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7話 明かされた真実

 そうこうしているうちにカスピールに到着し、その日はあてがわれた部屋で休みを取った。

 翌日、アナベルはセレモニーにドレス姿で出席した後、賑わう街から少し離れた小高い丘までマリアナと足を伸ばすことになった。

 

「やっぱり自然はいいわね。人混みから解放されて気持ちがいいわ」


 マリアナは豪華なドレスのまま草の上に腰をおろすと、上半身を伸ばした。

 アナベルも古城を眺めてその優美な佇まいに感動していると、後ろから声をかけられた。


「アナベル嬢」


 振り向くとグレイの父、ジェフリーが立っている。


「ゴードン将軍!ご無沙汰しております。将軍もいらしていたのですね」

「ふふっ、やっぱりアナベルは気付いてなかったのね。今回は将軍が護衛の責任者なのよ?」

「そうだったのですか!」


 マリアナに教えられて驚く。


 まさか、グレイ様も来ているなんてことは……。


 表情に出ていたのか、ジェフリーに笑われてしまった。


「はははっ。いや、息子は同行していない。付いてくると言ってきかなくて困ったが、お前は筋肉を戻せと言って、置いてきた」


 筋肉を戻す?


「あの、やっぱりグレイ様の筋肉って少し萎んでましたか?気のせいかとも思ったのですが」

「さすがアナベル嬢。よく見ている。実はアナベル嬢が練習場へ顔を出さない間、練習に身が入らなくてね。筋肉が落ちてしまったんだろう」

「ふふふっ、アナベルってばどれだけ彼の筋肉に詳しいのよ。普通気付かないわよ?」


 おかしそうにマリアナが笑うと、ジェフリーも嬉しそうに笑った。


「グダグダと悩んでいるようだから、『アナベル嬢は留学に行ってしばらく戻らないらしい。お前はそれでいいのか?』と言ってやったら、一目散に出ていったよ」

「私の案はうまくいったでしょう?」

「ええ。お陰で戻ってきた息子は機嫌の良さが丸わかりで、いそいそと筋トレを始めまして。単純な男です」


 ん? マリアナ様の策? 将軍がわざと私の嘘の留学話をグレイ様に伝えて、でもその黒幕はマリアナ様だったってこと? 確かに、親父がどうのこうのとグレイ様が言ってたような……。


 謎が解けて、アナベルは目を瞬かせながら二人を見てしまった。

 どうやら二人のおかげでグレイとの関係が修復出来たらしい。


「お二人ともありがとうございました。お陰様でまた練習場へ顔を出すことが出来ます」

「良かったわね。私の望む結果までは、まだあともう一歩欲しいところだけれど」

「そうですな。息子に発破かけときます」


 発破? お二人は何を言っているのでしょうね……。


 王女と将軍の期待に満ちた眼差しを受け、アナベルは困惑していた。



◆◆◆


 

 アナベルの旅の行程は順調に進んだ。

 

 三日目は王女歓迎の夜会があったので、早い時間から支度を開始し、夜会に出席しただけで一日が終わってしまった。

 夜会経験が少ないアナベルは、極力目立たないよう壁のそばでひっそりと過ごしていた。 もちろん、警備の騎士様ウォッチングは欠かさない。

 むしろ、壁に近い方がよく観察出来たのである。


 四日目は予定がなかった為、街に出て買い物を楽しんだ。

 途中で将軍のジェフリーと偶然出会い、護衛を買って出てくれたので一緒に回ったのだが、グレイの好物も知ることが出来、楽しい時間を過ごせた。

 アナベルは少し前までは武官との接点が全くなく、文官の親族ばかりと付き合いがあったのだが、物事の考え方や視点が異なる為、話していて楽しく、勉強になることが多いと感じた。

 将軍の相変わらず素晴らしい胸鎖乳突筋や、その他の筋肉に見惚れては、全部バレていたらしく笑われてしまった。 この旅の間に、アナベルは将軍と親しくなれて嬉しかった。


 そして五日間の旅を終え、アナベルは元気に王都へと帰還したのである。

 

 家族はアナベルが何事もなく帰宅したことを喜び、アナベルの土産話で盛り上がった。

 かの有名な将軍とアナベルが親しくなったことに驚き、屋敷に訪れた若者がその将軍の息子と知って、更に驚いていた。

 カスピール名物の燻製肉や、スパイシーな調味料など、グレイへの差し入れに使えそうな食材を持ち帰ることが出来てアナベルは満足だった。


 帰宅した翌日、アナベルは早速グレイに手紙を書いた。

 無事に帰ってきたことと、旅先ではグレイの父のジェフリーにとてもお世話になったことをしたためた。


 よし、これでグレイ様との約束は果たせました。 あんなに何度も確認してましたから、ちゃんと知らせないと怒られてしまいそうです。


 グレイからの返事はそれからすぐに届いたのだが、グレイの様子がおかしい。 二日後に練習場へ来て欲しいと書いてあるが、なんだか不機嫌さを感じる文章だった。


 何を怒ってるのでしょう……。 私、何かやらかしたかしら?


 不安になりつつも、アナベルは気合の入った差し入れを用意し、二日後に練習場を訪れたのである。



  練習場の扉を開いたアナベルは戸惑っていた。


 あら?誰もいません。 私、日にちを間違えたのかしら?


 入口でキョロキョロしていると、奥からグレイの声がした。


「アナベル、こっちだ」


 どうやら、観覧席に座っているらしい。

 アナベルもグレイの方向へ歩いていった。


「ごきげんよう。今日は他に誰もいないのですね」

「ああ、休みだからな。自主練するって嘘ついて開けてもらった」

「え、嘘?いいのですか?」

「別に平気だろ。って、それより無事に帰ってきたんだな。あっちは楽しかったか?」

「はい!とっても!!ゴードン将軍とのお買い物が特に楽しくて……」

「親父はいいんだよ!つーか、買い物って。なんで親父とデートしてるんだよ!!」


 あれ? なんだかまたご機嫌ななめですね……。


「たまたまお会いしただけです。デートだなんて」

「親父のやつ……。付いてくるなって俺を置いていったくせに、自分はアナベルと仲良くしやがって……」


 ん?これはもしや……。


「それって、ヤキモチですか?」


 私にも覚えがありますよ! グレイ様を令嬢達に取られたような気がして。


「はぁぁ?俺は別にヤキモチなんかじゃ……。いや、ヤキモチか?俺、親父に嫉妬してるのか?」


 自問自答を始めたグレイだったが、すぐに答えは出たらしい。


「俺、カッコわりぃ……。俺より先にアナベルが親父とデートしたのがショックでさ。手紙にも親父のことばかりだったし。親父に嫉妬した。うわ、最悪だ」


 大きな体を丸めて、頭を抱えている。


 うわ、可愛いです! グレイ様が可愛く見えます!!


 アナベルは自分の感情に衝撃を受けていた。


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