3 魔王事務所出動
リリアナのマネージャー兼護衛になってから、3日がたった。
思っていたよりも衰弱してたらしく、大丈夫だと言ったけど、休めと言われて寝てました。
あの後俺は魔王アイドル事務所の上にある一室に案内してもらった。皆ここに住んでいるらしい。
日本のビルみたいな構造なのは驚いた。
そういえば、町並みも似ていた。服装もそうだ。カラン国とは全然違うし、俺の元いた世界よりの服だ。
この国は今の王様がついてから今の感じになったらしい。王様も日本から召喚されたと聞いた。いつか会えたらいいな。
だいぶ体も戻ったきたし、そろそろ動けるだろう。
俺は事務所の方に降りていった。
3日ぶりの事務所のドアを開ける。
「おはようございます」
「「「おはよう」」」
一斉に返してくれた。
俺は挨拶を返してもらう喜びにうち浸った。勇気パーティーにいた時は好意的な挨拶なかったし、最近一人だったしな。
どんだけ寂しかったのか思い知らされる。
「おはよう、京介。体調はもういいのか?」
「魔王様・・・リリアナ、おはよう」
魔王様と言いかけたら、すねた顔をしたので言い直した。
3日ぶりでも可愛いですね。
ローガンがパンパンと手を叩き、注目を集める。
今日はアロハシャツを着てる渋めのローガンが挨拶を始めた。
「では京介。改めて魔王アイドル事務所へようこそ。私はこの事務所の社長を務める吸血鬼のローガンだ。魔王様の執事でもある。よろしく頼む」
吸血鬼だったの?そして執事?
吸血鬼ってすごく不健康そうなイメージなんだけど、肌色いいし健康そう。
「次は魔王リリアナ様だ。悪魔族で我が社唯一のアイドル」
「よろしくな。京介」
笑顔が可愛い。ミニスカートから見える足が素敵です。
「こっちが鬼族の双子のカイトとリッカだ。カイトの方は他の事務所と共同でアイドルグループに所属している。リッカは一応秘書で魔王様の侍女だ」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
カイトはアイドルなんだ。納得だな。男の俺から見てもかっこいいもん。
リッカの一応秘書って気にかかるが、侍女は納得。
「でこいつは猫族のアレクだ。雑用係」
「俺だけ適当じゃないですか~まぁいいけど。よろしく、京介」
いいんだ。なんか同じ臭いを感じるよ。心の中で兄弟と呼ぼう。
「よろしくお願いします」
深々と礼をしてから頭をあげる。
皆笑ってくれていた。
こっちに来てから初めて好意的に接してもらえて、心がポカポカする。少し泣きそうだ。
じぃちゃん、俺いいことあったよ。
「では業務を始める。今日は当番日だ」
アイドル事務所の当番日?なんだそれ。
ビービービービー
国中に警報サイレンみたいなのが鳴り、女性の声が聞こえる。
「こちらシトラシア防衛警報がなりました。えっと、今日の当番は・・・魔王アイドル事務所ですか。仕方ないわね。リリアナ出動しなさい。ヘマしたら許さないわよ」
締まりのない放送が流れている。
最後の方すごく態度悪いんだけど、いったい誰?
「あの女はぁ我を誰だと思っている!いくぞ!」
リリアが怒っている。敬称も我に戻っていた。
ローガンが合図をする。
「魔王アイドル事務所、出動!」
「我は先に行く。後からこい」
魔王は目の前から消えた。
俺はカイトに抱き抱えられた。俵のように。
えっ?どこ行くの?
ローガンが手を掲げると空間が歪んで黒い空間ができた。
なに?
「移動空間だ」
カイトはボソッと言った。
にいさん、心の声よめるの?
そこに向かってカイトは歩いていく。
「おい、京介!」
ローガンに呼ばれて見ると、剣を放り投げられた。どうにか受け取れる。
「がんばれ!!」
親指を立てて、白い歯を見せた。
次の瞬間目の前には、家ぐらいある大きな狼の魔獣一匹と俺と同じぐらいの狼の魔獣がたくさんいた。
ひぃ、どこ、ここ?
カイトに下ろされてオロオロしていると、空からリリアナの声がした。
「我は大きいのを殺す。お前らは小さいやつを蹴散らせ!京介は今日は後方で待機。リッカ、任せた!」
「「「はい」」」
空には黒い剣を持ったリリアナが、俺の横には大剣を持ったカイト、後ろには槍を持ったリッカと両手で短剣を持っているアルクがいた。
「ティナ!お前こそしっかり守れよ!」
悪そうに笑いながら、リリアナは叫ぶ。
「うるさいわね!私の心配は無用よ!」
さっきの態度悪い人が言い返す。
聞こえてるんですか??
色んなことが起きすぎて、パニックを起こす。
渋いがノリのいい男の声に放送が変わった。
「さあ、リリアナ推しの国民はモニターの前に集まれぇぇぇい」
この世界にモニターがあるの?
何が始まるんだ?
「リリアナ!ティナ!準備はいいかい!
レディーゴォォォォゥ!! 」
町の方からノリのいい曲とティナと言われる女性の歌声が聞こえてくる。
国全体が防御壁の結界に包まれていくのがわかる。すごい魔力量だ。
リリアナは魔獣に向かって剣を振るう。
魔獣はそれに対抗している。
カイトが大剣を振るうと魔獣の3分の1が消し飛んだ。消えた魔物からアイテムと呼ばれる宝石が落ちる。
アルクは両手剣を振るいながら、魔獣の間を駆けて首元を切り、確実に仕留めていく。
リッカは俺の側で、蒼い炎を槍にまとわせて振るい、魔獣を燃やして消している。
・・・すごい
俺は唖然として立っているだけだった。
こんな強かったのか。まともに戦ってたらあの勇者パーティーなんて勝てるわけない・・・なんで勝てたか不思議だ。
「リリアナ様、片付きました!」
リッカが叫ぶ。大きいの以外全部倒された。あとはアリエラが対抗している一匹だけ。
「そろそろお遊びは終わりだ」
魔獣の前で剣を振り落とすと、魔獣は2つに切れ消滅した。
すごいーーー
「「「「おぉぉぉぉぉおぉ」」」」
町の方から歓声が聞こえてくる。
リリアナは俺らの方に降りてきて、目に羽のついた変な生き物に笑顔で手を振っていた。
何あれ?同じようなものが町の方からいっぱい来るんですけど。
その生き物の大群がこちらにきて、アイテムを回収していく。指をさして聞いてみる。
「リリアナなにあれ?」
「あぁ国専用カメラ兼アイテム回収係のシューシュー軍団のシューちゃんだ」
シューシュー?・・・収集。そのままなのね。
「カメラとは?」
「さっきの戦闘シーンが町のモニターに写しだして、国民に観戦できるようになっている」
なんかすごく近代的というか、ファンタジー的というか。すごく便利だな。
「ところで京介、私どうだった?」
自称が私に戻った。
リリアナは何か言ってもらいたいらしく、こちらをチラチラ見てくる。
「カッコよかったよ」
少し頬を赤くして嬉しくそうに笑ったリリアナはみんなの顔を見て言った。
「じゃあ、帰ろうか」
リリアナはローガンと同じように手をかざして、移動空間を作る。
そういえばローガンは来ていない。
聞くとローガンは日光に弱いらしい。あんなに黒いのにそこは吸血鬼なんだ。