やさしいどうぶつ
人に優しくしてもらう事は少ないが
何故か動物に優しくしてもらう事は多々ある。
私が生まれる前から家にいた犬は、
ほったらかされた私をいつも見守ってくれていた。
泣かない限り様子を見にこない大人たち。
そしてあまり泣かない私。いつもミルクとオムツ交換だけして、あとはベビーベッドに寝かされていた。
私は手先が器用なのが唯一の自慢。
ベビーベッドの鍵を開けるなど容易かった。
脱走しては庭へ這いずって出て、外へ出ようとする私を彼はいつも止めた。いつも暖かく抱きしめてくれた。彼のにおい、忘れられない。
彼もまた虐待されていた。いい加減、我慢の限界だったのだろう。彼に暴力をふるった祖父の手を噛んだ。そのまま保健所へ連れていかれてしまった。
幼稚園に行っている間のことだった。
サヨナラも言えなかった。あれほど悲しい事は生まれて初めてだった。一生分泣いたと思うくらい、毎日泣いて暮らした。
空っぽの犬小屋が体裁が悪かったのか、新しい犬がやってきた。
父がもらってきた子犬は片目の色が違う子だった。
失敗作でショードッグになれないから処分予定だったのをタダでもらってきたのだと大人たちが言っていた。
私からすれば、金色の目と青い目の両方を持つ彼女は失敗作なんかじゃなく、唯一無二の美しいものだと今でも思う。
茶色い彼がいなくなって1年後、もうそんなには泣かなくなった頃だった。
白い子はどんどん大きくなって、私のお姉さんになった。
朝、お水とゴハンを持っていくときに
顔を洗って歯磨きを済ませていないといけない。
し忘れた日には、ベッタベタになるほど顔と髪を舐められ、彼女に寝癖をなおされるのだから。
ちゃんとしている日は、気をつけて行ってらっしゃいと言っているように、耳元に頬ずりしてくれる。
兄から私が虐められていたら、すかさず吠えて私の前に立ってくれた。兄は犬が大の苦手だった。
その原因の大半は彼女が理由だった。
子犬だった彼女は噛みグセが大変ひどく、それはこっぴどく噛まれたらしい。
でも私は1度も噛まれた事がなかった。
あの頃から私を妹だと思ってくれていたのだろうか。
白い彼女はそれから12年間、私のお世話をしてくれた。
彼女のふわふわで美しい毛並みは今も覚えてる。
ちょっとゴワゴワでちょっと臭うけど暖かい茶色の彼の毛並みもね。
カラスや鳶が獲物をくれることがあった。
私には彼らの個人の違いがよくわからないけど、彼らは私の事がわかるのだろう。
どこかで見かけると、そばまで降りてきてくれる。
大きくて立派な芋虫や、よく肥えたネズミなどをくれる。でも食べられないので丁重にお断りする。
何故食べないのか?と言わんばかりに
頭をクリックリッと横にひねる。ごめんなさいね。
丁重にお断りして、後日お礼を渡したりしていた。
私は彼らに何かしてあげたことがあったろうか?
何故気にかけてくれるのかはわからないが、
大人になった今も、そうして獲物をくれるカラスが近所にいる。
猫にも同じように獲物をくれる子がいる。
自分がどなたからか貰ったであろう、カリカリのフードをわざわざ咥えて持ってきてくれる子もいた。
どうやら私は、彼らから見るに
狩りが出来なくてお腹をすかせた可哀想な子
...だと思われているらしい。
私、ひもじそうに見えるのだろうか。
可哀想な子に見えているんだろうか。
彼らは励ましてくれているのかな。
「これでも食べて元気だしなよ?」って。
人間でこんなことはありえないけど、
こうして見知らぬ私を気遣ってくれる
優しい優しい動物たち。
人に優しくしてもらう事は滅多にないけど
私は彼らのように、人に優しくありたいと思う。
思うけど、難しい。
出来ることから、しよう。
コツコツと。
彼らもきっと、どこかで見てるかな。
ありがとう、あなたたち。
大丈夫、生きていけてるよ。