イガレスとの闘い
シャイニーは、肩が焼け付くような痛みに耐えイガレスを見つめていた。
(肩が痛い…熱くてジンジンする…)
「シャイニー、お前はまだ未熟な天使。そんなお前が人間を救うなど笑止の沙汰。笑わせるわ!」
その時、シャイニーとイガレスの対峙を見ていた琴が、窓から身を乗り出し叫んだ。
「シャイニーは未熟なんかじゃない!だって、琴をこんなに元気にしてくれたもん。琴は1人じゃないって教えてくれたもん!」
「チッチッチッ!(琴ちゃん、悪魔を挑発しちゃダメだよ!)」
小麦がジャンプしながら、琴のスカートを咥えて引っ張ると、フルルも琴の口を押さえるように自分の体を押し付けた。
「え…琴ちゃん…僕が見えるの?」
シャイニーは驚き、痛む肩を押さえながら琴を見た。
「見えるよ!シッカリ見えてるよ。負けないでシャイニー!」
琴が、唇に張り付いているフルルを剥がしながら叫んだ。
「琴ちゃん…」
シャイニーは、イガレスに視線を戻しジッと見据えた。
「確かに僕はまだ未熟かもしれない。それでも、僕は人間を助けたい。琴ちゃんの笑顔を取り戻したいと思う気持ちは誰にも負けない!」
「ハッ…半人前が笑わせるわ!」
イガレスが胸の前で腕をクロスさせると、無数の黒い羽が飛んで来た。
シャイニーは光を放ち跳ね返したが、くぐり抜けた数本の羽が刃物のような鋭さで襲いかかった。
羽は皮膚を裂き、鮮血が飛び散る。
「ウッ…」
シャイニーは苦痛に顔を歪めうずくまった。
(強い…僕では太刀打ちができない…琴ちゃんを守る為に一体どうしたら良いんだろう…)
「シャイニー!」
琴の叫び声が響く。
「悪魔のバカッ!卑怯者!シャイニーに何するの!」
琴は泣きながらイガレスに向かって叫んだ。
「うるさい小娘!人間のくせに生意気な!」
イガレスが琴に向かって黒い羽を放った。
「琴ちゃん!危ない!」
シャイニーが瞬時に琴の前に立ちはだかると、数十本もの羽が肌を裂き突き刺さった。
激痛にうずくまりそうになる体を、どうにか奮い立たせシャイニーは琴を守る為に立ち続けた。
「シャイニー!!このままだとシャイニーが死んじゃう…」
琴の目から涙が溢れ、ハラハラと流れていった。
「琴ちゃん…ぼ、僕は大丈夫だから…」
「嘘っ!たくさん血が出てるよ…ママもパパもたくさん血を流して死んじゃったよ…もう、琴の目の前で誰も死んでほしくない…」
「琴ちゃん…僕は天使だよ…天使は死なないんだ…」
「本当?シャイニー…」
「うん…僕は大丈夫だから…泣かないで…」
シャイニーは血が滴る腕を上げ、笑顔で琴の頭を優しく撫でた。
しかし、天使も命を落とす事をシャイニーは知っていた。
天使長ブランカもガーリオンと対峙して命を落としている。
その瞬間の光景が頭をよぎったが、打ち消すように2、3度頭を振るとイガレスを見据えながら自分に言い聞かせた。
(しっかりしろ!シャイニー。僕は死ねない。琴ちゃんを悲しませちゃいけない。僕は、琴ちゃんを守り笑顔を取り戻すんだ!)
荒い呼吸を整え、力を振り絞り全身に力をみなぎらせると、シャイニーの全身が光り始めた。
その光りは、時に虹色に変化しながら輝いている。
シャイニーが片手を上げ振り下ろした瞬間、光が無数の束となり、イガレスに向かって飛んで行った。
イガレスは黒い闇を全身にまとい攻撃に備えたが、光の束はやすやすと闇を突き破り体に直撃した。
「な…に…?」
目を見開き体を見ると、光の束は体中に突き刺さっていた。
「ウワーッ!」
イガレスは、痛みに耐えられず蹲った。
体からは赤黒い血が滴り落ちている。
「クソッ!半人前のくせに生意気な…子供だから…と…手加減して…やったのに…調子に…乗りやがって…覚悟しろ!」
イガレスはユラリと立ち上がると、全身から黒いモヤを立ち上らせ、それはやがて巨大な塊となった。
その塊はバチバチと火花を散らしている。
「シャイニー、バカな奴だ…こんな愚かな人間どもをなぜ守る?戦争や内乱、侵略を繰り返し、自然を破壊し生態系を壊す。常に他人を羨み妬み罵る。自分の事しか考えない生き物…そんな愚かな人間など守る価値などないわ!」
「それは違う!人間は決して愚かではないよ。皆苦しみながらも一生懸命に生きているんだ。確かに戦争や内乱、侵略を繰り返したり、自然を破壊してきたかもしれない…僕には難しい事は分からないけど…でも、人間は心にとっても美しい輝きを秘めているんだ。それは、キラキラして宝石みたいなもの。琴ちゃんの笑顔は、僕の心を温かくしてくれた。おじいさんやおばあさんも、琴ちゃんの事を本当に大切にしているよ。側で見ていて気付いたんだ…人間の心は愛で溢れているんだ!」
「ふん!笑わせるわ…愛など不確かなもの。そんなもの容易く壊せるわ!余計な事をペラペラと小賢しい!もう終わりだシャイニー!」
イガレスは、火花散る巨大なモヤの塊をシャイニーに向け放った。
「シャイニー!!」
琴が泣きながら叫んだ。
シャイニーは、力を振り絞り光りの塊を作り放ったが、黒いモヤの塊の方が数倍大きく、あっと言う間に光りを飲み込んでしまった。
(琴ちゃん…ごめんね。僕…ダメかもしれない…)
覚悟を決め目を閉じた時、大きな光りがシャイニーの前に立ちはだかった。
黒いモヤの塊はその光りにぶつかり、地響きを伴う大きな爆発音を立てた。
ーーードォォォォンーーー
ゆっくりと目を開けると、傷だらけになったハーニーが目の前に立っていた。
「ハーニー!!」
シャイニーの叫び声に、ハーニーは振り返ると弱々しい笑顔を見せた。
「シャイニー…間に合って良かった…」
ハーニーは、ソッと両手を伸ばしシャイニーの頬を優しく包んだ。
「こんなに傷だらけになっちゃって…」
ハーニーの手に自分の手を重ね、シャイニーは何度も首を左右に振った。
「何言ってるの?ハーニーはもっと傷だらけだよ。ラフィ先生に頼んで治してもらおうね。」
「いいのよ…シャイニー…その必要は…ない…わ…」
重ねていた手から力が抜けると、ハーニーは真っ逆さまに地上へと落ちていった。
「ハーニー!!」
シャイニーは慌てて手を伸ばしたが、ハーニーの体は手をすり抜けてしまった。
その時、つむじ風が起こりハーニーの体を舞い上げ、そのままシャイニーに近付くと、つむじ風はラフィへと姿を変えていった。
「ラフィ先生!」
「シャイニー…遅くなってすまない…」
「ラフィ先生、ハーニーは…ハーニーは大丈夫ですよね?」
すがるようにラフィを見つめたが、その瞳に悲しみが滲んでいた。
「シャイニー…」
ラフィは目を伏せ左右にゆっくりと首を振った。
「嘘だ…ハーニー…嘘だよね?」
シャイニーの瞳から大粒の涙がハラハラと落ち、その涙は真珠へと姿を変えていった。
「ハーニー…もう一度笑って…またハープを弾いて…お願いだから…もう一度、僕を抱き締めて…」
シャイニーの瞳から涙が止めどなく流れ、たくさんの真珠が地上へと落ちていった。
「ほぉ…面白い。お前の涙は真珠に変わるのか。それならば、お前の瞳から血の涙を流させよう。真っ白な真珠を真っ赤に染めてやる!さぞかし美しい真珠となるだろうな。とんだ邪魔が入ったが、今度こそお前を潰す!」
イガレスは歪んだ醜い笑顔をシャイニーに向けた。
「シャイニー、君は下がって。僕がイガレスと闘う。」
ラフィの言葉に、シャイニーは俯いたまま頭を左右に振った。
「ラフィ先生…僕が闘います。」
「ダメだシャイニー。危険過ぎる。」
「大丈夫です。」
顔を上げたシャイニーの瞳は、まだ涙で濡れていた。
手の甲で涙を拭うと、イガレスの元に飛んで行った。
「シャイニー!ダメだ!」
「ハーニー…胸が張り裂けそうだよ…これが悲しみなんだね…琴ちゃんは、まだ小さいのに悲しみを乗り越えようとしているんだ…ハーニー…お願い。僕に力を貸して!」
(シャイニー…あなたなら大丈夫よ。自分の力と光りを信じるのよ…)
シャイニーは、ハーニーの声が聞こえたような気がした。
「自分の力と光りを信じる…」
シャイニーが呟いた瞬間、体に力がみなぎり内側から光りがほとばしる感じがした。
「何これ?今までに感じた事がない感覚…」
(シャイニー…これを使って…)
再び、ハーニーの声が聞こえ空からハープが降ってきた。
シャイニーがシッカリと掴むと、ハープは虹色に輝く弓矢となった。
(これは、私のハープよ。これからは弓矢として、シャイニー…あなたが使いなさい。)
「ハーニー…ありがとう。」
シャイニーは溢れ出そうになる涙をグッと抑え、弓矢を携えイガレスに向き合った。
「そんな弓矢など無駄だ!」
イガレスは、再び黒いモヤの塊を作り出し投げつけたが、シャイニーはヒラリとかわした。
「何?あれを避けただと?」
シャイニーが矢をつがえると、矢は虹色の輝きを増した。
イガレスは無数の黒い羽をシャイニー飛ばしたが、1本も当たる事はなかった。
シャイニーは、シッカリと狙いを定め矢を放つとイガレスめがけ真っ直ぐに飛んで行った。
イガレスは矢に向け火を放ち、矢は炎に包まれメラメラと燃えた。
「燃えて灰になってしまえ!」
イガレスは口を醜く歪め、嘲笑いながら燃えている矢を見ていたが、一向に燃え尽きる気配はなく、その表情は驚きへと変わっていった。
火が消えると矢は放った時と全く変わらず、キラキラと虹色に光りを放ちながら、再びイガレスに向かっていった。
「クソッ!」
矢から逃れようと上空に舞い上がったが、矢は決して逃さまいと後を追いかけた。
矢を引き離す為に逃げるスピードを上げても、ピッタリと後をついていき引き離す事はできない。
「このスピードについてくるとは…これならどうだ!」
イガレスはフッと姿を消し、だいぶ離れた場所に現れると、この瞬間移動を何度も繰り返した。
「さすがに、これはついてこれまい。」
イガレスは不敵に笑うと後ろを振り返った。
「な…に…?」
矢はイガレスのすぐ後ろに迫っていた。
「チッ!こしゃくな矢め!」
再び矢から逃げ始めたが、いくら逃げてもピッタリと追いかけてくる矢に、イガレスは疲れ始めていた。
「ハァ…ハァ…あの矢は一体何だ?ピッタリとついてくる…」
後ろを振り返ると矢がすぐ近くまで迫って来ていた。
「クソッ!」
イガレスは力を振り絞り空に舞い上がったが、一瞬出遅れた。
その一瞬を逃す事なく、矢は深々と肩に突き刺さった。
「ギャーッ!」
赤黒い血がドクドクと肩から流れ、イガレスは痛みに顔を歪めながら矢を引き抜こうとしたが、ビクともしなかった。
「無駄だよ。その矢は抜けないんだ。」
気が付くとシャイニーが目の前に立っていた。
シャイニーは俯き表情を確認する事はできないが、彼の頬を伝った真珠が一粒落ちていった。
「僕の質問に答えたら矢を抜いてあげる。」
「お前に抜かれなくとも、こんな矢すぐに抜いてみせるわ!」
イガレスは無理やり引き抜こうとしたが、どうやっても抜く事ができない。
矢を引く度に、傷口が広がり更に血が滴り落ち激痛が襲った。
「ウッ…クソッ!」
「だから無駄だってば。抜こうとすればするほど、傷口は広がり激痛が走り、体力も奪われていくよ。」
イガレスは自分の体が急に重くなり、思うように動けなくなっている事に気付いた。
「僕の質問に答えて。」
「お前の質問など答えるものか!いっそのこと殺せ!」
「僕は…そんな事したくない…」
「フン!怖気付いたか…弱虫が!」
イガレスは挑むように睨んだが、シャイニーは首を左右に何度か振るとイガレスを見つめた。
「違うよ。あなたがいなくなったら、悲しむ誰かがいるでしょ?」
「は?お前…何を言っている?」
イガレスは、シャイニーの意図が理解できず顔をしかめた。
「僕は…ハーニーがいなくなって凄く悲しいよ。今までこんな感情があるなんて知らなかった…あなたがいなくなったら、僕と同じように悲しむ誰かがいるでしょ?」
シャイニーの脳裏に、いつも優しく見守っていてくれたハーニーの笑顔が浮かんでいた。
(ハーニーの優しくて温かい笑顔は、もう見られないんだ…)
シャイニーは、胸を誰かに鷲掴みにされたような痛みを感じ、再び大きな悲しみが押し寄せてきた。
瞳から涙がみるみる間に溢れ、真珠へと変わりぽたぽたと落ちていった。
「こんなに苦しい思いをするのは…僕だけで充分だよ…もう、誰にもこんな思いしてもらいたくない。」
「お前はバカなのか?私はお前の命を狙っただけではなく、大切な仲間を殺した。それなのに、私が死んだら悲しむ奴がいるからトドメを刺さないと言うのか?」
「そうだよ。僕があなたを殺してしまったら…更に悲しみが増えるだけだよ。そんなのダメだよ。」
イガレスは、シャイニーを異形なもの見るような目つきで、頭を何度も左右に振った、
「教えて。どうして僕を襲ったの?」
「ガーリオン様が…お前が邪魔だから潰せと…」
「ガーリオンが…どうして僕を…」
「理由は知らん。質問に答えたのだから、さっさと矢を抜け!」
イガレスが忌々しそうに肩を突き出すと、シャイニーは矢をスッと抜いた。
「私を生かした事を必ず後悔させてやる!」
イガレスは肩を庇いながら、黒い羽が舞うつむじ風と共に消えていった。
シャイニーはフーッと深く息を吐くと、ラフィの元へと戻った。
「シャイニー、無茶をして…気が気じゃなかったよ。」
ラフィはハーニーを抱き抱えたまま、自分の頭をシャイニーの肩に軽く乗せた。
「シャイニーが無事で良かった…」
「ラフィ先生…心配かけてごめんなさい。僕がやらなくてはいけない…そんな強い思いが流れてきて…どうしても止められなかったんです。」
「うん、シャイニー。その気持ちは良く分かるよ。でも…驚いたよ。君は大きく成長したね。さぁ、琴ちゃんが待ってるから行こう。」
2人は琴や小麦、フルルが見守る窓辺へと移動した。
「シャイニー、大丈夫?傷だらけだよ…」
琴が心配そうにソッと手を伸ばしシャイニーの顔を優しく撫でた?
「琴ちゃん、僕は大丈夫だよ。」
シャイニーが笑顔で答えると、琴はハーニーに視線を移し今にも泣き出しそうな表情になった。
「でも…シャイニーのママが…」
シャイニーは琴の頭を撫でるとハーニーを見た。
ラフィに抱き抱えられたハーニーの表情は穏やかで、まるで眠っているようだった。
シャイニーはハーニーの手をソッと握ってみたが、その手のあまりの冷たさに驚き、思わず体を震わせたのだった。
「ハーニー…」
「シャイニー…ハーニーを守れずすまない…」
ラフィは、ハーニーを見つめながら呟いた。
「僕は、今回も守る事ができなかった…」
俯いたラフィの頬に一筋の涙が伝っていく。
「ラフィ先生のせいじゃありません。だから…自分を責めないで下さい。」
シャイニーはラフィを見つめ言った。
「シャイニー、本来なら僕が君を守るべきだったんだ。ハーニーを止められなかったのは僕の責任だ…」
ラフィが悲しみに打ちひしがれ、言葉を振り絞り出した時、頭上から声が聞こえてきた。
「ラフィ…自分を責めてはいけないわ。問題は、なぜガーリオンがシャイニーを狙うのか…じゃないかしら?」
上空を見上げると、美しい女性の天使がシャイニー達を見つめていた。
そして、不思議な事にホログラムのように彼女の体は透けていたのだった。
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長編小説となりますが、よろしくお願いします。




