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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 沖長が厳しい状況に顔をしかめていたその頃、ナクルはダンジョンの亀裂の前で困惑していた。何故なら普段なら自分が入れる程度に裂け目が開いているのだが、今はナクルの小さな身体でも通れないほどの亀裂しか入っていないからだ。

 これでは中に入って沖長のもとへ向かうことができない。


「つ、蔦絵ちゃん、このままじゃ中に入れないッス! ど、どうすればいいんスか!?」

「落ち着いて、ナクル」

「で、でも! 中からオキくんの気配が! それにたくさんの妖魔の気配も! もしオキくんの身に何かあったら!」

「だから落ち着きなさい!」

「っ……うぅぅぅ」


 叱られ我に返ったものの、口から出たのは不満が溜まった唸り声だった。


「ナクル、沖長くんならきっと大丈夫よ。彼はとても強いもの。それはあなたも知っているでしょう?」

「それは……そうッスけど……」


 それでも心配だ。自分にとって一番大切な人が、自分の目の届かない場所で危機に陥っているかもしれないのだ。心配するなと言う方が無理だ。

 するとそこへ修一郎や陣介たちも駆けつけてきた。事情を聞いて、自分たちにもどうすることもできないことを知り彼らも歯噛みしている。


「ダンジョンの入口が閉ざされている……か。これがダンジョンの意思か、それとも奴らの仕業か」

「修一郎……やはり妖魔人が関わっていると思うか?」

「その可能性は十二分にありますね、陣介さん」

「くそっ! まさか雪風が巻き込まれるなんて……っ」


 拳を強く握り締めて声を荒らげる陣介。彼や陣一にとって孫と娘に当たる大事な子だ。彼らもまたナクル同様に、何もできない自分たちの無力さを嘆いている。

 するとその時、修一郎が何かを察したかのように険しい顔つきを見せた。


「……そこに隠れているのは誰だ?」


 修一郎のその言葉に全員が彼の視線の先を見やる。

 皆の視線を集めているのは一本の木。その後ろから静かに姿を見せた人物がいた。


 その人物を見た人物たちの反応は様々。警戒する者もいれば、呆ける者もいる。またナクルのように「あ!」と見知った顔に声を上げていた。


「……君は?」


 訪ねたのは修一郎。その問いを無視することなくその人物は名乗る。


「アタシは――戸隠火鈴だ。てか、そっちのチビは知ってるはずだけどな」

「ボ、ボクはチビじゃないッス!」


 以前に面識の会った少女であり、原作においても勇者少女として戦う人物。乱暴な口調や威風堂々とした態度が特徴的な彼女だが、間違いなくその実力は高い。

 ただし彼女はある組織に身を置いていることをナクルは知っていた。


「ナクル、知り合いなのかな?」


 そんな修一郎の答えに、ナクルが知っている限りの知識を自分以外の者に伝えた。


「――なるほど。異界対策局の者か」


 若干渋い表情で言葉を吐くのは陣介だ。その表情からあまり異界対策局に対して良い印象を持っていない様子。


「んだよ、悪いかよ」

「いや、すまない。気を悪くしたなら謝るよ」


 不機嫌そうな火鈴に対して素直に謝罪する陣介。


「で、でも何でこんなとこにいるんスか? ここ伊豆ッスよ?」

「あ? 仕事だよ仕事。ちょうどこっち方面に用事があってな。んで、局から要請があったからわざわざ来てやったんだよ」

「局から要請? ……陣介さん、異界対策局に連絡を?」

「いいや、していない」


 陣介は言葉をともに陣一を見るが、陣一も心当たりがないのか首を振った。同じように蔦絵も通報はしていないようだ。


「あー何でも匿名で通報があったらしいぜ」

「匿名だって?」


 修一郎が眉をひそめる。つまりその通報した人物はダンジョンが発生していることを知っていたことになる。


「もしかして沖長くんが……?」


 修一郎の呟きが漏れるが、ならわざわざ匿名にする理由が思い当たらない。異界対策局にとっても沖長の存在は周知されており、その存在を秘匿する理由もないからだ。

 しかし火鈴曰く、匿名相手はダンジョンの発生場所と緊急を要することを伝えると、名を尋ねた職員の質問を無視して電話を切ったとのこと。


 一体何者がそんなことをしたのかと、ここにいる者たちがそれぞれ訝しんでいたが……。


「んなことより急がなくていいのか?」


 火鈴の的を射た言葉に対し、皆がハッとする。


「そうだ! 今はとにかくダンジョンの中に行く方法を見つけないと!」


 慌てた様子で声を発する陣一に賛同するナクルたち。けれどその方法が分からない。すると火鈴は、状況を察したように「なるほどなぁ」と口にしながらダンジョンの亀裂の前へと近づく。そしてひとしきり観察した後にフッと頬を緩める。


「これなら何とかなりそう……か」

「え? どうにかできるんスか!?」

「まあ、黙って見てろ」


 ナクルの期待が混じった言葉に対し、火鈴はポケットを漁り何かを取り出した。

 その手に握られたモノ。それは――一つの砂時計。


「コイツはダンジョンから見つかったアーティファクトの一つ――《逆行の砂時計》。結構レアなもんらしいぜ」

「《逆行の砂時計》だって!? 確かにそれなら……!」

「え? お父さん、知ってるんスか?」

「ああ、とはいえ俺も実際に使うところを見たのは一度だけだ。何せハードダンジョン以上のダンジョンから稀に見つかるアイテムだしな」

「俺も聞いたことはあるな。ただ見るのは初めてだが」


 陣介もマジマジと砂時計を見ながらそう言った。


「ど、どのような効果があるんですか?」


 蔦絵の質問には陣介が答えることになった。


「何でも対象の時間を逆行した状態へと戻すことが可能なのだそうだ」

「それはっ……とてつもないものですね」


 蔦絵が驚くのも無理はない。人がどうやっても時間だけはどうすることもできない。すべての生き物が平等に体感するのが時間である。己の意思で停止させることも進めることも、ましてや時間を戻すなどできない。それこそ神の御業だけが可能であろう。


「おいおい、長ったらしい説明会は後にしろっての。コイツだって万能じゃねえんだぜ? 戻せる時間も限られてんだ。さっさとやりてえんだが?」

「す、すまない。頼む、やってくれ!」


 陣介が早口で頼む込み、皆が息を飲む中、火鈴が手に持った砂時計を亀裂に向かって投げつけた。

 砂時計が亀裂に飲み込まれた直後、眩い発光現象が引き起こされる。


 しばらくの間、輝きが場を支配している中、各々が固唾を飲んで見守っていた。そして徐々に光が収まっていく。

 ナクルの目前に広がったのは、これまで見てきたような巨大な裂け目を有したダンジョンの入口の姿だった。


「!? ……蔦絵ちゃん!」

「ええ、行くわよ、ナクル!」


 居ても立ってもいられないといった感じで、蔦絵とともにナクルは裂け目に飛び込んでいったのであった。




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