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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる  作者: 十本スイ


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(……これは驚いたわね)


 蔦絵は、ナクルにダメ出しをしている小さな男の子――沖長から視線を外せずにいた。

 ナクルとの組手が一旦終了し、そこへ沖長が駆けつけたのだ。


 彼はやり過ぎだと言ったが、自分たちが行う本格的な修練はこんなものではない。もちろん入門したてで、このような修練を彼に課すことはないが。


 ナクルや自分も最初は受け身や柔軟などの基礎から始めたものだ。正直にいって最後に見せた投げ自体は、確かにナクルのような子供にするような技ではないだろう。しかし今のナクルであれば、あの程度どうということはない。


 少し前までは受け身も取れずに涙目になっていたが、先ほどの技に対してしっかりと受け身も取れていてダメージも最小限にしていた。彼女の成長は蔦絵にとっても喜ばしいもの。


 しかし今は、ナクルの成長よりも目を見張るのは、先ほどの沖長の発言だった。

 まさに今のナクルにとって必要な助言をするのが、自分や師範なら不思議なものは何一つとしてない。だが沖長はまだ六歳児の上、格闘技に精通しているとは思えない。それなのにあまりにも的確な言葉に驚いた。


 さらにこの言葉――。


『相手が格上なら、腕が掴まれることを見越してフェイントを入れるべきだった』


 耳を疑った。何故ならこの言葉を口にできるということは、あの瞬間の蔦絵の動きが見えていたからに他ならない。

 もちろんナクル相手に本気で動いたわけではない。それでも常人には捉え切れない程度の速度で、ナクルの腕を掴んで投げ飛ばしたのもまた事実。


 何度も組手をしているナクルですら、簡単に腕を掴まれてしまった。ただ彼女の場合はこちらの動きは感知できたものの、まだ身体が反応し切れていないだけではあるが。そうでなければ受け身すら取れなかったはずだ。


 それでも毎日修練をしているナクルだからこその反応。しかしながらこの少年は、あっさりと蔦絵の動きを捉えていたかのような言葉を発したのだ。


(この子……)


 本人はそれがどれだけスゴイことをしたのか理解していない様子。

 力が強い、体力がある、技に冴えがあるなど、当然ながらそれらを持ち得ている者は優秀だ。だがそれはまた鍛えられるのも事実。


 蔦絵の持論にはなるが、戦う者にとって最も重要なのは見極める目を持っていること。

 もちろん眼力も鍛えることで、相手の動きを見極めることはできるようになるだろう。しかし単純な力や体力などと違って、すぐには身に付かない上に、どうしても多くの経験が必要になってくる。


 沖長が長い年月をかけて眼力を養ったとは思えない。恐らくは生まれ持った才能なのだろう。

 実際こうして見ていると、どこにでもいる普通の少年だ。ナクルのように内に秘められた強い力も感じない。


 大人顔負けの対応力に、天性の眼力。


(ふふ、また面白そうな子が入ってきたわね)


 磨けば光る原石を見ると、どうしても高揚してしまうのが蔦絵の癖である。ナクルを初めて目にした時もそうだった。この子の中に眠っている闘士としての強さを感じ、さすがはあの日ノ部修一郎の娘だと興奮を覚えたものだ。


 そして今日、またあの時と同じ感覚が蔦絵の全身を震わせていた。



     ※



 現在沖長もまた震えていた。

 何故なら傍に立っている蔦絵が、先ほどからニヤニヤと笑いながら自分を見つめているからだ。そしてそのせいか悪寒さえ感じる。


(何で? 何でこの人笑ってんの? しかも俺を見て!)


 ハッキリ言って超怖い。

 これは直感だが、今目を合わせたらロクなことにならないと思い、必死に顔ごと逸らしている最中だった。


 するとそこへ入口から修一郎を筆頭に自分の両親もやってきた。どうやら話が終わったようで、家に帰るために迎えに来たらしい。

 もう帰るのかと、ナクルは口を尖らせていたら、これからは一緒に練習できるからと言うと機嫌を直して見送ってくれた。


 そうして日ノ部家を後にし、帰宅途中でスケジュールなどの話を聞かされる。これから小学生としての生活も始まるし、毎日というわけにはいかないが、とりあえず土日をめどに通うことになった。

 慣れてくれば、沖長の意思で他の曜日も通っていいらしい。


「あ、そういえばこれから通う小学校もナクルちゃんと一緒みたいよぉ」


 それは初めて聞いた。まあ同じ学区内に家があるからおかしい話でもないが、これで学校でも話したりできるなら喜ばしいことだ。


「あの蔦絵ちゃんのことも教えてもらったわぁ。まだ高校二年生なんだってねぇ。あ、でも今年は高校三年生かぁ。大人びていて綺麗な子だったわねぇ。まあ、どこかの旦那さんはそんな未成年に見惚れてたみたいだけどぉ」


 ジロリと睨まれ、顔を背けながら冷や汗を流している旦那さんが一人。


(ごめん、お母さん。俺もお父さんのこと言えないや)


 あまりの美しさに見惚れてたのは自分も同じなので。きっと今日の夕食では、悠二だけ一品くらいおかずが少ないはずだと、心の中でドンマイと慰めておく。


「あの子、師範代なんですってねぇ。ナクルちゃんのパパさんも将来を期待してるらしいわぁ」


 あれだけの規格外な動きができる人だ。将来を期待されても不思議ではないが、どうして古武術なんかをやっているのか気になり、その事情を聞いたのかと両親に問うた。


 するとあまり詳しいことは教えてもらっていないようだが、何でも蔦絵の家の意向で世話になっているらしい。彼女の家は古くから続く武家らしく、その当主と修一郎が親しいとのこと。


(んじゃ、あの人もまた小さい頃からナクルみたいに武術をやってたってことかな)


 ならまだ高校生にもかかわらず、あの貫禄と実力があることに説明がつく。まあ沖長としては、あの美貌を活かしてモデルとか女優になった方が需要はあるとは思うが。


(これからあの人とも一緒に修練するんだよな)


 美女と一緒の時間を過ごすのは男としては嬉しい。それは事実だ。しかし今日、ナクルとの組手を見て不安に思っているのも確かだ。


(それにあの笑顔……)


 ナクルとの組手が終わった直後、何故かジッとこちらを笑顔で見つめていた蔦絵。何となくだが、まるでマッドサイエンティストに目をつけられたような怖気を感じた。


 そう、それは愉快な玩具を発見したような喜び。それがあの笑顔から伝わってきたのである。


(…………大丈夫かな、俺)


 どことなく後悔の念が過ぎる沖長だった。




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