクルと同等の攻撃力を望むのは酷か)


 かといって蔦絵の攻撃はデュランドの命には届かない。現状、ナクル一人の攻撃力でデュランドの命を刈り取らないといけない。


(俺がナクルから回収したブレイヴオーラを十全に使うことができたら……)


 そうすれば勇者ではない沖長でも主を討伐することが可能かもしれない。だが、他人のオーラを自在にコントロールすることはいまだにできていない。

 このままではじり貧になりかねない。ナクルや蔦絵だっていずれは体力やオーラが底をついて、雪風のように戦えなくなるだろう。そうなった時、デュランドを倒す術がなくなる。


(……どうするか)


 必死に現状打破に関して頭を悩ませていた矢先――。




「――――へぇ、なかなか楽し気な場面になってるじゃねえか」




 不意に近くで声がしたと思い顔を向けると、そこには一人の人物が立っていた。


「!? …………戸隠火鈴?」





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