ツバメの励まし
シャイニーから羽を貰った琴は、少しずつ元気になっていった。
学校でも俯く事はなくなり、友達とも遊ぶようになってきた。
しかし、仲睦まじい家族を見かけると、寂しそうな表情を見せていた。
その度にシャイニーは、琴を抱き締めたり頭を撫でた。
「琴ちゃん…君は決してひとりぼっちじゃないよ。」
琴には、シャイニーの姿は見えなければ、声も聞こえない。
しかし、抱き締められたり頭を撫でられた時は、胸がジンワリ温かくなった。
その度に、琴は首を傾げキョロキョロと周りを見回すのだった。
「もっと琴ちゃんを元気にしてあげたいな〜」
琴が机に向かい宿題をしているそばで、シャイニーは琴がもっと元気になる方法を考えていた。
ふと窓から外を見ると、電線にツバメが数羽止まっている姿が見えた。
「そうだ!」
シャイニーは外に出ると、仲良くお喋りをしているツバメの側に行き話しかけた。
「ツバメさん、こんにちは。」
「天使さん、こんにちは。僕達に何か用かい?」
「うん。実は、あの女の子なんだけど…」
シャイニーは、机に向かっている琴を指差した。
「あの女の子が、どうかしたのかな?」
ツバメ達は、興味深そうに琴を見た。
「うん。あの子、両親がいなくて寂しそうなんだ。少しずつ元気になってきてはいるんだけど…ツバメさん達で、あの子を元気付けてくれないかな?」
「そうか…両親がいないのか…まだ小さいのに…よし!分かった。僕達に任せてくれよ。明日の朝早くここに来るから、あの子を起こしてあげてよ。」
「うん!ツバメさん、ありがとう。」
シャイニーは、ツバメにお礼を言うと琴の所に戻り、頭を撫でながら話しかけた。
「明日の朝、ツバメさん達が琴ちゃんの所に来るから楽しみにしててね。」
「ん?また、誰かが琴の頭を触った感じがする…」
「琴ちゃん、僕だよ。シャイニーだよ。」
シャイニーは、琴に聞こえない事は分かってはいたが、話しかけずにはいられなかった。
琴は頭に手を置き少し考えていたが、ハッとして声を上げた。
「分かった!シャイニーだ!シャイニーなんでしょ?」
琴は目を輝かせ、キョロキョロと周りを見回しシャイニーを探した。
「琴ちゃん、僕はここだよ。」
シャイニーは、羽を抜くと琴の目の前にソッと落とした。
「あ!羽だ!やっぱりシャイニーなんだね。そっか…胸が温かくなったり、頭を触られた感じがしたのはシャイニーだったんだ。」
琴はニコニコしながら、羽を取り光にかざした。
そんな琴を見て、シャイニーの胸も喜びでジンワリと温かくなっていった。
「僕の姿が見えなくても、声が聞こえなくても、ちゃんと伝わるんだ…嬉しいな〜琴ちゃん、明日の朝も喜んでくれると良いな。」
シャイニーは、羽を光にかざし続けニコニコしている琴を、温かい目で見つめながら呟いたのだった。
ーーーコン、コン、コンーーー
翌朝、琴の部屋の窓を優しく叩く音が聞こえてきた。
シャイニーがカーテンをめくると、昨日のツバメが窓を嘴で突いていた。
窓の外に目をやると、たくさんのツバメが飛んでいる姿が目に入り、シャイニーは目を丸くした。
「凄い数のツバメ…一体何羽いるんだろう?」
ざっと見てツバメは50羽以上は集まっている。
「そうだ!琴ちゃんを起こさなきゃ。」
シャイニーは急いでカーテンを開け、ベッドで眠っている琴に駆け寄り声を掛けた。
「琴ちゃん、起きて。ツバメさんがたくさん来てるよ。」
しかし、シャイニーの声が聞こえない琴は、全く起きる気配がない。
「琴ちゃん、起きて。」
シャイニーは、琴の体をユサユサと揺すってみた。
「う…う〜ん…」
琴は寝返りを打っただけで起きる様子はない。
すると、髪の中からフルルが飛び出し、部屋をビュンビュンと飛び回りながら、あちこちにぶつかりながら音を立て始めた。
ーーードン!ドカッ!ドスッ!ーーー
「え!ちょっと、フルル!そんなにぶつかって痛くないの?大丈夫?」
フルルは、シャイニーの問い掛けに動きを止めると、胸を張るように体を反らした。
「大丈夫…みたいだね。」
フルルがあちこちにぶつかりながら音を立てていると、琴がようやく目を覚ました。
「何…?何だかうるさいよ…」
目を擦りながら起き上がった琴に、シャイニーは話しかけた。
「琴ちゃん、ツバメさん達が来てるよ。窓から見てごらん。」
琴は、音の原因を探るようにキョロキョロしていたが、窓を見て驚いた。
「どうしてカーテンが開いてるの?昨夜、閉めたはずなのに…」
琴は、引き寄せられるように窓辺に立つと、外にたくさんのツバメが飛んでいるのが見えた。
「わぁ〜!」
琴は歓声を上げ急いで窓を開けると、数十羽ものツバメが縦横無尽に飛んでいた。
窓から顔を出すとすぐ近くを横切り、手を伸ばすと届きそうな距離でツバメ達は飛んでいった。
「凄〜い!こんな近くでたくさんのツバメを見たのは初めて!」
ツバメ達はまるで琴を元気付けるかのように、代わる代わる近く飛び、すり抜けていった。
すると、それを見ていたフルルが部屋の中から飛び出し、ツバメと一緒にビュンビュンと飛び回り始めた。
シャイニーは琴の隣に立つと、楽しそうに飛んでいるフルルを目で追った。
「フルル、楽しそうだな〜」
シャイニーがニコニコとフルルを見ていると、琴が何かを目で追っている。
「あれ?ツバメの中に何かいる?」
琴は目を凝らしジッと見つめ、何が紛れ込んでいるのか確かめようとした。
「やっぱり、ツバメじゃない何かがいる…」
「え!琴ちゃん、フルルが見えるの?」
シャイニーは驚き琴を見ると、フルルを目で追っているようだった。
「あれは…フルル…フルルだ!」
琴は手を伸ばしフルルに呼び掛けた。
「フルル、おいで!」
フルルはビクッと一瞬動きを止めたが、恐る恐る琴に近付いた。
「やっぱりフルルだ!琴、ちゃんとフルルが見えてるよ。」
琴は嬉しそうに優しく手を差し出すと、フルルはソッと手の平に乗った。
「琴ちゃん…フルルの事が分かるんだね。」
シャイニーは目を丸くし、琴とフルルを交互に見た。
「ウフフ…やっぱりフルルも本当にいたんだね。シャイニーも近くにいるの?」
琴が優しく撫でながら聞くと、フルルは何度も頷くように体を前に倒した。
「シャイニーも近くにいるんだ!」
琴は嬉しくなりシャイニーの姿を探したが、その姿を見つける事はできなかったた。
「やっぱり見えないか…」
琴はしょんぼりと肩を落としたが、すぐにパッと顔を上げた。
「でも、琴の近くにいてくれてるから良いや。」
琴は、1人納得するとニコニコしながら、再びフルルを撫で始めた。
「琴ちゃん…僕、琴ちゃんにもっと元気になってもらえるように頑張るからね。」
シャイニーは、自分に気付いてくれた事が嬉しくて、琴をソッと抱き締めた。
先程までビュンビュン飛んでいたツバメ達は、いつの間にか電線に止まり、琴やシャイニー、フルルを優しく見守っている。
シャイニーは、その温かい眼差しに気付くとツバメ達の所に飛んで行き話し掛けた。
「ツバメさん達、ありがとう。琴ちゃん、凄く喜んでたよ。」
「それは良かったよ。でも、あの子凄いね…あの不思議な音符と遊んでるよ。」
「うん。僕もビックリしているんだ。見えるだけでも凄いのに一緒に遊んでる。」
「まぁ…子供は素直で純粋だから、不思議な事にも疑問を感じる事なく受け入れられるからね。」
「そっか…たくさんの人達が、僕達天使が実在する事を気付いてくれたら良いんだけどな…」
ツバメは少し考えていたが、シャイニーをジッと見つめながら言った。
「きっと天使さんの気持ちは、いつか通じる日がくるんじゃないかな…もちろん、時間は掛かるとは思うけど…あの子は気付いたんだしね。」
ツバメは、フルルと遊んでいる琴を見ながら言った。
「ありがとう、ツバメさん。僕、また修業中だから人間の事が良く分からなくて…でも、琴ちゃんの笑顔を見ると胸が温かくなるんだ。人の笑顔は、僕達天使を幸せな気持ちにしてくれる…その事は分かったんだ。」
ツバメはウンウンと頷きながら、シャイニーの話しを聞いていた。
「人間がいつも笑顔でいられれば、僕達動物と人間も仲良く共存できるかもな〜」
「地球では、動物と人間は仲良くないの?」
「う〜ん…僕達のように野生の動物が、人間と仲良くするのは難しいな。人間が動物を乱獲したり、木々を伐採した事が原因で、絶滅してしまった者達もいるからね…」
「そうか…地球が抱える問題も色々あるんだね…」
「まぁ…でも、僕達動物だって人間と仲良くしたいと思っているんだよ。いつか仲良く共存できる日が来ると良いんだけどね。」
「うん。僕もそんな日が来て欲しいな…僕にできる事があれば良いけど…」
「天使さんは、ちゃんとできる事をしているんじゃない?」
「え!僕…何もしてないよ。」
ツバメは、首を左右に振ると話しを続けた。
「天使さんは、あの子を元気付けたいと思って、その為に色々と頑張ってるよ。その気持ちと頑張りが大切だし、ちゃんとできる事をしているんだと思うな〜」
シャイニーは、ツバメの話しを聞いて嬉しくなった。
「ありがとう。ツバメさん凄いな〜地球や人間の事に詳しいんだね。」
「いやいや、そんな事ないよ。僕達渡り鳥では理解しきれない。もっと複雑なんだよ。でも、人間は心の奥に眠っている輝きに気付いた方が良いと思ってるよ。」
「人間の心に眠っている輝き…」
「そう。輝き…天使さんなら、きっと分かる日がくるよ。さて、僕達はそろそろ旅支度をするよ。近々、南の国に旅立つんだ。」
「ツバメさん、色々とありがとう。気を付けて南の国に行って来てね。」
「うん。ありがとう。天使さんにまた会える日を楽しみにしてるよ。」
ツバメが空に舞い上がると、その後を追うようにたくさんのツバメ達が飛び去っていった。
シャイニーは、急いで琴の所に戻ると耳元でソッと囁いた。
「琴ちゃん、ツバメさん達が南の国に旅立って行くよ。」
すると、フルルと遊んでいた琴がふと顔を上げた。
「あれ?たくさん飛んでたツバメはどこ?」
琴は窓から身を乗り出し空を見渡すと、ツバメ達の群れが飛んでいく姿が見えた。
「ツバメさん、バイバ〜イ!」
シャイニーと琴は、ツバメの群れが見えなくなるまで手を振り続けた。
「行っちゃった…」
琴は暫く空を眺めていたが、先程まで元気に遊んでいたフルルの姿が見えない事に気付いた。
「あれ?フルル?」
琴は。辺りを見回しフルルを探した。
フルルは、琴の目の前でユラユラ揺れていたが見えていないようだった。
「琴ちゃん、もうフルルが見えないんだね…フルル、おいで。」
フルルはシャイニーの所に戻ると、琴が自分に気付いてくれない事を身振りで伝えてきた。
「琴ちゃん、今はフルルの事が見えないみたいだよ。でも、また見える時がくるかもしれないよ。」
フルルはシャイニーの話しを聞いて納得し、髪の中に戻っていった。
「フルルが見えたなら、僕の事も見える時がくるかもしれない…」
シャイニーはその日はきっと来ると信じ、希望で胸をいっぱいにするのだった。
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