琴の優しさと寂しさ
ラフィはブランカの姿が見えなくなっても、暫く空を見つめていたが、想いを断ち切るように深く長い溜息を吐くとシャイニーを見た。
「さて、シャイニー。君の修業は終わりだね。」
ラフィの表情は穏やかな笑顔で、その瞳には悲しみも苦しみも、もう見られなかった。
シャイニーはラフィの笑顔に安堵し、心が温かくなっていくのを感じていた。
「ラフィ先生、天使の国に帰る前に、もう少しだけやりたい事があるんです。」
シャイニーの言葉にラフィは深く頷いた。
「分かったよ。では、僕はシャイニーのやりたい事を見届ける事にするよ。でも、その前に…琴ちゃんがずっと固まってるからどうにかしないとね。」
シャイニーがハッとして目を向けると、琴がポカンと口を開けたままで固まっていた。
「本当だ!琴ちゃん、大丈夫?」
慌てて側に行くと、琴はまじまじとシャイニーを見た。
「シャイニー…なの?」
「そうだよ。シャイニーだよ。急に成長したから驚かせちゃったね。」
「もう何がなんだか…悪魔は出てくるし、シャイニーは襲われてボロボロになって死んじゃう!って思ったし…天使が増えたと思ったら、シャイニーのママが小さな光になっちゃうし…」
「あ〜!琴ちゃんが混乱してる!ラフィ先生、どうしたら良いですか?」
「大丈夫だよ。シャイニー、見ててごらん。」
「初めまして、琴ちゃん。僕はラフィ、シャイニーの先生なんだ。ちょっとごめんね。」
ラフィが琴の額に手をかざすと、緑色の光が琴の全身を包んでいった。
「うん。もう大丈夫みたいだね。」
ラフィが額から手を離すと、すっかり落ち着きを取り戻した琴は笑顔でシャイニーとラフィを見た。
「初めまして、ラフィさん。私は琴。シャイニーの友達よ。色々あってビックリしちゃった。」
「琴ちゃん…巻き込んじゃってごめんね。怖かったよね…」
シャイニーは、琴の頭を優しく撫でながら言った。
「ううん、大丈夫。シャイニーが無事で本当に良かった。急に大きくなったから、ビックリしちゃったけどね。」
「驚かせちゃってごめんね。実は、僕もまだ信じられないんだけど…」
その時、琴の後ろに隠れていたフルルが飛び出し、シャイニーの周りをグルグルと回り出した。
「フルル…急に成長したから分からないんだね。僕だよ。シャイニーだよ。」
フルルはシャイニーの目の前でピタッと動きを止めると、瞳を覗き込むように近くに寄った。
フルルは暫く考え込んでいたが、ピョンと軽く飛び上がるとそのままシャイニーの髪の中飛び込んだ。
「え!フルル何?どうしたの?」
フルルは髪の中で少しの間モゾモゾと動くと、勢いよく飛び出し、シャイニーの頬に体を擦り寄せた。
「あはは!フルル、くすぐったいよ。」
「フルルは髪の中に潜って、本当にシャイニーなのか確認したのね。」
ハーニーが、シャイニーの周りをフワフワと漂いながら言った。
「そっか…フルル、僕だと分かってなかった感じだったもんね。」
フルルは暫くシャイニーの頬に体を擦り寄せていたが、ハーニーを見ると動きを止めた。
「フルル、私よ。ハーニーよ。あなたは、私が奏でたハープから生まれたのよ。」
フルルは、ハーニーに近寄りジッと見つめていたが、ビクッと体を一度揺らすとハーニーにも体を擦り寄せた。
「ねぇねぇ、シャイニー。ハーニーさんはシャイニーのママでしょ?フルルのママでもあるの?」
琴がハーニーとフルルを不思議そうに見つめている。
「うん。フルルは、ハーニーのハープから生まれてきたからね。」
「そっか…ハーニーさん…小さくなっちゃったね…シャイニーもフルルも悲しいよね…」
琴が眉根を寄せ悲しげに、シャイニーとフルルを交互に見た。
シャイニーは、そんな琴の両肩に手を置き、身をかがませ瞳を見つめた。
「琴ちゃん、僕達と一緒に悲しんでくれてありがとう。ハーニーが光になってしまった事は、やっぱり悲しいよ。僕を庇ってくれたからだし…でも、僕はハーニーを元の姿に戻したいと思っているんだ。可能性は0《ゼロ》ではないから…僕は、その可能性を信じて頑張ってみるよ。」
「うん…ハーニーさんが元の姿に戻れるように、私も祈ってるね。だから、何があっても諦めちゃダメだからね。」
琴は、近いうちに訪れるシャイニーとの別れの寂しさに蓋をし、笑顔で励ました。
「ありがとう。琴ちゃん…」
その優しさにシャイニーの心は温かくなったが、琴が抱える寂しさを思うと、胸がギュッと痛んだ。
(琴ちゃんの寂しさが少しでも和らぐように、僕ができる事をしよう…)
シャイニーが改めて決心をした時、部屋の外から声が聞こえてきた。
「琴ちゃん!琴ちゃん!」
「あ!ばぁばの声だ…この騒ぎですっかり忘れてた。凄く時間が経ってるから、きっと心配してる…どうしよう…」
琴はオロオロしながらドアを見つめた。
「大丈夫だよ。琴ちゃんは凄く時間が経っているように感じているだろうけど、僕達天使と人間界の時間の流れ方は違うんだ。今回、君は僕達天使の時間の流れにいたから、かなりゆっくりと時間が経過している。実は人間界では、それほど時間は経ってないんだよ。」
ラフィの言葉に、琴が時計を確認すると祖父母が駆け付けてから、5分程度しか経っていなかった。
「本当だ!」
琴はホッと胸を撫で下ろしドアを開けると、祖父母が心配顔で入ってきた。
「凄い音がしたけど一体どうしたの?ドアも開かなかったわよ。」
「ばぁば、ごめんね。いきなり窓からカラスが入ってきたの。小麦を外遊びさせてたからビックリしちゃって…カラスは、あちこちにぶつかりながら出て行ったから大丈夫だよ。」
「でも、ガラスが割れた音がしたわよ…え!あら…割れてないわ…」
イガレスがカラスの姿になり飛び込んできた際に、割れてしまったガラスは、ラフィがこっそり修復していた。
「おかしいわね〜確かにガラスが割れる音がしたのよね…ねぇ、じぃじも聞いたわよね?」
「あ、ああ。確かに聞いたが…割れてないからな…」
「まぁ、そうよね…あ!琴ちゃん、どうして鍵をかけたの?ドアが開かないから焦っちゃったわ。」
「えっとね…鍵をかけたつもりはなかったんだけど、間違ってかけたかも…」
「そう…本当に大丈夫なのね?」
「うん。大丈夫だよ。」
琴は、若干ひきつり気味の笑顔で何度もコクコクと頷いた。
「それなら良いけど…おやつ用意してあるからね。」
「うん。分かった。後で行くね。」
祖父母はホッとした表情を見せたが、不思議そうに首を捻りながら部屋を後にして行った。
琴がフーッと深く息を吐くと、シャイニーがスッと姿を現した。
「シャイニー、じぃじやばぁばにあんな感じで話したけど大丈夫だったかな…?」
「そうだね。僕達天使やイガレスの事は話さない方が良いと思う。信じないだろうし…突然、そんな事を言ったら心配するからね。」
「そっか…今は話せないけど、いつか話せれば良いな…」
「うん。僕も、いつかたくさんの人達が天使の存在に気付いてくれれば良いな…と願っているんだ。」
「大丈夫。きっとそうなるよ。だって、琴はシャイニーや他の天使さんが見えるもん。たくさんの人がシャイニー達に気付く日が絶対に来るよ。」
琴はニコッと笑いシャイニーを見た。
(やっぱり、琴ちゃんは優しい子だな…この優しさに応えたい。)
シャイニーは、琴の頭を優しく撫でながら思うのだった。
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