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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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「ところで陣介さん、もうみんなは集まってるのかい?」


 修一郎の問いに陣介がニヤリと口角を上げて答える。


「まあいつもお前らが最後だからな。けど今回はビリから二番目だぞ」

「ということは……」

「ああ、でもそろそろ……」


 その時、玄関先の方で扉が開く音がした。


「噂をすれば、だ。俺は出迎えに行ってくるから、お前さんたちは部屋に荷物を置きに行くと良い」

「ありがと、陣介さん。じゃあそうさせてもらうよ」


 全員で陣介を見送ると、そのまま奥へと進み、先にあった部屋へと入る。ここは元々ユキナが住んでいた時に利用していた部屋らしいが、さすがはセレブと言おうか、一人部屋とは到底思えないほどの広さの和室が広がっていた。


 幾つか襖で仕切られているが、それぞれが寝室、勉強部屋、娯楽室のような感じで設けられていたらしく、広さでいえば軽く二十畳はあるのではなかろうか。

 今は客室として使っているようで、この広さなら十分沖長たちも窮屈さを感じることはないだろう。


 ということで元々寝室だった場所を夫婦である修一郎とユキナが使用し、真ん中の勉強部屋だった場を全員の共有ペースに、娯楽室だったところを残りの三人でということになった。


 自分は男なんだけれども、と言いたいところであるが、言ったところで即座に却下されるのは目に見えていた。どうせナクルが一緒の部屋でないと嫌と言うに決まっていたから。


 ならば後は蔦絵の意見だが、彼女もまだ小学生である沖長ならば拒否する理由にはならないと普段から言ってのけているので問題はない。あるとするなら沖長の心の葛藤くらいだが、せめて彼女たちが着替えているところだけは見ないようにしようと決意した。


 この部屋には障子を挟んで向こう側に庭があり、つまり縁側になっているのだ。ここでのんびり座りながら茶菓子でも嗜みたいと老人思考に耽っていると、ナクルが外に行こうと言い出した。

 修一郎には、敷地内から出なければという条件のもと許可され、ナクルと一緒に部屋から出ることになった。


 ナクルの案内のもと、広過ぎる屋敷内を散策していく。


「あ、オキくん、こっちには行っちゃダメッスよ」


 ある通路の分岐点に来た時に、ナクルが通路の先を指差して口にした。当然その理由を聞いてみると、


「こっから先は当主の許可が必要になるらしいッス」

「ふぅん。つまりトキナさんの許可が必要になるのか。ということは彼女の部屋がある、とか? いや、けどトキナさんはこの家から離れて暮らしてるし……?」

「ボクもよく分からないッスけど、大事な部屋があるとか」

「なるほど。教えてくれてありがとな」


 礼を言うと、再びナクルは沖長の手を握りながら歩き出す。そんな中、沖長は不意に浮かんだ疑問に思考を回転させていた。


(そもそも何でトキナさんって当主なのに離れて暮らしてんだろうなぁ。というか当主にしては若過ぎる……よな)


 もちろんそういった事情に詳しくはないので、これは沖長の偏見でもある。若くて家を継ぐ人材だって存在するはずだ。しかしこれだけの大きな家であり、国家の支援を担っていた立場にある当主という存在は良くも悪くも大きな責を負うだろう。


 そんな存在というのは、やはり酸いも甘いも経験した自他ともに厳格な人物だというイメージがあった。故にそこそこ年月も重ねているだろう、と。

 トキナが相応しくないとは言えないが、沖長にとって彼女は綺麗なお姉さん的な感じだ。厳格さとはあまり似つかわしくなく、とてもこれだけの家の当主を進んで担うような性格にも思えない。


 それでいうならば、まだトキナよりもユキナの方が合っているような気もするのだ。


(まあ他人の家のことにツッコミ入れられるような立場じゃないか)


 そう思い、頭を振って疑問を振り払う。そしてナクルに別に気になったことを尋ねる。


「そういやナクル、この時期って分家の人たちも来るって話だよな?」

「へ? あ、うん、そうらしいッスね」

「らしい? あの陣介って人もそうだろ? もしかしてあんまり詳しいことは知らないのか?」

「だって興味ないッスもん」

「あー……」


 確かにまだ小学四年生の子供には、家の繋がりなんてものは興味がないかもしれない。親戚が多いくらいにしか考えていないかもしれない。実際沖長も、札月の親戚にあまり好奇心が働かない。何故ならそういう話題にならないし、なったところで積極的に関わっているわけでもないので、結局「ふぅん」と生返事する程度の反応でしかない。


「じゃあ他の分家の人のことって何も知らないのか?」

「会ってご挨拶くらいはしたッスよ。それにボクと遊んでくれるお姉さんとかもいるから、仲良い人もいるッス」

「お姉さん、ね。俺たちと同じくらいの子供とかはいないのか?」

「いるらしいッスけど、ボクはまだ会ったことないッス」

「そうなのか? こういう行事って、家族全員が集まるんじゃないのか……」


 とは口にしたものの、自分も墓参りに行くくらいで、親戚同士で集まるなんてことはしていないことを思い出す。しかし格式高い家は、こういう行事には親戚ともども顔を合わせているような気がしたのだ。


「前にお父さんに聞いたッスけど、別に強制ってわけじゃないらしいッスよ。ただボクの家族は、お母さんがチョッケイ? ってやつっスから、無視はできないって言ってたッス」


 なるほど。家から離れたとはいえ、ユキナは元々次期当主候補だったはず。さすがにお盆の時期に顔を見せないのは不義理過ぎるということか。


「あ、でも強制じゃないのは家族全員ってことで、えーとぉ、それぞれの家の当主は絶対に来なきゃならないって聞いたッスね」

「そっか。じゃあ一応籠屋家に連なる分家の当主は全員来るってわけか」


 ただ前にこの行事に関して長門に尋ねたことがあった。第二期の始まりのきっかけになるイベントだから情報を得ようとしたのだ。

 いろいろ教えてはくれたが、一つだけ言い渋ったことがあった。


 それは籠屋の分家筋に関してのことだ。あまり原作には関係ないからと一点張りで詳しくは教えてくれなかった。それに気になることも言っていた。


『どうせ今回は君も行くんだろ? ならその時にすべて理解できるさ』


 だからその時まで楽しみに待っていろと言わんばかりだった。


「……なあ、ナクル。一応分家の人たちの名前を教えてもらってもいいか?」

「いいッスよ。えっとッスね……まずは陣介おじさんの柳守家ッス」


 指を一本ずつ立てながら、ナクルは分家の名を口にしていく。


「よく遊んでくれるお姉さんがいるのは蔓太刀つるたち家ッスね。それと藤枝ふじえだって家もあるッス」

「ほうほう。それで全部か?」

「あとはッスね…………」

「もしかして忘れたとか?」

「ち、違うッス! あ、思い出したッスよ! 羽竹ッス! 羽に竹藪の竹で羽竹ッス!」

「………………何だって?」




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