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レオナルド

「まさか」


報告書を読んで、レオナルドは思わず声をあげた。

その声に、側に控えていた護衛騎士のソフィアがレオナルドに視線を向ける。

レオナルドは、報告書を机に置くとソフィアに読むよう促した。


報告書を読むソフィアの顔にも驚きが広がる。


「本当に存在していた」


レオナルドが苦々しく呟く。


「どうされるのですか」


尋ねるソフィアに、指示を出す。


「クロフォードを呼んでくれ」


ソフィアは、わずかに身じろぎしたように見えたが、何も言わず、指示に従って下がった。




レオナルドの婚約者である公爵令嬢グローリアが、高熱を出して倒れたとの一報が入ったのは、一月ほど前のことだった。

普段から五つ年下の婚約者を溺愛しているレオナルドは気が気ではなかったが、移る病だといけないのでと頑なな公爵に阻まれ、見舞うことができたのは、熱の下がった後だった。


高熱の後で、ベッドから起き上がることもままならない婚約者は必死の形相でレオナルドに訴えたのだ。


「婚約破棄でもなんでもしてほしい。公爵家を処分しないでほしい」


まだ12歳のグローリアは聡明だと誰もが口をそろえる令嬢だったが、それでもその時の話は要領を得なかった。


辛抱強く話を聞き出した結果、どうやら予知夢を見たと思っているようで、その未来では自分に婚約破棄された挙句、公爵家が没落したらしい。

グローリアが社交界デビューをする前の年にデビューした男爵令嬢にレオナルドは夢中になり、グローリアを邪険に扱った挙句、婚約破棄し、難癖をつけて公爵家を子爵に格下げして、辺境に追いやったというのだ。


社交界デビュー。今から4年後のグローリアの社交界デビューを待って、正式に婚姻の準備を進め、一年後に結婚することになっている。待ちきれない思いだというのに、後少しで結婚できる時期に来て浮気だと?


そんな馬鹿な!

とは思ったが、高熱でうなされている間中、その悪夢に苛まれていたグローリアは心底怖がっていた。


まず件の男爵に娘はいない。

現王に不満を持つソラーレ侯爵の派閥であるため、王太子であるレオナルドもある程度動きは把握しているが、自分と年の近い息子が2人いるだけだ。

12歳のグローリアが知己を得るような親族もいないはずだ。


そこまで考えて、レオナルドは少し調べてみようと考えた。ほぼ杞憂だと思うが、そんな娘は存在しないとグローリアに示せば、少しは安心するのではないか。

それに、自分が浮気をするような人間だと思われていたのかと思うとかなりショックだった。


レオナルドは、グローリアの兄クロフォードの幼なじみであり、生まれた時からグローリアのことは知っている。グローリアが自分のことをもう1人の兄のように思っているのは知っているが、17歳の自分はグローリアを妹とは思っていない。流石に、12歳に手を出そうとは思わないが、早く5年後になればいいのに、とは思っている。



早速男爵家と、念のためソラーレ侯爵家周辺も探らせたのだが、


「男爵には、メイドに産ませた13歳になる娘がいる。今は男爵が援助して持たせた下町のカフェを親子で切り盛りしているーーー」


驚くことに、娘の名も歳もグローリアの言っていた通りだった。カフェをグローリアが訪れたのかと思ったが、完全に庶民向けのカフェなのでグローリアやその友人たちが利用することはないだろう。


考え込んでいると部屋の外から声がした。


「やあ、今日も綺麗だね。ソフィア」


ソフィアの声は聞こえない。

クロフォードがソフィアに本気で、自身の方がソフィアより5つも年下であることに焦っていることを知っているのは、おそらく自分だけだろう。あいつはなんでも卒なくこなすが、その分真剣さを表すのが苦手で平気な顔をすることに慣れすぎている。

一つ息を吐くと、レオナルドはドアに向かって声をかけた。


「入れ」


幼なじみでもあるクロフォードは、それでも形式的に王家に対する礼をとって入ってきた。


無言で調査書を渡す。


グローリアはレオナルドだけでなく、クロフォードにも見た夢のことを話していた。クロフォードは、お妃教育がプレッシャーで、悪夢の原因となったのではと思っているようだが、グローリアの不安を現実的なものと思っていないのは、レオナルドと一緒だ。


調査書を読むクロフォードの顔色が変わる。


「おい、これってーーー」


「グローリアの言っている事が本当に予知夢だとしたら、間違いなく黒幕はソラーレ侯爵だろう。男爵の手の者が最近この母娘周辺をうろついているらしい。グローリアが言うように社交界デビューをするつもりだとしたら、そろそろ引き取って教育をせねばならないだろうからな。社交界デビュー後に男爵の指示でなんらかの手を使ってこの俺を籠絡しようとしている可能性もなくはない」


「どうするつもりだ」


「おそらく、貴族でない母親には対抗できないだろう。とすれば、強力な後ろ盾をつけるのみ」


「父親よりも?」


「正式に男爵が認知しているわけじゃない。なら、正式な父親ができれば?」


なるほど。

そうきたか。不敵に微笑むレオナルドに、クロフォードは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

王になる器。まさに目の前の男がそうだった。










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