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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 ナクルと目が合うが、その話題は後でということで、今は食事を終えることに集中しておいた。

 そして食事を終えると、すぐにナクルと二人で修一郎のもとへと向かう。


「――何だって? 近くにダンジョンの気配が?」


 先ほど沖長たちが感じ取ったのはダンジョン発生の気配だったのだ。それを修一郎に伝えると、「こんなところにもか」と険しい顔つきを見せる。

 よもや旅行先でダンジョン発生に遭うとは、これで二度目ということもあり警戒しているようだ。ちなみに一度目は言わずもがな、原作開始のきっかけとなった【旅館・かごや亭】での一件である。


「どうやら最近全国各地で頻繁にダンジョンが発生しているというのは本当みたいだな。それで、沖長くんたちはどうするつもりだい?」

「どうするとは……攻略に向かうのか無視するのかということでしょうか?」

「うん。攻略できる力があるのは二人だけだが、それを強要するつもりはないし、今までも君たちの選択を尊重してきただろう?」

「そうですね……ナクルはどうしたい?」

「う~んとぉ……オキくんが行かないならどうでもいいッス」

「そっか……じゃあ放置でも構いませんかね?」

「それでいいんだね?」

「妖魔人がうろついている以上は、下手に近づかない方が良いと思うんです」

「ん、了解だよ。大悟やトキナたちにもそう伝えておくよ」


 沖長は「お願いします」と言うと、その場を離れていく修一郎を見送った。


「……ナクル、ちょっといいか?」

「ん? 何スか?」

「今までもそうだったけど、これからもできるだけ一人でダンジョンに向かうのは止めた方が良いと思う。たとえダンジョンに呼ばれる気配がしたとしても、ね」

「分かったッス! 安心してほしいッスよ! さっきも言ったけど、オキくんが興味ないならボクも興味ないッスから!」


 その言葉に偽りはないのだろう。ナクルの行動理念として、いつも沖長が中心に置かれている。依存とも取れるそのスタンスは危うく感じるが、まだ子供でもあるし今はまだそれでいいと判断した。その方がこちらとしては対応しやすいという理由が大きいが。


 原作では力を求め、友達のために秘宝を求め、大人顔負けに多くのものを背負ってがむしゃらに突き進んでいたナクルだが、ここにいるナクルは良くも悪くも子供らしさが前面に出ている。


 残酷で容赦のないイベントや、幼い頃からの環境によって、純朴な子供として育たなかったが故に、原作のナクルは単独行動が多かったらしいが、沖長にとっては目の前のナクルの方が本来の姿であるべきだと感じていた。やはり子供は子供らしくのんびり成長してほしい。


「あ、ナクル~!」

「ほへ? あ、和歌ちゃん!」


 二人で話しているところに和歌が手を振りながら近づいてきた。どうやら別れの挨拶をしに来たらしい。先に帰宅したらしき藤枝皇火と羽竹以蔵に続き、もうすぐ蔓太刀家も揃ってお暇するとのこと。


「あれ? 今回は早いッスね? いつもは三日くらいいるのに」


 少し寂しそうなのは、ナクルにとってやはり親しい姉役だからであろう。


「あはは、ごめんねー。お祖母ちゃんってば呼び出されちゃったみたいでさぁ。だからウチらも一緒にってことで」

「そうッスかぁ。でも会えて嬉しかったッスよ!」

「おお、おお、このかわい子ちゃんめぇ~」

「ひゃははっ、くすぐったいッスよぉ~!」


 じゃれ合っている二人を見ると、本当に姉妹のように思える。蔦絵とももちろん仲が良いナクルだが、和歌とは性格も似通っているせいか実に相性が良い。

 そこへ和歌の姉である聖歌と祖母の菊歌も顔を見せ、沖長たちに声をかけてきたが、不意に菊歌が妙なことを言ってくる。


「え? 手を……ですか?」

「ええ。良かったらですが、手を見せては頂けませんか?」

「別に構いませんけど……」


 特に悪さをするような相手ではないと判断して、菊歌の要望通り手を差し出す。その手を少し冷たさがある彼女の手が軽く握ってきた。


「何してんの、お祖母ちゃんってば」

「しー、静かにしなさいな、和歌」


 当然のように疑問を口にする和歌に対し、聖歌は注意をしつつもこちらに注目していた。同じようにナクルもまた興味深そうに見つめている。

 そんな視線を意に介さずに、菊歌は沖長の手を鑑定人のような素振りで触ってくる。


「…………なるほど、良い相をお持ちですね」

「は、はあ……恐縮です」


 もしかして手相占いでもしていたのだろうかと思っていると、菊歌はおもむろに手を離すと、優し気な微笑みを向けてきて「しかし……」と続けて言ってくる。


「どうも多くを背負う気質でもあるようですね。……隠し事も多そうですが」


 ギクリとしたが、どうにか顔に出さないように耐えることができた。


(な、何だこの人……! いきなりでビックリしたじゃねえか……)


 背負う気質があるかどうかはともかく、隠し事と言われて動揺する程度には持ち合わせているので、そんな的を射た発言に驚いてしまった。


「ふふ、一つ助言をしておきましょう」

「助言……ですか?」

「ええ。もう少し周りを信頼し頼ることを覚えた方がより良い結果に繋がると思いますよ」

「…………分かりました」

「では私たちはこれで。行きますよ、あなたたち」

「承知しました、お祖母様。お二人もお元気で」


 聖歌が一礼をして菊歌の後を追っていった。


「あ、ちょっと待ってよー! あーえっと、ナクル、それに沖長くん! またね! 良かったら今度はウチの家にも遊びに来てよ!」


 そう言って和歌が去ろうとするが、すぐに踵を返して何故かナクルの方へ近づいてきて耳打ちをした。するとナクルが顔を真っ赤にして「も、もう和歌ちゃん!」と怒鳴ると、和歌は楽し気に手を振りながら陽気に去って行った。


「……何言われたんだ?」

「!? オ、オキくんには内緒ッス!」

「そ、そっか……」


 どうやらこれは女の秘密というやつらしい。

 それから幾分静かになった籠屋家だったが、お手洗いに向かっていた最中、ふと気になる光景を目にした。

 それはどこかに向かって歩いていく雪風だった。


(あっちは玄関しかない……よな。どっか出かけるのか?)


 コンビニでも行くのかと思い、声をかけずにその場をあとにした。

 するとその数分後くらいに、ナクルと一緒にいるところに雪風の父である陣一が姿を見せたのだ。どうやら雪風を探しているようで、自分たちと一緒にいるのではと訪ねてきたらしい。


 沖長はさっき玄関へ向かっている雪風について伝えると、陣一は訝しむような表情をした後に、こちらに礼を言ってさっさと出て行ってしまった。

 そして続けて今度は陣介が姿を見せて、やはり雪風について聞いてきたので同じように伝えると……。


「それは本当か? ……あの子は誰にも言わずに外出するような子ではないのだが」


 その言葉と、先ほどの陣一の表情を思い出し嫌な予感が過ぎる。


(まさか――)


 そう思った直後、先ほど感じたダンジョンの気配が一際強くなったのである。




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