2 魔王との再会
目を開けるとそこは事務所みたいなところのソファーの上だった。
「あっお嬢、目が覚めたみたいだよ」
声がする方を見ると、猫耳を生やしたヤンチャ風な男が立っていた。
俺・・・倒れたんだ。
少女の歌を見ている途中で倒れたんだった。助けてくれたのかな。
「すいません。ありがとうございます」
上半身だけ起き上がってお礼を言う。
「アレク、彼は目覚めたのか?」
可愛らしい声が聞こえる。目の前にいたアレクと呼ばれた猫男が退くと、ステージにいた少女がいた。少女は近寄ってきて俺の顔を心配そうに覗き込む。
近くで見ると黒だと思っていた瞳は少し紫も入っていた。綺麗だな。
「大丈夫か?」
「・・・大丈夫です」
「顔が赤いぞ、まだ体調が悪いのじゃないのか?」
たぶんそれは顔が近いからだと思います!
「あの・・・近いです」
目を合わせて勇気を出して言ってみる。もうこれ以上は俺がもたない。
今気づいたみたいに驚いて顔を赤くし、勢いよく後ろのスーツを着たサングラスを掛けている色黒のガタイのいい渋め男の後ろに隠れた。
半分隠れてこっちを見ている。ガタイのいい男は盛大に笑う。
「わはは、魔王様出てきてください」
「やっぱり、魔王様?」
ずっと思っていたことを口にする。
少女はコホンと咳をして男の後ろから出てきた。
「我は魔王リリアナ」
髪をなびかせポーズを決めた。後ろからドーンっと効果音が聞こえる。幻聴か。
音がした部屋の端を見るとドラが置いてあった。
着物風のミニスカートを着た、角の生えた肩までの青い髪と蒼い瞳の胸が少し大きい少女がバッチを持っていた。
たぶん今叩いたの彼女だよね。すごく気になるが。魔王も止めないところをみるとスルーした方がいいかもしれない。
「俺は竜崎京介といいます。なんで魔王様がステージに居たんですか?」
俺はスルーすることにした。ドラを。
「アイドルだから」
ドーンとまた音がする。
「魔王様がアイドル?」
「お前に破れてから、傷心旅行で友のいる異世界に行ってきてな。そこでアイドルを見て、我はこれだとひらめいた」
言い終わるとドーンとまた音がする。そこドラいる?
何か大事なことを言った気がするが、ドラが気になって話が頭に入って来ない。
ドラの方を見ると少女は今か今かとそわそわしている。まだ叩く気だ。
ドラに邪魔される前にまとめるとしよう。
今魔王は俺に破れてとか、異世界とか言わなかったか。
魔王は俺が勇者だと思っている?
異世界とは俺のいた世界なのか?
どっちを聞く?ドラは必ず鳴るはず。
ドラに邪魔されないのはどっちだ。
よし、俺は決めた!
「魔王様、友のいる異世界とはどこですか?」
ドーン。えっ、俺にも鳴るの!?
ドラの方を見ると目をキラキラさせている少女がいた。うん、あれだな、だんだん面白くなってきて訳がわからなくなっているやつ。
「リッカ。もうドラはいい」
呆れた顔をして魔王はドラを止めた。
ドラの近くにいたリッカと呼ばれた少女はシュンとしてへこんでいる。少し可愛そう。
気になっていると、魔王が咳払いをした。
「コホン、話の続きだ。たしか友のいる世界は日本といったような。友はその日本でアイドルをやっている」
日本?!今魔王様は日本と言ったよな?
もしかしたら俺の知ってるアイドルかもしれない。
「そのアイドルの名前はなんですか?」
「なんだったかなーーー」
考えている魔王に、角の生えた赤紫色の髪で蒼い瞳の硬派な顔をした男が口を開いた。
「白川ユラン」
たった一言だけなのに、かっこいいーー。
「さすがカイト。よく覚えていたな。白川ユランだ」
赤髪の男はカイトと呼ばれ、その後は一言もしゃべらない。
二人とも白川ユランと口にした。
白川ユラン。俺がいた世界のトップアイドルだ。『清楚で色気があるアイドル』がキャッチフレーズの美少女。
なぜ魔王の友達なのかはわからないが、今大事なのはそこではない。
「俺がいた世界にいけるのか!?」
大きな声が出た。俺は希望を見つけたのかもしれない。元の世界に帰れる方法を。
期待している目で魔王を見ると、また顔を真っ赤にしてガタイがいい男の後ろに隠れてしまった。
大きな声に怖がらせてしまったのか。
急に見えた光にガッついてしまったよ。
「何かあったのか?」
ガタイがいい男が腕を組みながら聞いてくる。
「すいません。つい・・・俺は友達と二人で召喚されてこちらの世界にやって来ました。日本から魔王を倒すために。その友達が勇者です。でもそいつに裏切られ、俺だけ残してカラン国に帰った・・・消える前に元の世界には帰れないと言われて。諦める訳にはいかないから、魔王城からここまで1人で歩いてきたんです。倒れたところを助けられたみたいですね」
魔王がこちらを心配そうに見てる。
そういえば、誰かに心配されるのは久しぶりだな。勇気パーティーには誰一人俺の心配をしてくれなかった。
嬉しくて魔王に向かって微笑んだ。
魔王はまた隠れてしまった。
あれ、笑っただけなのに。おかしいな。
「帰れないこともないぞ」
魔王の声がする。
「本当ですか!魔王様!」
少しずつ魔王が姿を見せた。
「行く法則はあるけど。それをクリアしたら行くことができる。ローガン話して」
二人とも俺の前に座り、ローガンと呼ばれたガタイのいい男は、その法則を説明してくれた。ときたま魔王が俺の質問に答えてくれる。
一つ、別の世界には神の許しなしに干渉しないこと。
なんでも世界には一人は神がいて、その神の許可なく干渉すると天罰がおきるみたいだ。
勇者召喚はいいのか?と聞いてみると、あれはその許可をとった召喚術式なのでいいと言っていた。
一つ、それなりの力を持ったものがいける
別の世界に行くのは力の不可が凄いらしく、力のない奴がいくと空間の間で消滅するみたいだ。
だから勇者は行きだけで帰れない奴が多いと言う。行きはそれなりの力を貰えるかららしい。
一つ、異世界旅行ができるのは一年に一度。
旅行と言い切る部分がおかしい。軽くないか。
これはそのまま誰であっても一年に一回しかできない。
だから魔王は帰れないことはないと言ったわけだ。
俺には干渉しないは関係ない。それに一年に一度も。こっちに来て一年以上はたっている。
後はそれなりの力と帰る方法だけだ。
「魔王様、それなりの力とはどれくらいですか?」
今の俺には無理だとわかる。なんせ雑用しかやらせて貰えなかったから。
「そうだな~人間界で言うとSS級魔物を倒せるくらいかな」
サラッと言いましたね。SS級魔物といったら上から2番目に強いですよ。
この世界には魔物のランクがある。Cから始まり上に、B、A、S、SS、超SSと。
上から二番のSS級を倒さないといけない程の力がいるなんて、どんなムリゲーなんだよ。
諦める・・・それは嫌だ。でも俺にやれるのか?いや、やるしかないのか。
ふーーとため息をついてしまった。
魔王が不思議そうに、顔を傾ける。ほんと可愛いいな。
「ああ、すいません。教えてくれてありがとうございます。帰れる方法が見つかったんだけど・・・まぁなんとかなるか。俺はこれで失礼します」
俺は立ち上がり部屋を出て行こうとする。
魔王の横を通り過ぎようとした時、立ち止まり魔王を見た。
上から見ても可愛いな。
「俺は魔王様と戦わなくてよかったよ。助けてくれてありがとうございます」
言いたいことは言ったので、改めて歩きだすと服の裾を引っ張られた。
「我…私が協力してやっていいよ」
「えっ?」
敬称が「私」変わった魔王の方を見ると下を見ていて顔が見えない。魔王は早口で言い切る。
「強くなるには特訓が必要だろうし、いく方法は私が知っている。寝るところも食べるのも困らない。どうだ?」
それはそうだ。だが俺にとっては都合がよすぎないか。申し出はありがたいけどいいのかな。
頭をかきながら魔王の頭のてっぺんを見る。
「いいんですか?魔王様」
「タダでは無理だ。私のマネージャー兼護衛になってもらう」
「えっ!それだけでいいの?」
タダだったら逆に怖かったから助かる。タダより高いものはないっていうし。
でも魔王に護衛っているのか?
「あと京介、敬語はやめろ、私のことはリリアナと呼べ!」
そこには顔を真っ赤にしながら、頭をあげる魔王がいた。