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天使の国のシャイニー  作者: 悠月かな(ゆづきかな)
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調理室の火事

サビィとシャイニーは、炎に包まれた調理室を目の当たりにし呆然とした。

炎がまるで生きているように、メラメラとうごめいている。


「熱い!」


シャイニーはあまりの熱さに驚き、髪の中に隠れているフルルを思い出し心配になった。


「フルル、熱くない?大丈夫?」


フルルはシャイニーの声に反応し、モゾモゾと動いた。


「危ないからなるべく奥に潜っているんだよ。」


フルルが更に奥へと潜った事を確認すると、シャイニーは安心し、再び炎に包まれた調理室に目を向けた。

すると、前方に6枚の翼を携えた天使が立っている。


「ラフィか?」


サビィが声を掛けると、ラフィが振り返った。


「サビィ…シャイニーも一緒なんだね。僕も今来たところだよ。」


サビィは改めて調理室を目にし、その惨状に唖然とした。


「ラフィ…これは、思っていたよりも酷いようだ…」

「そうなんだ。早く消さなければ…シャイニー、危ないから下がって。」


シャイニーが後ろに下がると、ラフィとサビィは炎に向けて両手をかざした。

すると、天井から大量の水が炎めがけて降り注いだ。

最初は、手が付けられないほど勢いのあった炎が、徐々に小さく弱くなり鎮火していった。

思ったより早く消し止められ、ラフィとサビィはホッとしたが、調理室は焼きただれとても調理が出来るような状態ではなかった。


「ストラ!マトラ!ファンクさん!」


シャイニーが呼び掛けながら調理室を見渡すと、ファンクがストラとマトラを守るように覆いかぶさっていた。


「ファンクさん!大丈夫ですか?ストラとマトラは?」


「やぁ…心配をかけて済まなかったね…ストラとマトラも無事だよ。」


慌てて駆け寄ったシャイニーに、微笑んだファンクの顔は煤で黒くなっている。


「ファンクさんは大丈夫?ストラとマトラを守ってたんでしょ?」

「あぁ、大丈夫だよ。炎避けのガードをシッカリと張ったからね。心配してくれてありがとう。」


ファンクがニッコリと笑うと、彼の頬は変わらずリンゴのように赤々としていた。


「シャイニー…心配かけてゴメン…」


ストラとマトラが、ファンクの体の下から這い出してきた。


「念の為、3人が火傷やケガをしていないか見せてもらうね。」


ラフィは、そう言うと3人の体を丁寧にチェックしていった。


「うん。3人とも火傷もケガもしていない。ファンク、あの火の中で良く持ちこたえたね。」

「それは、もう必死だったので…この子達を守らなければ…その思いだけでした。」


3人がケガもなく無事だと知ると、シャイニーは安心し力が抜け、その場にしゃがみ込んでしまった。


「本当に良かったぁ…」

「シャイニーも驚いたよね。大丈夫かい?」


ラフィが優しく声を掛けたが、シャイニーは言葉が出ずコクコクと頷いた。


「本当に3人とも無事で良かったよ。それで…どうして火事になったのかな?」


ラフィは真剣な表情で、ファンクやストラとマトラに問いかけた。


「ラフィ様、私が悪いんです。もっとシッカリと注意して見ていれば、このような事態は起こりませんでした。」


ファンクは、ガックリと肩を落としている。


「ラフィ先生!ファンクさんは悪くありません。僕が悪いんだ…僕は、シチューの煮込み具合を確認していました。その時、コトコトと煮ている火に興味を持ってしまって…」


ストラは、話しているうちにどんどん声が小さくなり、最後は消え入りそうな声になっていった。


「それで、ストラは何をしたんだい?」


ラフィが、優しくストラに問いかける。


「ラフィ先生…僕は…僕は…シチューを煮込む火から、フェニックスが現れるかもしれない…そう思って…」


ストラの目には涙が滲んでいる。


「ストラ、泣かなくても良い。君は火に魅入られたんだ…その後、どうなったか覚えているかい?」


ストラが泣きながら首を左右に振った。


「ラフィ先生…私、その時のストラが見てました。」


火事のショックから、ずっと黙っていたマトラがその時の事を思い出し、体をブルっと震わせながら言った。


「マトラ…詳しく教えてくれるかい?」

「はい。私が野菜を切っていた時に、何気なくストラを見たら…火を見つめていたんです。でも、その目がどこかおかしくて…声を掛けようとしたら、火が突然大きくなって…あっという間に燃え広がりました。ラフィ先生…ストラに何があったんですか?あんなストラを見たのは初めてです!」


マトラの声は徐々に大きくなり、興奮して息も荒くなっていった。


「マトラ、落ち着いて。大丈夫だからね。深呼吸してごらん。」


マトラが深呼吸を始めると、ラフィは彼女の肩に手を置いた。

すると、マトラは徐々に落ち着きを取り戻していった。


「ラフィ先生、もう大丈夫です。落ち着きました。」


ラフィは笑顔で頷くと、ストラに向き直った。


「次は君の番だよ、ストラ。ちょっと、このままジッとしてて。」


ラフィはストラをジッと見つめ、瞳の奥を覗いて額に手を当てた。


「うん。ストラ、君は大丈夫だよ。特に問題はない。ただ、今回の事もストラの好奇心が発端になっているんだ。好奇心は大切だし素晴らしいけど…ストラの旺盛な好奇心は、気付かないうちに周りに影響を与えてしまうのだろうね。好奇心と上手く付き合う事がストラには必要なんだ。ただ、成長と共に付き合い方も分かってくる。それまでは、何かに興味を持ったら必ず誰かに話すんだ。マトラや僕…誰でも良い。話す事で旺盛な好奇心が抑えられるはずだから。」

「分かりました。ラフィ先生…」


ストラは俯いたまま小さな声で答えた。


「大丈夫だよ、ストラ。君の旺盛な好奇心は、やがて君の力となる。今は好奇心と力のバランスが取れていないだけだよ。」

「はい、ラフィ先生。僕…好奇心と力のバランスが取れるように頑張ります。」


ストラは、ラフィの優しい笑顔と言葉に安心し笑顔で答えた。

シャイニーは彼の笑顔を見てホッとしたが、何かが心に引っ掛かっていた。


(何だろう…この違和感…)


シャイニーは、違和感の正体を突き止めようと集中した。


(あぁ…そうか…ストラの目…)


「ラフィ先生、突然火が大きくなったのはどうしてでしょう?マトラの話しだとストラの目がおかしかったって…」


シャイニーは火が大きくなった事と、ストラの目がおかしかった事に違和感を覚えていた。


「う〜ん…ただ、ストラは火に魅入られただけなんだ。それだけでは、火が大きくなる事はないんだ…サビィはどう思う。」


ラフィが振り返り、サビィに声を掛けた。

サビィは腕を組み、物憂げな表情で壁にもたれかかっていた。


「私も、ラフィと同意見だ。ここに来てから、ずっと考えているだが…今は何とも言えない。とにかく、まずはこの調理室をどうにかしなければ…」


サビィの言葉を聞いてシャイニーは、改めて調理室を見渡した。

火元となったかまどは、すっかり燃え尽きて真っ黒な炭となっていた。

火の勢いが強かったせいで、壁も焼けただれていたり、煤で黒く変色していた。


「この調理室を元通りにするのには、なかなか大変だね。でも、まぁ…何とかなるだろう。サビィ、手を尽くそう。」


ラフィの言葉にサビィは頷くと、もたれていた壁から身を起こした。


「ライル!マロン!」


サビィの凛とした声が響くと、どこからともなく風が吹き始め螺旋らせんを描き、2つのつむじ風へと変化していった。

そして、つむじ風の中から跪き、恭しく頭を下げたライトとマロンが現れたのだった。


「サビィ様、お呼びでございますか?」

「あぁ、呼び立ててすまない。まずは、顔を上げてこの調理室を見て欲しい。」

「はい。かしこまりました…って…うわっ!え?これは…火事…」


マロンは、すっかり変わり果てた調理室を目の当たりにして呆然としている。


「これは、また…不測の事態ですね…」


ライルも驚きを隠せない表情で、調理室を見渡している。


「この調理室を元通りにしたい。できるなら夕食に間に合わせたいと考えている。なかなか大変な作業となるが、皆で力を合わせれば出来ない事ではない。シャイニー、ストラとマトラも協力してほしい。」


「はい、サビィ様!」


マトラは、憧れているサビィからの申し出に喜び張り切っている。


「僕が原因を作ってしまったので、ぜひ手伝わせて下さい!」

「サビィ様のお役に立てるのなら喜んで。」


シャイニーとマトラも力強く頷き答えた。


「じゃあ、早速始めるよ。時間は限られているからね。」


ラフィの言葉に皆が頷いた。


「ファンク、ストラとマトラは主に調理台を。ライルとマロンは、この大量の水の処理。シャイニーは煤けてしまった壁を元通りに。そして、ラフィと私はかまどの復元にあたる。」


サビィが的確に指示を出し、皆がそれぞれの持ち場についた。


「ストラとマトラは、分からない事はファンクに聞くのだ。シャイニーは…まずは、思うようにやってみなさい。分からない時は、私やラフィに聞くと良い。」


(この壁を、元のように真っ白に…)


シャイニーが、以前の真っ白な壁を思い浮かべ手をついた瞬間、その手から眩いばかりの光がほとばしり、壁を包んでいった。

やがて、光は徐々に弱くなりシャイニーの手に吸い込まれるように消えていった。

光が消えた後の壁は、見違えるほどに真っ白になっていた。


(やった!できた!)


コツを掴んだシャイニーは、次々と壁を白く変え、全てが元に戻る頃には、調理室はほぼ元の姿を取り戻していた。


「思ったよりも早く元に戻ったようだね。」


ラフィは、調理室を見渡すとホッと息を吐いた。


「これも皆が一丸となり修繕にあたったからだろう。しかし、ラフィ…これで終わりではない。夕食の用意もしなければいけない。」

「確かにそうだ…ファンク、今日の夕食のメニューは何だい?」

「今日の夕食は、根菜シチューと流れ星のサラダ、マレンジュリのケーキです。」

「なるほど。食材は無事かい?」

「はい。幸いな事に食材は無事でした。」

「それなら、夕食もみんなで手分けして作るのはどうだい?サビィ。」

「それが良いだろう。マレンジュリのケーキは、私とマロンが作ろう。」

「え!また私ですか?」

「当たり前だ。お前以外に誰がいるのだ。」

「分かりましたよ。マレンジュリとなると、いつも私なんですから…」


マロンは、溜め息を吐きながらブツブツと呟いている。


「ライルは料理が苦手だったな。」

「はい、サビィ様。私は主に食器の準備や洗い物を担当しようと思っております。」


(確かにライルさんに料理のイメージはないかも…)


シャイニーが、そんな事を考えながらサビィ達を見ていると、ラフィが話しかけてきた。


「シャイニーは、僕と流れ星のサラダを作るかい?」

「はい、ラフィ先生。とは言え…僕は料理を作った事はありませんが…」

「大丈夫。僕に任せて。サビィ、僕とシャイニーはサラダを作る事にするよ。」

「分かった。では、時間がもうあまりない。それぞれ持ち場につくように。」


サビィが指示を出し終えると、ファンクがホッとしニッコリと笑った。


「ありがとうございます、サビィ様。これで、何とか間に合いそうです。」


サビィは笑顔で頷くとマロンを見た。


「それでは急いで作ろう。マロン、こちらに来なさい。」

「分かりましたよ。サビィ様。」


マロンは、渋々サビィの後をついていった。


「サビィ様、何となく嬉しそう。」


シャイニーが呟くと、ラフィがクスクスと笑いながら言った。


「サビィは、マレンジュリと聞くと居ても立ってもいられないんだ。マロンは、そんなサビィにいつも付き合わせられているんだよ。」

「だから、マロンさんは渋々なんですね。」

「そうそう。あの2人のやり取りは、見ていて面白いよ。さあ、僕達も時間がないから作ろうか。」


ラフィとサビィは、サラダ作りに取り掛かった。

流れ星のサラダは、星形のリンゴをゼリーで固め、色とりどりのサラダに乗せたものである。

ラフィは、鮮やかな手つきで野菜を切り盛り付けていく。


「わ〜凄く綺麗なサラダですね。」

「これで終わりじゃないよ。」


ラフィはリンゴを星形に切り抜き、小さな半円形の器に入った青紫色の液体に入れた。


「ラフィ先生、この液体は何ですか?」

「これは、スミレの花から作ったゼリーだよ。これから固めるんだ。」


ラフィは、氷入ったボウルにゼリー液を入れ、その上から手をかざした。

すると一瞬でゼリーが固まった。

ゼリーを型から外しサラダに盛り付け、その上から金粉を降らせた。


「これで、出来あがりだよ。」

「ラフィ先生、凄い…料理も得意なんですか?」

「昔、このサラダが好きだった天使がいてね…2人で良く作ったんだ。久しぶりに作ったよ。」


ラフィは微笑んでいたが、その瞳には寂しさや悲しみが宿っていた。


(ラフィ先生…また、寂しそうな表情だ…)


シャイニーは、ラフィが時折見せる寂しげな表情が気になっていた。


「さぁ、サラダをもっと作らないとね。時間がないから急いで作ろう。」


ラフィの微笑みには、もう寂しさは見られなかった。


(ラフィ先生のあの表情は、サビィ様が言っていたキッカケが関係してるのかな…)


シャイニーはサラダを作りながら、ぼんやりと考えていた。


「シャイニー、どうしたんだい?手が止まってるよ。」


ラフィが、顔を覗き込みながら声を掛けてきた。

シャイニーは、ハッとして慌ててサラダを作り始めた。


「な、何でもありません!」


(いけない!集中、集中…)


シャイニーは、ラフィの事はとりあえず後で考える事にし、目の前のサラダに集中するのだった。



その後、皆が力を合わせ、夕食を無事に作り終える事ができた。


「何とか夕食の時間に間に合ったようだ。皆の協力に感謝する。」


サビィは、笑顔で全員を見渡した。


「本当にありがとうございました。火事が起こった時は、もう夕食は無理だと諦めていましたが、皆さんのご協力のおかげで無事に出来あがりました。」


ファンクは深々と頭を下げた。


「礼には及ばない。ファンク、頭を上げなさい。」


ファンクが頭を上げると、サビィは美しい笑顔で頷いた。


「さて…今回の事は、これから調査に入る。なぜ火事が起きたのか…現時点では検討もつかない。そこで、皆に頼みたいのだが…今回の事は口外しないでもらいたい。他の天使達を不安にさせてしまう恐れがあるからだ。」


全員が頷くと、サビィは更に続けた。


「大丈夫。心配する事はない。後は私達に任せなさい。ラフィ…この後、私の部屋に来てくれないか?シャイニー、今日の手伝いはここまでにしよう。良く頑張った。また明日、私の部屋に来なさい。ストラとマトラは、夕食が終わるまでファンクの仕事の手伝いをしてほしい。今日は、あのような事があり彼も動揺しているだろう。」


ストラとマトラはファンクの手伝いに戻り、ラフィはサビィと共に天使長室へと向かった。


(夕食の時間まで、まだ少し時間があるな…部屋に戻ろうかな…フルルの様子も確認したいし。)


シャイニーは、フルルを労るようにソッと髪を触ると自分の部屋に向かった。



お読み下さりありがとうございます。


ご感想やレビューなど頂けると嬉しいです。


長編小説となりますが、よろしくお願いします。


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