11話 結婚式と初めての夜
最終話です。
アナベルは、グレイからプロポーズされたことを両親に伝えた。
グレイもすっかり腹が決まったのか、すぐさまアナベルの両親の元へと、二人の結婚の許可をもらいにやって来た。
その際にグレイの父、ゴードン将軍までもが揃って屋敷に現れた為、アナベルの家族と使用人は国の重鎮の登場に大慌てであった。 アナベルの家族にしてみれば、この前まで屋敷に引き籠りがちで勉強ばかりしていた大人しい娘が、突然筋肉隆々の騎士と結婚すると言い出し、相手がこの国一番の武官の家系だったのである。
動揺しないはずがなく、騎士二人の前で妙に萎縮してしまい、普段鍛えていない体が更に小さく見えた。
うちの応接室って、将軍とグレイ様が揃うと狭く感じるわね。 ソファーも悲鳴をあげてそうだし。 しかも、やっぱりお父様、お兄様とは体格が全然違うわ。
屋敷を包むほどの緊張感の中、アナベルだけが呑気に観察し、状況を楽しんでいた。 それほど、家族の動揺が面白かったのである。
結婚の許可は呆気ないほど簡単におりた。
なにしろ、「馴れ初めは筋肉で、アナベルが筋肉を触りたがったから……」なんて話を聞かされたのである。 まともな娘に育てたと信じていたアナベルの両親にはショックが大きく、気絶しそうになっていた。
そんな時に、「こんな情緒もわからない粗野な息子で申し訳ないが、ぜひ息子の嫁に……」などと、かの高名な将軍に言われてしまっては、「どうぞどうぞ、差し上げます」となるに決まっていた。
かくして、あっさりと二人の結婚は決まったのである。
文官家系のレスター家と、武官家系のゴードン家の婚姻は、珍しさもあってかすぐに噂が広まった。
マリアナ王女は二人の結婚を特に喜び、「私も結婚したい騎士がいるのよ」と、こっそりアナベルに教えてくれた。 体が大きくて怖いと思われていた騎士達だったが、今は令嬢にも人気急上昇らしい。
ほどなくして、グレイとアナベルの結婚式が盛大にとり行われた。
親族や友人らの席を見ると、体格の差がハッキリと違っていて面白い。 アナベルの関係者席は文官らしく普通の体型、グレイの方は武官らしく筋肉モリモリである。
「誰がどっちの関係者か一目瞭然だな」
新郎のグレイが、控え室から式場を覗きながら呟いた。
「今日をきっかけに、これからは交流が増えるだろう」
ゴードン将軍が予想した通り、その後は騎士に嫁ぐ文官の娘が増えたのであった。
新婦のアナベルは白いウェディングドレスを身にまとい、バージンロードをゆっくりと歩いていく。道の先に、騎士の正装姿のグレイが姿勢良く立っているのが見える。
きゃぁぁ! グレイ様の正装、初めて見ました!! 鍛え上げた筋肉があるからこそ、あんなに素敵に着こなせるのでしょうね。
アナベルはうっとりとグレイを見つめたが、グレイもまたドレス姿のアナベルに見惚れていた。
アナベルがグレイの腕に自分の腕を絡める。
グレイの腕の固さにニンマリしていると、グレイもアナベルのプニプニの腕を感じ、嬉しそうに笑った。
お似合いの二人を、皆が祝福していた。
その夜。 初めての二人だけの寝室で、グレイを見たアナベルは固まっていた。
グレイ様の筋肉、今まで随分触りましたけど、薄い夜着だとあんなにくっきりと浮かび上がって! あんなの直視できません!!
練習場と違う薄暗い灯りの下で見るグレイは色っぽく、アナベルは触ることはおろか、見つめることすら出来なかった。
「アナベル?緊張してるのか?もう全部お前のものだ。どこ触ってもいいんだぞ?」
腕を広げて、グレイがウェルカムなポーズをしている。
「いえいえいえ、無理です!」
「まだ脱いでもいないのに?」
グレイが楽しげに笑っている。
脱ぐ!? そうでした、更に脱ぐのですよ! 生の筋肉です!!
今までは、着ているものを少し捲って見せてもらっていただけなので、生で全身なんてもちろん見たことなどない。 現実を目の当たりにして、アナベルは心臓が止まりそうだった。
「グレイ様、私には刺激が強そうなので無理です!死んでしまいます!!」
「は?ここまで来てこっちも無理だって。ほら、好きなだけ触れ。俺も存分に全身プニプニするから」
言いながら、グレイは夜着の上を脱いでしまった。 そして露になる筋肉モリモリの見事な上半身……。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
しっかりと見た後、アナベルは気を失った。 やはり刺激が強すぎたらしい。
その夜、意識のないアナベルの隣で添い寝をするだけで我慢したグレイは、次の夜は作戦を変更し、一気にアナベルに覆い被さった。筋肉をアナベルの目に映す前に、コトに及んだのである。
こうして無事に夫婦となった二人だったが、アナベルが毎晩抱き潰され、今度は体力の差に悩まされることになるのは別の話。
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