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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 ――【異界対策局・北海道支部】。


 御手洗信蔵は、新設されたばかりの北海道支部の長として毎日忙しなく働いていた。元々は官僚の一人として東京で仕事をしていたのだが、総理の任命を受けて一年前からココの

支部長という立場にある。


 信蔵の出身が北海道ということもあり、現地に詳しくかつそれなりの実績を持つ人材をとなると、総理にとって彼しか思い至らなかったらしい。


「……ふぅ。これで半分は終わりましたかね」


 官僚として三十年以上のキャリアを積んできて、今年でもう五十五歳。当然白髪も目立ち、顔には年輪を表すように深いしわが幾つも刻まれている。元々柔和な顔立ちではあるが、しわのせいか余計に穏やかさを印象付けていた。


 本日の仕事のノルマの半分を終え、パソコンから少し身体を離して伸びをする。そのまま身体を左右に捻って、凝り固まった筋肉を解していく。ただ歳のせいか、ボキボキと骨まで乾いた音を鳴らしている。

 するとそこへノックが入り、信蔵が入室を許可すると一人の人物が入って来た。


「おお、来てくれましたか。待っていましたよ」


 現れたのは二十代前半と思われる若い女性。ビシッとしたタイトなスーツを着用しており、その佇まいも相まって仕事ができる秘書のようだ。


「すみません、遅くなりました」


 女性は丁寧に頭を下げて謝罪をするが、信蔵は笑みを浮かべながら「気にしないでください」と口にした。そして「実は君に任せたい仕事があるんですよ」と言って、手元にあったファイルを彼女に手渡す。


「? 拝見致します」


 女性がファイルを開き中を確認し目を細める。


「これは……?」

「現行の勇者、そしてその候補生たちの資料ですね」

「はあ……何故その資料を私に? 仕事と仰ったので、この者たちに関することだとは思われますが」

「その通り。君にはこれからそこに記載されている者たちに接触してもらいたいんですよ」

「接触……ですか? 理由をお聞きしても?」

「もちろんですよ。まあ理由は至って単純で、現行の勇者の素行調査と、候補生のスカウトですかね」

「素行調査? ですが見ると地方の者たちがほとんどですが?」

「北海道に関しては他の者に任せていますので問題ありません。ただ他府県となると、なかなか手が回らないのも事実なのです。ココだって一年前にようやく設置されたことはご存じですよね? 残念ながら支部はすべての都道府県に在るというわけではありません」

「……だから手が空いている者が、他府県の勇者や候補生を調査しなければならないと?」


 信蔵は大きく頷き、女性は再び資料に視線を落とす。

 実際【異界対策局】という組織は人手不足と言えよう。今年から日本各地で発生し続けているダンジョン。一般人に知られないためにも、【異界対策局】は出来る限り速やかに対応しなければならない。


 しかしながらどの地域にも【異界対策局】が存在するわけではない。総理が尽力して設立した組織ではあるが、いまだ手が届いていない地域というのは存在する。

 その理由は人手不足に外ならない。まず日本の中心である東京に本社を置き、次いで過去の統計的に見て、ダンジョン発生が多い地域に支部を設置していった。


 ただ総理が動かせる人材にも限りがあり、どうしても時間がかかるのは否めない。故に北海道という大都市の一つに支部を置くにもようやく成せた経緯があるのだ。

 【異界対策局】というのは日本を守護するための拠点であり、強い愛国心を持つ者でなければ長は任せられない。失敗は許されない事業でもあり、総理が信頼できる人材を認知するには、やはり時間を費やさざるを得なかったのである。


「君はこれから地方へ回り、勇者の素行調査、及び候補生のスカウトをお願いします」

「……分かりました」

「おや、随分と素直ですね。てっきり反対されるかと思ったのですが」

「組織に所属している以上は、上司からの任務は出来る限り全うするつもりです。余程理不尽なことではない限り」

「ふむ。とても学生の頃、教師の敵とまで呼ばれ暴れていた君とは思えないセリフですね、大淀くん?」

「…………忘れてください」


 大淀と呼ばれた女性は、若干気恥ずかしそうに眼を逸らした。そんな彼女の仕草が微笑ましかったのか、穏やかな笑みを見せながら信蔵は続ける。


「ああそれと、東京本部に立ち寄り情報の共有もかねて、それまで得たデータを渡しておいてくださいね」

「手渡し……情報漏洩を防ぐためですね」

「はい。もっとも一般人に漏れたとて然程問題はありませんが、一応個人情報ですからね」

「それは問題あると思いますが……」

「いえいえ、政府が隠しておきたい秘密がバレることはないという意味ですよ」

「……そのことについて前に苦言を呈させて頂きましたが?」

「ああ……ダンジョンの存在を秘匿し続けるデメリットに関してですね。確かに君の言った通り、全国民に認知してもらい協力を仰いだ方が事はスムーズに進む……かもしれません」

「でしたら……」

「それでも決して少なくない混乱は招きますし、良からぬことを企てる者たちも増えてしまう。違いますか?」

「それは……」

「君の言いたいことは理解できます。私もどちらかというと君側の考えです。けれど結局のところ我々が声を上げたところで最終的に判断されるのは総理ですから。それに総理のお考えも理解できます。まだ時期尚早であるということも」

「つまりいずれは国民にも明らかにする、と?」

「いつまでも隠し通せるものでもないでしょう。ダンジョン発生の規模は、回を増すごとに大きくなっているようですし、我々だけでは対処が追いつかなくなる事態も起きる可能性は十分にあります。事実、過去にも一般人に知られたことがあったようですしね」

「その時は記憶処理を行ったと聞いています。あまり気分の良い処置ではないですが」

「そう怖い顔をしないでください。それでも当時はそれが正しいと判断した結果でしょうしね」


 人の記憶を操作するのは明確な非人道的行為である。故に大淀は不愉快さを露わにしているが、結局はそうせざるを得なかった時代であるということも理解し複雑な胸中なのだろう。


「たとえいずれ国民に知られたとしても、十全な動きで我々が対処できるように備えておけば良いと思いますよ。そのためにも様々な情報が必要不可欠なのです。ですからこの任務、しっかりとお願いしますね、大淀くん」


 信蔵の言葉にハッキリと返事をした大淀は、そのまま一礼をして部屋から去って行った。

 そして一人になった信蔵は、それまで浮かべていて笑みを消す。


「……これから益々忙しくなりそうですねぇ」


 軽く首を振りつつも、また仕事へと戻っていった。




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