鳴り止まぬ静寂
ふと目を開けて ここがどこかわからなくなる
みしらぬ現実 見知った本棚 見知った景色 ただ ぼくだけが一人
己の輪郭がばらばらになり この現実へと溶け込んでゆく
大気のように 粒子のように 細菌のように 愛のように 絶望のように
肺を侵し 浸し やがて忘却されうる この現実
おまえは多分 世界には遠く及ばない
ただここで ひどく不格好に立っているぼくと 何一つ変わりやしない
おまえはぼくと死ぬのだ この夏の大気に 路傍で 虚構に焼かれながら
ふと目を開けて ぼくはその空虚さに呆れる
繰り返す虚構 見知った構成 見知った伝言 ただ ぼくだけが一人
わかりきった輪郭が 犬笛のようにがなり立てる
霧のように 羊水のように 血液のように 言葉のように 欺瞞のように
脳を焦がし 滾らせ 意地汚くも残り続ける この虚構
おまえは多分 世界には遠く及ばない
ただここで ひどく不格好に立っているぼくと 何一つ変わりやしない
おまえはぼくと死ぬのだ この冬の大気に 都市の中心で 現実に叩かれながら
円環のように巡り
朽ち果てうるこの世界には
現実も虚構もない