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大好きな人とケンカした日に食べるアイスは仲直りの味がするという発見

作者: 森里ほたる

心の底からありったけのワガママを伝えてみる。

 今、あの重たい雰囲気が部屋に充満している。


気にしていないようでいて、相手の様子を読み取ろうとしている。無意識にアイツの目線から顔を背けようとする。そんな雰囲気。


ため息は幸せが逃げるだけではなく、心を重くする力も持っていたようだ。これ見よがしにやだなという想いが込められたそれは、重く重くのしかかってくる。


息苦しい。こんな空間には一秒たりとも居られない。

やだな。なんでこうなったのかな。もうわけわかんないよ。



***



 きっかけは些細なことだった。家にいて少し退屈になったから、構って欲しくてちょっとじゃれていただけだった、少なくても私の方は。どうもアイツの嫌な部分をつついてしまったらしく、お互いグチグチ言っていたら段々大事になってしまった。いつもならこれくらいは大丈夫だろうと思っていたのだけれども、そうではなかったみたい。


基本的にいつも怒らないし、穏やかに笑っているタイプ。こういうところはすごく見習いたい。ただ、人に対しては気弱というよりはやや八方美人で面倒なことに巻き込まれているのをみると不器用だなと思う。


だからあまりケンカはしないけど、ケンカしたときはどうすれば良いのかわからない。


いきなり黙り込んだと思ったら、ブーブー文句を言ってくるアイツ。

手をあげたりは絶対にしないけれど、不機嫌オーラをまとっているアイツ。

面倒くさい。


 いつもそうだ。アイツとのケンカはまるで、突然降り注ぐ土砂降りのように不機嫌の雨でずぶ濡れって感じかな。いや、違うな。そんな優しいものではない。


あれは地震だ。


今まで予兆もなかったのに、アイツは急に激しく気持ちというエネルギーを爆発させて私を巻き込んでくる。余震なんてなく、準備もできないまま、ただただその大きな力に巻き込まれてしまい、私の心も上下左右に激しく揺さぶられて立っていられなくなる。


一度倒れてしまうと弱い私は頭を抱えてうずくまるしかない。


まったく。

こんなに長くいるのにアイツは私を分かっていない。


私は、私の心はとても敏感で弱いのだ。そんなに激しく揺さぶられるとおかしくなってしまう。砂のお城のようにボロボロと崩れてしまう。


だからもっともっともっと大事に扱ってもらわないと困る。というか扱え。


嫌な雰囲気に反応して気持ちはぐしゃぐしゃになるし、何かを言う前になんだかわからないけど涙が出てくる。別に出したくて出しているわけじゃないのにどんどん出てくる。

『なんで泣いているの』とか、『泣いたら勝ちじゃん』とか言われるとさらに溢れる。


……と・い・う・か、


なんでそんなこと言うの!


そんなこと言ってほしくない!


そんなことはいいから私を慰めろ!


私はさびしいの!


慰めてほしいの!


構ってほしいの!


早く謝って!


難しいことはいいから簡単なことを言ってほしいの!


もっとたくさん愛してほしいの!



 こうなったら最後、私は止まらない。私は絶対に折れないし、悔しいから折れたくない。

だから困らせてやる。必死に謝らせてやる。それまで本気で私は許さない。


そのためにビックリすることを言ってやる。

家から出ていくと言ってアイツを困らせる。

それでもって、もし、もしも、万が一私を引き止めなかったら本当の本当に怒ってやる。



***



 私は家から出ていく詐欺を実行した。本当に出ていくつもりはないのだけど、気持ちは本気だ。

鞄に財布とか車のカギとかを入れて、玄関に向かう。


ほらっ、私が外に出ちゃうよ、どうするの。早く止めに来てよ。

止めないなんて本気で許さないんだからね。

早く止めてよ。



***



 すぐに腕を掴まれ引っ張られて、強い力で後ろから抱きしめられた。

アイツの匂いに包まれる。けど、まだ負けない。

腕の中でもがいた。 が、非力な私ではもちろん逃げ出すことも何もできないので、すぐに抵抗は諦めた。


でも、私の心の火は消えていない。私をこんなに不安にさせた責任をとらせてやるんだから。

目一杯謝らせてやる。


 『泣いたもん勝ち』とよく言うけれどそんなんじゃ足りない。私は『使えるもんはすべて使ったもん勝ち』だと思っているし、そうして生きてきた。


私は弱いから普通にしてたら負けちゃうから、すべてなんでも使ってやる。

ま、結局弱い私が勝てる相手は決まっているのだけど。


だから今回も私の圧勝。腕の中で温もりに包まれてアイツのごめんねを聞きながら、上から目線でアイツに文句を叩きつける。ワガママ100%で理不尽なことだとわかっているけど言っちゃう。


世界で唯一のワガママが言える相手。私だけの相手。


 さらに調子に乗って、『何してくれんの』と圧をかけると、アイスを買ってくると言われたので、すぐに行ってきてといじめる。

正直もうスッキリして、心は落ち着いている。

それでも顔だけはしっかりまだ許していませんを継続中。


 一つ深呼吸をした。

ここがリセットするいいチャンスだ。だから今日最後のワガママとしてアイスを買わせに行かせている。


買ってくるのはいいけど、近くのコンビニで買ってくると高いから、ちょっとだけ離れたスーパーまで買いに行かせた。

そういうところも直して欲しい。これからもずっと長い付き合いになるんだから。私が教えてあげないと。


 一人になってさらに時間が経つともう完全に落ち着いた。

そして、急に空腹を感じた。もう夕方だ。


アイツが帰って来るにはまだ時間がかかるだろう。

その間に夕飯の準備を始める。


夕飯はアイツの好きなハンバーグに変更してやろう。食材は大丈夫。

たくさん食べるだろし、健康のためにも豆腐ハンバーグにしよう。



***



 改めて、空腹はやっぱりダメだし美味しいご飯は本当に大事だってことに気が付いた。


あの後、二人でご飯作り、無言でもそもそ食べ始めたが、見ているテレビや豆腐ハンバーグのことで話始めるとすぐにいつも通りに戻れた。


最後には夕ご飯の後に二人で一つのアイスを食べていて、ケンカしたことなんて忘れてしまった感じに戻れた。


買ってきてもらったこともあってアイツに多めにアイスを分けてあげた。

美味しそうに食べるアイツをみてると気分が良くなる。

豆腐ハンバーグも褒めてくれてさらに気分が良くなった。


なんだか、いつもよりアイスが美味しかった。

優しくて心が満たされる。

だから、最後の一口をアイツにあげた。

アイツにももっと幸せになって欲しいから。


心から好きだから。



***



 ゆっくりお風呂に入ってから、ベッドに入った。


横でスヤスヤ寝ているアイツの顔を見ながら、素直に自分の気持ちと向き合う。


今日は好き。いつもと違って大好きじゃない。ただの好き。

ケンカして嫌な気分になったから、大好きなんて言ってあげない。

嫌いになんてならないけど、私を不安にさせた罪を十分に償って反省してもらわなきゃいけないんだから。


だからこれからも一生そばにいて、私のワガママを聞き続けてね。

Thanks so much for your reading.

寝る前は甘いものの取りすぎに注意です。

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