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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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 一応暴力沙汰などなく穏便に事が終わったことでホッとしつつナクルが待っているであろう教室へと向かっていた時に、目の前に現れのは羽竹長門だった。


「随分とヘコませたみたいだね」

「何だよ、覗きは趣味が悪いぞ?」

「そう言わないでよ。こっちも君に用があって探してたところなんだよ。そこでたまたま君があの銀髪と一緒にいるのを見かけてね」

「ま、別にいいけどな。それで? 俺に用って何だ?」

「恐らくもうすぐハードダンジョンが出現するけど、どうするつもり?」

「どうするって?」

「挑むのか挑まないのか、さ」


 なるほど。原作では【異界対策局】に所属しているナクルは、その要請に従いダンジョン攻略に勤しんでいたから、自然とその流れでハードダンジョンにも挑むことになる。

 しかし現状は、挑むか挑まないかを自分たちで決められる立場にあるのだ。挑まないという選択もあるといえばある。


「……放置したらどうなると思う?」


 とりあえず長門に意見を聞いてみた。


「どうだろうね。【異界対策局】が対処する確率が高いけど、七宮恭介が動くことも考えられるかもね」

「そっか……なら別に放置しても問題ないかもしれないんだな」


 挑む前提で考えていたけれど、確かに日本の守護を担う【異界対策局】が対処するのは当然だ。何せ原作でもナクルを派遣したのだから。


「ただユンダの動きも分からないからね。君の介入のお蔭でさ」

「何だよ。じゃあ九馬さんのことは見捨てていれば良かったのか?」

「そうは言ってないさ。けど結果的にユンダの動きが読めなくなったのは痛いって話。僕だって九馬水月が悲劇から逃れられるならその方が良いと思うしね」


 積極的に原作には関わらない長門ではあるが、さすがの彼でも無垢な子供たちが不幸になるのは良しとしないようだ。だったらともに動いて欲しいと思うが。


「そういや今まで聞いてなかったけど、お前の推しのリリミアは現在どこにいるんだ?」


 何気ない質問のつもりだったが、明らかに長門の雰囲気が変わり、こちらを警戒するような目つきを見せる。


「……どういうつもりでそんなことを聞くんだい?」

「あー……勘違いすんなって。別に巻き込もうってことじゃない。ただ消息は掴めてるのかってちょっと気になっただけで」

「……今の君には関係ないさ」


 明確な拒絶だ。こちらは巻き込まないと口にしたしそのつもりでもあるが、全面的に信用している様子はなさそうだ。それほどまでに彼にとってリリミアは大事なのだろう。


 これ以上追及して、長門との間に溝を作るのは問題だ。せっかくの情報提供が失われてしまう。


「分かったよ。本当にちょっと気になっただけだから。それに戦力って話なら、現状でも十分整ってる」

「……まあ、あの十鞍千疋を仲間にしてるみたいだしね。一体どうやって彼女を取り込んだのか教えてもらってないけど」


 それはこちらの能力を明かす必要が出てくるので秘密にしていた事実だ。長門も隠していることがあるだろうから、こちらにも積極的に追及してはこないが。


(羽竹とはあくまでも利害の一致での繋がりでしかないんだよな。敵対しないだけマシだけど、やっぱり壬生島と違って扱いは慎重にしないと)


 このえに関しては、千疋の件によって信頼を得ることに成功している。しかし長門とはこうして情報を共有する仲ではあるけど、親密度が高いわけではないので。こちらも彼の扱いに関しては慎重にならざるを得ないのだ。


「それにしてもあの銀髪が君に土下座までするなんてね。最近まで引きこもっていたようだし、一体何をしたのさ?」

「前にその高く伸び切った鼻をへし折ってやっただけだよ」

「ふぅん、それだけじゃなさそうだけど……ま、アイツのことはどうでもいいよ。大人しくなるならこっちもありがたいからね。てか、話を戻すけどハードダンジョンは放置ってことでいいのかい?」

「問題ないならだけど…………こっちには主人公がいるからな」

「原作の修正力てやつかい? 僕は信じてないけど、まあ挑むことになるって思っておいた方が良いかもね。その方がいざって時に慌てなくて済む」

「ご忠告どうも。そう思うならお前も力を貸してくれてもいいんだぞ?」

「悪いけど、僕には僕のやるべきことがあるんだ。話はそれだけ、じゃあね。武運を祈るよ」


 そう言うと、静かにその場から去って行った。沖長もまた教室へ向けて歩き出す。


(相変わらずリリミア一択か。徹底してるなぁ)


 だからこそ揺るがない意志を持ち続けられる。そういう奴は良くも悪くも強い。


(あれだけ固執してるってことは、すでに居場所も掴んでるだろうけど、それを教えるつもりはまったくなさそうだな)


 下手な横やりが入ると、その結果、原作から大きく外れて予期せぬトラブルにリリミアが巻き込まれることを危惧しているのだろう。


(壬生島ならリリミアって子の居所を知ってるかもしれないし、探そうと思えば探せるかもしれないけど、こっちがリリミアに接触したってことが分かればその時点で繋がりは断ち切られるだろうな)


 故に軽率な行動はできそうもない。ここは素直に目下のイベントであるハードダンジョン出現に対してのみ意識を向けた方が良さそうだ。


(とはいっても現状できることは限られてるんだけど……)


 大体の出現場所も把握しているし、戦いに巻き込まれた時のためにも修練を欠かしていない。このえとの連絡も密に行って、何かトラブルに遭っても対応できるようにしている。


 だがやはり物語の第一期を締めくくる大事件の一つでもあるイベントだ。緊張しても仕方ない。先ほどは放置も有りかと口にしたが、やはりそう都合よくはいかないような気もするし、どんな流れになっても柔軟に応じられるようにしておく必要がある。


 その時、不意に先ほど相対していた銀河のことが気にかかり振り返った。彼の姿はもう見えないところまで来ている。

 彼に対して思うところは多々あるものの、確かに少しは変わった様子ではあった。何が彼をそうしたのか知らないが、それでも考えが単調であり、まだまだ間違っている最中だということだけは理解できた。だからこそ彼に能力を戻そうなんて思わなかった。


 だが少しでも変わったのは事実。つまり人は何かのきっかけで変わることができることを意味する。彼がもっと自分を見つめ直し、夜風たちのことを真に思いやることができるようになればあるいは……。


「……ま、期待するのは止めとくか」


 元がアレだから、今は突き放すだけで放置しておく。

 沖長は大げさに肩を竦めて、今後のダンジョンブレイクに備えるために意識を向けていく。


 そして数日後、いよいよその日がやってきた。




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